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24. 最大の幸せ
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(行ってよかった。ウェイン殿下に再会したことで、むしろ完全に吹っ切れたような気がするわ)
パーティーから数日後。私は一人でゆっくりとお茶を飲みながら、あの日のことを思い返していた。
殿下に捨てられた日のあの冷たい言葉を、これまで何度も何度も思い出していた。寝ても覚めてもあの時の冷酷な殿下のお顔が頭をよぎって、辛くてたまらない時もあった。
だけど、パーティーで久しぶりに再会してお顔を拝見すると、……案外もう平気だということに気が付いた。あんなにも会うことを恐れていたのに、目の前でお顔を見ると、あれ?こんなもの?といった感じだった。別に心を抉られるような辛さもなく、愛した過去を思い出して苦しくなったりもしなかった。
ジェレミー様がそばにいてくれるからだわ。
いつの間にか私の心は、完全にジェレミー様だけのものになっていたのだ。そのことをひしひしと実感した。
よかった。私はちゃんと前に進んでいるんだわ。
次にお会いする日を約束をした時、ジェレミー様は「特別おめかししておいで」と言っていた。一体どこへ行くのかしら。私は期待に胸を膨らませながらデートに出かけた。
その日は私の大好きなお芝居を最高の席で観劇し、とても素敵なレストランでお食事をした。
そして、食事が終わった後──────
少し席を外すと言って、個室を出てどこかへ行ってしまったジェレミー様が戻ってきた時、その手には大きな薔薇の花束があった。
「っ!!ま、まぁ……っ!ジェレミー様……っ!」
ジェレミー様は微笑みながら私に近付き、跪いて言った。
「私のたった一人の愛おしい人。昔から今までずっと、私には君だけだ。君を生涯大切にすると誓うよ。どうか、……私と結婚して欲しい」
「……っ!!……は……、はい……っ」
真っ赤な薔薇の花束を受け取りながら、私の瞳から大粒の涙がポロポロと零れる。花束はずっしりと重たく、まるでジェレミー様の愛をそのままこの手に受け止めたようだった。
「ふふ、重たいだろう、それ」
「えっ、ええ……とても。ふふ……っ」
「テーブルの上に置いてごらん」
いまだ跪いたままのジェレミー様に促され、私は花束をテーブルに置いた。
するとジェレミー様、が私の左手を優しくそっと握った。
そして、
「……っ!ジェレミー様……」
美しく輝く大きな宝石のついた指輪が、私の指にそっとはめられたのだ。
「……うん。やはりよく似合う。これも私の愛の証だよ、フィオレンサ」
「……ありがとうございます、ジェレミー様……っ」
人生で、これほど幸せを感じた日があっただろうか。
ジェレミー様に強く抱きしめられながら、私は温かい涙を流し続けた。
「あ、あの、お父様、お母様。……今日、ジェレミー様にプロポーズされました……」
「ああ、知っているよ」
「……。……え?」
屋敷に戻ってから、今日のことを両親に報告すると、父は本を読みながら淡々とそう言った。母も隣でニコニコしている。
「……ご存知でしたの?」
「ああ。事前にヒースフィールド侯爵令息からお伺いがあったよ。お前に求婚しても良いかと」
「そっ、そうでしたのね……」
何故だか顔が真っ赤になる私に、母が言った。
「お父様はね、もう何年も前にヒースフィールド侯爵から聞いていたそうなのよ。末のご子息のジェレミー様が、子どもの頃からずっとあなたのことを一途に好きなのだと。他のご令嬢との婚約を嫌がって困っているって」
「そっ、そうだったのですか?」
「うん」
父は淡々と読書を続けている。……そうか、だから……、
「……お父様がジェレミー様のことだけやたらと私に会わせようとしていらっしゃったのは、そのためですか……?」
ウェイン殿下に婚約を破棄されて床に臥していた私に、父は何度も言ってきた。ヒースフィールド侯爵令息が見舞いに来ている、早く起き上がってきちんと食事をしろ、と。
「……そうだな。彼ならお前の心を救ってくれるのではと思ったんだ」
「……お父様……」
あの時どれほど心配してくださっていたのか、今さらながらに私は理解した。生きる気力も失うほどに落ち込んでいる私をどうにか立ち直らせようと、父なりに頭を悩ませてくれていたのだ。
「……心配かけて、ごめんなさい。……私、今幸せですわ、とても」
母がそっと涙を拭っていた。
パーティーから数日後。私は一人でゆっくりとお茶を飲みながら、あの日のことを思い返していた。
殿下に捨てられた日のあの冷たい言葉を、これまで何度も何度も思い出していた。寝ても覚めてもあの時の冷酷な殿下のお顔が頭をよぎって、辛くてたまらない時もあった。
だけど、パーティーで久しぶりに再会してお顔を拝見すると、……案外もう平気だということに気が付いた。あんなにも会うことを恐れていたのに、目の前でお顔を見ると、あれ?こんなもの?といった感じだった。別に心を抉られるような辛さもなく、愛した過去を思い出して苦しくなったりもしなかった。
ジェレミー様がそばにいてくれるからだわ。
いつの間にか私の心は、完全にジェレミー様だけのものになっていたのだ。そのことをひしひしと実感した。
よかった。私はちゃんと前に進んでいるんだわ。
次にお会いする日を約束をした時、ジェレミー様は「特別おめかししておいで」と言っていた。一体どこへ行くのかしら。私は期待に胸を膨らませながらデートに出かけた。
その日は私の大好きなお芝居を最高の席で観劇し、とても素敵なレストランでお食事をした。
そして、食事が終わった後──────
少し席を外すと言って、個室を出てどこかへ行ってしまったジェレミー様が戻ってきた時、その手には大きな薔薇の花束があった。
「っ!!ま、まぁ……っ!ジェレミー様……っ!」
ジェレミー様は微笑みながら私に近付き、跪いて言った。
「私のたった一人の愛おしい人。昔から今までずっと、私には君だけだ。君を生涯大切にすると誓うよ。どうか、……私と結婚して欲しい」
「……っ!!……は……、はい……っ」
真っ赤な薔薇の花束を受け取りながら、私の瞳から大粒の涙がポロポロと零れる。花束はずっしりと重たく、まるでジェレミー様の愛をそのままこの手に受け止めたようだった。
「ふふ、重たいだろう、それ」
「えっ、ええ……とても。ふふ……っ」
「テーブルの上に置いてごらん」
いまだ跪いたままのジェレミー様に促され、私は花束をテーブルに置いた。
するとジェレミー様、が私の左手を優しくそっと握った。
そして、
「……っ!ジェレミー様……」
美しく輝く大きな宝石のついた指輪が、私の指にそっとはめられたのだ。
「……うん。やはりよく似合う。これも私の愛の証だよ、フィオレンサ」
「……ありがとうございます、ジェレミー様……っ」
人生で、これほど幸せを感じた日があっただろうか。
ジェレミー様に強く抱きしめられながら、私は温かい涙を流し続けた。
「あ、あの、お父様、お母様。……今日、ジェレミー様にプロポーズされました……」
「ああ、知っているよ」
「……。……え?」
屋敷に戻ってから、今日のことを両親に報告すると、父は本を読みながら淡々とそう言った。母も隣でニコニコしている。
「……ご存知でしたの?」
「ああ。事前にヒースフィールド侯爵令息からお伺いがあったよ。お前に求婚しても良いかと」
「そっ、そうでしたのね……」
何故だか顔が真っ赤になる私に、母が言った。
「お父様はね、もう何年も前にヒースフィールド侯爵から聞いていたそうなのよ。末のご子息のジェレミー様が、子どもの頃からずっとあなたのことを一途に好きなのだと。他のご令嬢との婚約を嫌がって困っているって」
「そっ、そうだったのですか?」
「うん」
父は淡々と読書を続けている。……そうか、だから……、
「……お父様がジェレミー様のことだけやたらと私に会わせようとしていらっしゃったのは、そのためですか……?」
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「……そうだな。彼ならお前の心を救ってくれるのではと思ったんだ」
「……お父様……」
あの時どれほど心配してくださっていたのか、今さらながらに私は理解した。生きる気力も失うほどに落ち込んでいる私をどうにか立ち直らせようと、父なりに頭を悩ませてくれていたのだ。
「……心配かけて、ごめんなさい。……私、今幸せですわ、とても」
母がそっと涙を拭っていた。
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