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14. 義妹と茶会に
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ラウル様とお話をした、その翌朝のことだった。
「ね、お義姉さま。今日ご一緒にお茶会に行きませんこと?」
義妹のサリアが、突然そんなことを言い出した。食堂で朝食のオムレツを食べていた私はその手をピタリと止めた。……今日?
「……どなたのお茶会なの? 私は誰からも招待を受けていないけれど……」
「あ、大丈夫! あたしの友人なのよ。ね? 今日は学院もお休みだし、付き合ってぇお義姉さま。一緒に行ってほしいのよ」
「……。だけどね、サリア。もう結婚式まで二週間を切ってるの。私もいろいろと準備したいことが……、」
「えぇ!? いいじゃない一日くらい! そんなに長くはかからないわ。あたしの友人たちに、新しく家族になったお義姉さまを紹介したいのよぉ。皆会いたがってるわ。もう一緒に行くって言っちゃったんだもの。ね? あたしの顔を立てると思って。ね!?」
「……サリア……」
頬を膨らませ唇をちょこんと尖らせながら、サリアは上目遣いに私を見つめてそう言う。私はほとほと困ってしまった。正式に招待を受けてもいない茶会になど、参加したことはない。本当に行っても大丈夫なのかしら。突然やって来た常識知らずの侯爵令嬢などと思われてしまっては……。
「……どなたなの? その主催者の方は。学院の同級生?」
「あ、ううん、全然違うわ。昔からの友人で、一応男爵家の子よ。……ふふふ、大丈夫だってばお義姉さま! そんなに肩肘張るお家じゃないんだから。気楽に行きましょうよ気楽に。お義姉さまがいつも行ってるお茶会なんかとは違う雰囲気で、きっと楽しいわよ」
楽しいなんて思えるはずがない。見ず知らずのご令嬢のお屋敷に行って、初対面の方々に挨拶をしてまわって、今日する予定だった、結婚式で身に着けるドレスや装飾品のチェック、式の招待客の最終確認や遠方から来てくださる方々の宿泊場所の確認など、やるべきことが何もできなくなるのだから。
(だけど、これ以上渋ればきっとこの子は拗ねてしまうわね……)
「……分かったわ。じゃあ、早めに切り上げて帰るようにしてくれる? それなら……、」
「やったぁ! ありがとうお義姉さま! だーい好き! うふふふふ」
「……」
承諾の返事を聞くやいなや、サリアはもう私の話は全く聞かずに「さ、ドレスに着替えなくっちゃぁ」などと言いながら食堂を出て行ってしまった。深くため息をつき、私も身支度を整えるため食堂を後にした。
馬車で数刻もかかる場所にあった、その男爵家のこじんまりとしたお屋敷で、サリアはみっともないくらいにキャッキャとはしゃぎながら友人たちとの再会を喜んでいた。
(……随分、賑やかしいこと……)
普段自分が参加している茶会との雰囲気の違いに、私は戸惑った。そこかしこで品のない高笑いが聞こえ、皆無作法に飲み食いしている。本当に貴族階級の子たちなのかしら。まるでマナーなど何も習ったことのない平民のような……。こう言っては何だけど、着ているドレスや身に着けているアクセサリーも、皆安っぽくて品がない……。
「お義姉さま!」
何となく居心地の悪い思いをしながら端の方に突っ立っていると、サリアが満面の笑みを浮かべて一人の女の子を連れてきた。
「ほら! この人があたしのお義姉さまになったティファナさんよ。ね? すっごく綺麗でしょ? 挨拶しなさいよ」
サリアははしゃぎながら偉そうな口調でその子の背中を強めに叩いた。……歳の頃はサリアと同じくらいかしら。随分地味で大人しそうな子だ。縮れた赤毛にそばかすのある顔をした、まるで何かに怯えているような落ち着きのない態度の子だった。
「あ、あの……、は、初めまして……。……」
「……初めまして。オールディス侯爵家のティファナですわ。どうぞよろしくね」
名を名乗るだろうと待っていたけれどその気配がないので、こちらから先に挨拶をしてみた。けれど、その子は私の言葉を聞いても目を泳がせながらオドオドとしているだけだ。するとサリアの方が口を開いた。
「お義姉さまもね、あたしが今通っているリデール王立学院の卒業生なのよ。すごいでしょ? こんなに美人で、頭もいいの。しかももうすぐ公爵家のラウル・ヘイワード様と結婚だってするんだから。あたしたちとは格が違うわよねぇ。ね? お義姉さま」
「……そんなことはないわ。私はたまたま生家に恵まれたけれど、下位貴族の方々の中にも、貴族階級の出身ではない方々にだって、素晴らしい才能の持ち主や、努力で地位を勝ち取る人たちだっている。“格”なんて関係ないわ、サリア。人は内面の美しさと、努力や謙虚さが大切だもの」
「えー、そうかしら。結局は家の格じゃない? お義姉さまだってオールディス侯爵家の娘だからこそ、あんなに素敵な人と結婚できるんだもの。どんなにお利口さんでも美人でも、平民じゃ絶対ラウル様とは結婚できないでしょ?」
「……。結婚相手は、そうかもしれないけれど、」
「ほらぁ! なんとね、お義姉さまって、そもそもは王太子様の婚約者候補だったのよ。すごいでしょ?」
「……え、ええ」
サリアの話をただ黙って聞いている隣の彼女は本当に大人しくて、相槌しか打たない。いや、サリアがひたすら喋り続けるから口を挟む余地がないだけかもしれないけれど。
「でも結局王太子様の婚約者も、オールディス家より格上の公爵家のお嬢様に決まっちゃったんですって! お義姉さまでさえ負けちゃったの。すごいでしょ? 上流階級の戦いって」
「う、うん」
「あーん! あたしもラウル様みたいな人と結婚したーい! 一生楽して暮らしたいわ。お義父さまがいい結婚相手見つけてくれるかなぁ」
……あのね、サリア。ヘイワード公爵家に嫁ぐのは、楽して暮らすためではないの。公爵家の仕事の多さ、分かってる? 有能でなければ、妻は務まらないのよ。
と、ここで説教するのも雰囲気が悪くなるだけだろう。その後もいろいろと気に障る不快な発言を繰り返すサリアだったけれど、私はもう黙って聞いていた。
サリアの隣にいる彼女も、ずっと黙って聞いていた。
結局その日、オールディスの屋敷に帰り着いたのは日が落ちてからだった。決して有意義とは言えない時間の浪費をしてようやく我が家に帰り着いた私は、心底ぐったりと疲れ果てていた。
「ね、お義姉さま。今日ご一緒にお茶会に行きませんこと?」
義妹のサリアが、突然そんなことを言い出した。食堂で朝食のオムレツを食べていた私はその手をピタリと止めた。……今日?
「……どなたのお茶会なの? 私は誰からも招待を受けていないけれど……」
「あ、大丈夫! あたしの友人なのよ。ね? 今日は学院もお休みだし、付き合ってぇお義姉さま。一緒に行ってほしいのよ」
「……。だけどね、サリア。もう結婚式まで二週間を切ってるの。私もいろいろと準備したいことが……、」
「えぇ!? いいじゃない一日くらい! そんなに長くはかからないわ。あたしの友人たちに、新しく家族になったお義姉さまを紹介したいのよぉ。皆会いたがってるわ。もう一緒に行くって言っちゃったんだもの。ね? あたしの顔を立てると思って。ね!?」
「……サリア……」
頬を膨らませ唇をちょこんと尖らせながら、サリアは上目遣いに私を見つめてそう言う。私はほとほと困ってしまった。正式に招待を受けてもいない茶会になど、参加したことはない。本当に行っても大丈夫なのかしら。突然やって来た常識知らずの侯爵令嬢などと思われてしまっては……。
「……どなたなの? その主催者の方は。学院の同級生?」
「あ、ううん、全然違うわ。昔からの友人で、一応男爵家の子よ。……ふふふ、大丈夫だってばお義姉さま! そんなに肩肘張るお家じゃないんだから。気楽に行きましょうよ気楽に。お義姉さまがいつも行ってるお茶会なんかとは違う雰囲気で、きっと楽しいわよ」
楽しいなんて思えるはずがない。見ず知らずのご令嬢のお屋敷に行って、初対面の方々に挨拶をしてまわって、今日する予定だった、結婚式で身に着けるドレスや装飾品のチェック、式の招待客の最終確認や遠方から来てくださる方々の宿泊場所の確認など、やるべきことが何もできなくなるのだから。
(だけど、これ以上渋ればきっとこの子は拗ねてしまうわね……)
「……分かったわ。じゃあ、早めに切り上げて帰るようにしてくれる? それなら……、」
「やったぁ! ありがとうお義姉さま! だーい好き! うふふふふ」
「……」
承諾の返事を聞くやいなや、サリアはもう私の話は全く聞かずに「さ、ドレスに着替えなくっちゃぁ」などと言いながら食堂を出て行ってしまった。深くため息をつき、私も身支度を整えるため食堂を後にした。
馬車で数刻もかかる場所にあった、その男爵家のこじんまりとしたお屋敷で、サリアはみっともないくらいにキャッキャとはしゃぎながら友人たちとの再会を喜んでいた。
(……随分、賑やかしいこと……)
普段自分が参加している茶会との雰囲気の違いに、私は戸惑った。そこかしこで品のない高笑いが聞こえ、皆無作法に飲み食いしている。本当に貴族階級の子たちなのかしら。まるでマナーなど何も習ったことのない平民のような……。こう言っては何だけど、着ているドレスや身に着けているアクセサリーも、皆安っぽくて品がない……。
「お義姉さま!」
何となく居心地の悪い思いをしながら端の方に突っ立っていると、サリアが満面の笑みを浮かべて一人の女の子を連れてきた。
「ほら! この人があたしのお義姉さまになったティファナさんよ。ね? すっごく綺麗でしょ? 挨拶しなさいよ」
サリアははしゃぎながら偉そうな口調でその子の背中を強めに叩いた。……歳の頃はサリアと同じくらいかしら。随分地味で大人しそうな子だ。縮れた赤毛にそばかすのある顔をした、まるで何かに怯えているような落ち着きのない態度の子だった。
「あ、あの……、は、初めまして……。……」
「……初めまして。オールディス侯爵家のティファナですわ。どうぞよろしくね」
名を名乗るだろうと待っていたけれどその気配がないので、こちらから先に挨拶をしてみた。けれど、その子は私の言葉を聞いても目を泳がせながらオドオドとしているだけだ。するとサリアの方が口を開いた。
「お義姉さまもね、あたしが今通っているリデール王立学院の卒業生なのよ。すごいでしょ? こんなに美人で、頭もいいの。しかももうすぐ公爵家のラウル・ヘイワード様と結婚だってするんだから。あたしたちとは格が違うわよねぇ。ね? お義姉さま」
「……そんなことはないわ。私はたまたま生家に恵まれたけれど、下位貴族の方々の中にも、貴族階級の出身ではない方々にだって、素晴らしい才能の持ち主や、努力で地位を勝ち取る人たちだっている。“格”なんて関係ないわ、サリア。人は内面の美しさと、努力や謙虚さが大切だもの」
「えー、そうかしら。結局は家の格じゃない? お義姉さまだってオールディス侯爵家の娘だからこそ、あんなに素敵な人と結婚できるんだもの。どんなにお利口さんでも美人でも、平民じゃ絶対ラウル様とは結婚できないでしょ?」
「……。結婚相手は、そうかもしれないけれど、」
「ほらぁ! なんとね、お義姉さまって、そもそもは王太子様の婚約者候補だったのよ。すごいでしょ?」
「……え、ええ」
サリアの話をただ黙って聞いている隣の彼女は本当に大人しくて、相槌しか打たない。いや、サリアがひたすら喋り続けるから口を挟む余地がないだけかもしれないけれど。
「でも結局王太子様の婚約者も、オールディス家より格上の公爵家のお嬢様に決まっちゃったんですって! お義姉さまでさえ負けちゃったの。すごいでしょ? 上流階級の戦いって」
「う、うん」
「あーん! あたしもラウル様みたいな人と結婚したーい! 一生楽して暮らしたいわ。お義父さまがいい結婚相手見つけてくれるかなぁ」
……あのね、サリア。ヘイワード公爵家に嫁ぐのは、楽して暮らすためではないの。公爵家の仕事の多さ、分かってる? 有能でなければ、妻は務まらないのよ。
と、ここで説教するのも雰囲気が悪くなるだけだろう。その後もいろいろと気に障る不快な発言を繰り返すサリアだったけれど、私はもう黙って聞いていた。
サリアの隣にいる彼女も、ずっと黙って聞いていた。
結局その日、オールディスの屋敷に帰り着いたのは日が落ちてからだった。決して有意義とは言えない時間の浪費をしてようやく我が家に帰り着いた私は、心底ぐったりと疲れ果てていた。
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