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24. 孤児院の視察

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 そして翌週。私はハリントン公爵やカーティスさんと一緒にお屋敷を出て、公爵領内のとある大きな孤児院へ向かった。子どもが心を許しやすそうな優しい女性なら、アマンダさんや他にも何人もいるのだけど、公爵はなぜかこれまで女性の使用人を連れて行ったことはないという。馬車に荷物を積んでいる時にカーティスさんからそう聞かされ、不思議に思った。なぜ私だけこのお仕事に同行させてもらえることになったのだろうか。
 けれどせっかくの外出だからと、私は先日公爵に贈られたもののうちの一枚、落ち着いた色味の茶系のワンピースを着てみた。

 今日は公爵やカーティスさんと一緒に外出してきますとアマンダさんに報告すると、どこまで行くのか、一緒に行ってあなたは何をするのかとやけに熱心に聞かれた。きっとこれまで使用人の女性が外に連れ出させることがなかったから気になったのだろう。

「……そう。福祉施設の訪問ね。気を付けていってらっしゃい。どんな感じだったか、帰ってきたらまた話を聞かせてね」

 アマンダさんがなんとなく寂しそうに見えたのは、気のせいだろうか。……もしかして、一緒に行きたかったのかな。

 公爵やカーティスさんが乗る大きな馬車に同乗させてもらったけれど、公爵は揺れる中でずっと書類を読んでいる。……酔わないのだろうか。
 カーティスさんが私にあれこれとずっと話しかけてくれていたので、退屈することはなかった。うるさくないかとハラハラしたけれど、公爵は気にする様子もなく黙々と書類に目を通していた。

 小一時間は馬車に揺られていただろうか。乗り心地のいい高級馬車でもずっと座っているとさすがにお尻が痛くなってきた頃、馬車はついに目的地に到着したようだ。

「ようこそおいでくださいました。いつもありがとうございます、領主様」

 人の良さそうな院長がハリントン公爵に向かって恭しく挨拶をする。そして公爵の腕に視線を送った。

「……いかがなさったのですか? お怪我を……?」
「ちょっとした事故でな。大したことはない」

 怪我の原因となった張本人の私は、二人の会話がとても気まずい。
 その後、後続の馬車に積んできた院への寄贈品を男性の使用人たちが運び入れ、公爵は院長とともに応接間へと入っていく。

「さて。俺たちはしばらく子どもたちの様子でも見ておこうぜ」
「は、はい」

 カーティスさんにそう声をかけられ、彼について歩いていく。孤児院の中は清潔にされていて、大きな窓から差し込む日差しが気持ちいい。雰囲気のいいところだけれど、今日領主の視察があると分かっていれば、どんな施設であれ事前にしっかり整えもするだろう。

(普段からちゃんと運営されているを確認するためにも、子どもたちの様子をしっかり見ておくことが大切なのね、きっと)

 不都合がないかを見るためとは言っていたけれど、きっとそんな目的もあるのだ。ハリントン公爵はとても優しい方だから、子どもたちが平穏な日々を過ごせているのか、定期的に自分の目で見ておきたいんだわ。
 私はなんとなくそのことに気付きながら、廊下を歩く。

「昼食前の自由時間だから、皆外で遊んでるみたいだな」
「そうなんですね」
「ああ。あっちに庭に出る扉があるんだ」
「……本当だ。ふふ。向こうから楽しそうな声が聞こえてきますね」

 そんなことを話しながらカーティスさんについていく。周囲をそれとなく見回しながら歩いていると、扉を開け放してある大きな部屋の中で、一人ポツンと机に向かっている女の子を見つけた。そこを通り過ぎた私はピタリと立ち止まり、数歩下がって再度、部屋の中を確認する。
 髪をおさげにした、五、六歳くらいの女の子だ。可愛らしい。……でも、やっぱり一人だ。部屋の中には誰もいない。辺りにぬいぐるみやおもちゃが転がっているのを見るに、ここは子どもたちの遊び部屋なのだろうか。
 そんな部屋の中に一人きりでいるその子の様子がやけに寂しそうに見えて、気になった私は一瞬だけ迷い、部屋の中にそっと足を踏み入れた。

「……こんにちは」

 私が静かに声をかけると、女の子はピクンと肩を跳ねさせ、目を見開いて私を見た。初めて見る知らない大人に怯えてしまわないよう、私は精一杯の笑顔を浮かべて尋ねる。

「ビックリさせてごめんね。私は領主様と一緒に、ここにご挨拶に来たの。……皆は外で遊んでいるみたいだけど、あなたはここで遊んでるの? お絵かき?」
「…………」

 女の子は俯いて、少し間をおいてから小さく頷いた。彼女の前にはクレヨンと紙が置いてある。私はそばに行き、その紙を覗いてみた。





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