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18. 髪を切ってもらう
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食堂へ行くと、昨夜公爵様やカーティスさんと一緒にお食事をした大きな長テーブルに、私だけのための朝食が準備されていた。
バターの香りがする焼き立てのパンに、チーズの入ったオムレツや野菜たっぷりのスープ、分厚いハムのステーキに、サラダに果物やヨーグルト……。
どれも最高に美味しくて幸せだけど、あまりの好待遇になんだか申し訳なさが加速して落ち着かない。
その後部屋に戻ると、私はアマンダさんに尋ねた。
「あの……、アマンダさんや他の皆さんは、いつどこでお食事をされているんですか? 従業員用の食堂が別にあるんですよね?」
「ええ、その通りよ。私たちは起きて身支度を済ませたら、各々が就業前に従業員用の食堂で朝食を食べているわ」
「……やっぱりそうですよね」
「ああ、でもミシェルさんは使用人ではなくてお客様だもの。……ふふ。気を遣っているのなら、大丈夫よ。あなたが滞在中は客人としてもてなし、あなたの体力が回復するようお世話をしてあげてほしいというのが旦那様からの指示だもの。遠慮なくゆっくり過ごしていて」
アマンダさんはそう言ってくれるけど、おかげさまで私はもう充分元気になったと思う。少なくともエヴェリー伯爵邸にいた時よりははるかに元気だ。何かしたい。こんなに体調がいいのにジッとしているなんて落ち着かない。
「私も……お屋敷のお仕事を手伝わせていただきたいのですが。もう充分休ませていただきましたし」
そう伝えてみたけれど、アマンダさんは迷うことなく首を横に振る。
「冗談はよして。私が旦那様に怒られちゃうわ。それよりも……、あなたの髪、下の方を少し切り揃えましょうか。私結構器用なのよ。今より綺麗にしてあげるわ。せっかくそんなに美しい髪を持っているんだもの。大事にしなきゃね」
「あ、ありがとうございます……」
話を逸らされてしまった気もするけれど、パドマにザクザクと乱暴に切られた私の髪が見苦しいのも事実だ。アマンダさんの優しさがありがたい。
それに、今の彼女の言葉は、亡き母の口調とそっくりだった。
『あなたの髪色は本当に素敵ね、ミシェル。神様からあなたへの贈り物かしら。可愛らしいあなたを何倍も魅力的にしてくれているわ。ふふ。大事にしなきゃね』
大事にしなきゃね。
その言葉に母を思い出し、ふいに胸がギュッと痛くなり涙が込み上げそうになった。
椅子に座るよう指示され、切った髪がワンピースについてチクチクしないようにと、首の辺りから大きなケープのようなものを巻かれる。アマンダさんはよーし、と言って張り切り、私の横髪付近から慎重に鋏を入れていく。ポカポカと暖かい日差しが差し込む明るい部屋の中、アマンダさんの動かす鋏の音だけがしばらく響いていた。
ハラハラと落ちていく桃色の髪。それを見ながらなぜだか嬉しくて、気持ちが高揚する。こんなに優しく髪を扱ってもらうのも久しぶりだったし、こんなに短く切るのも初めてのことだった。アマンダさんがまるで、私の実のお姉様のように思える。
私はもうすでに、彼女のことが大好きになっていた。
それから、しばらくして────
「……はい、できた! うわぁ、我ながらいい出来だわ。すっごく可愛い! きっと旦那様もビックリされるわよ」
「あ、ありがとうございますアマンダさん」
「ええ。ね、ほら、鏡を見てみて」
ケープを外してくれたアマンダさんに促され、私はドキドキしながら姿見の前に移動した。
「……っ、わぁ……!」
「どう? さっきまでよりずっといい感じでしょう?」
「は、はい……!」
鏡に映った自分の姿を見て、思わず笑みがこぼれる。
肩にもつかない、顎の辺りの長さで丁寧に切り揃えられた緩く波打つ桃色の髪は、今は日の光を浴びて金色に輝いている。
私の年頃の令嬢たちは皆、しっかりと手入れした髪を長く優雅に伸ばしているものだけど……今の私はただの平民のミシェルだ。別に構わない。
「軽くて綺麗で、すごく嬉しいです……! ありがとうございますアマンダさん……っ!」
「そう言ってもらえたら私も嬉しいわ。ごめんなさいね、長さがあまりにも不揃いだったものだから……自然な感じになるように一番短い部分に合わせると、どうしてもこのくらい切ることになっちゃったわ。でも、とても素敵よ。ピュアで瑞々しくて、あなたのイメージにピッタリ」
アマンダさんの優しい褒め言葉に、頬も胸もじんわりと熱くなったのだった。
バターの香りがする焼き立てのパンに、チーズの入ったオムレツや野菜たっぷりのスープ、分厚いハムのステーキに、サラダに果物やヨーグルト……。
どれも最高に美味しくて幸せだけど、あまりの好待遇になんだか申し訳なさが加速して落ち着かない。
その後部屋に戻ると、私はアマンダさんに尋ねた。
「あの……、アマンダさんや他の皆さんは、いつどこでお食事をされているんですか? 従業員用の食堂が別にあるんですよね?」
「ええ、その通りよ。私たちは起きて身支度を済ませたら、各々が就業前に従業員用の食堂で朝食を食べているわ」
「……やっぱりそうですよね」
「ああ、でもミシェルさんは使用人ではなくてお客様だもの。……ふふ。気を遣っているのなら、大丈夫よ。あなたが滞在中は客人としてもてなし、あなたの体力が回復するようお世話をしてあげてほしいというのが旦那様からの指示だもの。遠慮なくゆっくり過ごしていて」
アマンダさんはそう言ってくれるけど、おかげさまで私はもう充分元気になったと思う。少なくともエヴェリー伯爵邸にいた時よりははるかに元気だ。何かしたい。こんなに体調がいいのにジッとしているなんて落ち着かない。
「私も……お屋敷のお仕事を手伝わせていただきたいのですが。もう充分休ませていただきましたし」
そう伝えてみたけれど、アマンダさんは迷うことなく首を横に振る。
「冗談はよして。私が旦那様に怒られちゃうわ。それよりも……、あなたの髪、下の方を少し切り揃えましょうか。私結構器用なのよ。今より綺麗にしてあげるわ。せっかくそんなに美しい髪を持っているんだもの。大事にしなきゃね」
「あ、ありがとうございます……」
話を逸らされてしまった気もするけれど、パドマにザクザクと乱暴に切られた私の髪が見苦しいのも事実だ。アマンダさんの優しさがありがたい。
それに、今の彼女の言葉は、亡き母の口調とそっくりだった。
『あなたの髪色は本当に素敵ね、ミシェル。神様からあなたへの贈り物かしら。可愛らしいあなたを何倍も魅力的にしてくれているわ。ふふ。大事にしなきゃね』
大事にしなきゃね。
その言葉に母を思い出し、ふいに胸がギュッと痛くなり涙が込み上げそうになった。
椅子に座るよう指示され、切った髪がワンピースについてチクチクしないようにと、首の辺りから大きなケープのようなものを巻かれる。アマンダさんはよーし、と言って張り切り、私の横髪付近から慎重に鋏を入れていく。ポカポカと暖かい日差しが差し込む明るい部屋の中、アマンダさんの動かす鋏の音だけがしばらく響いていた。
ハラハラと落ちていく桃色の髪。それを見ながらなぜだか嬉しくて、気持ちが高揚する。こんなに優しく髪を扱ってもらうのも久しぶりだったし、こんなに短く切るのも初めてのことだった。アマンダさんがまるで、私の実のお姉様のように思える。
私はもうすでに、彼女のことが大好きになっていた。
それから、しばらくして────
「……はい、できた! うわぁ、我ながらいい出来だわ。すっごく可愛い! きっと旦那様もビックリされるわよ」
「あ、ありがとうございますアマンダさん」
「ええ。ね、ほら、鏡を見てみて」
ケープを外してくれたアマンダさんに促され、私はドキドキしながら姿見の前に移動した。
「……っ、わぁ……!」
「どう? さっきまでよりずっといい感じでしょう?」
「は、はい……!」
鏡に映った自分の姿を見て、思わず笑みがこぼれる。
肩にもつかない、顎の辺りの長さで丁寧に切り揃えられた緩く波打つ桃色の髪は、今は日の光を浴びて金色に輝いている。
私の年頃の令嬢たちは皆、しっかりと手入れした髪を長く優雅に伸ばしているものだけど……今の私はただの平民のミシェルだ。別に構わない。
「軽くて綺麗で、すごく嬉しいです……! ありがとうございますアマンダさん……っ!」
「そう言ってもらえたら私も嬉しいわ。ごめんなさいね、長さがあまりにも不揃いだったものだから……自然な感じになるように一番短い部分に合わせると、どうしてもこのくらい切ることになっちゃったわ。でも、とても素敵よ。ピュアで瑞々しくて、あなたのイメージにピッタリ」
アマンダさんの優しい褒め言葉に、頬も胸もじんわりと熱くなったのだった。
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