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65. 初めて見る一面
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「じゃ、あたしは午後のお勉強があるから先に行くわね。ふふ」
「……?」
そう言うと突然アリューシャ王女は立ち上がり、意味ありげにクスクス笑うとセレオン殿下のお部屋を出て行こうとする。
「ア、アリューシャ様?でしたら私も一緒に……」
「やだあ、お姉様ったら。あたし気を遣ってるのよ。察してよ。お兄様と二人きりの時間も欲しいでしょ?」
「へっ?!」
目を細めながらムフフと妙な笑い方をして部屋を後にするアリューシャ様を見送りながら、私は赤面してしまう。な、何てことを……!
「ありがたい気遣いだが、二人きりにはなれないな。ジーンが気を利かせてくれないから」
「っ?!」
アリューシャ王女が出て行くと、今度は殿下がポツリとそんなことを呟く。
「残念ながら私は出て行きませんよ。さすがにまだ二人きりにしてしまうわけにはまいりません。ようやくミラベル様への想いが通じてのぼせ上がった殿下が、暴走しないとも限りませんからね」
「~~~~っ?!」
ジーンさんまでそんなことを言う。すると殿下がジーンさんに抗議しはじめた。
「この前は出て行ってくれたじゃないか。私の取ってつけたような用事を真に受けたわけでもあるまいに」
「さすがに愛の告白ぐらいは二人きりの時になさりたいかと思いましたので。あれは一度きりの情けですよ。もうご結婚までは駄目です」
「やれやれ……。厳しいお目付け役だな」
「……。」
なぜだろう。私が言い含められているわけでもないのに、ものすごく恥ずかしい。
「ミラベル」
真っ赤になって俯いていると、ふいに殿下の手が私の頬にそっと触れた。その手によって顔を持ち上げられる。
至近距離に殿下の美しいお顔があって、私は緊張のあまりビクッと肩を跳ねさせてしまった。
「そんなに警戒しないで。いくら君のことが可愛くてたまらないからと言って、こんなところで変なことはしないよ」
「でっ……、殿下……」
変なことって、何ですか……。
真っ赤な顔をして唇を引き結ぶ私を見てクスクス笑っていた殿下が、私の熱い頬をそっと撫でた。
「ただ、もう一度確かめさせてほしいんだ。君を得られたことがいまだに夢のように思えて、少し不安にもなる。……ミラベル、私とともに歩む人生を選択したことに、迷いはない?」
そう尋ねる殿下の瞳は、たしかに少し不安に揺れているように見えて、私はとっさに返事をする。
「ご、ございません。……もちろん、ものすごく緊張しておりますし、私なんかに務まるのかという不安も大きいですが……。迷いはとうにありませんわ。わ、私だって……」
「……ん?」
ああ、心臓がうるさい……。
「私だって、殿下のおそばにいさせていただくことを許していただいて、こんなに、嬉しいのですから……。殿下のお気持ちには、精一杯応えたいです」
「……どうして君はそんなに可愛いのかな。我慢ができなくなる」
「っ!!」
そう言うと、セレオン殿下は突然私を引き寄せ、強く抱きしめた。
大きな手と、強引な仕草、そして甘く上品なその香りに、頭がクラクラしてしまう。
「……ミラベル……」
耳を吐息が掠め、思わずピクリと反応してしまったその時、殿下が少し腕の力を緩め、再び私の頬に手を添えた。
真っ青な美しい瞳が、目の前に迫る。腰をグッと引き寄せられ、私が固まっていたその時、向こうで書類を捌いていたジーンさんが大きく咳払いをした。
「そこまでです、殿下。暴走はお止めくださいと、先ほど暗にお伝えしたつもりでしたが」
「……はぁ。分かったよ」
「~~~~っ」
私は恥ずかしさのあまりめまいがするほどなのに、殿下は少しも気にしていないらしい。
ジーンさんにたしなめられて渋々といった様子で私から体を離すと、今度は私の手を取り、手のひらにそっと唇を寄せた。どうしていいか分からず戸惑う私を、そのままジッと見つめてくる殿下の視線は、とてつもなく色っぽい。
「……愛しているよ、ミラベル」
(セ、セレオン殿下……。意外と強引なところあるんだな……)
温厚で穏やかで、いつも私を見守ってくれている優しい殿下。そんな彼の初めて見せる男っぽい一面に、私は胸のドキドキが止まらなかった。
「……?」
そう言うと突然アリューシャ王女は立ち上がり、意味ありげにクスクス笑うとセレオン殿下のお部屋を出て行こうとする。
「ア、アリューシャ様?でしたら私も一緒に……」
「やだあ、お姉様ったら。あたし気を遣ってるのよ。察してよ。お兄様と二人きりの時間も欲しいでしょ?」
「へっ?!」
目を細めながらムフフと妙な笑い方をして部屋を後にするアリューシャ様を見送りながら、私は赤面してしまう。な、何てことを……!
「ありがたい気遣いだが、二人きりにはなれないな。ジーンが気を利かせてくれないから」
「っ?!」
アリューシャ王女が出て行くと、今度は殿下がポツリとそんなことを呟く。
「残念ながら私は出て行きませんよ。さすがにまだ二人きりにしてしまうわけにはまいりません。ようやくミラベル様への想いが通じてのぼせ上がった殿下が、暴走しないとも限りませんからね」
「~~~~っ?!」
ジーンさんまでそんなことを言う。すると殿下がジーンさんに抗議しはじめた。
「この前は出て行ってくれたじゃないか。私の取ってつけたような用事を真に受けたわけでもあるまいに」
「さすがに愛の告白ぐらいは二人きりの時になさりたいかと思いましたので。あれは一度きりの情けですよ。もうご結婚までは駄目です」
「やれやれ……。厳しいお目付け役だな」
「……。」
なぜだろう。私が言い含められているわけでもないのに、ものすごく恥ずかしい。
「ミラベル」
真っ赤になって俯いていると、ふいに殿下の手が私の頬にそっと触れた。その手によって顔を持ち上げられる。
至近距離に殿下の美しいお顔があって、私は緊張のあまりビクッと肩を跳ねさせてしまった。
「そんなに警戒しないで。いくら君のことが可愛くてたまらないからと言って、こんなところで変なことはしないよ」
「でっ……、殿下……」
変なことって、何ですか……。
真っ赤な顔をして唇を引き結ぶ私を見てクスクス笑っていた殿下が、私の熱い頬をそっと撫でた。
「ただ、もう一度確かめさせてほしいんだ。君を得られたことがいまだに夢のように思えて、少し不安にもなる。……ミラベル、私とともに歩む人生を選択したことに、迷いはない?」
そう尋ねる殿下の瞳は、たしかに少し不安に揺れているように見えて、私はとっさに返事をする。
「ご、ございません。……もちろん、ものすごく緊張しておりますし、私なんかに務まるのかという不安も大きいですが……。迷いはとうにありませんわ。わ、私だって……」
「……ん?」
ああ、心臓がうるさい……。
「私だって、殿下のおそばにいさせていただくことを許していただいて、こんなに、嬉しいのですから……。殿下のお気持ちには、精一杯応えたいです」
「……どうして君はそんなに可愛いのかな。我慢ができなくなる」
「っ!!」
そう言うと、セレオン殿下は突然私を引き寄せ、強く抱きしめた。
大きな手と、強引な仕草、そして甘く上品なその香りに、頭がクラクラしてしまう。
「……ミラベル……」
耳を吐息が掠め、思わずピクリと反応してしまったその時、殿下が少し腕の力を緩め、再び私の頬に手を添えた。
真っ青な美しい瞳が、目の前に迫る。腰をグッと引き寄せられ、私が固まっていたその時、向こうで書類を捌いていたジーンさんが大きく咳払いをした。
「そこまでです、殿下。暴走はお止めくださいと、先ほど暗にお伝えしたつもりでしたが」
「……はぁ。分かったよ」
「~~~~っ」
私は恥ずかしさのあまりめまいがするほどなのに、殿下は少しも気にしていないらしい。
ジーンさんにたしなめられて渋々といった様子で私から体を離すと、今度は私の手を取り、手のひらにそっと唇を寄せた。どうしていいか分からず戸惑う私を、そのままジッと見つめてくる殿下の視線は、とてつもなく色っぽい。
「……愛しているよ、ミラベル」
(セ、セレオン殿下……。意外と強引なところあるんだな……)
温厚で穏やかで、いつも私を見守ってくれている優しい殿下。そんな彼の初めて見せる男っぽい一面に、私は胸のドキドキが止まらなかった。
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