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16. 衝突(※sideウェイン)
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「はぁ……。一体この国はどうなってしまうのか。マズいぞ、あんな妻がいる人が王位を継承したら」
「おい!バカ!声がでかいぞ」
「だから子爵家の娘なんて止めておけばよかったんだ。そもそも前代未聞だろ?下位貴族から王家に嫁入りなど」
「ウェイン殿下は一体何を考えておいでだったんだ?わざわざあのブリューワー公爵令嬢を捨ててまで選んだ子爵令嬢だから、よっぽどの才能か何かがあるんだと思っていたが……」
「才能どころか貴族として当然のマナーさえ身についていないんだぞ?!何なんだあれは」
「外国語は一切ダメらしいぞ」
「歴史もな」
「いや、他も全てだ。先日なんか王妃教育をボイコットして、下位貴族の友人たちと部屋でお喋り三昧していたそうだ」
「ああ、俺も聞いたよ。何なんだ?本当に。あの女の一体どこがそんなに魅力的だったんだ?殿下にとって」
「見れば分かるだろ。顔と体だよ」
「全く……。呆れてしまうな」
「…………。」
気分を変えようと、滅多に行くことのない王宮の裏手にある離れに向かっていた。すると数人の使用人たちが、その辺りを掃除していたのだ。建物の陰になっているからだろう、俺がそばまで来ていることになど全く気づいていない様子で、俺とイルゼを非難し、揶揄していた。
貴様ら!不敬罪だぞ!などと怒鳴りつける気にもなれない。こいつらをここで咎めたところで、どうせもう王宮中でこんな話が繰り返されていることを知っているからだ。しかも、それは根も葉もない噂などではないのだ。
(……イルゼとの結婚は、失敗だったんだ)
現実から目を逸らし続けてきたが、もう認めるしかなかった。自分があまりにも大きな過ちを犯してしまったことを。
数ヶ月前のあの日、俺が怒鳴ってしまい、イルゼが泣きながら苦しみを訴えてきた時、心に決めた。イルゼが努力して前に進んでくれるのを信じて待とうと。イルゼを妻にと選んだ俺には、それしかできないのだから。
しかし結局いくら我慢して待ち続けても、イルゼは少しも成長しない。嫌々王妃教育を受けても全く頭に入っていないらしく、初歩的な同じ質問を何度も繰り返すという。不安でたまらなくなった俺は、先日イルゼが講義を受けている部屋の外で聞き耳を立て、様子を伺ってみた。するとイルゼを見かねた教師陣が、少し発破をかけるような言葉を口にしていた。このペースでは公務を行うのに何年もかかってしまう、もっと勉強時間を増やしましょう、と。
だがイルゼは、
『だから!増やしたところで私はそんなにすぐには難しいことを覚えられないのよ!約束が違うじゃないの!ゆっくり私のペースに合わせて進めていくはずだったでしょう?!殿下にそう言われたのでしょう?!あんたたち、殿下に言って王宮から追い出してもらうわよ!!』
と、こんなことを叫んでいたのだ。俺は愕然とした。あのイルゼが、しとやかで愛らしいはずのイルゼが、凄まじい剣幕で教師を怒鳴りつけたのだ。とても偉そうに。
「なぁ、イルゼ。これでは駄目だ。教師の言うことは間違っていない。もっと真剣に取り組まなくては……」
「ほらまた!こないだ言ったばかりじゃないの!私を待つって!私のペースで進んでいけって!自分が言ったんでしょう?!」
「……たしかに数ヶ月前にはそう言ったが、これではあまりにもペースが遅すぎる。まだたった一つの他言語さえ修得していないのだぞ」
俺は腸が煮えくりかえりそうなほどに怒りを感じたが、どうにかそれを堪えてイルゼを諭す。イルゼはいつの間にか、俺に対してもかなりぞんざいな口のきき方をするようになっていた。
イルゼは不貞腐れた態度で俺の説教を聞くと、ぼそりと言った。
「……ご褒美をちょうだいよ」
「……。」
「私が頑張れるような、何か素敵なご褒美をちょうだい」
「……いい加減にしろよ。この前もブローチを贈ったばかりだろうが!」
「あんな小さな宝石じゃ頑張れないわ!!毎日毎日いろんな人から急かされる私の苦痛を考えてみなさいよ!他人事だと思って!私にばかり頑張れ頑張れって、じゃああなたは何か頑張ってるわけ?!」
「な……!何だと……?!」
イルゼのやる気を損なわないようにと、これまで必死に怒りを抑え込んできたが、その言葉で俺はついに爆発してしまった。
「おい!バカ!声がでかいぞ」
「だから子爵家の娘なんて止めておけばよかったんだ。そもそも前代未聞だろ?下位貴族から王家に嫁入りなど」
「ウェイン殿下は一体何を考えておいでだったんだ?わざわざあのブリューワー公爵令嬢を捨ててまで選んだ子爵令嬢だから、よっぽどの才能か何かがあるんだと思っていたが……」
「才能どころか貴族として当然のマナーさえ身についていないんだぞ?!何なんだあれは」
「外国語は一切ダメらしいぞ」
「歴史もな」
「いや、他も全てだ。先日なんか王妃教育をボイコットして、下位貴族の友人たちと部屋でお喋り三昧していたそうだ」
「ああ、俺も聞いたよ。何なんだ?本当に。あの女の一体どこがそんなに魅力的だったんだ?殿下にとって」
「見れば分かるだろ。顔と体だよ」
「全く……。呆れてしまうな」
「…………。」
気分を変えようと、滅多に行くことのない王宮の裏手にある離れに向かっていた。すると数人の使用人たちが、その辺りを掃除していたのだ。建物の陰になっているからだろう、俺がそばまで来ていることになど全く気づいていない様子で、俺とイルゼを非難し、揶揄していた。
貴様ら!不敬罪だぞ!などと怒鳴りつける気にもなれない。こいつらをここで咎めたところで、どうせもう王宮中でこんな話が繰り返されていることを知っているからだ。しかも、それは根も葉もない噂などではないのだ。
(……イルゼとの結婚は、失敗だったんだ)
現実から目を逸らし続けてきたが、もう認めるしかなかった。自分があまりにも大きな過ちを犯してしまったことを。
数ヶ月前のあの日、俺が怒鳴ってしまい、イルゼが泣きながら苦しみを訴えてきた時、心に決めた。イルゼが努力して前に進んでくれるのを信じて待とうと。イルゼを妻にと選んだ俺には、それしかできないのだから。
しかし結局いくら我慢して待ち続けても、イルゼは少しも成長しない。嫌々王妃教育を受けても全く頭に入っていないらしく、初歩的な同じ質問を何度も繰り返すという。不安でたまらなくなった俺は、先日イルゼが講義を受けている部屋の外で聞き耳を立て、様子を伺ってみた。するとイルゼを見かねた教師陣が、少し発破をかけるような言葉を口にしていた。このペースでは公務を行うのに何年もかかってしまう、もっと勉強時間を増やしましょう、と。
だがイルゼは、
『だから!増やしたところで私はそんなにすぐには難しいことを覚えられないのよ!約束が違うじゃないの!ゆっくり私のペースに合わせて進めていくはずだったでしょう?!殿下にそう言われたのでしょう?!あんたたち、殿下に言って王宮から追い出してもらうわよ!!』
と、こんなことを叫んでいたのだ。俺は愕然とした。あのイルゼが、しとやかで愛らしいはずのイルゼが、凄まじい剣幕で教師を怒鳴りつけたのだ。とても偉そうに。
「なぁ、イルゼ。これでは駄目だ。教師の言うことは間違っていない。もっと真剣に取り組まなくては……」
「ほらまた!こないだ言ったばかりじゃないの!私を待つって!私のペースで進んでいけって!自分が言ったんでしょう?!」
「……たしかに数ヶ月前にはそう言ったが、これではあまりにもペースが遅すぎる。まだたった一つの他言語さえ修得していないのだぞ」
俺は腸が煮えくりかえりそうなほどに怒りを感じたが、どうにかそれを堪えてイルゼを諭す。イルゼはいつの間にか、俺に対してもかなりぞんざいな口のきき方をするようになっていた。
イルゼは不貞腐れた態度で俺の説教を聞くと、ぼそりと言った。
「……ご褒美をちょうだいよ」
「……。」
「私が頑張れるような、何か素敵なご褒美をちょうだい」
「……いい加減にしろよ。この前もブローチを贈ったばかりだろうが!」
「あんな小さな宝石じゃ頑張れないわ!!毎日毎日いろんな人から急かされる私の苦痛を考えてみなさいよ!他人事だと思って!私にばかり頑張れ頑張れって、じゃああなたは何か頑張ってるわけ?!」
「な……!何だと……?!」
イルゼのやる気を損なわないようにと、これまで必死に怒りを抑え込んできたが、その言葉で俺はついに爆発してしまった。
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