12 / 49
12.クランドール家別邸にて
しおりを挟む
「……はぁ。暇だわぁ……」
レイをデートに誘ってみろと屋敷に帰って来るなり母に言われたけれど、そんな関係でもないのに手紙など出せない。何せ向こうは私にまるっきり興味がないのだ。せっかくの休暇中に気が重くなるような用事を入れるのも申し訳ないし。
私にもやりたいことあるし~、なんて強がってはみたものの、読書や刺繍は最初の五日間で飽きるほどやった。
「……。ロージーに手紙でも書こうかしら……」
でもさすがに早すぎるかな。まだ休暇が始まってたった五日だし。などと読みかけた小説から目を離し、部屋の窓からぼんやり空を眺めていると、侍女がやって来た。
「失礼いたします、グレースお嬢様。お手紙が届いておりますよ」
「っ!」
私は反射的に振り向いた。手紙!誰?ロージー?まさか、レイ?
「……あ」
差出人はセレスティア様だった。そうだ、オリバー殿下から、休暇中に手紙が来るかもって……。
私はウキウキしながら開封した。内容はやはり、クランドール公爵家別邸での食事会のお誘いだった。
(やったー!予定ができたわ!)
お天気が良くてそんなに暑くなければ、日除けをつけてガーデンパーティーにしようと思っている。親しい生徒たちだけの気楽な会だから、よかったらお友達も誘っていらっしゃい、などといったことが書かれていたけれど、ロージーは領地が遠くてとても誘える距離じゃないし。ここでこそレイを誘うべきなのか、なんて思ったけれど、私が誘われているのだからレイも誘われている可能性が高い。
(……一人で行ってみるか)
手紙を受け取った翌週のお昼頃。私は支度をして、一人でいそいそとクランドール家別邸を目指した。いいお天気になった。久しぶりのお出かけに、気分が高揚している。
馬車に乗ってクランドール家の素敵なお屋敷の前に着くと、侍女に案内され、屋敷の中を通り抜けて美しい中庭に辿り着いた。明るい色の花々が咲き乱れている。
(うわぁ、もうたくさん来てる……、……って、いるじゃん!レイが!)
中庭を見るなり、視界の端にレイの姿をとらえた。
広い中庭に準備されたいくつもの長テーブルには、たくさんのお料理や可愛いスイーツが並べられており、それらを囲むようにドリンクを手にした生徒たちがにこやかに談笑していた。皆の私服姿が新鮮だわ。普段は学園の制服姿ばかり見慣れていたから。
「あら、グレースさん!来てくれたのね」
「こんにちは、オリバー殿下、セレスティア様。お招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ、会えて嬉しいわ。グレースさん、そのワンピースとても素敵ね。あなたがそんな感じの装いをしているのを見たことがない気がするわ。ふふ。新鮮よね」
「本当だ。可愛いね」
「あ、ありがとうございます」
尊敬する先輩方に褒められて照れくさくて頬が火照る。今日は真っ白なワンピースに黄色やオレンジの花々の刺繍が入ったものを身に付けてきた。なんとなく、夏のお昼の気楽な食事会らしいかなぁって……。パープルグレーの長い髪は可愛く編み込んでもらって、後ろに垂らしている。
そんなセレスティア様こそ、爽やかな夏のガーデンパーティーにピッタリな空色のワンピース姿で、すっごく可愛い。髪はハーフアップにしていて素敵すぎる。そしてその隣に寄り添っているオリバー殿下は、真っ白なシャツを着ていてとても爽やかだ。仲良し爽やかカップル。眩しい。
「レイモンドも来ているよ。ほら、向こうに」
「あら、本当ですわね」
本当は気付いていたけど、なんとなくオリバー殿下に合わせた。
「ふふ。二人でゆっくり楽しんでいってね。ここは学園ではないんだし、気にせず過ごすといいわ」
「は、はい。ありがとうございます」
セレスティア様は、私とレイが学園では節度を保って他人行儀にしていると思っていらっしゃるから、今の発言が出たのだろう。すみません、本当はただ単にそんなに仲良くないんです…。
……それに……。
(……ちょっと待って。あれ、何?)
さっきチラッと見た時には気付かなかったけれど……、レイの隣に侍っているじゃないの。いつものように。
ミランダ嬢が。ベッタリと。
(し、しかも……すごい格好してる……)
お昼のガーデンパーティーとは思えないほど華美な装いのミランダ嬢に度肝を抜かれる。ショッキングピンクの目がチカチカするほど鮮やかなロングドレスはたっぷりの裾の襞がファッサァァァと周囲に広がり、そのドレス全体にふんだんにあしらわれた宝石が、眩しい日差しの元ビカーッと輝き、目をくらませる。しかも肩は大胆に露出して、盛りこぼれんばかりの胸の谷間は、思わず目を逸らしたくなる。きらびやかなネックレスにイヤリング……。メ、メイクも濃いな……。唇真っ赤っかじゃないの。張り切り具合が伝わってくる。
その姿でレイやアシェル・バーンズ侯爵令息などの男性方の中に交じり、甲高い声でキャッキャとはしゃいでいた。
(ち、近寄りたくない……)
私がその集団から目を逸らして反対側に行こうとすると、
「あれっ?グレース嬢!グレース嬢、来てたんだね!」
バーンズ侯爵令息の高らかな声が背中から聞こえてきた。
(……よし。この賑やかさの中で聞こえなかったふりを…)
「おーい!グレース嬢!グレース嬢こっちにおいでよぉ~!」
(…………。)
私は一呼吸おくと、観念して満面の笑みを浮かべ、振り向いた。
レイをデートに誘ってみろと屋敷に帰って来るなり母に言われたけれど、そんな関係でもないのに手紙など出せない。何せ向こうは私にまるっきり興味がないのだ。せっかくの休暇中に気が重くなるような用事を入れるのも申し訳ないし。
私にもやりたいことあるし~、なんて強がってはみたものの、読書や刺繍は最初の五日間で飽きるほどやった。
「……。ロージーに手紙でも書こうかしら……」
でもさすがに早すぎるかな。まだ休暇が始まってたった五日だし。などと読みかけた小説から目を離し、部屋の窓からぼんやり空を眺めていると、侍女がやって来た。
「失礼いたします、グレースお嬢様。お手紙が届いておりますよ」
「っ!」
私は反射的に振り向いた。手紙!誰?ロージー?まさか、レイ?
「……あ」
差出人はセレスティア様だった。そうだ、オリバー殿下から、休暇中に手紙が来るかもって……。
私はウキウキしながら開封した。内容はやはり、クランドール公爵家別邸での食事会のお誘いだった。
(やったー!予定ができたわ!)
お天気が良くてそんなに暑くなければ、日除けをつけてガーデンパーティーにしようと思っている。親しい生徒たちだけの気楽な会だから、よかったらお友達も誘っていらっしゃい、などといったことが書かれていたけれど、ロージーは領地が遠くてとても誘える距離じゃないし。ここでこそレイを誘うべきなのか、なんて思ったけれど、私が誘われているのだからレイも誘われている可能性が高い。
(……一人で行ってみるか)
手紙を受け取った翌週のお昼頃。私は支度をして、一人でいそいそとクランドール家別邸を目指した。いいお天気になった。久しぶりのお出かけに、気分が高揚している。
馬車に乗ってクランドール家の素敵なお屋敷の前に着くと、侍女に案内され、屋敷の中を通り抜けて美しい中庭に辿り着いた。明るい色の花々が咲き乱れている。
(うわぁ、もうたくさん来てる……、……って、いるじゃん!レイが!)
中庭を見るなり、視界の端にレイの姿をとらえた。
広い中庭に準備されたいくつもの長テーブルには、たくさんのお料理や可愛いスイーツが並べられており、それらを囲むようにドリンクを手にした生徒たちがにこやかに談笑していた。皆の私服姿が新鮮だわ。普段は学園の制服姿ばかり見慣れていたから。
「あら、グレースさん!来てくれたのね」
「こんにちは、オリバー殿下、セレスティア様。お招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ、会えて嬉しいわ。グレースさん、そのワンピースとても素敵ね。あなたがそんな感じの装いをしているのを見たことがない気がするわ。ふふ。新鮮よね」
「本当だ。可愛いね」
「あ、ありがとうございます」
尊敬する先輩方に褒められて照れくさくて頬が火照る。今日は真っ白なワンピースに黄色やオレンジの花々の刺繍が入ったものを身に付けてきた。なんとなく、夏のお昼の気楽な食事会らしいかなぁって……。パープルグレーの長い髪は可愛く編み込んでもらって、後ろに垂らしている。
そんなセレスティア様こそ、爽やかな夏のガーデンパーティーにピッタリな空色のワンピース姿で、すっごく可愛い。髪はハーフアップにしていて素敵すぎる。そしてその隣に寄り添っているオリバー殿下は、真っ白なシャツを着ていてとても爽やかだ。仲良し爽やかカップル。眩しい。
「レイモンドも来ているよ。ほら、向こうに」
「あら、本当ですわね」
本当は気付いていたけど、なんとなくオリバー殿下に合わせた。
「ふふ。二人でゆっくり楽しんでいってね。ここは学園ではないんだし、気にせず過ごすといいわ」
「は、はい。ありがとうございます」
セレスティア様は、私とレイが学園では節度を保って他人行儀にしていると思っていらっしゃるから、今の発言が出たのだろう。すみません、本当はただ単にそんなに仲良くないんです…。
……それに……。
(……ちょっと待って。あれ、何?)
さっきチラッと見た時には気付かなかったけれど……、レイの隣に侍っているじゃないの。いつものように。
ミランダ嬢が。ベッタリと。
(し、しかも……すごい格好してる……)
お昼のガーデンパーティーとは思えないほど華美な装いのミランダ嬢に度肝を抜かれる。ショッキングピンクの目がチカチカするほど鮮やかなロングドレスはたっぷりの裾の襞がファッサァァァと周囲に広がり、そのドレス全体にふんだんにあしらわれた宝石が、眩しい日差しの元ビカーッと輝き、目をくらませる。しかも肩は大胆に露出して、盛りこぼれんばかりの胸の谷間は、思わず目を逸らしたくなる。きらびやかなネックレスにイヤリング……。メ、メイクも濃いな……。唇真っ赤っかじゃないの。張り切り具合が伝わってくる。
その姿でレイやアシェル・バーンズ侯爵令息などの男性方の中に交じり、甲高い声でキャッキャとはしゃいでいた。
(ち、近寄りたくない……)
私がその集団から目を逸らして反対側に行こうとすると、
「あれっ?グレース嬢!グレース嬢、来てたんだね!」
バーンズ侯爵令息の高らかな声が背中から聞こえてきた。
(……よし。この賑やかさの中で聞こえなかったふりを…)
「おーい!グレース嬢!グレース嬢こっちにおいでよぉ~!」
(…………。)
私は一呼吸おくと、観念して満面の笑みを浮かべ、振り向いた。
68
お気に入りに追加
2,913
あなたにおすすめの小説

出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる