【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

鳴宮野々花@書籍2冊発売中

文字の大きさ
上 下
46 / 78

46. あれこれ聞き出す

しおりを挟む
 旦那様に変に思われていないかが多少心配ではあったけれど、私はどうにかカーティスさんと話をするチャンスをつかんだ。昼食後、カーティスさんは約束通りお庭に来てくれた。私は念のため、手に箒を持っている。一応私も休憩時間ではあるのだけれど、旦那様への後ろめたさを誤魔化すために、何となくだ。ちなみに少し離れたところには庭師たちや使用人もいるので、この空間にカーティスさんと二人きりというわけではない。

「来たぞーミシェル。珍しいな。何なんだ一体。何の話だよ」
「す、すみませんお呼び立てして」

 おそらくは、これが最初で最後のチャンスになる。オレンジ色の髪を陽の光にキラキラと輝かせながら爽やかな笑みを浮かべるカーティスさんを、私は心の中でがっちりとホールドした。欲しいものや好きなもの……何かしら聞き出すまでは絶対に帰さない!

「そりゃいいんだけどよ。どうした? 何か悩み事か? 俺でよかったら話聞くぜ」
「は、はい。ありがとうございます。……えっと……」

 気合いだけは充分にあるのだけど、どうしよう。どうすれば自然とそういった話に持っていけるのだろうか。まさかここで「カーティスさんの欲しいものって何ですか? アマンダさんがお誕生日プレゼントに準備したいそうなので」などとバカ正直に言ってはいけないということだけはさすがに分かる。それじゃ台無しだ。気持ちを打ち明けるかどうかは、アマンダさん本人の問題なのだから。
 私は目を泳がせながら、必死できっかけを探る。

「……あの、ですね。カ……カーティスさんって、お休みの日は何をされてるんですか?」
「…………は?」

 あまりにも不自然だ。なぜ私がカーティスさんの休日を気にする必要があるのだろう。でもしょうがない。時間がないんだもの。自然な流れが出来上がるのを待ってはいられないのよ。
 カーティスさんも心底不思議そうな顔をしながら、答えてくれた。

「俺は休みなんかねぇよ」
「はい。…………はい? え? お、お休みの日、ないんですか……っ?」
「俺は基本的に常にロイド様の仕事の補佐をしてるからな。ロイド様が働いてる時は俺も働いてる。あの人が休まないから、俺も休まないんだよ」
「そ……」

 そんな……。え? それで大丈夫なの?
 私の心配が伝わったのか、カーティスさんがケラケラ笑いながら補足する。

「いや、別にロイド様だって人間だからさ、休憩することもあるし、夜は寝るだろ? その時は俺も自分の部屋で休憩してるよ。ロイド様もたまには休みを取れって言ってくれるんだけどさ、一日中休みをもらったところで、別にやることもないし」
「そうなんですか……?」
「ああ。……あ、たま~に本当に一日休みになった時は、古巣の孤児院に様子を見に行ったりしたことならあるな。子どもたちと遊んでやるためにさ。でもそれも、ロイド様の視察で年に何度かは行くわけだし、わざわざいいかなぁってなるわけよ」
「なるほど……」

 古巣の孤児院、か。そういえばカーティスさんは孤児院の出身だって言ってたものね。私が視察で別の孤児院についていった時にも、カーティスさんは子どもたちとたくさん遊んであげていた。子どもが好きなのかな。
 ……じゃあ、贈り物は子どもと遊べるグッズとかどうだろう。ボールとか……。

(いやいや、それもなんか違うわよねぇ。それだと喜ばせるメインは子どもたちのような気がする。大人の男性にあげる贈り物じゃない。もっとカーティスさんのためだけのものっていうか……)

 あれこれと考えながら、私は再びカーティスさんに尋ねた。

「じゃあカーティスさんは、その時間……、ご自分のお部屋で休憩している時間には、何を?」
「え? 寝てる。普通に」
「……そ……そう、ですか……」

 私は内心ガックリとうなだれた。もっと有益な情報を聞き出す予定だったのに、大した成果が得られそうもない。アマンダさんのしょんぼりする顔が目に浮かぶ。
 けれどその時、カーティスさんが、あ、と声を上げた。

「あとは本とか読んでるかな。ロイド様にさ、お前はもっと本を読めって口酸っぱく言われるもんだからさ」

 ……本……っ!?

 私は瞬時に顔を上げ、食らいついた。

「どっ! どういった種類の本をお読みになるんですかっ!?」
「ん~、ロイド様からは屋敷の図書室にある参考書やマナーブックを読めって言われるんだけどさ。どうも本を読みながら勉強するのは苦手なんだよなぁ。ほら、俺実戦の中で学んでいくタイプだからさ」

 そう言ってニヤッと笑うカーティスさんの言葉はスルーして、私はしつこく尋ねる。

「では……、普段はどんな本を?」
「何ていうんだ? あれ……。あ、歴史小説? 歴史の勉強にもなるかなーと思って読みだしたら、これが結構面白くてさ」  
「なるほど! お勉強は嫌でも、小説だと面白く読めるってことですよね」
「そうみたいだな。物語があると全然違うよ。不思議とあまり眠くならないしな」

 参考書だと眠くなるらしい。
 いい話が聞けたと、私はさらに質問を重ねた。

「じ、じゃあ、歴史小説以外のジャンルでも、小説だったら……、……っ!!」

 その時。カーティスさんの肩越しに旦那様がこちらに歩いてくるのが見えて、私は思わず口をつぐんだ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。 婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。 シェリーヌは16年過ごした国を出る。 生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。 第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。 第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。28日の更新で完結します。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...