【完結済】王妃になりたかったのではありません。ただあなたの妻になりたかったのです。

鳴宮野々花@書籍2冊発売中

文字の大きさ
上 下
2 / 35

2. 絶望

しおりを挟む
 私、フィオレンサ・ブリューワーは公爵家の娘として生まれ、幼少の頃よりこのディンスティアラ王国の王太子であられる、ウェイン・ディンスティアラ殿下と婚約していた。
 もちろん、この婚約は私たちの意志ではない。ブリューワー公爵家の娘だから、王太子殿下と婚約できただけだ。それでも私はその家の事情とは一切無関係に、子どもの頃からずっとウェイン殿下のことが、ただひたすら大好きだった。

「フィオレンサ、あなたは将来この王国の国王となられるウェイン殿下と結婚するのです。殿下をお支えできる立派な妻に、王妃となるために、あなたが学ばなければならないことはたくさんあります。しっかり励むのですよ。ウェイン殿下のために」
「はい、おかあさま」

 ウェイン殿下のために。

 私の人生は全てがそれだった。殿下のために。あの方の支えとなれるような女性になるために。殿下が喜んでくださるような妻になるために。



 殿下は子どもの頃からとてもお優しい方だった。引っ込み思案で大人しかった私に積極的に話しかけてくださり、私の緊張を解こうといつも笑わせてくださった。ウェイン殿下にお会いできる日が、私にとって一番幸せな日だった。

『お二人が並んで座っていると、本当にお可愛らしいですわね』
『ええ。まるで一対の美しいお人形のよう』
『おほほ。将来が楽しみですわね、ブリューワー公爵夫人』

 周りの大人たちはそう言って微笑みながら、睦まじく過ごす私と殿下を見ていた。

 ウェイン殿下は本当に美しくて、私もよく見とれたものだった。陽の光に輝くサラサラとした金色の髪に、宝石のような深みのある青い瞳。滑らかな白いお肌、優しい声。

『フィオレンサ』

 殿下が私を見つめて微笑んでくださる時、私は自分の高鳴る鼓動を聞きながら、幸せで胸がいっぱいになった。このままずっと、この方と仲良くしていたい。この方と夫婦となって、ずっとおそばで暮らしていけたら。そのためならどんな苦労だって乗り越えてみせる。この方のお役に立てるのなら、世界中のあらゆる知識だって身に付けてみせる。私がウェイン殿下を支えていくんだ。妻として。一番おそばで……。





「こんなことが許されるのか……。あんまりではないか!」
「フィオレンサが、可哀相ですわ……!あの子はあんなに小さな頃から、ずっとウェイン王太子のためだけに必死で頑張ってきたというのに……。ここに来て、突然婚約を破棄するだなんて……!」
「いかに王太子といえども、許し難い……!殿下は我がブリューワー公爵家をここまで軽んじておられたのか!」

 両親は嘆き、怒り狂った。

 屋敷に戻り自室のベッドに臥せって泣きながら、それでも私はまだ一縷の望みにしがみついていた。こんなはずがない。殿下はきっと思い直してくださる。きっと気付いてくださるはずだ。私のように、殿下もきっと私たちの今までのことを思い出しているはず。どれだけ楽しい時間を過ごしてきたか。二人で過ごした長い時間を、きっと一つ一つ思い返し、私の愛情が偽物などではないと気付いてくださるはず。今はただ、が現れたことで心が揺れてしまっているだけなのだ。

 きっと思い直してくださる、きっと──────





 ところが数日後、王太子殿下から婚約破棄に対する慰謝料の支払いについての書簡が届いた。

 私は悟った。もう本当に終わってしまったのだと。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

【完結】真実の愛に目覚めたと婚約解消になったので私は永遠の愛に生きることにします!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢のアリスティアは婚約者に真実の愛を見つけたと告白され婚約を解消を求められる。 恋する相手は平民であり、正反対の可憐な美少女だった。 アリスティアには拒否権など無く、了承するのだが。 側近を婚約者に命じ、あげくの果てにはその少女を侯爵家の養女にするとまで言われてしまい、大切な家族まで侮辱され耐え切れずに修道院に入る事を決意したのだが…。 「ならば俺と永遠の愛を誓ってくれ」 意外な人物に結婚を申し込まれてしまう。 一方真実の愛を見つけた婚約者のティエゴだったが、思い込みの激しさからとんでもない誤解をしてしまうのだった。

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?

水空 葵
恋愛
 伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。  けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。  悪夢はそれで終わらなかった。  ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。  嵌められてしまった。  その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。  裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。 ※他サイト様でも公開中です。 2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。 本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている

カレイ
恋愛
 伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。  最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。 「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。  そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。  そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

【完結】冷徹公爵、婚約者の思い描く未来に自分がいないことに気づく

21時完結
恋愛
冷徹な公爵アルトゥールは、婚約者セシリアを深く愛していた。しかし、ある日、セシリアが描く未来に自分がいないことに気づき、彼女の心が別の人物に向かっていることを知る。動揺したアルトゥールは、彼女の愛を取り戻すために全力を尽くす決意を固める。

処理中です...