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79. 幸せな日常
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それから数ヶ月──────
「パル、ピオ、ポミー!いらっしゃい、ご飯の時間よー!」
花々が咲き乱れる中庭で気ままに走り回っている真っ白な子犬たちの名を呼ぶと、三匹は私に向かって一目散に駆け寄ってくる。
「アンッ!アンッ!」
「キャンッ!」
「クゥーン!」
足元までやって来た愛らしい子たちは、舌を出してハァハァと息を弾ませながら、前足で私のドレスの裾を引っ掻いたり匂いを嗅いだりしている。
「ふふ、ほら、落ち着いて。座ってごらんなさい」
「キュン」
私の言葉に三匹はタイミングを揃えたかのように一斉にちょこんとお尻を下げ、こちらを見上げてくる。その様子があまりに可愛くて頬が緩む。ああ、癒やされるわ…。
「まだよ、待ってね。……よし、いい子。さ、お食べ」
「キュンッ」
丸い尻尾をフワフワと揺らしながら、三匹は一斉に各々のお皿に顔を突っ込んだ。
「うふふ。すっかりアリア様に懐いちゃって。三匹ともしっかり言葉を分かってますね。お利口さんで可愛いわぁ」
私と一緒にこの子たちのご飯が乗ったお皿を運んできてくれたリネットも、デレデレの笑顔で子犬たちが夢中で食べる様子を見ている。誰もがこの子たちを見守る時こんな表情になるのだ。癒やしのパワーはすごい。
「…今日も女王陛下自らが食餌の世話ですか」
「っ!エルド…ッ」
その時。愛しい人の声がして反射的に振り返ると、そこには子犬を見守る私たち以上に優しい目をしたエルドがいた。
「きっとここにいるだろうと思った」
「ふふ。ええ。執務が一段落ついて時計を見たら、ちょうどいい時間だったから」
「……あら、大変。私まだやることがあったんだったわ~。ちょっと外しますわね、アリア様」
気を遣ってくれているのか、リネットが若干芝居がかった調子でそう言うとそそくさと姿を消した。
彼女の姿が見えなくなるやいなや、エルドは私の目の前まで来て頬をそっと撫でる。
「俺たちも昼食の時間だよ。今度は俺の相手をしておくれ」
「ふふふ…。そうね」
そう返事をすると、エルドは嬉しそうに微笑み私を引き寄せ頬にキスをする。食堂へ移動するのかと思いきや、エルドはそのまま私をギュッと抱きしめ、動こうとしない。
「……。……エルド?昼食のお誘いじゃなかったの?」
「……もう少しだけ。君を見るたびに抱きしめたくてたまらなくなるんだよ」
「…………ふふ」
その言葉が嬉しくて、頬がだらしなく緩んでしまう。私もエルドにこうして抱きしめられるのが大好き。もうずっとずっとこうしていたいくらい。
幸せに浸りながら、髪や額や頬に次々に与えられる愛する人の口づけにうっとりと身を任せていると、ふいに視線を感じて私は足元に目をやった。
「っ!」
食事が終わったらしいポミーが私のそばに来て、何かを訴えるようにジーッと私のことを見つめている。
「ポ、ポミー……。抱っこしてほしいの?」
「クン」
エルドから離れ、丸いしっぽを左右にフリフリしている小さな子犬を抱き上げる。するとポミーのしっぽの動きがますます早くなった。
「……アリアはこの三匹の見分けがつくの?そっくりすぎて俺には皆一緒に見えてしまうんだが」
「私は分かるんだけど皆がそう言うから、こうして首のリボンの色で名前が分かるようにしてあるのよ。ほら、桃色がパル、若草色がピオ、この空色のリボンの一番大人しい子がポミーよ」
「クン」
そうだよ、と言わんばかりにポミーが合いの手を入れる。気付けば活発な二匹はすでに食事を終え、元気に中庭を走り回っていた。
「……ママもお食事してきてもいい?パルたちと遊んでいられる?ポミー。また後でお迎えにくるから」
「……。」
何も言わずにジッと私を見つめるポミーをそっと下に降ろしてみると、一目散に他の二匹のところに走っていった。私の言葉をよく分かってくれている。そして性格は全然違うけれど、三匹はとても仲が良い。
「……?何を笑っているの?エルド」
「いや、別に。実の子どもを相手にするように子犬に話しかけている君があまりにも可愛らしくて。ずっと見ていたくなるよ」
「っ!!」
クスクス笑っていたかと思うと、すごく優しい眼差しで突然そんなことを言い出したエルド。照れてしまって頬が火照る。
「も、もう……。すぐにそんなことばかり言うんだから。……そろそろ行きましょう」
「うん。…………待って、アリア」
「ん?…………っ!」
呼び止められて何気なく見上げると、エルドが突然私の肩を抱き寄せ、ふわりと唇を重ねてきた。
「エ……エルドったら……っ!」
「人目が少ないうちに。どうせこの後は夜まで君に触れられないんだから」
そう言って幸せそうに微笑むと、エルドは私の手を取って歩きはじめた。
(エルドったら……本当に……。こんな風に甘い言葉や突然のキスを与えられることで私がどれほどドキドキしているか、あなたは知らないでしょう……)
大好きなあなたから、毎日こんなに愛を囁いてもらえる日が来るなんて。夢にも思っていなかったな……。
私は大人しくエルドに手を引かれ、雲の上にいるような心地で歩いていった。
「パル、ピオ、ポミー!いらっしゃい、ご飯の時間よー!」
花々が咲き乱れる中庭で気ままに走り回っている真っ白な子犬たちの名を呼ぶと、三匹は私に向かって一目散に駆け寄ってくる。
「アンッ!アンッ!」
「キャンッ!」
「クゥーン!」
足元までやって来た愛らしい子たちは、舌を出してハァハァと息を弾ませながら、前足で私のドレスの裾を引っ掻いたり匂いを嗅いだりしている。
「ふふ、ほら、落ち着いて。座ってごらんなさい」
「キュン」
私の言葉に三匹はタイミングを揃えたかのように一斉にちょこんとお尻を下げ、こちらを見上げてくる。その様子があまりに可愛くて頬が緩む。ああ、癒やされるわ…。
「まだよ、待ってね。……よし、いい子。さ、お食べ」
「キュンッ」
丸い尻尾をフワフワと揺らしながら、三匹は一斉に各々のお皿に顔を突っ込んだ。
「うふふ。すっかりアリア様に懐いちゃって。三匹ともしっかり言葉を分かってますね。お利口さんで可愛いわぁ」
私と一緒にこの子たちのご飯が乗ったお皿を運んできてくれたリネットも、デレデレの笑顔で子犬たちが夢中で食べる様子を見ている。誰もがこの子たちを見守る時こんな表情になるのだ。癒やしのパワーはすごい。
「…今日も女王陛下自らが食餌の世話ですか」
「っ!エルド…ッ」
その時。愛しい人の声がして反射的に振り返ると、そこには子犬を見守る私たち以上に優しい目をしたエルドがいた。
「きっとここにいるだろうと思った」
「ふふ。ええ。執務が一段落ついて時計を見たら、ちょうどいい時間だったから」
「……あら、大変。私まだやることがあったんだったわ~。ちょっと外しますわね、アリア様」
気を遣ってくれているのか、リネットが若干芝居がかった調子でそう言うとそそくさと姿を消した。
彼女の姿が見えなくなるやいなや、エルドは私の目の前まで来て頬をそっと撫でる。
「俺たちも昼食の時間だよ。今度は俺の相手をしておくれ」
「ふふふ…。そうね」
そう返事をすると、エルドは嬉しそうに微笑み私を引き寄せ頬にキスをする。食堂へ移動するのかと思いきや、エルドはそのまま私をギュッと抱きしめ、動こうとしない。
「……。……エルド?昼食のお誘いじゃなかったの?」
「……もう少しだけ。君を見るたびに抱きしめたくてたまらなくなるんだよ」
「…………ふふ」
その言葉が嬉しくて、頬がだらしなく緩んでしまう。私もエルドにこうして抱きしめられるのが大好き。もうずっとずっとこうしていたいくらい。
幸せに浸りながら、髪や額や頬に次々に与えられる愛する人の口づけにうっとりと身を任せていると、ふいに視線を感じて私は足元に目をやった。
「っ!」
食事が終わったらしいポミーが私のそばに来て、何かを訴えるようにジーッと私のことを見つめている。
「ポ、ポミー……。抱っこしてほしいの?」
「クン」
エルドから離れ、丸いしっぽを左右にフリフリしている小さな子犬を抱き上げる。するとポミーのしっぽの動きがますます早くなった。
「……アリアはこの三匹の見分けがつくの?そっくりすぎて俺には皆一緒に見えてしまうんだが」
「私は分かるんだけど皆がそう言うから、こうして首のリボンの色で名前が分かるようにしてあるのよ。ほら、桃色がパル、若草色がピオ、この空色のリボンの一番大人しい子がポミーよ」
「クン」
そうだよ、と言わんばかりにポミーが合いの手を入れる。気付けば活発な二匹はすでに食事を終え、元気に中庭を走り回っていた。
「……ママもお食事してきてもいい?パルたちと遊んでいられる?ポミー。また後でお迎えにくるから」
「……。」
何も言わずにジッと私を見つめるポミーをそっと下に降ろしてみると、一目散に他の二匹のところに走っていった。私の言葉をよく分かってくれている。そして性格は全然違うけれど、三匹はとても仲が良い。
「……?何を笑っているの?エルド」
「いや、別に。実の子どもを相手にするように子犬に話しかけている君があまりにも可愛らしくて。ずっと見ていたくなるよ」
「っ!!」
クスクス笑っていたかと思うと、すごく優しい眼差しで突然そんなことを言い出したエルド。照れてしまって頬が火照る。
「も、もう……。すぐにそんなことばかり言うんだから。……そろそろ行きましょう」
「うん。…………待って、アリア」
「ん?…………っ!」
呼び止められて何気なく見上げると、エルドが突然私の肩を抱き寄せ、ふわりと唇を重ねてきた。
「エ……エルドったら……っ!」
「人目が少ないうちに。どうせこの後は夜まで君に触れられないんだから」
そう言って幸せそうに微笑むと、エルドは私の手を取って歩きはじめた。
(エルドったら……本当に……。こんな風に甘い言葉や突然のキスを与えられることで私がどれほどドキドキしているか、あなたは知らないでしょう……)
大好きなあなたから、毎日こんなに愛を囁いてもらえる日が来るなんて。夢にも思っていなかったな……。
私は大人しくエルドに手を引かれ、雲の上にいるような心地で歩いていった。
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