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13. 野心(※sideイルゼ)

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 私の武器は演技力とこの体だ。

 その昔、ことのある男から言われたことがある。


『イルゼ……、お前はすごいよ。お前はまるで男に可愛がられるために生まれてきたような女だ。お前が本気になれば、きっと落とせない男なんていないだろうな』
『え……。そう?』
『ああ。ただでさえ可愛らしくてそそるのに、この体……。なぁ、これから先上手くやれよ、イルゼ。武器を上手に使えば、おそらくかなりいい男捕まえられるぜ。ははは』
『……どんな男なら捕まえられると思う?』
『そうだなぁ。まぁ上級の貴族様とかは無理だろうな。ああいう連中は、皆家同士で決まった高貴な婚約者がいるんだろう?そんな男たちを相手にしたら、せいぜい愛人止まりだ。まぁそれもいいかもしれんがな。上手くいけば、一生贅沢させてもらえるかもしれないぜ』
『バカ言わないでよ。私も一応貴族の娘なのよ。生涯を誰かの愛人で終えるなんて』
『ならお前の体に溺れて理性をかなぐり捨てる馬鹿男でも探すんだな。一生お前とベッドにいたくて高貴な婚約者を捨てるようなのを。中にはいるかもしれねぇぞ』


 男に言われたこの言葉は、私の指標となった。
 へぇ。なるほどね。私って他の女たちよりずっといいんだ。それなら、もしかしたら、本当に上手くやれば高位貴族の男だって落とせるかもしれない。


 その後すぐ貴族学園に入学してからも、私は常にそのことばかりを考えていた。だがあくまでも品行方正ぶって、しとやかな淑女として振る舞った。

 絶対に誰か見つけてやる。私に靡きそうな高位貴族の男を。できるだけ金持ちで、権力のある家柄の男がいい。
 私は夢に描いていた。高位貴族の、例えば侯爵夫人などと呼ばれ、今よりもっともっと贅沢三昧できる生活を。豪華なドレスに宝石、持ち物。高貴な人だけが集まるパーティー。大きくて豪華なお屋敷に住んで、たくさんの使用人たちに傅かれながら、楽しいばかりの人生を謳歌するんだ。



 何人かの高位貴族の令息たちと仲良くなったが、皆可愛い可愛いとは言ってくれるのに、なかなか私を誘わない。ほとんどの男が同じ学園に婚約者がおり、皆その婚約者と上手くやっていこうと気を遣っているようだった。せっかく二人きりになって、さぁこれからモーションかけてみようかという時が来ても、「婚約者に見られるとマズいから、誤解を招くようなことは止めよう」などと怯えて話にならない。


『だってぇ、私アンドリュー様のことを本当に尊敬していますの。少しだけでも、ここで私とお話してくださいませんか?もっとアンドリュー様のことが知りたいんです』
『い、いや、まぁ、うん。やはり学園の中では、ちょっとね。どこでデイジーの友人らが見ているかも分からないし……はは』


 誰も彼もがこんな調子だ。私に靡きそうな男がいない。私は苛立った。何なのよ。あんたたちの色気のない不細工な婚約者共より、私の方がはるかに魅力的じゃないの。ちょっとぐらい遊んでみようとかならないわけ?婚約が台無しになるのがそんなに怖いの?その時は私と結婚すればいいでしょうが。高貴な家柄の出じゃなくても、私を連れてパーティーに出ればきっと鼻が高いはずよ。私ほど可愛い女はそうそういないじゃないの。


 だからもちろん、駄目で元々の気持ちではあった。さすがに王太子を落とせるなんて思ってもみなかったから。だけどイチかバチか、声ぐらいかけても罰は当たらないだろうと思った。


 そしたら、信じられないことにウェイン王太子は私のことをすごく気に入ったのだ。私は有頂天になった。王太子の私を見る目は明らかに欲を孕んでいて、押せばどうにかなると悟った。

 私はウェイン王太子を褒めちぎった。意味有り気にジッと見つめた。隣に座り、ほんの少しだけ腕に触れてみたりした。

『……素敵ですわ、殿下。同じ学園に通って、こうして殿下のお話を直接聞けるなんて、私って何て幸せ者なんでしょうか……。今夜は眠れそうにありませんわ』
『はは、……君は本当に可愛らしいな。イルゼ。……よかったら、今から王宮の離れで一緒に勉強するか?』
『え?よ、よろしいのですか?』
『ああ。構わないよ。二人きりの静かな空間の方が捗るだろう』
『まぁっ、殿下、光栄ですわ……!』

 私は心の中で叫んだ。ここまで来ればあとはこっちのもの。この男なら、濃密な時間を過ごした後に私が愛してやまないフリをすれば、そのうち落ちるに決まってる。


 他のどの高位貴族の男たちよりも、この王太子が一番馬鹿だったわ。




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