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46. あれこれ聞き出す
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旦那様に変に思われていないかが多少心配ではあったけれど、私はどうにかカーティスさんと話をするチャンスをつかんだ。昼食後、カーティスさんは約束通りお庭に来てくれた。私は念のため、手に箒を持っている。一応私も休憩時間ではあるのだけれど、旦那様への後ろめたさを誤魔化すために、何となくだ。ちなみに少し離れたところには庭師たちや使用人もいるので、この空間にカーティスさんと二人きりというわけではない。
「来たぞーミシェル。珍しいな。何なんだ一体。何の話だよ」
「す、すみませんお呼び立てして」
おそらくは、これが最初で最後のチャンスになる。オレンジ色の髪を陽の光にキラキラと輝かせながら爽やかな笑みを浮かべるカーティスさんを、私は心の中でがっちりとホールドした。欲しいものや好きなもの……何かしら聞き出すまでは絶対に帰さない!
「そりゃいいんだけどよ。どうした? 何か悩み事か? 俺でよかったら話聞くぜ」
「は、はい。ありがとうございます。……えっと……」
気合いだけは充分にあるのだけど、どうしよう。どうすれば自然とそういった話に持っていけるのだろうか。まさかここで「カーティスさんの欲しいものって何ですか? アマンダさんがお誕生日プレゼントに準備したいそうなので」などとバカ正直に言ってはいけないということだけはさすがに分かる。それじゃ台無しだ。気持ちを打ち明けるかどうかは、アマンダさん本人の問題なのだから。
私は目を泳がせながら、必死できっかけを探る。
「……あの、ですね。カ……カーティスさんって、お休みの日は何をされてるんですか?」
「…………は?」
あまりにも不自然だ。なぜ私がカーティスさんの休日を気にする必要があるのだろう。でもしょうがない。時間がないんだもの。自然な流れが出来上がるのを待ってはいられないのよ。
カーティスさんも心底不思議そうな顔をしながら、答えてくれた。
「俺は休みなんかねぇよ」
「はい。…………はい? え? お、お休みの日、ないんですか……っ?」
「俺は基本的に常にロイド様の仕事の補佐をしてるからな。ロイド様が働いてる時は俺も働いてる。あの人が休まないから、俺も休まないんだよ」
「そ……」
そんな……。え? それで大丈夫なの?
私の心配が伝わったのか、カーティスさんがケラケラ笑いながら補足する。
「いや、別にロイド様だって人間だからさ、休憩することもあるし、夜は寝るだろ? その時は俺も自分の部屋で休憩してるよ。ロイド様もたまには休みを取れって言ってくれるんだけどさ、一日中休みをもらったところで、別にやることもないし」
「そうなんですか……?」
「ああ。……あ、たま~に本当に一日休みになった時は、古巣の孤児院に様子を見に行ったりしたことならあるな。子どもたちと遊んでやるためにさ。でもそれも、ロイド様の視察で年に何度かは行くわけだし、わざわざいいかなぁってなるわけよ」
「なるほど……」
古巣の孤児院、か。そういえばカーティスさんは孤児院の出身だって言ってたものね。私が視察で別の孤児院についていった時にも、カーティスさんは子どもたちとたくさん遊んであげていた。子どもが好きなのかな。
……じゃあ、贈り物は子どもと遊べるグッズとかどうだろう。ボールとか……。
(いやいや、それもなんか違うわよねぇ。それだと喜ばせるメインは子どもたちのような気がする。大人の男性にあげる贈り物じゃない。もっとカーティスさんのためだけのものっていうか……)
あれこれと考えながら、私は再びカーティスさんに尋ねた。
「じゃあカーティスさんは、その時間……、ご自分のお部屋で休憩している時間には、何を?」
「え? 寝てる。普通に」
「……そ……そう、ですか……」
私は内心ガックリとうなだれた。もっと有益な情報を聞き出す予定だったのに、大した成果が得られそうもない。アマンダさんのしょんぼりする顔が目に浮かぶ。
けれどその時、カーティスさんが、あ、と声を上げた。
「あとは本とか読んでるかな。ロイド様にさ、お前はもっと本を読めって口酸っぱく言われるもんだからさ」
……本……っ!?
私は瞬時に顔を上げ、食らいついた。
「どっ! どういった種類の本をお読みになるんですかっ!?」
「ん~、ロイド様からは屋敷の図書室にある参考書やマナーブックを読めって言われるんだけどさ。どうも本を読みながら勉強するのは苦手なんだよなぁ。ほら、俺実戦の中で学んでいくタイプだからさ」
そう言ってニヤッと笑うカーティスさんの言葉はスルーして、私はしつこく尋ねる。
「では……、普段はどんな本を?」
「何ていうんだ? あれ……。あ、歴史小説? 歴史の勉強にもなるかなーと思って読みだしたら、これが結構面白くてさ」
「なるほど! お勉強は嫌でも、小説だと面白く読めるってことですよね」
「そうみたいだな。物語があると全然違うよ。不思議とあまり眠くならないしな」
参考書だと眠くなるらしい。
いい話が聞けたと、私はさらに質問を重ねた。
「じ、じゃあ、歴史小説以外のジャンルでも、小説だったら……、……っ!!」
その時。カーティスさんの肩越しに旦那様がこちらに歩いてくるのが見えて、私は思わず口をつぐんだ。
「来たぞーミシェル。珍しいな。何なんだ一体。何の話だよ」
「す、すみませんお呼び立てして」
おそらくは、これが最初で最後のチャンスになる。オレンジ色の髪を陽の光にキラキラと輝かせながら爽やかな笑みを浮かべるカーティスさんを、私は心の中でがっちりとホールドした。欲しいものや好きなもの……何かしら聞き出すまでは絶対に帰さない!
「そりゃいいんだけどよ。どうした? 何か悩み事か? 俺でよかったら話聞くぜ」
「は、はい。ありがとうございます。……えっと……」
気合いだけは充分にあるのだけど、どうしよう。どうすれば自然とそういった話に持っていけるのだろうか。まさかここで「カーティスさんの欲しいものって何ですか? アマンダさんがお誕生日プレゼントに準備したいそうなので」などとバカ正直に言ってはいけないということだけはさすがに分かる。それじゃ台無しだ。気持ちを打ち明けるかどうかは、アマンダさん本人の問題なのだから。
私は目を泳がせながら、必死できっかけを探る。
「……あの、ですね。カ……カーティスさんって、お休みの日は何をされてるんですか?」
「…………は?」
あまりにも不自然だ。なぜ私がカーティスさんの休日を気にする必要があるのだろう。でもしょうがない。時間がないんだもの。自然な流れが出来上がるのを待ってはいられないのよ。
カーティスさんも心底不思議そうな顔をしながら、答えてくれた。
「俺は休みなんかねぇよ」
「はい。…………はい? え? お、お休みの日、ないんですか……っ?」
「俺は基本的に常にロイド様の仕事の補佐をしてるからな。ロイド様が働いてる時は俺も働いてる。あの人が休まないから、俺も休まないんだよ」
「そ……」
そんな……。え? それで大丈夫なの?
私の心配が伝わったのか、カーティスさんがケラケラ笑いながら補足する。
「いや、別にロイド様だって人間だからさ、休憩することもあるし、夜は寝るだろ? その時は俺も自分の部屋で休憩してるよ。ロイド様もたまには休みを取れって言ってくれるんだけどさ、一日中休みをもらったところで、別にやることもないし」
「そうなんですか……?」
「ああ。……あ、たま~に本当に一日休みになった時は、古巣の孤児院に様子を見に行ったりしたことならあるな。子どもたちと遊んでやるためにさ。でもそれも、ロイド様の視察で年に何度かは行くわけだし、わざわざいいかなぁってなるわけよ」
「なるほど……」
古巣の孤児院、か。そういえばカーティスさんは孤児院の出身だって言ってたものね。私が視察で別の孤児院についていった時にも、カーティスさんは子どもたちとたくさん遊んであげていた。子どもが好きなのかな。
……じゃあ、贈り物は子どもと遊べるグッズとかどうだろう。ボールとか……。
(いやいや、それもなんか違うわよねぇ。それだと喜ばせるメインは子どもたちのような気がする。大人の男性にあげる贈り物じゃない。もっとカーティスさんのためだけのものっていうか……)
あれこれと考えながら、私は再びカーティスさんに尋ねた。
「じゃあカーティスさんは、その時間……、ご自分のお部屋で休憩している時間には、何を?」
「え? 寝てる。普通に」
「……そ……そう、ですか……」
私は内心ガックリとうなだれた。もっと有益な情報を聞き出す予定だったのに、大した成果が得られそうもない。アマンダさんのしょんぼりする顔が目に浮かぶ。
けれどその時、カーティスさんが、あ、と声を上げた。
「あとは本とか読んでるかな。ロイド様にさ、お前はもっと本を読めって口酸っぱく言われるもんだからさ」
……本……っ!?
私は瞬時に顔を上げ、食らいついた。
「どっ! どういった種類の本をお読みになるんですかっ!?」
「ん~、ロイド様からは屋敷の図書室にある参考書やマナーブックを読めって言われるんだけどさ。どうも本を読みながら勉強するのは苦手なんだよなぁ。ほら、俺実戦の中で学んでいくタイプだからさ」
そう言ってニヤッと笑うカーティスさんの言葉はスルーして、私はしつこく尋ねる。
「では……、普段はどんな本を?」
「何ていうんだ? あれ……。あ、歴史小説? 歴史の勉強にもなるかなーと思って読みだしたら、これが結構面白くてさ」
「なるほど! お勉強は嫌でも、小説だと面白く読めるってことですよね」
「そうみたいだな。物語があると全然違うよ。不思議とあまり眠くならないしな」
参考書だと眠くなるらしい。
いい話が聞けたと、私はさらに質問を重ねた。
「じ、じゃあ、歴史小説以外のジャンルでも、小説だったら……、……っ!!」
その時。カーティスさんの肩越しに旦那様がこちらに歩いてくるのが見えて、私は思わず口をつぐんだ。
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