【完結済】王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。

鳴宮野々花@書籍2冊発売中

文字の大きさ
上 下
22 / 35

22. これこそが(※sideウェイン)

しおりを挟む
 二人は優雅に堂々と広間の中を歩き、母上とステイシーの前に出た。美しいカーテシーを披露するフィオレンサ。四人は笑顔で何やら楽しげに話している。その姿を離れたところから見て、俺は苛立っていた。

(クソ……!何なんだあの男め……!フィオレンサに図々しくくっついてまわって……。婚約間近だと?ふざけるな。フィオレンサは少し前までこの俺の、王太子の婚約者だった女だぞ。いくら侯爵家とはいえ、一介の貴族の息子が、厚かましいにも程がある。フィオレンサだって、おそらく本当はまだ俺のことを想い続けているはずなんだ……!)

 そうだ。フィオレンサは幼少の頃から、あんなにも俺のことを大切に想ってくれていた。イルゼとの結婚生活が上手くいかなくなった今だからこそ分かる。俺はただ、目の前に突然降って湧いた新しい恋に溺れていただけなのだ。交わした熱に溺れ、ただの情欲を真実の愛と見誤った。

 本当の愛とは長い時を経ても変わらず、ただ穏やかにそこに在るものなのだ。
 そう、フィオレンサが俺に与えてくれていたように……。

 これこそが真実の愛なのだ。それが俺にもやっと分かった。

(早く来い、フィオレンサ……!この俺の前に)

 一度たりともこちらを見ないフィオレンサに、俺は焦りを覚えた。俺が誤ったのと同じように、フィオレンサもまた、あの男にほだされてしまっているのかもしれない。だが、きっと大丈夫だ。俺たちならきっと、また心が通じ合うはずだ。

 フィオレンサと男が、母上たちの前からようやく離れた。こちらを向いて、並んで歩いてくる。
 俺はいつになく緊張した。喉がひりつく。いよいよだ。あの日の辛い別れ以来の、運命の再会。見つめ合えば分かる。フィオレンサ、やはり俺たちは離れてはいけなかったんだ。



 これこそが、真実の愛──────



 ゆっくりと近付いてきたフィオレンサが、俺の真正面に立つ。そしてふわりとあの優雅なカーテシーを披露した。

「……フィオレンサ……」

 込み上げる激情に、彼女の名を呼ぶ声が思わず掠れてしまった。ああ、俺のフィオレンサ……!

「ご無沙汰しております、ウェイン殿下、イルゼ妃殿下。この度はステイシー王女殿下のご無事の帰国、誠におめでとうございます」

 少しも変わらない、透き通るような美貌。心地の良い優しい声。包み込むような、この穏やかな雰囲気。
 
「……あ、ああ。ありがとう、フィオレンサ。……久しぶりだ。今夜はまた……」

 いつにも増して美しい。

 そう褒めようとした。だが、

「貴族学園でお目にかかって以来ですわねぇ!お久しぶりですわ~フィオレンサさん!お元気そうで何より」

(っ?!)

 隣にいたイルゼが、俺とフィオレンサの間に突然グイッと割って入ってきた。無作法な態度と言葉に、フィオレンサも面喰らっている。

(クソ……ッ!!何なんだこいつは!どけ!!せっかくの感動の再会を、邪魔しやがって……!!)

 もはやイルゼに対して憎しみしか湧かない。イルゼはそのままジェレミー・ヒースフィールドを巻き込んで、勝手にお喋りを始めた。恥ずかしいやら腹が立つやらで、許されるならこいつを引っ叩いて今すぐ広間から放り出したいほどだった。

(……フィオレンサ……)

 仕方なく、俺はイルゼの後ろからフィオレンサを見つめ続けた。想いを込めて。俺のこの気持ちが、視線だけで彼女に伝わるように。

(フィオレンサ……。お前は今でも俺を愛しているか……?きっとそうだ。俺には分かる。長い時間を共に過ごしてきた。ひたむきで愛情深いお前にとって、俺は全てだった。そうだろう?……もう大丈夫だ、フィオレンサ。俺の心は戻った。お前の元に。どうか信じておくれ、俺のフィオレンサ……)

 心でそう語りかけると、イルゼとヒースフィールド侯爵令息を微笑みながら見つめていたフィオレンサが、ふいにこちらを向いて、目が合った。

(そうだよ、フィオレンサ。俺はようやく自分を取り戻したんだ。……分かってくれるのか?)

 きっと分かってくれるはずだ。あのフィオレンサなら。いつも俺の全てを受け入れてくれていた。






 しかし。

 その後パーティーの間中、フィオレンサは一度も俺の方を見なかった。隣にいるヒースフィールド侯爵令息にピタリと寄り添ったまま、他の列席者たちと楽しげに会話を繰り返していた。

「…………。」

 時折見つめ合って、微笑みを交わす二人。気遣うように、たびたびフィオレンサの背中に手を当てるヒースフィールド。それを受け入れているような態度のフィオレンサ。まるで二人だけの世界が出来上がっているようで、俺は腸が煮えくりかえりそうだった。

(あの男め……!俺の不在の間に上手いこと取り入りやがって……!)

 どうしようもなく気が焦る。どうにかしなくては。このままでは、フィオレンサを盗られてしまう。


 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

[完結]君に好きだと伝えたい〜婚約破棄?そうですか、貴方に愛を返せない私のせいですね〜

日向はび
恋愛
表情は動かず、愛の言葉は囁けない。そんな呪いをかけられた伯爵令嬢の元に愛する人から婚約破棄の手紙がとどく。さらに彼は腹違いの妹と恋をしているという。絶望しながらも、全ては自分の責任と別れを決意した令嬢は愛するひとに別れを告げるために彼の家へ訪れる。そこで煌めくナイフの切っ先を目にした彼女は、愛する人を守るためその身をナイフの前に曝け出すのだった。

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

黒木 楓
恋愛
 子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。  激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。  婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。  婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。  翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?

水空 葵
恋愛
 伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。  けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。  悪夢はそれで終わらなかった。  ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。  嵌められてしまった。  その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。  裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。 ※他サイト様でも公開中です。 2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。 本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

幼馴染か私か ~あなたが復縁をお望みなんて驚きですわ~

希猫 ゆうみ
恋愛
ダウエル伯爵家の令嬢レイチェルはコルボーン伯爵家の令息マシューに婚約の延期を言い渡される。 離婚した幼馴染、ブロードベント伯爵家の出戻り令嬢ハリエットの傍に居てあげたいらしい。 反発したレイチェルはその場で婚約を破棄された。 しかも「解放してあげるよ」と何故か上から目線で…… 傷付き怒り狂ったレイチェルだったが、評判を聞きつけたメラン伯爵夫人グレース妃から侍女としてのスカウトが舞い込んだ。 メラン伯爵、それは王弟クリストファー殿下である。 伯爵家と言えど王族、格が違う。つまりは王弟妃の侍女だ。 新しい求婚を待つより名誉ある職を選んだレイチェル。 しかし順風満帆な人生を歩み出したレイチェルのもとに『幼馴染思いの優しい(笑止)』マシューが復縁を希望してきて…… 【誤字修正のお知らせ】 変換ミスにより重大な誤字がありましたので以下の通り修正いたしました。 ご報告いただきました読者様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。 「(誤)主席」→「(正)首席」

【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ

リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。 先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。 エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹? 「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」 はて、そこでヤスミーンは思案する。 何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。 また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。 最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。 するとある変化が……。 ゆるふわ設定ざまああり?です。

処理中です...