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28.幸せな再会
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あえて年度末ギリギリに帰国した私は、休校日に皆より数日遅れて進級試験を受けさせてもらった。全ての学科の試験を終え、留学中のレポートを提出するやいなやいそいそと屋敷に戻り、大切な方の訪れを待った。
「ステファニー!」
「……マルセル様!!」
侍女が来訪を告げ、彼が私の部屋に現れた途端、私は思わず彼の胸に飛び込んでいた。
「……はは。熱烈な再会の抱擁だね。慌てて飛んできた甲斐があったよ」
そんな軽口を叩きながらも、マルセル様の両腕は私を強く抱きしめてくれていて、私はようやく会えた夫の温もりに身を任せながらうっとりと目を閉じた。ああ……やっと会えた……。どれほどこの日を待ち望んでいたことか。
「……この日を待ち望んだよ、ステファニー」
私の心をすくい取ったように、マルセル様の口から全く同じ想いが紡がれる。
「……私もですわ。ずっと、あなたに会いたかった。ずっと……」
「……。」
もう言葉にならない。私たちはそのまましばらく静寂の中で抱き合っていた。互いの体温を噛みしめるように。
「……それからこれは、万年筆ですわ!ほら、見てくださいマルセル様。ここのデザインが素敵でしょう?こちらでは見かけないデザインじゃありませんこと?はい、どうぞ」
「ははは……。まだ出てくるの?一体どれだけ僕にお土産を買ってくれてるんだい?」
再会の喜びが治まらず、はしたなくはしゃぎながら私が次々に取り出すお土産を、マルセル様はニコニコしながら受け取ってくれている。私を見つめる優しい眼差しが嬉しくて、もう夢のようで、ますます気分が高揚する。
「だって何か珍しいものを見かけるたびにいつもあなたのことばかり考えていたんですもの!これお好きかしら?とか、このお店一緒に見たかったな、とか。……ほらこれ、見てくださいマルセル様。これは私の分とお揃いで買ったんですのよ。ペアのグラスですわ。この繊細な細工……素敵でしょう?卒業して一緒に暮らしはじめたら毎日あなたとこのグラスを……、……あ、」
「……ふふ……」
や、やだ、私ったら。ちょっとはしゃぎすぎてしまった……。一緒に暮らしはじめたら、なんて……。
マルセル様は相変わらず私を見つめて微笑んでいる。
……なんだか、恥ずかしい……。
ふいに我に返って耳まで真っ赤になる私の手から、マルセル様はグラスをそっと取り上げる。
「たしかにとても素敵な品物だけど、ちょっとこれは一旦置いて、ステファニー」
「……?……っ!マ……ッ!!」
そのグラスを目の前のテーブルに置くと、突然マルセル様は隣に座っていた私の足の下に腕を差し入れ、そのままふわりと持ち上げて自分の膝の上に私をポンッと乗せた。至近距離に、彼の優しい茶色の瞳がある。
「~~~~~~っ?!」
何の心の準備もなくこんな状況になり、体が硬直する。マ……マルセル様の上に、乗っかってしまってる……私……!
「どっ……!どうして、こっ……!」
「ふふ。なんだか君があまりにも可愛いものだから、急に我慢ができなくなった。……ありがとう、ステファニー」
「へっ?!なっ……、なにがですのっ……?」
(ちっ……近い……っ!)
吐息が私の唇にかかるほどマルセル様のお顔が近くにある。心臓が暴れ出して抑えようがない。き……っ、気絶してしまいます……っ!
「君が僕と同じように、この一年間ずっと想ってくれていたのがひしひしと伝わってくるから。今の僕はこの世の誰よりも幸せだよ、きっと。可愛い奥さん。……もう離れないで、二度と」
「……っ!マ……」
愛の溢れる言葉で私の心を満たしたマルセル様は、そのまま私にそっと唇を重ねた。
「……。」
静かに目を閉じ、その熱を受け入れる。私にも伝わってくる。この人の、深く大きな愛情が。……私の激しい胸の鼓動も、今伝わっているのだろうか。
ゆっくりと、何度も角度を変えながら与えられる優しい口づけに酔いしれながら、私は彼の首に腕を回して強く抱きしめた。それに応えるように、私を抱き寄せているマルセル様の腕にも力が入る。
(ああ……、帰ってきたんだわ、私……)
誰よりも優しい人の腕の中、私はようやく与えられた幸せな時を心ゆくまで味わっていた。
「ステファニー!」
「……マルセル様!!」
侍女が来訪を告げ、彼が私の部屋に現れた途端、私は思わず彼の胸に飛び込んでいた。
「……はは。熱烈な再会の抱擁だね。慌てて飛んできた甲斐があったよ」
そんな軽口を叩きながらも、マルセル様の両腕は私を強く抱きしめてくれていて、私はようやく会えた夫の温もりに身を任せながらうっとりと目を閉じた。ああ……やっと会えた……。どれほどこの日を待ち望んでいたことか。
「……この日を待ち望んだよ、ステファニー」
私の心をすくい取ったように、マルセル様の口から全く同じ想いが紡がれる。
「……私もですわ。ずっと、あなたに会いたかった。ずっと……」
「……。」
もう言葉にならない。私たちはそのまましばらく静寂の中で抱き合っていた。互いの体温を噛みしめるように。
「……それからこれは、万年筆ですわ!ほら、見てくださいマルセル様。ここのデザインが素敵でしょう?こちらでは見かけないデザインじゃありませんこと?はい、どうぞ」
「ははは……。まだ出てくるの?一体どれだけ僕にお土産を買ってくれてるんだい?」
再会の喜びが治まらず、はしたなくはしゃぎながら私が次々に取り出すお土産を、マルセル様はニコニコしながら受け取ってくれている。私を見つめる優しい眼差しが嬉しくて、もう夢のようで、ますます気分が高揚する。
「だって何か珍しいものを見かけるたびにいつもあなたのことばかり考えていたんですもの!これお好きかしら?とか、このお店一緒に見たかったな、とか。……ほらこれ、見てくださいマルセル様。これは私の分とお揃いで買ったんですのよ。ペアのグラスですわ。この繊細な細工……素敵でしょう?卒業して一緒に暮らしはじめたら毎日あなたとこのグラスを……、……あ、」
「……ふふ……」
や、やだ、私ったら。ちょっとはしゃぎすぎてしまった……。一緒に暮らしはじめたら、なんて……。
マルセル様は相変わらず私を見つめて微笑んでいる。
……なんだか、恥ずかしい……。
ふいに我に返って耳まで真っ赤になる私の手から、マルセル様はグラスをそっと取り上げる。
「たしかにとても素敵な品物だけど、ちょっとこれは一旦置いて、ステファニー」
「……?……っ!マ……ッ!!」
そのグラスを目の前のテーブルに置くと、突然マルセル様は隣に座っていた私の足の下に腕を差し入れ、そのままふわりと持ち上げて自分の膝の上に私をポンッと乗せた。至近距離に、彼の優しい茶色の瞳がある。
「~~~~~~っ?!」
何の心の準備もなくこんな状況になり、体が硬直する。マ……マルセル様の上に、乗っかってしまってる……私……!
「どっ……!どうして、こっ……!」
「ふふ。なんだか君があまりにも可愛いものだから、急に我慢ができなくなった。……ありがとう、ステファニー」
「へっ?!なっ……、なにがですのっ……?」
(ちっ……近い……っ!)
吐息が私の唇にかかるほどマルセル様のお顔が近くにある。心臓が暴れ出して抑えようがない。き……っ、気絶してしまいます……っ!
「君が僕と同じように、この一年間ずっと想ってくれていたのがひしひしと伝わってくるから。今の僕はこの世の誰よりも幸せだよ、きっと。可愛い奥さん。……もう離れないで、二度と」
「……っ!マ……」
愛の溢れる言葉で私の心を満たしたマルセル様は、そのまま私にそっと唇を重ねた。
「……。」
静かに目を閉じ、その熱を受け入れる。私にも伝わってくる。この人の、深く大きな愛情が。……私の激しい胸の鼓動も、今伝わっているのだろうか。
ゆっくりと、何度も角度を変えながら与えられる優しい口づけに酔いしれながら、私は彼の首に腕を回して強く抱きしめた。それに応えるように、私を抱き寄せているマルセル様の腕にも力が入る。
(ああ……、帰ってきたんだわ、私……)
誰よりも優しい人の腕の中、私はようやく与えられた幸せな時を心ゆくまで味わっていた。
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