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17. 失敗(※sideウェイン)
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「いい加減にしろ!!誰に向かって口をきいている?!俺はこの国の王太子だぞ!!」
「ほらまた始まった。王太子王太子って。あんな小さな宝石を贈って恩に着せてくる男に、何の威厳もないわ!」
「……っ!!」
この女……!何て生意気な口を……!
これが本性か。こんなヤツだったのか……?!
「お前が嫁いできてからこれまで、いくつ宝石を贈ったと思っている。ネックレスに指輪にブレスレット……、ブローチだって、もう何個目だ!金は無限に湧き出てくるわけではないんだぞ!!国のためにまだ何一つ貢献していないお前が、偉そうに言うな!!」
はぁー……っ、と、眉間に盛大に皺を寄せながら、イルゼが大きく溜息をついた。
「あぁもう嫌……!せっかく王家の一員になったっていうのに、これじゃ何も楽しくないわ!私は裕福で満ち足りた、優雅な生活がしたかったのよ!それなのに、毎日毎日勉強勉強と急かされて……。こんなことなら王家じゃなくてその辺の高位貴族にでも嫁ぐべきだったわ!!」
(…………っ!!)
イルゼが吐き捨てたその言葉に、俺は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「……何だ、それは……。その辺の、高位貴族だと?お前は何を言っているんだ。裕福な暮らしが出来れば、相手は誰でもよかったのか……?真実の愛とは……、そんなものではないはずだ」
俺の言葉を聞き、イルゼはフン、と鼻で笑った。
「真実の愛、ねぇ……」
まるで軽蔑するかのように俺を一瞥し、イルゼはプイと背を向け、夫婦の寝室に入っていった。そしてガチャリと大きな音を立て、鍵を閉めたのだった。
「…………。」
崩れ落ちそうだった。もう、俺への愛はないとでも言うつもりか。何だあの態度は。あれがイルゼか?俺が心から愛し、どんな障害をも乗り越えて共に生きていくと誓った相手か。
まさか、こんなにも悪い方向へ変わってしまうなんて……。
『……幸せでございます、殿下……。ありがとうございます。一生大切にいたしますわ』
「……っ、」
その時ふいに、いつかフィオレンサが俺に言った言葉が頭をよぎった。
その言葉……、いつ聞いたのだったか……。
……そうだ。ブローチ。俺が過去にたった一度だけ、王妃教育に励んでいるフィオレンサに褒美として与えたのだった。それらしく、俺の瞳と同じ色の宝石のものにした。誰に強要されることがなくとも、自らを鼓舞し努力という名の鞭を打ち続ける彼女に、たまには飴も必要だろうと。
彼女がその時、俺に言った言葉だった。
「……。」
何故、今このタイミングで思い出したのだろう。あの時の素直で謙虚なフィオレンサの態度を。俺が彼女に宝石など贈ったのは、あれが最初で最後だった。それでもあいつは俺に、文句一つ言ったことなどなかった。……思えばフィオレンサはいつも謙虚で、品行方正で、俺を立ててくれていた。王太子の婚約者である公爵令嬢として、それは当然のことだと思っていたから、あまり深く考えたことはなかったが。
だが、こうして全く成長のないイルゼの、態度ばかりがどんどん傲慢になってくる姿を目の当たりにして、今さらながらにフィオレンサの比べものにもならない気高さ、出来の良さをまざまざと思い知らされる。
たった一つだけのブローチを涙を流して喜び、一生大切にすると言って抱きしめていたフィオレンサ。
いくつ宝石を贈っても飽き足らず、もっと褒美が欲しい、もっと新しいものが欲しいと際限なく要求してきて、感謝の気持ちさえ少しも持っていないイルゼ。
俺は……、やはり大人しくフィオレンサと結婚しておくべきだったのではないか……?
俺の相手は、彼女をおいて他になかったのではないか。
あいつはしとやかで俺を立ててくれる、才色兼備な公爵家の令嬢。たとえイルゼが見聞きしたとおり、俺へ愛と忠誠を誓っているように見せかけ、それが偽物だったとしても、王太子妃としては完璧に役割を果たしただろう。あいつと大人しく結婚してさえいれば、こんなに周りから白い目で見られることもなかったはずだ。今のこの苦労や悩みはなかったはずだ。
「……ああ……」
額に手を当て、項垂れる。後悔したところで、もう今さらどうにもならない。イルゼとの愛を貫き、必ずや良い結果を出すと両親にも宣言しているのだ。「やはり間違っていたようなので離婚します」なんて言えるはずがない。下手すれば廃太子にされてしまう。
「……クソ。失敗した……。失敗したんだ、俺は……」
「ほらまた始まった。王太子王太子って。あんな小さな宝石を贈って恩に着せてくる男に、何の威厳もないわ!」
「……っ!!」
この女……!何て生意気な口を……!
これが本性か。こんなヤツだったのか……?!
「お前が嫁いできてからこれまで、いくつ宝石を贈ったと思っている。ネックレスに指輪にブレスレット……、ブローチだって、もう何個目だ!金は無限に湧き出てくるわけではないんだぞ!!国のためにまだ何一つ貢献していないお前が、偉そうに言うな!!」
はぁー……っ、と、眉間に盛大に皺を寄せながら、イルゼが大きく溜息をついた。
「あぁもう嫌……!せっかく王家の一員になったっていうのに、これじゃ何も楽しくないわ!私は裕福で満ち足りた、優雅な生活がしたかったのよ!それなのに、毎日毎日勉強勉強と急かされて……。こんなことなら王家じゃなくてその辺の高位貴族にでも嫁ぐべきだったわ!!」
(…………っ!!)
イルゼが吐き捨てたその言葉に、俺は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「……何だ、それは……。その辺の、高位貴族だと?お前は何を言っているんだ。裕福な暮らしが出来れば、相手は誰でもよかったのか……?真実の愛とは……、そんなものではないはずだ」
俺の言葉を聞き、イルゼはフン、と鼻で笑った。
「真実の愛、ねぇ……」
まるで軽蔑するかのように俺を一瞥し、イルゼはプイと背を向け、夫婦の寝室に入っていった。そしてガチャリと大きな音を立て、鍵を閉めたのだった。
「…………。」
崩れ落ちそうだった。もう、俺への愛はないとでも言うつもりか。何だあの態度は。あれがイルゼか?俺が心から愛し、どんな障害をも乗り越えて共に生きていくと誓った相手か。
まさか、こんなにも悪い方向へ変わってしまうなんて……。
『……幸せでございます、殿下……。ありがとうございます。一生大切にいたしますわ』
「……っ、」
その時ふいに、いつかフィオレンサが俺に言った言葉が頭をよぎった。
その言葉……、いつ聞いたのだったか……。
……そうだ。ブローチ。俺が過去にたった一度だけ、王妃教育に励んでいるフィオレンサに褒美として与えたのだった。それらしく、俺の瞳と同じ色の宝石のものにした。誰に強要されることがなくとも、自らを鼓舞し努力という名の鞭を打ち続ける彼女に、たまには飴も必要だろうと。
彼女がその時、俺に言った言葉だった。
「……。」
何故、今このタイミングで思い出したのだろう。あの時の素直で謙虚なフィオレンサの態度を。俺が彼女に宝石など贈ったのは、あれが最初で最後だった。それでもあいつは俺に、文句一つ言ったことなどなかった。……思えばフィオレンサはいつも謙虚で、品行方正で、俺を立ててくれていた。王太子の婚約者である公爵令嬢として、それは当然のことだと思っていたから、あまり深く考えたことはなかったが。
だが、こうして全く成長のないイルゼの、態度ばかりがどんどん傲慢になってくる姿を目の当たりにして、今さらながらにフィオレンサの比べものにもならない気高さ、出来の良さをまざまざと思い知らされる。
たった一つだけのブローチを涙を流して喜び、一生大切にすると言って抱きしめていたフィオレンサ。
いくつ宝石を贈っても飽き足らず、もっと褒美が欲しい、もっと新しいものが欲しいと際限なく要求してきて、感謝の気持ちさえ少しも持っていないイルゼ。
俺は……、やはり大人しくフィオレンサと結婚しておくべきだったのではないか……?
俺の相手は、彼女をおいて他になかったのではないか。
あいつはしとやかで俺を立ててくれる、才色兼備な公爵家の令嬢。たとえイルゼが見聞きしたとおり、俺へ愛と忠誠を誓っているように見せかけ、それが偽物だったとしても、王太子妃としては完璧に役割を果たしただろう。あいつと大人しく結婚してさえいれば、こんなに周りから白い目で見られることもなかったはずだ。今のこの苦労や悩みはなかったはずだ。
「……ああ……」
額に手を当て、項垂れる。後悔したところで、もう今さらどうにもならない。イルゼとの愛を貫き、必ずや良い結果を出すと両親にも宣言しているのだ。「やはり間違っていたようなので離婚します」なんて言えるはずがない。下手すれば廃太子にされてしまう。
「……クソ。失敗した……。失敗したんだ、俺は……」
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