【完結済】処刑された元王太子妃は、二度目の人生で運命を変える

鳴宮野々花@書籍2冊発売中

文字の大きさ
上 下
12 / 39

11.地下牢

しおりを挟む
 その日は、何だか朝から違和感があった。

 いつもは早くに目が覚めた私が身支度を整え、ラフィム殿下のお目覚めを待って共に朝食をとるのだが、その日私が目覚めた時には、すでに殿下の姿はベッドの上になかった。

(……?珍しいわね。朝の弱い方なのに……)

 眠れなかったのだろうか。不思議に思い殿下の行方を侍女に尋ねてみても、誰も知らないと言う。

 結局殿下は戻ってこず、私は一人で朝食を食べ、その日予定されていた修道院への挨拶と孤児院への慰問を行った。

 そして夕方になってようやく王宮へ戻ってくると、そこでは大変な騒ぎが起こっていたのだ。

「ステファニー妃殿下!!」

 私が馬車を降りるやいなや、大臣の一人が血相を変えて駆け寄ってくる。そのただならぬ様子に嫌な予感がしてドクリと心臓が大きく跳ねた。

「……何事ですか?」
「順を追ってお話しいたします。……まずは、どうぞこちらへ」
「……?」

 いつもよりも随分とぞんざいな大臣の物言いと、私を取り囲むようにしてついてくる数人の騎士たちの存在が気になったが、私はひとまず促されるままに大臣についていった。





「……っ?!どっ……どういうことですか?!なぜ…………何故私をこんなところへ?!」

 言われるがままについていった先は、なんと王宮地下にある牢屋だったのだ。

「どうぞ大人しく中にお入りになり、沙汰をお待ちください」

 大臣は苦しげにそう言うと、私を牢の一つに押し込んだ。

「待って……!説明して!順を追って話すと言っていたじゃないの!一体、何がどうなっているの……?!」

 ガシャンッ!と無機質な音を立てて施錠された牢の鉄格子を掴み、私は必死で大臣に訴えた。

「……あなた様にはラフィム王太子殿下暗殺未遂の容疑がかかっております。本日昼頃、ラフィム殿下が紅茶を所望され、出された紅茶を飲んだ毒味役の侍女が一人、死にました」
「…………っ!!な……っ?!」

 その言葉に愕然とする私に、大臣はさらに追い打ちをかけるように言った。

「目の前で侍女が死に動転しておられたラフィム殿下ですが、我々がこの件について駆けずり回っている間に、ふと心当たりのあった近衛騎士のグレン・マクルーハンを尋問したそうです。すると彼は白状しました──────恋仲にあったあなた様と共謀し、王太子殿下殺害の計画を立てたのだと、全てを話したとのことでした」
「──────っ!!」


 な…………


 ……何を、言っているの…………?


 頭を棍棒で殴られたような衝撃だった。


「ま…………まって、……ください……。そんなはず、ないでしょう……。グ、グレン様は、いま、どこに……」
「グレン・マクルーハンはすでに処刑されました。事情を聴取したラフィム殿下とお付きの者たちによって、その場で」
「──────っ!!」

 視界がグラリと揺れ、私はその場に崩れ落ちた。まさか、なぜ……!そんなはずがない……!なぜ私とグレン様が共謀して、ラフィム殿下の殺害を企てたなどという話になるの……?!そもそも、あの方が私と恋仲だったなどと言うはずがない……!!

 これは……一体、何……?






 寒くて冷たい地下牢の床に崩れ落ちたまま、私は動転する頭で何時間も考え続けた。

 一体、私の身に何が起こっているのか。

「…………。」

 礼儀正しく、明るく溌剌としたグレン様。昔から公平で正義感の強い真面目な人だった。でも時に軽口を叩き、皆を笑わせてくれていた……。

 あの人が、私と不埒な仲であったなどと言うはずがない。そんな根も葉もないことは絶対に言わない。

 毒味役の侍女が死に……、皆が混乱し奔走する中、いつの間にかラフィム殿下がお付きの者たちを連れグレン様を尋問し、事実を聞き出し、処刑までしてしまった……。
 そして今、私はこうして事実無根の疑惑によりこんな場所に閉じ込められている。

「……こんな、……こんな馬鹿な話がある……?……まさか……」

 落ち着いて考えれば、何もかも辻褄が合う。あまりにも荒っぽく、そして単純なことだった。その事実に気が付いた途端一気に血の気が引き、私は吐き気を覚え両手で口元を強く押さえた。その手がぶるぶると大きく震える。

 殿下は犠牲にしたのだ。

 理由はおそらく……、本気で愛したのであろうタニヤ嬢を妻にしたくて、邪魔になった私をこうして排除しようとしているのだ。そのために無関係の侍女とグレン様の命を奪った。

 そして…………、



 次は私の番なのだ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

幼馴染を溺愛する旦那様の前から、消えてあげることにします

新野乃花(大舟)
恋愛
「旦那様、幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

処理中です...