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16. 勉強嫌いな王女様
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「そうだったのね。でもかえって良かったわよ。そんな男との間に子どもなんていたら絶対大変だったもの!子どもが可哀相だわ。……ね、それよりミラベルさん、さっきも言ったんだけど、私には昨日みたいな普通の口調で喋ってくれない?」
「……え?」
突然会話の内容がコロリと変わり、私は面食らってアリューシャ王女を見つめた。そういえば、さっき王太子殿下のお部屋で再会した時にそんなことを仰ってたんだっけ。
「私が王女だって知っちゃう前のあなたは、なんていうか、親戚のお姉さんって感じで、すごく身近に感じられたの!私の周りにはあなたみたいな人ってお兄様以外にはもう一人もいないから。あなたが優しく普通に話してくれて、私すごく嬉しかったのよ。……ね?そんなに畏まった他人行儀な話し方は止めてくれない?お願いよ」
「そっ……、そうは仰られましても……」
冗談じゃない。私が昨日このアリューシャ王女をあんなに子ども扱いしてナデナデしたりしたのは、あくまでその辺にいる女の子だと思ったからだ。たとえ貴族っぽいなとは思っていても。それがまさかの王女様だったと知って、昨日の自分の不敬な態度をあまりにも申し訳なく思い、恐縮しているというのに……っ。
チラリとセレオン殿下の方を見ると、視線がぶつかった殿下は優しく微笑んだ。
「アリューシャがこう言っているのだから、そうしてくれて構わないんだよ、ミラベル嬢。……と言いたいところだけど、君も余計に気を遣うだろうし、周りの目もある。全く昨日のままでとはいかないだろうから、アリューシャもそこは理解しなさい。いいね?」
「……うん」
セレオン殿下の気遣いがとてもありがたいけれど、シュンとしてしまったアリューシャ王女が可哀相になり、私は慌てて言った。
「わ、分かりましたわ、アリューシャ王女殿下。では可能な限り気楽な言葉でお話しさせていただきますわね」
私の言葉を聞いたアリューシャ王女はパッと花が開くように表情を輝かせた。
「ええ!そうして!うふふふ、嬉しいわ、ミラベルさん。私ね、あなたと話したいことがたくさんあるのよ」
そう言って少し身を乗り出したアリューシャ王女のカトラリーが、またカシャンと音を立てた。
「……アリューシャ」
「ごっ、ごめんなさいぃぃ……。だってぇ……」
セレオン殿下に軽く睨まれて、アリューシャ王女は唇の端をへにゃっと曲げ眉を下げた。思わずクスリと笑ってしまう。この方は私が思っていた王族のイメージから随分とかけ離れている。だけど快活で素直で、とても可愛らしい。
「そんな調子だからいつも座学やマナーの教師たちから怒られる羽目になるんだぞ」
「分かってるんだけど……座学は本当に嫌なの。楽しくないし、先生たちは怖いし」
「楽しい楽しくないの問題じゃないんだ、アリューシャ。いつも言っているだろう。レミーアレン王国の王女として、この国や民の生活に関する知識は必要だ」
「……。」
セレオン殿下が、優しいけれど迷いのない口調で諭す。さっきまでとても楽しそうにしていたアリューシャ王女は急に黙りこくって俯いてしまった。……明らかに不満そうな顔だ。その様子を見つめるセレオン殿下は、なぜだか少し悲しそうな顔をしている。
何となく暗くなってきてしまった場の空気を少しでも盛り返そうと、私は努めて明るい声で王女殿下に問いかけた。
「アリューシャ様は、今はどのようなことを勉強されていらっしゃるんですか?あ、もちろん、王族だけの秘匿な内容などは別として……」
「……えっとね、本当にいろーんな科目があるんだけど……。一番苦手なのは言語ね。外国語は難しすぎるわ。それに地理や歴史も嫌い。あとは、よその国の文化とか……」
……要するに何もかも好きじゃないようだ。
「……外国語はたしかに難しいですが、覚えやすく学ぶコツというものがあるんです。地理や歴史は、出来事の背景に興味を持ち、関連付けて覚えるといいですよ。断片的な知識を丸暗記していこうとするとなかなか難しいし、苦手意識が出てきてしまいますので」
「……そう。覚えることだらけだし、楽しくないの」
「世界各地の土地には、それぞれ特徴があります。そこで起こった事柄や事件は、その土地の特徴によって引き起こされたものも多いのです。誰が、なぜその地でその事件を起こしたのかとか、その後どう事件が収束し、土地がどう発展していったのか、或いは衰退していったのか……。流れを考えながら勉強すると自然と興味が湧いてきますよ。もしよければ、私の滞在中にアリューシャ様のお時間がとれるようでしたら一緒にお勉強させてくださいませ」
「っ!!ほ、本当に?いいの?ミラベルさん」
「ええ。こちらこそぜひ」
私の言葉にアリューシャ王女は頬を紅潮させて満面の笑みを浮かべた。
「頼もしいな。不出来な妹だが、よろしく頼むよミラベル嬢」
セレオン殿下もそう言って嬉しそうに笑っていた。
「……え?」
突然会話の内容がコロリと変わり、私は面食らってアリューシャ王女を見つめた。そういえば、さっき王太子殿下のお部屋で再会した時にそんなことを仰ってたんだっけ。
「私が王女だって知っちゃう前のあなたは、なんていうか、親戚のお姉さんって感じで、すごく身近に感じられたの!私の周りにはあなたみたいな人ってお兄様以外にはもう一人もいないから。あなたが優しく普通に話してくれて、私すごく嬉しかったのよ。……ね?そんなに畏まった他人行儀な話し方は止めてくれない?お願いよ」
「そっ……、そうは仰られましても……」
冗談じゃない。私が昨日このアリューシャ王女をあんなに子ども扱いしてナデナデしたりしたのは、あくまでその辺にいる女の子だと思ったからだ。たとえ貴族っぽいなとは思っていても。それがまさかの王女様だったと知って、昨日の自分の不敬な態度をあまりにも申し訳なく思い、恐縮しているというのに……っ。
チラリとセレオン殿下の方を見ると、視線がぶつかった殿下は優しく微笑んだ。
「アリューシャがこう言っているのだから、そうしてくれて構わないんだよ、ミラベル嬢。……と言いたいところだけど、君も余計に気を遣うだろうし、周りの目もある。全く昨日のままでとはいかないだろうから、アリューシャもそこは理解しなさい。いいね?」
「……うん」
セレオン殿下の気遣いがとてもありがたいけれど、シュンとしてしまったアリューシャ王女が可哀相になり、私は慌てて言った。
「わ、分かりましたわ、アリューシャ王女殿下。では可能な限り気楽な言葉でお話しさせていただきますわね」
私の言葉を聞いたアリューシャ王女はパッと花が開くように表情を輝かせた。
「ええ!そうして!うふふふ、嬉しいわ、ミラベルさん。私ね、あなたと話したいことがたくさんあるのよ」
そう言って少し身を乗り出したアリューシャ王女のカトラリーが、またカシャンと音を立てた。
「……アリューシャ」
「ごっ、ごめんなさいぃぃ……。だってぇ……」
セレオン殿下に軽く睨まれて、アリューシャ王女は唇の端をへにゃっと曲げ眉を下げた。思わずクスリと笑ってしまう。この方は私が思っていた王族のイメージから随分とかけ離れている。だけど快活で素直で、とても可愛らしい。
「そんな調子だからいつも座学やマナーの教師たちから怒られる羽目になるんだぞ」
「分かってるんだけど……座学は本当に嫌なの。楽しくないし、先生たちは怖いし」
「楽しい楽しくないの問題じゃないんだ、アリューシャ。いつも言っているだろう。レミーアレン王国の王女として、この国や民の生活に関する知識は必要だ」
「……。」
セレオン殿下が、優しいけれど迷いのない口調で諭す。さっきまでとても楽しそうにしていたアリューシャ王女は急に黙りこくって俯いてしまった。……明らかに不満そうな顔だ。その様子を見つめるセレオン殿下は、なぜだか少し悲しそうな顔をしている。
何となく暗くなってきてしまった場の空気を少しでも盛り返そうと、私は努めて明るい声で王女殿下に問いかけた。
「アリューシャ様は、今はどのようなことを勉強されていらっしゃるんですか?あ、もちろん、王族だけの秘匿な内容などは別として……」
「……えっとね、本当にいろーんな科目があるんだけど……。一番苦手なのは言語ね。外国語は難しすぎるわ。それに地理や歴史も嫌い。あとは、よその国の文化とか……」
……要するに何もかも好きじゃないようだ。
「……外国語はたしかに難しいですが、覚えやすく学ぶコツというものがあるんです。地理や歴史は、出来事の背景に興味を持ち、関連付けて覚えるといいですよ。断片的な知識を丸暗記していこうとするとなかなか難しいし、苦手意識が出てきてしまいますので」
「……そう。覚えることだらけだし、楽しくないの」
「世界各地の土地には、それぞれ特徴があります。そこで起こった事柄や事件は、その土地の特徴によって引き起こされたものも多いのです。誰が、なぜその地でその事件を起こしたのかとか、その後どう事件が収束し、土地がどう発展していったのか、或いは衰退していったのか……。流れを考えながら勉強すると自然と興味が湧いてきますよ。もしよければ、私の滞在中にアリューシャ様のお時間がとれるようでしたら一緒にお勉強させてくださいませ」
「っ!!ほ、本当に?いいの?ミラベルさん」
「ええ。こちらこそぜひ」
私の言葉にアリューシャ王女は頬を紅潮させて満面の笑みを浮かべた。
「頼もしいな。不出来な妹だが、よろしく頼むよミラベル嬢」
セレオン殿下もそう言って嬉しそうに笑っていた。
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