【完結済】王女様の教育係 〜 虐げられ続けた元伯爵妻は今、王太子殿下から溺愛されています 〜

鳴宮野々花@書籍2冊発売中

文字の大きさ
上 下
53 / 75

53. 絆

しおりを挟む
「ミラベル嬢、君の母君の名前は何という」

 アリューシャ王女と見つめあっていた私は、セレオン殿下の言葉にハッと我に返り、慌てて答えた。

「マ、マリア・クルースです」
「旧姓は?」
「……結婚前の名は、マリア・カースリーです。カースリー子爵家の娘でした」
「そうか。……母君に、ご兄弟や姉妹はいらっしゃったのかな」

 殿下のその言葉に、心臓が大きく跳ねる。

「いえ……、母からは一度も聞いたことはありません……」
「……アリューシャ、お前は母君の名前を覚えているか?」
「当たり前でしょ。いくら小さかったとはいえちゃんと覚えてるわよ。メイジーよ。メイジー・ベイスン」

 ……ベイスン。
 聞いたことのないその名に、心の中で小さく落胆する。……やっぱり私の勝手な願望に過ぎないのかしら。

「……分かった。いろいろと深く考えたくはなるけれど、全くの偶然という場合もあり得る。たまたま君たちの母君が同じ店で買ったものを受け継いでいただけという可能性もあることだし。……このネックレスの件については、私たちの方で調べてみよう」
「……はい。よろしくお願いいたします、殿下」
「……。」

 私がそう返事をする横で、アリューシャ王女は黙って座っていた。チラリとその横顔を見て、彼女の気持ちが分かる気がした。
 どんな内容であれ、真実を知りたい。
 だけど、失望はしたくない。だから変な期待はしてはいけない。頭では分かっているけれど、私自身もそわそわして落ち着かなかった。






「……最初にアリューシャ様とお会いしたあの時、アリューシャ様は私のネックレスを拾ってくださいました。……あの時から、もう気付いていらっしゃったのですね」

 その後、セレオン殿下のお部屋を後にした私とアリューシャ王女は、午後のお勉強の時間を少しお休みし、二人で紅茶を飲みながら話をした。

「……ええ。実はそうなの。あの時は本当にビックリした……。まさか私の宝物と同じものを、ミラベルさんも持っていたなんて。でもね、あの時はまだ、もしかしたら勘違いかなぁって思ったの。すごく似てる気がするけど、月のモチーフが目に入ったし、やっぱり別物よね、って。だけどあなたが私の教育係になってくれてから、一度じっくりネックレスを見せてもらったことがあったでしょう?あの時に確信したの。やっぱりお揃いだ!って。だけど……、あなたにとってはこの世でたった一つのお母様から貰った形見の品だし、私が、ほら私も同じの持ってるのよー、なんて見せたら、もしかしたらミラベルさんががっかりしちゃうんじゃないかって……」
「まぁ、そんなこと全然ありませんのに。……ありがとうございます、気遣ってくださって」

 心持ちしょんぼりしながらそう打ち明けるアリューシャ王女がいじらしくて、私は胸が熱くなった。本当に、この方は繊細で優しい心を持っていらっしゃる。一見気が強くてお転婆な王女様だけど、この方が本当は寂しがり屋で甘えん坊なのもよく知ってる。
 弱くて脆い部分を内に隠して、精一杯王女として強くあろうと頑張るこの方が、私は可愛くてたまらないのだ。
 可愛くて、愛おしい。

「……嫌じゃなかった?少しも?」
「ふふ。まさか。むしろ嬉しくて。……一体何なのでしょうね。この不思議なご縁は」
「……うん。本当ね……」

 思わず呟いてしまった私の言葉に、アリューシャ王女も頷く。そのまま何となく二人とも口を開かず、部屋の中は静かになった。

「……ミラベルさん。あれが特に何の意味もない、ただのお揃いだったとしても……」

 ふいに小さな声でそう言ったアリューシャ王女の不安が手に取るように分かり、私は微笑んで彼女を見つめ答えた。

「そうだとしても、私とアリューシャ様の関係は何も変わりませんわ。これまで通りです。運命的にお揃いの宝物を持った、仲良しの二人。……もし、何かの意味があったとしたら……、それはそれで、楽しみですわね。そこにどんな真実があったとしても、アリューシャ様は変わらず、私の大切な方ですわ」
「……ミラベルさん……」

 一国の王女様に向かって、仲良しの二人だなんて。不敬にも程があるけれど、アリューシャ王女は私がこう答えてもきっと喜んでくれるということを、私は知っている。

 案の定、私の言葉を聞いた彼女は、胸がキュンとするほど愛らしい満面の笑みを見せてくれたのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?

桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』 魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!? 大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。 無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!! ******************* 毎朝7時更新です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

処理中です...