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45. 反省(※sideアルバート)
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明らかに動揺し混乱した様子のティファナを、俺は馬車まで送り、去っていくのを見送った。
俺の求愛を受け狼狽えるティファナは、何やら難しい顔をして考え込んだり、俺と目が合うと真っ赤な顔をして慌てて目を逸らしたりしながら、最後はしどろもどろの挨拶をして馬車に乗り、ヘイワード公爵邸へと帰っていった。
そして、彼女を乗せた馬車が見えなくなるまで見送った俺は──────
「……はぁーー……」
無表情のまま淡々と回廊を歩き、王宮内に与えられた自室まで戻ると、人払いをし、ソファーに腰を下ろし、そして特大のため息をついたのだった。
(……やってしまった。全部言ってしまった……)
まだ胸のうちに留めておくつもりだったのに。
俺のことをただの“お兄様”とだけしか思っていないティファナ。彼女の中の自分の印象を少しずつ変えていき、できる限り驚かせないよう、優しく俺の想いを伝えるつもりでいた。
今日ティファナを温室に呼び寄せたのだって、もちろん異国の花はただの口実ではあったが、ただ彼女に会って顔を見たかったからだ。そして少しでも、ティファナの気晴らしになればと、そう思っただけのことだった。
それなのに……。
彼女の見せる一挙手一投足が、あまりにも魅力的で、可愛らしくて、胸の奥から溢れてくる熱い想いを抑えることができなくなった。その上、この愛おしいティファナのことを妻にしておきながら、ぞんざいに扱い傷付けているラウル・ヘイワードのことを考えると、どうしても怒りが湧いてきて。
愛おしさと焦燥感を抑えることができず、胸のうちを全て彼女にさらけ出してしまった。
「……ああ……。困ってたな、ティファナ」
動揺するティファナの表情を思い出し、罪悪感でいたたまれなくなった俺は、呻きながらだらしなくソファーに体を倒す。天井を仰ぎ両手で顔を覆うと、再び大きくため息をついた。
(……だがあの困惑した顔でさえ可愛くてたまらないのだから、もうどうしようもないな、俺は)
真っ赤になって瞳を潤ませ小さく震えるティファナの姿を思い出すだけで、胸が甘く疼き、こちらまで全身が火照ってくるようだった。
(だが、伝えた言葉に嘘偽りはない)
俺の気持ちも、もしも俺たちが結婚した場合に、周囲がどのような反応をするかも。
ヘイワードとティファナの結婚生活が上手くいっているのなら話は別だが、娘の置かれた現状を知れば、オールディス侯爵も怒りを覚えるだろう。王宮で文官としても勤めている公爵家の令息でありながら、その職場で知り合ったどこぞの女といい仲になり、我が娘を傷付け、裏切っているのだ。見た目とは裏腹にとんだ軽薄者じゃないか。
大事な娘をそんな男のそばで苦労をさせるよりも、王弟の元に嫁がせる方がはるかにいいに決まっている。
ヘイワード公爵家は……、まぁ知ったことではないが、あの浮気者の朴念仁以外にも跡取りになれそうな息子はいるわけだ。離縁後、あの男のティファナへの扱いが露呈して、俺とティファナが結ばれ、ティファナがどれほどこの俺の寵愛を受けているかが社交界に広まれば、あの男はもう爪弾きだ。そうなれば公爵もラウルは切り捨てて次男に爵位を継がせる選択をする可能性も高い。
(……ともかく、あとはティファナの気持ち一つだ。あまりにも早急すぎたからな……。今頃何を考えているだろう。俺のことを、どう思っているだろうか)
困らせて申し訳なかった。嫌いにならないでおくれ、ティファナ。
俺はただ、君が愛おしくてたまらないだけなんだ。この手で抱きしめたくて、大切にしたくてたまらない。
そして……。
(ラウル・ヘイワード。俺はお前を決して許さない)
あの時。自分の妻に対するものとは到底思えないほど冷たい態度でティファナに接しておきながら、自分の後ろにくっついていた女性にはまるで別人のような甘い声を出し、愛おしそうに表情を和らげた。
それを目にした瞬間の、全てを悟ったティファナのあの強張った顔。蒼白になり、震える唇を引き結んだのを、俺は見逃さなかった。
侯爵家の才女でありながら、天真爛漫で心優しい、稀有な女性。そんなティファナに、お前のような男ははなから不釣り合いだったんだ。
彼女の笑顔を奪い苦しみの日々を強いたこと、彼女を手酷く裏切ったことを、お前はいつの日か必ず後悔することになるだろう。
憎たらしい男の顔を思い浮かべながらどす黒い思考にとらわれていたが、ふいに我に返り、また深いため息をつく。
「ああ……ティファナ……。ごめん」
彼女はまだ既婚者なのだ。責任感の強いあの真面目なティファナに、焦って求愛など。今どれほど困り果てていることか。
それでも、伝えた言葉に嘘偽りはない。
焦る思いを苦悩のため息に変え、俺はティファナの気持ちが自分に傾いてくれることをただ祈るしかなかった。
俺の求愛を受け狼狽えるティファナは、何やら難しい顔をして考え込んだり、俺と目が合うと真っ赤な顔をして慌てて目を逸らしたりしながら、最後はしどろもどろの挨拶をして馬車に乗り、ヘイワード公爵邸へと帰っていった。
そして、彼女を乗せた馬車が見えなくなるまで見送った俺は──────
「……はぁーー……」
無表情のまま淡々と回廊を歩き、王宮内に与えられた自室まで戻ると、人払いをし、ソファーに腰を下ろし、そして特大のため息をついたのだった。
(……やってしまった。全部言ってしまった……)
まだ胸のうちに留めておくつもりだったのに。
俺のことをただの“お兄様”とだけしか思っていないティファナ。彼女の中の自分の印象を少しずつ変えていき、できる限り驚かせないよう、優しく俺の想いを伝えるつもりでいた。
今日ティファナを温室に呼び寄せたのだって、もちろん異国の花はただの口実ではあったが、ただ彼女に会って顔を見たかったからだ。そして少しでも、ティファナの気晴らしになればと、そう思っただけのことだった。
それなのに……。
彼女の見せる一挙手一投足が、あまりにも魅力的で、可愛らしくて、胸の奥から溢れてくる熱い想いを抑えることができなくなった。その上、この愛おしいティファナのことを妻にしておきながら、ぞんざいに扱い傷付けているラウル・ヘイワードのことを考えると、どうしても怒りが湧いてきて。
愛おしさと焦燥感を抑えることができず、胸のうちを全て彼女にさらけ出してしまった。
「……ああ……。困ってたな、ティファナ」
動揺するティファナの表情を思い出し、罪悪感でいたたまれなくなった俺は、呻きながらだらしなくソファーに体を倒す。天井を仰ぎ両手で顔を覆うと、再び大きくため息をついた。
(……だがあの困惑した顔でさえ可愛くてたまらないのだから、もうどうしようもないな、俺は)
真っ赤になって瞳を潤ませ小さく震えるティファナの姿を思い出すだけで、胸が甘く疼き、こちらまで全身が火照ってくるようだった。
(だが、伝えた言葉に嘘偽りはない)
俺の気持ちも、もしも俺たちが結婚した場合に、周囲がどのような反応をするかも。
ヘイワードとティファナの結婚生活が上手くいっているのなら話は別だが、娘の置かれた現状を知れば、オールディス侯爵も怒りを覚えるだろう。王宮で文官としても勤めている公爵家の令息でありながら、その職場で知り合ったどこぞの女といい仲になり、我が娘を傷付け、裏切っているのだ。見た目とは裏腹にとんだ軽薄者じゃないか。
大事な娘をそんな男のそばで苦労をさせるよりも、王弟の元に嫁がせる方がはるかにいいに決まっている。
ヘイワード公爵家は……、まぁ知ったことではないが、あの浮気者の朴念仁以外にも跡取りになれそうな息子はいるわけだ。離縁後、あの男のティファナへの扱いが露呈して、俺とティファナが結ばれ、ティファナがどれほどこの俺の寵愛を受けているかが社交界に広まれば、あの男はもう爪弾きだ。そうなれば公爵もラウルは切り捨てて次男に爵位を継がせる選択をする可能性も高い。
(……ともかく、あとはティファナの気持ち一つだ。あまりにも早急すぎたからな……。今頃何を考えているだろう。俺のことを、どう思っているだろうか)
困らせて申し訳なかった。嫌いにならないでおくれ、ティファナ。
俺はただ、君が愛おしくてたまらないだけなんだ。この手で抱きしめたくて、大切にしたくてたまらない。
そして……。
(ラウル・ヘイワード。俺はお前を決して許さない)
あの時。自分の妻に対するものとは到底思えないほど冷たい態度でティファナに接しておきながら、自分の後ろにくっついていた女性にはまるで別人のような甘い声を出し、愛おしそうに表情を和らげた。
それを目にした瞬間の、全てを悟ったティファナのあの強張った顔。蒼白になり、震える唇を引き結んだのを、俺は見逃さなかった。
侯爵家の才女でありながら、天真爛漫で心優しい、稀有な女性。そんなティファナに、お前のような男ははなから不釣り合いだったんだ。
彼女の笑顔を奪い苦しみの日々を強いたこと、彼女を手酷く裏切ったことを、お前はいつの日か必ず後悔することになるだろう。
憎たらしい男の顔を思い浮かべながらどす黒い思考にとらわれていたが、ふいに我に返り、また深いため息をつく。
「ああ……ティファナ……。ごめん」
彼女はまだ既婚者なのだ。責任感の強いあの真面目なティファナに、焦って求愛など。今どれほど困り果てていることか。
それでも、伝えた言葉に嘘偽りはない。
焦る思いを苦悩のため息に変え、俺はティファナの気持ちが自分に傾いてくれることをただ祈るしかなかった。
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