16 / 35
16. 衝突(※sideウェイン)
しおりを挟む
「はぁ……。一体この国はどうなってしまうのか。マズいぞ、あんな妻がいる人が王位を継承したら」
「おい!バカ!声がでかいぞ」
「だから子爵家の娘なんて止めておけばよかったんだ。そもそも前代未聞だろ?下位貴族から王家に嫁入りなど」
「ウェイン殿下は一体何を考えておいでだったんだ?わざわざあのブリューワー公爵令嬢を捨ててまで選んだ子爵令嬢だから、よっぽどの才能か何かがあるんだと思っていたが……」
「才能どころか貴族として当然のマナーさえ身についていないんだぞ?!何なんだあれは」
「外国語は一切ダメらしいぞ」
「歴史もな」
「いや、他も全てだ。先日なんか王妃教育をボイコットして、下位貴族の友人たちと部屋でお喋り三昧していたそうだ」
「ああ、俺も聞いたよ。何なんだ?本当に。あの女の一体どこがそんなに魅力的だったんだ?殿下にとって」
「見れば分かるだろ。顔と体だよ」
「全く……。呆れてしまうな」
「…………。」
気分を変えようと、滅多に行くことのない王宮の裏手にある離れに向かっていた。すると数人の使用人たちが、その辺りを掃除していたのだ。建物の陰になっているからだろう、俺がそばまで来ていることになど全く気づいていない様子で、俺とイルゼを非難し、揶揄していた。
貴様ら!不敬罪だぞ!などと怒鳴りつける気にもなれない。こいつらをここで咎めたところで、どうせもう王宮中でこんな話が繰り返されていることを知っているからだ。しかも、それは根も葉もない噂などではないのだ。
(……イルゼとの結婚は、失敗だったんだ)
現実から目を逸らし続けてきたが、もう認めるしかなかった。自分があまりにも大きな過ちを犯してしまったことを。
数ヶ月前のあの日、俺が怒鳴ってしまい、イルゼが泣きながら苦しみを訴えてきた時、心に決めた。イルゼが努力して前に進んでくれるのを信じて待とうと。イルゼを妻にと選んだ俺には、それしかできないのだから。
しかし結局いくら我慢して待ち続けても、イルゼは少しも成長しない。嫌々王妃教育を受けても全く頭に入っていないらしく、初歩的な同じ質問を何度も繰り返すという。不安でたまらなくなった俺は、先日イルゼが講義を受けている部屋の外で聞き耳を立て、様子を伺ってみた。するとイルゼを見かねた教師陣が、少し発破をかけるような言葉を口にしていた。このペースでは公務を行うのに何年もかかってしまう、もっと勉強時間を増やしましょう、と。
だがイルゼは、
『だから!増やしたところで私はそんなにすぐには難しいことを覚えられないのよ!約束が違うじゃないの!ゆっくり私のペースに合わせて進めていくはずだったでしょう?!殿下にそう言われたのでしょう?!あんたたち、殿下に言って王宮から追い出してもらうわよ!!』
と、こんなことを叫んでいたのだ。俺は愕然とした。あのイルゼが、しとやかで愛らしいはずのイルゼが、凄まじい剣幕で教師を怒鳴りつけたのだ。とても偉そうに。
「なぁ、イルゼ。これでは駄目だ。教師の言うことは間違っていない。もっと真剣に取り組まなくては……」
「ほらまた!こないだ言ったばかりじゃないの!私を待つって!私のペースで進んでいけって!自分が言ったんでしょう?!」
「……たしかに数ヶ月前にはそう言ったが、これではあまりにもペースが遅すぎる。まだたった一つの他言語さえ修得していないのだぞ」
俺は腸が煮えくりかえりそうなほどに怒りを感じたが、どうにかそれを堪えてイルゼを諭す。イルゼはいつの間にか、俺に対してもかなりぞんざいな口のきき方をするようになっていた。
イルゼは不貞腐れた態度で俺の説教を聞くと、ぼそりと言った。
「……ご褒美をちょうだいよ」
「……。」
「私が頑張れるような、何か素敵なご褒美をちょうだい」
「……いい加減にしろよ。この前もブローチを贈ったばかりだろうが!」
「あんな小さな宝石じゃ頑張れないわ!!毎日毎日いろんな人から急かされる私の苦痛を考えてみなさいよ!他人事だと思って!私にばかり頑張れ頑張れって、じゃああなたは何か頑張ってるわけ?!」
「な……!何だと……?!」
イルゼのやる気を損なわないようにと、これまで必死に怒りを抑え込んできたが、その言葉で俺はついに爆発してしまった。
「おい!バカ!声がでかいぞ」
「だから子爵家の娘なんて止めておけばよかったんだ。そもそも前代未聞だろ?下位貴族から王家に嫁入りなど」
「ウェイン殿下は一体何を考えておいでだったんだ?わざわざあのブリューワー公爵令嬢を捨ててまで選んだ子爵令嬢だから、よっぽどの才能か何かがあるんだと思っていたが……」
「才能どころか貴族として当然のマナーさえ身についていないんだぞ?!何なんだあれは」
「外国語は一切ダメらしいぞ」
「歴史もな」
「いや、他も全てだ。先日なんか王妃教育をボイコットして、下位貴族の友人たちと部屋でお喋り三昧していたそうだ」
「ああ、俺も聞いたよ。何なんだ?本当に。あの女の一体どこがそんなに魅力的だったんだ?殿下にとって」
「見れば分かるだろ。顔と体だよ」
「全く……。呆れてしまうな」
「…………。」
気分を変えようと、滅多に行くことのない王宮の裏手にある離れに向かっていた。すると数人の使用人たちが、その辺りを掃除していたのだ。建物の陰になっているからだろう、俺がそばまで来ていることになど全く気づいていない様子で、俺とイルゼを非難し、揶揄していた。
貴様ら!不敬罪だぞ!などと怒鳴りつける気にもなれない。こいつらをここで咎めたところで、どうせもう王宮中でこんな話が繰り返されていることを知っているからだ。しかも、それは根も葉もない噂などではないのだ。
(……イルゼとの結婚は、失敗だったんだ)
現実から目を逸らし続けてきたが、もう認めるしかなかった。自分があまりにも大きな過ちを犯してしまったことを。
数ヶ月前のあの日、俺が怒鳴ってしまい、イルゼが泣きながら苦しみを訴えてきた時、心に決めた。イルゼが努力して前に進んでくれるのを信じて待とうと。イルゼを妻にと選んだ俺には、それしかできないのだから。
しかし結局いくら我慢して待ち続けても、イルゼは少しも成長しない。嫌々王妃教育を受けても全く頭に入っていないらしく、初歩的な同じ質問を何度も繰り返すという。不安でたまらなくなった俺は、先日イルゼが講義を受けている部屋の外で聞き耳を立て、様子を伺ってみた。するとイルゼを見かねた教師陣が、少し発破をかけるような言葉を口にしていた。このペースでは公務を行うのに何年もかかってしまう、もっと勉強時間を増やしましょう、と。
だがイルゼは、
『だから!増やしたところで私はそんなにすぐには難しいことを覚えられないのよ!約束が違うじゃないの!ゆっくり私のペースに合わせて進めていくはずだったでしょう?!殿下にそう言われたのでしょう?!あんたたち、殿下に言って王宮から追い出してもらうわよ!!』
と、こんなことを叫んでいたのだ。俺は愕然とした。あのイルゼが、しとやかで愛らしいはずのイルゼが、凄まじい剣幕で教師を怒鳴りつけたのだ。とても偉そうに。
「なぁ、イルゼ。これでは駄目だ。教師の言うことは間違っていない。もっと真剣に取り組まなくては……」
「ほらまた!こないだ言ったばかりじゃないの!私を待つって!私のペースで進んでいけって!自分が言ったんでしょう?!」
「……たしかに数ヶ月前にはそう言ったが、これではあまりにもペースが遅すぎる。まだたった一つの他言語さえ修得していないのだぞ」
俺は腸が煮えくりかえりそうなほどに怒りを感じたが、どうにかそれを堪えてイルゼを諭す。イルゼはいつの間にか、俺に対してもかなりぞんざいな口のきき方をするようになっていた。
イルゼは不貞腐れた態度で俺の説教を聞くと、ぼそりと言った。
「……ご褒美をちょうだいよ」
「……。」
「私が頑張れるような、何か素敵なご褒美をちょうだい」
「……いい加減にしろよ。この前もブローチを贈ったばかりだろうが!」
「あんな小さな宝石じゃ頑張れないわ!!毎日毎日いろんな人から急かされる私の苦痛を考えてみなさいよ!他人事だと思って!私にばかり頑張れ頑張れって、じゃああなたは何か頑張ってるわけ?!」
「な……!何だと……?!」
イルゼのやる気を損なわないようにと、これまで必死に怒りを抑え込んできたが、その言葉で俺はついに爆発してしまった。
139
お気に入りに追加
4,042
あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

[完結]君に好きだと伝えたい〜婚約破棄?そうですか、貴方に愛を返せない私のせいですね〜
日向はび
恋愛
表情は動かず、愛の言葉は囁けない。そんな呪いをかけられた伯爵令嬢の元に愛する人から婚約破棄の手紙がとどく。さらに彼は腹違いの妹と恋をしているという。絶望しながらも、全ては自分の責任と別れを決意した令嬢は愛するひとに別れを告げるために彼の家へ訪れる。そこで煌めくナイフの切っ先を目にした彼女は、愛する人を守るためその身をナイフの前に曝け出すのだった。

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません
黒木 楓
恋愛
子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。
激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。
婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。
婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。
翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。
けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。
悪夢はそれで終わらなかった。
ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。
嵌められてしまった。
その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。
裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。
※他サイト様でも公開中です。
2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。
本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

幼馴染か私か ~あなたが復縁をお望みなんて驚きですわ~
希猫 ゆうみ
恋愛
ダウエル伯爵家の令嬢レイチェルはコルボーン伯爵家の令息マシューに婚約の延期を言い渡される。
離婚した幼馴染、ブロードベント伯爵家の出戻り令嬢ハリエットの傍に居てあげたいらしい。
反発したレイチェルはその場で婚約を破棄された。
しかも「解放してあげるよ」と何故か上から目線で……
傷付き怒り狂ったレイチェルだったが、評判を聞きつけたメラン伯爵夫人グレース妃から侍女としてのスカウトが舞い込んだ。
メラン伯爵、それは王弟クリストファー殿下である。
伯爵家と言えど王族、格が違う。つまりは王弟妃の侍女だ。
新しい求婚を待つより名誉ある職を選んだレイチェル。
しかし順風満帆な人生を歩み出したレイチェルのもとに『幼馴染思いの優しい(笑止)』マシューが復縁を希望してきて……
【誤字修正のお知らせ】
変換ミスにより重大な誤字がありましたので以下の通り修正いたしました。
ご報告いただきました読者様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
「(誤)主席」→「(正)首席」
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる