66 / 84
65.妹との往復書簡(※sideルゼリエ)
しおりを挟む
こんな書簡がアリアから届いたのは初めてのことだった。最初は驚き、にわかには信じられなかったが、その筆跡はどこからどう見ても妹のものに他ならなかった。
(まさかこんな踏み込んだ内容の手紙が届くとは…。何故俺の元に無事届いたのか。こんな内容、普通に考えればあちらの国を出る前に王宮の文官たちによって検閲され処分されるはず。事実今までそうだったからアリアは当たり障りのない内容の手紙ばかりを送ってきていたのだと思っていた。だが…)
そこに書かれた内容はラドレイヴン王国王宮内の腐りきった現状と、アリアの置かれた厳しい境遇、そして衰退していく国内の状況についてだった。
その分厚い書簡を読み進めるうちに、納得した。国王と側妃の暴政に耐えきれなくなった者、また、早々に見切りをつけた優秀な者たちは次々に王宮やラドレイヴン王国内から去っていっている状態らしい。おそらくこれまで王宮に勤めていたまともな文官たちも退職したか、もしくは大きく混乱し今まで通りの業務がきちんと行われていない状態なのだろう。検閲すべき人間たちの目を掻い潜ってこのような手紙が俺の元に届けられるほどに。
(…その状況の中で、アリアはたった一人で歯を食いしばっていたというのか…。どれほど心細く、辛い日々だったろう)
ジェラルド国王が側妃を迎えると、アリアは早々に離宮に居を移すことになった、それ以降その離宮の中で生活しているという。私生活を諌めたところで聞く耳を持たない国王は、幽閉や離縁という言葉を出してアリアを脅し、腐っていく現状に対応させることさえ封じている。
読み進めるうちに手紙を持つ指先がブルブルと震えだした。
(あの大人しく、か弱い妹を…。ジェラルドめ、許すことはできぬ)
そんな扱いをするなら何故わざわざ我が国の王女を正妃に迎えたのか。我らの怒りを買うことなど取るに足らぬことだと思っているのか。それほどまでに我が国を、近隣の小国を舐めきっているということか。
(公務を放り出し、民の生活を犠牲にし、自分たちがどんなに怠惰を貪り続けようとも大国の安泰は永久に続くとでも思っているのか。…愚かな王よ)
見ているがいい。愛する妹を苦しめ、王としての責務を放り出した愚王には我らが必ず制裁を与える。アリア…、もう少しだけ、辛抱してくれ。
有能な重鎮たちを失い続けるラドレイヴン王国との書簡のやり取りは驚くほどスムーズに進んだ。あちらにも誰か手引きしてくれている味方がいるのだろう。アリアに手を貸してくれている者の存在があるのはありがたい。
俺と父は特にファルレーヌ王国との連携を密にし、作戦を練った。大陸の中でも我が国と、隣接するファルレーヌ王国の昨今の発展と好況はめざましい。妹の望み通り東側諸国に可能な範囲での支援をし、またラドレイヴンから続々と逃れてくる民や有識者たちを受け入れた。我が国やファルレーヌ王国には、ラドレイヴン王国の学者や軍人、医師や政治家など、様々な素晴らしい人材が流れてきた。我々は彼らを手厚く迎え入れた。
月日が経つにつれ、かの大国と我らが小国の状況はますます差がついた。数年前まではラドレイヴンという大国から我々近隣の小国が様々な援助を受ける立場にあった。だが今となってはラドレイヴンからの援助など一切なく、またそれによってこちら側が困窮することも全くなくなった。大国は暴政により多くの有能な人材を失い、景気は一気に悪化していた。対して我々は様々な分野の有識者を多く迎え、短期間で商業、工業、農業など多くの分野で目覚ましい発展を遂げ、軍事力も圧倒的飛躍をなした。
ほどなくして、我がカナルヴァーラ王国とファルレーヌ王国は新たな軍事同盟を結んだ。
作戦決行前のアリアからの書簡の中には、いまだ王宮に残り真面目に働いてくれている者たちを逃がしたり、実家に帰したりするつもりだと記されていた。また、罪なき国民たちには可能な限り被害の出ぬよう努めてほしいといった内容のことも何度も書かれていた。
もちろん、アリアの要望は極力叶えるつもりでいる。俺たちだって無関係の人々やいまだ大国のために誠実に働いている者たちを踏み潰したいわけではない。
大国の民たちの生活を守ることも重要だ。だが、俺は他ならぬ大切な妹を早く苦しい日々の中から解放してやりたいと願っていた。
(もう少し辛抱してくれ、アリア。お前を必ずそこから救い出してみせる)
(まさかこんな踏み込んだ内容の手紙が届くとは…。何故俺の元に無事届いたのか。こんな内容、普通に考えればあちらの国を出る前に王宮の文官たちによって検閲され処分されるはず。事実今までそうだったからアリアは当たり障りのない内容の手紙ばかりを送ってきていたのだと思っていた。だが…)
そこに書かれた内容はラドレイヴン王国王宮内の腐りきった現状と、アリアの置かれた厳しい境遇、そして衰退していく国内の状況についてだった。
その分厚い書簡を読み進めるうちに、納得した。国王と側妃の暴政に耐えきれなくなった者、また、早々に見切りをつけた優秀な者たちは次々に王宮やラドレイヴン王国内から去っていっている状態らしい。おそらくこれまで王宮に勤めていたまともな文官たちも退職したか、もしくは大きく混乱し今まで通りの業務がきちんと行われていない状態なのだろう。検閲すべき人間たちの目を掻い潜ってこのような手紙が俺の元に届けられるほどに。
(…その状況の中で、アリアはたった一人で歯を食いしばっていたというのか…。どれほど心細く、辛い日々だったろう)
ジェラルド国王が側妃を迎えると、アリアは早々に離宮に居を移すことになった、それ以降その離宮の中で生活しているという。私生活を諌めたところで聞く耳を持たない国王は、幽閉や離縁という言葉を出してアリアを脅し、腐っていく現状に対応させることさえ封じている。
読み進めるうちに手紙を持つ指先がブルブルと震えだした。
(あの大人しく、か弱い妹を…。ジェラルドめ、許すことはできぬ)
そんな扱いをするなら何故わざわざ我が国の王女を正妃に迎えたのか。我らの怒りを買うことなど取るに足らぬことだと思っているのか。それほどまでに我が国を、近隣の小国を舐めきっているということか。
(公務を放り出し、民の生活を犠牲にし、自分たちがどんなに怠惰を貪り続けようとも大国の安泰は永久に続くとでも思っているのか。…愚かな王よ)
見ているがいい。愛する妹を苦しめ、王としての責務を放り出した愚王には我らが必ず制裁を与える。アリア…、もう少しだけ、辛抱してくれ。
有能な重鎮たちを失い続けるラドレイヴン王国との書簡のやり取りは驚くほどスムーズに進んだ。あちらにも誰か手引きしてくれている味方がいるのだろう。アリアに手を貸してくれている者の存在があるのはありがたい。
俺と父は特にファルレーヌ王国との連携を密にし、作戦を練った。大陸の中でも我が国と、隣接するファルレーヌ王国の昨今の発展と好況はめざましい。妹の望み通り東側諸国に可能な範囲での支援をし、またラドレイヴンから続々と逃れてくる民や有識者たちを受け入れた。我が国やファルレーヌ王国には、ラドレイヴン王国の学者や軍人、医師や政治家など、様々な素晴らしい人材が流れてきた。我々は彼らを手厚く迎え入れた。
月日が経つにつれ、かの大国と我らが小国の状況はますます差がついた。数年前まではラドレイヴンという大国から我々近隣の小国が様々な援助を受ける立場にあった。だが今となってはラドレイヴンからの援助など一切なく、またそれによってこちら側が困窮することも全くなくなった。大国は暴政により多くの有能な人材を失い、景気は一気に悪化していた。対して我々は様々な分野の有識者を多く迎え、短期間で商業、工業、農業など多くの分野で目覚ましい発展を遂げ、軍事力も圧倒的飛躍をなした。
ほどなくして、我がカナルヴァーラ王国とファルレーヌ王国は新たな軍事同盟を結んだ。
作戦決行前のアリアからの書簡の中には、いまだ王宮に残り真面目に働いてくれている者たちを逃がしたり、実家に帰したりするつもりだと記されていた。また、罪なき国民たちには可能な限り被害の出ぬよう努めてほしいといった内容のことも何度も書かれていた。
もちろん、アリアの要望は極力叶えるつもりでいる。俺たちだって無関係の人々やいまだ大国のために誠実に働いている者たちを踏み潰したいわけではない。
大国の民たちの生活を守ることも重要だ。だが、俺は他ならぬ大切な妹を早く苦しい日々の中から解放してやりたいと願っていた。
(もう少し辛抱してくれ、アリア。お前を必ずそこから救い出してみせる)
85
お気に入りに追加
2,314
あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる