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45. 婚約者候補その2・ジュディ・オルブライト(※sideジュディ)

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 ウィリス侯爵家のダイアナが自滅した。
 あの教育係の元夫とやらを、あろうことか王宮内の庭園に手引きし、彼女を強引に元夫の元に連れ帰らせようとしたらしい。
 随分と焦ったものね。愚かだこと。
 まぁその愚かさのおかげで、私はセレオン様の唯一の婚約者候補となることができた。もう実質決まったようなものだろう。今さら他に、私の家柄や実力に匹敵する令嬢を見つけてくることは不可能ですもの。

(……でもたしかに、ダイアナが暴挙に出た気持ちも分からなくはないわ。本当に目障りだもの、あの教育係とやら)

 オルブライト公爵家の自室で一人ティーカップを傾けながら、私は茶会での王妃陛下のお言葉、そして後日私を牽制するように苦言を呈されたセレオン様の様子を思い出し、また胸の中に黒い靄が湧き上がってくるのを感じた。

 あのアリューシャ王女の教育係のことを、セレオン様はどう思っていらっしゃるのかしら。

 セレオン様が仰っていたことは、王太子として間違ったことではない。身分や家柄に奢らず、立場の弱い者に慈悲をかけよ。そう仰るんでしょう?それが知識や教養に劣らぬほど、王家に嫁ぐ者に必要なことであるのは、まぁ分かる。
 だけど、どうも腑に落ちない。私に説教する時にセレオン様が纏っていた雰囲気が、どうも今までとは違う気がした。
 妹やあの教育係に無礼な口のきき方は止めろ。そう言うセレオン様は、まるでムキになって妹を、……そして何より、あの小娘を庇っているような気がした。

「……。」

 こういう時、女の勘は当たるもの。
 考えたくもないけれど……、まさかセレオン様は、あの下位貴族の小娘に懸想なさっているのではないか。そんな気がしてならない。あまりに目をかけ過ぎだもの。

「……冗談じゃないわ」

 お飾りの妃になんて、なるつもりはない。
 社交界の誰もが憧れる眉目秀麗な王太子の妃になったとて、そのご寵愛を一身に受けられなければ意味がない。このままあの教育係が殿下に可愛がられて調子に乗って王宮内を我が物顔でのさばるようになれば、私たちが結婚した後、ろくでもない噂が立つかもしれない。王太子殿下は本当はあの王女殿下の教育係の女性をお好きだそうよ、まぁ、お可哀そうに妃殿下ったら……愛されてはいないのね……。そんな憐れみや好奇の目の対象になるなど、私のプライドが絶対に許さない。

(どうにかして、早くあの小娘を追い出さなければ)

 調べ上げたところによると、あの小娘は貧乏子爵家の娘で、金のために隣の領地の伯爵家と政略結婚した。だが夫と激しく揉め離婚され、屋敷を飛び出して王都に出てきて、上手いこと王宮に入り込んだらしい。
 その元夫とは先日も王宮で騒ぎを起こしているし、円満に別れたわけでは絶対にない。
 そもそも王都に出てくるやいなや都合よく王女殿下と出会って気に入られ、教育係の座まであっさり手に入れているのもおかしい。そんなことってある?何か仕組んだんじゃないかしら。

 あの小娘には、絶対に何か裏がある。
 私はそう確信していた。

 セレオン様は「心の美しさに身分は関係ない。この王国のどこにでも、素敵な人はたくさんいるんだよ。貧しくとも精一杯生きている人たちがいる。我々はそんな人々を支える国政をしなけれならない」などと綺麗事を仰るけれど、そんなはずがないわ。卑しい身分の者は、所詮心も卑しいの。貧乏人は心も貧しい。常に自分が得をすることや金のことばかり考え、優雅さやゆとりがなく見苦しいもの。

 あの小娘だって、一皮剥けばきっとそう。
 セレオン様はあの小綺麗な顔立ちに騙されているだけだわ。所詮殿方ってそうよね。可愛い女、美しい女性には弱いものなのよ。

「……化けの皮を剥いでやるわ、ミラベル・クルース」

 尻尾を掴んでみせる。
 あの小娘の、身分に似つかわしくない上品ぶった仮面を剥がし、セレオン様の前で恥をかかせ、嫌でも王宮から逃げ出したくなるように仕向けてやるわ。

 早くセレオン様のお心を、私だけに向けさせなくては。





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