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8. 王宮へ?!

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「……何と。それは本当ですか?の起こしたトラブルに巻き込まれたせいであなたがお怪我をしたとあっては、このままお帰しするわけにはまいりません」

 ひ……っ!な、何だか大袈裟になってしまう……っ。
 先ほどまで私のことを訝しげに見ていたジーンというその男性は、打って変わって申し訳なさそうな表情になった。その言葉にますます焦り、私は両手を顔の前でブンブン振りながら全力で否定した。

「ちっ、違います違いますっ!本当に!アリューシャさんのせいではないんです!も、元々……家を出る時から怪我をしてたんですってば!だから、どうぞもう本当にお気になさらず……。どうかアリューシャさんのことも、叱らないであげてくださいませ。私は巻き込まれて怪我をしたわけではありませんので。では、失礼いたしますわ」
「そんな!!ちょっと待って!!」
「こ、これから仕事の面接があるの!またご縁があれば会いましょうね」

 引き留めようとするアリューシャちゃんに小さな嘘をつき、私は急いでいるふりをしてその場から立ち去った。……ふぅ。これでそのうち私のことは忘れてくれるだろう。可愛い子だったし、ちょっと寂しいけど……。
 それから私は、本当に仕事を探した。近隣の店を当たり、従業員を募集していないか尋ねてまわった。けれど、そう上手いこと話は決まらない。

(紹介状もないんだもの。いきなり現れた小娘が働かせてくださいと言ったところで、そう簡単には決まらないわよね……)

 困った。
 本当に困った。
 耳は痛むし、仕事は見つからない。
 弱気になる心を奮い立たせながら、日が沈む頃、私はトボトボと宿に戻った。

(……まだ初日だもの。これからよ。数撃ちゃ当たるわ。明日はもっと行動範囲を広げてみましょう)

 そう自分に言い聞かせながら、買ってきた小さなパンを食べて眠りについた。
 そして、その翌日。
 宿を一歩出た私は、驚愕の光景を目にすることとなったのだった。






 はぁ。今日はどこに行こう……。今日も一日仕事を探してみてもしダメだったら、いっそのこと王都から少し離れてみるかな……。案外ちょっと田舎の方が仕事もあったりして………。そんなことを考えながら、朝っぱらからしょんぼりと俯き、宿から外に出た、その時だった。

「見つけました、ミラベル様」
「ひゃあっ!!」

 目の前に突然壁のように立ちはだかった男性に、前触れもなく声をかけられた。驚いて顔を上げると、そこにいたのは昨日のオリーブグレーの髪の男性、ジーンさんだった。

「び……っ、びっくりしました……」
「おはようございます、ミラベル様。昨日は大変ご迷惑をおかけいたしました。本日は殿よりの命を受け、お迎えに上がった次第です」
「……。……。…………はい?」
「馬車までご案内いたします。こちらへ」

 …………はい?

(ん?今何て言った?……デンカ?って、……誰??)

「こちらです、ミラベル様」
「……。」

 呆然と佇む私を急かすように、ジーンさんは言葉を重ねる。彼をはじめ、周囲に数人いる護衛や付き人と思われる人たちの視線が一斉に私に集まっている。それらの視線に尻を叩かれているような気分になり、私はおずおずと歩きはじめた。

「……あ、あの、……ジーンさん」
「ええ、あちらの広場に停めてありますので、すぐ着きます」
「い、いえ。そうではなくて……。あの、わ、私は今からどこに連れていかれるのですか?耳のことなら本当にお気になさらず……」
「そういうわけにはまいりません。殿下は必ずあなたをお連れするようにと仰せでしたので。昨日、この辺りの安宿に宿泊していらっしゃるとあなたが仰っていたと。殿のそのお言葉から推測し、あちらの宿に見当をつけてお待ちしておりました」

 ……んん……??

「あ、あの……、さっきから一体誰のことを……」
「どうぞ。お乗りくださいミラベル様」

 少し話しながら歩いているうちに、もう馬車の停めてある場所に着いたらしい。その馬車の豪華さに、私は目を見張った。

(な……、何なの?!この馬車……!まるで、これ……)

 王宮の馬車のみたいだわ。見たことないけど。そう思った私の目に、馬車に飾られた王家の紋章が飛び込んでくる。

(……え……?)

「いかがなさいましたか?どうぞ、お早くお乗りくださいませ」

 催促してくるジーンさんの隣にはフットマンらしき人が控えている。私はおそるおそる聞いてみた。

「……あの……、もしかして、これから向かうところって……?」

 ジーンさんは私と目を合わせると当たり前のことのように淡々と答えた。

「ええ。王宮でございます。アリューシャ王女殿下の話をお聞きになったセレオン王太子殿下が、ぜひあなたに直接お会いしてお礼を申し上げたいと。そう仰ってお待ちでございます」
「…………え、」

 えぇぇっ…………?!



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