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「……。」
私が挨拶をすると、左腕に巻き付いていたアリューシャ王女殿下の手の力が緩んだ。視線を向けると、なぜだか王女殿下は悲しそうな顔をして俯いている。
(……?)
あ、あれ?私の挨拶、おかしかったのかな……?なんせ慣れてないものだから……。
15でハセルタイン伯爵家に嫁ぎ、それからはずっと屋敷の中や領地を忙しく駆け回る生活をしていたし、義両親や元夫のヴィントは私を社交界の集まりに連れていってくれることなど一度もなかった。よってデビュタントも済ませていない。……どうしよう。私の挨拶、王女殿下のお気に召さなかったのかも……。
ハラハラしながら王女殿下を見つめていると、セレオン王太子殿下が私に優しく話しかけてくださった。
「このアリューシャが護衛たちの目を盗み、勝手に王宮の外へ出ていってしまったんだ。話は妹やジーンから聞いたよ。君の助けがなければ、妹はどんな目に遭っていたかも分からない。……改めて、礼を言わせてほしい。本当にありがとう。勇敢な方だ」
「あ、い、いえ、そんな……。私は結局何もしておりませんので。かえって騒ぎを大きくしてしまっただけかもしれません。お……お騒がせいたしました……」
しどろもどろになりながら私がそう返事をするのを優しい眼差しで見守ってくれていた王太子殿下。少しの間沈黙が走ったかと思うと、殿下がふいに私の隣にいるアリューシャ王女殿下の方に視線を送る。つられて私も彼女を見ると……、
(あ、あれ?)
王女殿下は不服そうな顔をして、私のことをじっと見つめている。頬を膨らませた王女殿下は、
「……聞いてる?ミラベルさんったら」
と、少し尖った口調で言った。
(え……っ?何か私に話しかけたの……?)
「もっ、申し訳ございません、アリューシャ王女殿下……っ。聞こえておりませんでした。もう一度、よろしいでしょうか……」
「……?だからぁ、昨日みたいに気さくに話してほしいのに、って、私今そう言ったのよ。……ね、もしかしてミラベルさん、左耳、全然聞こえてないの……?」
王女殿下のその言葉に驚く。全く聞こえていなかった。どうやら左側から小さな声で呟かれると、もうほとんど聞こえないらしい。そのことに気付き、小さなショックを受ける。
「も……申し訳ございません……。全然聞こえておりませんでした。よ、よければ、こちら側から話しかけていただけますと……」
自分の右側を示しながら必死で謝っていると、セレオン王太子殿下とアリューシャ王女殿下は、揃って苦渋の表情を浮かべた。
「……なんてことだ……。耳に怪我を負ったようだと報告は受けていたが、まさかそこまで……。すぐ医者に診せよう。早く処置をすれば、聴力も回復するかもしれない」
「ご、ごめんなさいミラベルさん……っ!私のせいで……、大変なことに……」
あ、あぁ……っ!また大きな誤解が始まってしまった……!
「い、いえっ!いいえっ!!違うんです!昨日王女殿下にご説明したとおり、左耳は王女殿下に出会う前からすでに負傷しておりまして……!」
「嘘よ!私たちに気を遣わせまいとそう言ってくれてるだけでしょう?だってそんな酷い怪我、滅多なことではしないはずだもの」
「ミラベル嬢、遠慮は止めてくれ。君は王族であるこの妹を庇って怪我をしたんだ。手厚い治療と褒美を受け取るには、充分な功績だよ」
ちっ……違う違う違う違う……!
むしろ手厚く治療してもらって褒美まで出してもらったらもう、王族を謀っているようで良心が痛むどころの話じゃない。
耳の怪我はヴィントのせいなんだってば!!
「本当にそうじゃないんです!わ、私にも、その、事情がございまして……っ」
「お願いよミラベルさん。ちゃんとお礼をさせてほしいの」
「本当に別の事情があるというのなら、どうか話してくれないか。ただ遠慮しているだけなら、どうか我々の気持ちを素直に受け取ってほしい」
「…………っ、」
心の中まで見透かそうとするかのように、真剣そのものの眼差しで私を見つめてくる、澄んだ青い瞳と燃えるような真っ赤な瞳。
罪悪感と、王族を謀ることへの恐怖心と……、いろいろな思いが頭の中を駆け巡り余裕をなくした私は、ついに恥ずべき事情をポロリと零した。
「……こ……っ、この怪我は、……離婚した元夫からの暴力によるものでございます……。横っ面を強く蹴り飛ばされ、そのまま屋敷を出てまいりましたので……。ま、まだ、医者にかかっていないのです……」
「……何だって……?」
王太子殿下の表情が強張った。
私が挨拶をすると、左腕に巻き付いていたアリューシャ王女殿下の手の力が緩んだ。視線を向けると、なぜだか王女殿下は悲しそうな顔をして俯いている。
(……?)
あ、あれ?私の挨拶、おかしかったのかな……?なんせ慣れてないものだから……。
15でハセルタイン伯爵家に嫁ぎ、それからはずっと屋敷の中や領地を忙しく駆け回る生活をしていたし、義両親や元夫のヴィントは私を社交界の集まりに連れていってくれることなど一度もなかった。よってデビュタントも済ませていない。……どうしよう。私の挨拶、王女殿下のお気に召さなかったのかも……。
ハラハラしながら王女殿下を見つめていると、セレオン王太子殿下が私に優しく話しかけてくださった。
「このアリューシャが護衛たちの目を盗み、勝手に王宮の外へ出ていってしまったんだ。話は妹やジーンから聞いたよ。君の助けがなければ、妹はどんな目に遭っていたかも分からない。……改めて、礼を言わせてほしい。本当にありがとう。勇敢な方だ」
「あ、い、いえ、そんな……。私は結局何もしておりませんので。かえって騒ぎを大きくしてしまっただけかもしれません。お……お騒がせいたしました……」
しどろもどろになりながら私がそう返事をするのを優しい眼差しで見守ってくれていた王太子殿下。少しの間沈黙が走ったかと思うと、殿下がふいに私の隣にいるアリューシャ王女殿下の方に視線を送る。つられて私も彼女を見ると……、
(あ、あれ?)
王女殿下は不服そうな顔をして、私のことをじっと見つめている。頬を膨らませた王女殿下は、
「……聞いてる?ミラベルさんったら」
と、少し尖った口調で言った。
(え……っ?何か私に話しかけたの……?)
「もっ、申し訳ございません、アリューシャ王女殿下……っ。聞こえておりませんでした。もう一度、よろしいでしょうか……」
「……?だからぁ、昨日みたいに気さくに話してほしいのに、って、私今そう言ったのよ。……ね、もしかしてミラベルさん、左耳、全然聞こえてないの……?」
王女殿下のその言葉に驚く。全く聞こえていなかった。どうやら左側から小さな声で呟かれると、もうほとんど聞こえないらしい。そのことに気付き、小さなショックを受ける。
「も……申し訳ございません……。全然聞こえておりませんでした。よ、よければ、こちら側から話しかけていただけますと……」
自分の右側を示しながら必死で謝っていると、セレオン王太子殿下とアリューシャ王女殿下は、揃って苦渋の表情を浮かべた。
「……なんてことだ……。耳に怪我を負ったようだと報告は受けていたが、まさかそこまで……。すぐ医者に診せよう。早く処置をすれば、聴力も回復するかもしれない」
「ご、ごめんなさいミラベルさん……っ!私のせいで……、大変なことに……」
あ、あぁ……っ!また大きな誤解が始まってしまった……!
「い、いえっ!いいえっ!!違うんです!昨日王女殿下にご説明したとおり、左耳は王女殿下に出会う前からすでに負傷しておりまして……!」
「嘘よ!私たちに気を遣わせまいとそう言ってくれてるだけでしょう?だってそんな酷い怪我、滅多なことではしないはずだもの」
「ミラベル嬢、遠慮は止めてくれ。君は王族であるこの妹を庇って怪我をしたんだ。手厚い治療と褒美を受け取るには、充分な功績だよ」
ちっ……違う違う違う違う……!
むしろ手厚く治療してもらって褒美まで出してもらったらもう、王族を謀っているようで良心が痛むどころの話じゃない。
耳の怪我はヴィントのせいなんだってば!!
「本当にそうじゃないんです!わ、私にも、その、事情がございまして……っ」
「お願いよミラベルさん。ちゃんとお礼をさせてほしいの」
「本当に別の事情があるというのなら、どうか話してくれないか。ただ遠慮しているだけなら、どうか我々の気持ちを素直に受け取ってほしい」
「…………っ、」
心の中まで見透かそうとするかのように、真剣そのものの眼差しで私を見つめてくる、澄んだ青い瞳と燃えるような真っ赤な瞳。
罪悪感と、王族を謀ることへの恐怖心と……、いろいろな思いが頭の中を駆け巡り余裕をなくした私は、ついに恥ずべき事情をポロリと零した。
「……こ……っ、この怪我は、……離婚した元夫からの暴力によるものでございます……。横っ面を強く蹴り飛ばされ、そのまま屋敷を出てまいりましたので……。ま、まだ、医者にかかっていないのです……」
「……何だって……?」
王太子殿下の表情が強張った。
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