【完結済】王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。

鳴宮野々花@書籍2冊発売中

文字の大きさ
上 下
18 / 35

18. 招待状

しおりを挟む
 王妃陛下から、パーティーの招待状が届いた。

 ステイシー王女が約半年間の留学から戻ってこられたようだ。ささやかながらその帰国祝いを行うので、ぜひ集まって欲しいという内容だった。

(ささやかといっても、本当に“ささやか”ではないだろうし、こちらもそれなりの恰好で行かなくてはね。……それに……)

 あの日以来、おそらく久しぶりに再会することになるのだろう。ウェイン王太子殿下と。



 ウェイン殿下には、弟君と妹君がおられる。ステイシー王女は、三人兄妹の一番下の妹君だ。見聞を広めるためという理由で、隣国へおよそ半年間留学なさっていた。無事の帰国を祝うパーティーとして私にも招待状が届いたということは、他の高位貴族たちも軒並み呼ばれているのだろう。

(私はあなた様のご子息から婚約破棄された立場なのですけどね……)

 できることなら、行きたくない。まあでも王妃陛下から招かれたのであれば、よほどの事情でもない限りお断りするというのは有り得ない。腹をくくって、ここは行くしかないのだろう。

 ……あの日以来、初めてウェイン殿下のお顔を見ることになるのだ。

「……はぁ……」

 ウェイン殿下。

 もう私にはジェレミー様がいる。あの方を愛しているし、あの方のおそばで生きていくのだと心を決めたから、それが揺らぐことは決してないけれど。

(やっぱり、ウェイン殿下のお顔を見るのは辛い……)

 結婚して王太子妃となられたイルゼ・バトリー子爵令嬢と、きっと睦まじく日々を過ごしておられるのだろう。両陛下やその他の周囲の人々、皆が認め見守ってくれていた私との婚約を白紙に戻してまで、結婚なさった相手だ。さぞ深く愛しあっておられるのだろう。貴族学園にいた頃、あの人、イルゼ嬢に出会ってから、殿下はずっと夢中だったようだから。

(幸せなんだろうな。きっと、私のことなど完全に忘れて、そばにいる可愛い人を大切にされていることでしょうね)

 お二人のそのお姿を、間近で見ることになるのだ。それに、パーティー会場に集まった皆が、私に興味津々のはずだ。どんな顔をしてこの場に参加しているのか。ウェイン殿下と王太子妃の二人を見て、どれほど辛い思いをしているだろうか、と。心配してくれるにしても、ただの好奇心であるにしても、そんな場で注目を浴びるのは辛い。






「はは。そんなこと、気にすることないよフィオレンサ。大丈夫、私と一緒に行こう。片時も君のそばを離れないから、心配しないで」
「ジェレミー様……」

 後日会った時に、自分も招待されていると言ったジェレミー様は、私を迎えに来て会場である王宮の広間までエスコートしてくれると言う。

「よろしいのですか?私はとても、ありがたいけれど……」
「当たり前だろう。まだ正式に婚約しているわけではないけれど、もう私たちは恋人同士だよ。結婚前提のね。こっちだって仲の良さをたっぷりと見せつけて、ウェイン殿下を牽制したいよ。フィオレンサはもう私のものなのだから、今さら取り戻せないぞとね」
「まぁ、ふふ。ジェレミー様ったら……」

 そんなことしなくても、あちらはもう私には全く興味がないのに。

「……。」



『騙されるものか、悪女め。か弱いふりをして、最後までよく足掻いたものだ。もういい。諦めて俺の決断を受け入れろ。お前が王妃になれる日など永久にやって来ない。用件は以上だ。去れ』



 ふいにまた、あの日の殿下の冷たい言葉と刺すような視線が頭をよぎった。胸がギュッと締めつけられるような痛みを覚える。最後の会話は私の中で深い心の傷となって残り、いまだに克服できず私を苦しめ続けている。

「当日は準備をして屋敷で待っていておくれ。君は何も心配しなくていいんだからね。分かった?」
「……ええ、ジェレミー様。ありがとう」

 目の前の愛に満ちた温かい瞳を見つめ返すと、気持ちが楽になる。私はどれほどこの方に救われていることだろう。
 大切にしなくては。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

【完結】真実の愛に目覚めたと婚約解消になったので私は永遠の愛に生きることにします!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢のアリスティアは婚約者に真実の愛を見つけたと告白され婚約を解消を求められる。 恋する相手は平民であり、正反対の可憐な美少女だった。 アリスティアには拒否権など無く、了承するのだが。 側近を婚約者に命じ、あげくの果てにはその少女を侯爵家の養女にするとまで言われてしまい、大切な家族まで侮辱され耐え切れずに修道院に入る事を決意したのだが…。 「ならば俺と永遠の愛を誓ってくれ」 意外な人物に結婚を申し込まれてしまう。 一方真実の愛を見つけた婚約者のティエゴだったが、思い込みの激しさからとんでもない誤解をしてしまうのだった。

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?

水空 葵
恋愛
 伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。  けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。  悪夢はそれで終わらなかった。  ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。  嵌められてしまった。  その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。  裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。 ※他サイト様でも公開中です。 2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。 本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている

カレイ
恋愛
 伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。  最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。 「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。  そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。  そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

処理中です...