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3. 義母と義妹

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「ごめんなさいねぇ、勝手に開けちゃって。入ってもよろしくて?」
「……構わないわよ。どうぞ」

 ダメと言ったところで、この義妹はお構いなしに入ってくるのだ。分かっているから、諦めてそう伝えた。義妹はウフフと笑いながら体をくねくねと揺すってこちらに歩いてくる。

 私には義母と、二つ年下の義妹がいる。と言っても、わずか三ヶ月前に家族になったばかりの二人だ。
 母を亡くして以来独り身でいた父が、知人を通じて見合いをした。そして話はまとまり、父は再婚する運びとなったのだ。
 そして私には義母イヴェルと、義妹のサリアという新しい家族ができた。母を亡くし、王太子殿下の婚約者争いから脱落し、その後すぐに義母と義妹ができて、さほど間を置かず今度はラウル様との婚約が決まった。私にとってこの数年間は、怒涛の日々だったのだ。

「いかがでした? ラウル様とお二人でのお顔合わせは。うふ。お話が弾みまして?」
「ええ、まあ。それなりにね」

 私が適当に躱すと、サリアはウフフンと甘い声を出して笑いながら、また体をくねらせ、手を口元に持っていきながら上目遣いで私を見る。

「羨ましいわぁ。お義姉さまのご婚約者のラウル様、本当に素敵な方なんですものぉ。ああん、あたしもご挨拶したかったわぁ。……ね、お義姉さま、次にラウル様がいらした時は、ぜひあたしのこともお部屋に呼んでくださいませね。あたしもご挨拶させてほしいですぅ」
「……。そう。では、また次の機会にね」

 サリアとラウル様の顔合わせなら、先日済んでいる。前回うちの屋敷にラウル様とヘイワード公爵夫妻が訪れ、正式に婚約の手続きを済ませた際に、父が義母と義妹を向こうのご家族に紹介したのだ。その時もサリアは口元で両手を組んで潤んだ瞳でラウル様を見つめ、鼻にかかった甘い声を出してくねくねしていた。
 サリアはピンクブロンドの長い髪を綺麗に縦に巻いていて、雪のように白い肌と形の良い桃色の唇、そして蠱惑的な輝きを帯びた、美しい金色の瞳の持ち主だ。一言で言えば、とても可愛らしく整った容姿をしている。体をくねらせながら上目遣いで人に話しかける、この妙に媚びた仕草も、この子がすると不思議と様になってはいる。鼻につくことには変わりないけれど。

「うふん。嬉しいわぁ。大事なお義姉さまのご婚約者様ですもの。あたしも仲良くさせていただきたいわ。お二人の結婚式、今から楽しみにしていますのよ。お義姉さまとラウル様でしたら、きっととても仲睦まじくてお似合いのご夫婦になられるわねっ」
「……そう? どうもありがとう」

 実は私は初対面の時から、この子のやけになれなれしい態度がどうも苦手だった。相手の様子を見ながら慎重に距離を縮めるといったタイプではなく、自分のペースでぐいぐいそばにやって来ては最初から、あなたが大好き、仲良くしたいと言葉にする。そんな子だった。目まぐるしい環境の変化に疲れ気味だった私にとって、この新しくできた義妹の積極性は正直重かった。



「ヘイワード公爵令息とのお話はどうでしたの? ティファナさん」

 夕食の席で、義母のイヴェルからも同じ質問をされた。普段は忙しくてあまり一緒に夕食をとれない父も今日は珍しく揃い、家族四人で囲む食卓となっていた。

「はい、つつがなく、お義母さま。いろいろなお話をして、以前より打ち解けることができましたわ」
 
 私は社交用の微笑みを浮かべて、表向きの返事をする。この義母とも、まだまだ心を許して何でも話せるような間柄ではない。義母も同じような笑みを私に返す。

「ま、それはよろしいこと。いえね、前回ヘイワード公爵とご令息がこちらへおいでになったでしょう? あなた方の婚約の書面を交わす時に。その時にお二人の様子を見ていて、あなたとヘイワード公爵令息との間に随分と距離を感じたものですから。老婆心ながら、心配しておりましたのよ。もしやお二人は、あまり気が合わないのではないかと」

 義母のその言葉を聞いた父が、ナイフで肉を切りながら淡々と答える。

「我々とヘイワード公爵家とは昔から深い親交がある。娘たちもよく顔を合わせていたのだから、まぁ全くの他人と連れ添うよりは、互いに気が楽だろう。すぐに打ち解けあえるさ」

(……分かってないわねぇ、お父様。やっぱりこういうことに関しては、男性の方が鈍いものなのかしら)

 まだほんの数ヶ月間の付き合いの義母の方が、よほど鋭いことを言う。その義母は父の言葉を聞いて、ニコリと微笑んだ。

「ええ。そう仰っていましたものね。ふふ。ただ、ヘイワード公爵令息は真面目で物静かな感じの方でしょう? ティファナさんも、とても賢くて真面目なお嬢さんですから、お互いになかなか歩み寄りづらいのではないかと心配になって。サリアのような、天真爛漫で明るい、柔和な雰囲気の子だと距離を縮めやすいのでしょうけどね」
「まぁっ。やだぁお母様ったらぁ」

 義母のその言葉を聞いたサリアが、頬を染めて嬉しそうに体を揺すった。




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