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25.側妃の翻弄(※sideジェラルド)
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「ジェリー、あの人ってどこに住んでるの?」
アリアが部屋から下がるやいなや、マデリーンが俺を見上げて言った。
「アリアは正妃だ。この部屋から隣の寝室を隔てた奥の部屋にいる」
「……。…ってことは、ここと同じくらい豪華なお部屋なの?いつでも夫婦の寝室に行けるってこと?」
「?…ああ。毎晩隣の寝室で寝ているはずだぞ。俺はもう数ヶ月使っていないがな」
夫婦の夜を過ごしているわけではないと伝えたつもりだが、マデリーンは幼子のように頬をプクッと膨らませた。
「…気に入らないのか?」
「当たり前じゃない!絶対嫌よ!じゃああたしはどこに住むの?ジェリーの隣の部屋じゃないの?!」
「お前には後宮の一番良い部屋を用意してやるつもりだ。ここから最も近く、豪奢な部屋だぞ。見ればきっと気に入る。今お前のために準備を…」
「嫌よ後宮なんて!あの人の住んでる部屋がいいわ!ジェリー、あの人を追い出して。あたしを寝室続きの隣に住まわせてよ」
あまりに突拍子もない要求に俺は驚いた。正妃を部屋から追い出してそこに側妃を…?それはさすがに有り得ない話だ。
「マデリーン、俺の心がお前の元にあるとはいえ、アリアは正妃だ。正妃のための部屋から追い出すわけにはいかないだろう。仮にも隣国の王女だった女だぞ。それなりの扱いをしなければ…」
「ひっ!…ひどいわジェリー!あの人が王女様であたしが没落貴族の娘だからって、差別するのね!あたしよりあの人の方を大事にするのね!」
「馬鹿、違う。そういう話じゃない。アリアは…」
「話が違うわ!……ふっ……、う…、うぅっ…」
興奮して目を吊り上げていたマデリーンは突然シクシクと泣き出した。
「…マデリーン…」
「…お、王宮に住んで、お姫様みたいな生活ができるんだって…、…好きな人と夫婦になって、二人きりで幸せに暮らせるんだって、そう思ったからジェリーについて来たのにぃ…」
「……。」
「あ、あたし、今までずっと苦労してきた…。うちは名ばかりの男爵家で、お金が全っ然なくて、食べるものにも困る毎日で…。両親は見栄っ張りだから、わずかなお金を社交費やドレスに注ぎ込んじゃうし…。あ、あたしがあんな酒場でまで、働かなくちゃならなくなって…、ずっと辛かった。だけどジェリーと運命の出会いをしてやっと、人生が報われると思ったの。神様があなたと出会わせてくれたんだって。真面目に頑張って生きてきたから、これからは大好きな人と二人きりで幸せに生きていけるんだって…、だけど…!結局あたしはお姫様にはなれないの…。後宮って、二番目以下の女たちが集まって暮らすところなのよね。ジェリーにとってあたしは…、その程度の女なんだわ…。あ、あたしが、没落男爵家の娘だから…、あの人とは扱いが違うんだわ…!」
「マデリーン、違う。そういうことじゃ…」
「あたしは結局お姫様にはなれないんだわ!あぁぁーん!」
マデリーンは顔を覆って子どものように泣き出した。肩を震わせ、しゃくり上げ…。まるで駄々っ子だ。
確かにマデリーンは苦労してきたのだろう。可愛い女の望みなら、できる限り叶えてやりたい。俺だってこいつを特別な女だと思ったからこそ側妃に迎えると決めたんだ。
…しかし…、
「…お前には後宮で一番良い部屋を用意すると言っているだろう。アリアの部屋とも遜色ない豪華な部屋だぞ。見に行ってみるか?きっと気に入る」
「いやっ!!絶対にイヤイヤイヤッ!!あたし正妃の部屋がいいっ!ジェリーの一番近くがいいのっ!一番でいたいのっ!」
「……。それ以上我が儘を言うな、マデリーン」
俺はあえて厳しい表情を作り言った。素直に感情を露わにして泣く姿は新鮮で、可愛くないわけではないが、言うべき時にはビシッと言っておく必要がある。
俺は国王なのだ。全ての決定権はこの俺にあるのだとマデリーンにも教えておかねばなるまい。
「あの部屋は正妃の部屋。お前はあくまで側妃。側妃は後宮に住むものだ」
「…………。」
「破格の待遇で迎えてやろうと言っているんだ。何をそんなに卑下することがある?俺は誰よりもお前を大事にする。だから大人しく…」
「出て行く」
「……。…………は?」
「もういいわ。あたし、やっぱり結婚は止める。あたしはあたしを一番に大事にしてくれる人じゃなきゃイヤ。他にもお姫様扱いしてる女がいる男なんかじゃ、イヤなの」
「なっ、…何を言っているんだ!馬鹿か!俺は国王だぞ!その辺の男とは訳が違う。この俺が、お前を誰より大事にすると言っているんだ。ここ以上にお前が満足して暮らせるところなどどこにもないぞ」
俺が言いくるめようとしているのに、マデリーンは涙をゴシゴシ拭いながら勝手に扉に向かって歩きはじめた。
「マデリーン!」
「他の女の人と寝室続きの部屋に住んでる男なんて信じられないっ!あたしだけだとか言って、シレッとあっちの人と一緒に寝たりするんでしょ!そんなのイヤッ!騙されないんだからっ!」
「お、おい待て!!」
本当に部屋から出て行きそうな勢いのマデリーンの腕を、追いかけて慌てて掴み、強引にこちらを向かせる。何なんだこの女は。国王の側妃になれるんだぞ。たかが居住する部屋の話くらいで、そこまで激昂するか…?
だがマデリーンは涙に濡れた瞳で俺を見上げると、そのまま俺に強く抱きついてきた。ひっくひっくとしゃくり上げながら肩を震わせ、そして─────
「……っ!」
かぶりつくように、俺に情熱的なキスをした。
「……っ、…マデリーン…」
「お願いよ、ジェリー…。あたしだけを見て。見てくれているというのなら、その証拠を見せてよ…。あたしをあなたの、一番近くにいさせて…。あたしだけを……、……ひっく」
「…………。」
……か、可愛い……。
(こんなにも俺のことを強く求めてくるとは…)
俺の心は大きく揺れ動いた。…いいじゃないか、部屋ぐらい譲ってやっても。それでこの可愛いマデリーンが安心するのなら。…アリアも部屋が変わるぐらいで文句を言うことはないだろう。…多分。大人しくて感情を表に出さない女だからな。
アリアが部屋から下がるやいなや、マデリーンが俺を見上げて言った。
「アリアは正妃だ。この部屋から隣の寝室を隔てた奥の部屋にいる」
「……。…ってことは、ここと同じくらい豪華なお部屋なの?いつでも夫婦の寝室に行けるってこと?」
「?…ああ。毎晩隣の寝室で寝ているはずだぞ。俺はもう数ヶ月使っていないがな」
夫婦の夜を過ごしているわけではないと伝えたつもりだが、マデリーンは幼子のように頬をプクッと膨らませた。
「…気に入らないのか?」
「当たり前じゃない!絶対嫌よ!じゃああたしはどこに住むの?ジェリーの隣の部屋じゃないの?!」
「お前には後宮の一番良い部屋を用意してやるつもりだ。ここから最も近く、豪奢な部屋だぞ。見ればきっと気に入る。今お前のために準備を…」
「嫌よ後宮なんて!あの人の住んでる部屋がいいわ!ジェリー、あの人を追い出して。あたしを寝室続きの隣に住まわせてよ」
あまりに突拍子もない要求に俺は驚いた。正妃を部屋から追い出してそこに側妃を…?それはさすがに有り得ない話だ。
「マデリーン、俺の心がお前の元にあるとはいえ、アリアは正妃だ。正妃のための部屋から追い出すわけにはいかないだろう。仮にも隣国の王女だった女だぞ。それなりの扱いをしなければ…」
「ひっ!…ひどいわジェリー!あの人が王女様であたしが没落貴族の娘だからって、差別するのね!あたしよりあの人の方を大事にするのね!」
「馬鹿、違う。そういう話じゃない。アリアは…」
「話が違うわ!……ふっ……、う…、うぅっ…」
興奮して目を吊り上げていたマデリーンは突然シクシクと泣き出した。
「…マデリーン…」
「…お、王宮に住んで、お姫様みたいな生活ができるんだって…、…好きな人と夫婦になって、二人きりで幸せに暮らせるんだって、そう思ったからジェリーについて来たのにぃ…」
「……。」
「あ、あたし、今までずっと苦労してきた…。うちは名ばかりの男爵家で、お金が全っ然なくて、食べるものにも困る毎日で…。両親は見栄っ張りだから、わずかなお金を社交費やドレスに注ぎ込んじゃうし…。あ、あたしがあんな酒場でまで、働かなくちゃならなくなって…、ずっと辛かった。だけどジェリーと運命の出会いをしてやっと、人生が報われると思ったの。神様があなたと出会わせてくれたんだって。真面目に頑張って生きてきたから、これからは大好きな人と二人きりで幸せに生きていけるんだって…、だけど…!結局あたしはお姫様にはなれないの…。後宮って、二番目以下の女たちが集まって暮らすところなのよね。ジェリーにとってあたしは…、その程度の女なんだわ…。あ、あたしが、没落男爵家の娘だから…、あの人とは扱いが違うんだわ…!」
「マデリーン、違う。そういうことじゃ…」
「あたしは結局お姫様にはなれないんだわ!あぁぁーん!」
マデリーンは顔を覆って子どものように泣き出した。肩を震わせ、しゃくり上げ…。まるで駄々っ子だ。
確かにマデリーンは苦労してきたのだろう。可愛い女の望みなら、できる限り叶えてやりたい。俺だってこいつを特別な女だと思ったからこそ側妃に迎えると決めたんだ。
…しかし…、
「…お前には後宮で一番良い部屋を用意すると言っているだろう。アリアの部屋とも遜色ない豪華な部屋だぞ。見に行ってみるか?きっと気に入る」
「いやっ!!絶対にイヤイヤイヤッ!!あたし正妃の部屋がいいっ!ジェリーの一番近くがいいのっ!一番でいたいのっ!」
「……。それ以上我が儘を言うな、マデリーン」
俺はあえて厳しい表情を作り言った。素直に感情を露わにして泣く姿は新鮮で、可愛くないわけではないが、言うべき時にはビシッと言っておく必要がある。
俺は国王なのだ。全ての決定権はこの俺にあるのだとマデリーンにも教えておかねばなるまい。
「あの部屋は正妃の部屋。お前はあくまで側妃。側妃は後宮に住むものだ」
「…………。」
「破格の待遇で迎えてやろうと言っているんだ。何をそんなに卑下することがある?俺は誰よりもお前を大事にする。だから大人しく…」
「出て行く」
「……。…………は?」
「もういいわ。あたし、やっぱり結婚は止める。あたしはあたしを一番に大事にしてくれる人じゃなきゃイヤ。他にもお姫様扱いしてる女がいる男なんかじゃ、イヤなの」
「なっ、…何を言っているんだ!馬鹿か!俺は国王だぞ!その辺の男とは訳が違う。この俺が、お前を誰より大事にすると言っているんだ。ここ以上にお前が満足して暮らせるところなどどこにもないぞ」
俺が言いくるめようとしているのに、マデリーンは涙をゴシゴシ拭いながら勝手に扉に向かって歩きはじめた。
「マデリーン!」
「他の女の人と寝室続きの部屋に住んでる男なんて信じられないっ!あたしだけだとか言って、シレッとあっちの人と一緒に寝たりするんでしょ!そんなのイヤッ!騙されないんだからっ!」
「お、おい待て!!」
本当に部屋から出て行きそうな勢いのマデリーンの腕を、追いかけて慌てて掴み、強引にこちらを向かせる。何なんだこの女は。国王の側妃になれるんだぞ。たかが居住する部屋の話くらいで、そこまで激昂するか…?
だがマデリーンは涙に濡れた瞳で俺を見上げると、そのまま俺に強く抱きついてきた。ひっくひっくとしゃくり上げながら肩を震わせ、そして─────
「……っ!」
かぶりつくように、俺に情熱的なキスをした。
「……っ、…マデリーン…」
「お願いよ、ジェリー…。あたしだけを見て。見てくれているというのなら、その証拠を見せてよ…。あたしをあなたの、一番近くにいさせて…。あたしだけを……、……ひっく」
「…………。」
……か、可愛い……。
(こんなにも俺のことを強く求めてくるとは…)
俺の心は大きく揺れ動いた。…いいじゃないか、部屋ぐらい譲ってやっても。それでこの可愛いマデリーンが安心するのなら。…アリアも部屋が変わるぐらいで文句を言うことはないだろう。…多分。大人しくて感情を表に出さない女だからな。
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