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11.地下牢

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 その日は、何だか朝から違和感があった。

 いつもは早くに目が覚めた私が身支度を整え、ラフィム殿下のお目覚めを待って共に朝食をとるのだが、その日私が目覚めた時には、すでに殿下の姿はベッドの上になかった。

(……?珍しいわね。朝の弱い方なのに……)

 眠れなかったのだろうか。不思議に思い殿下の行方を侍女に尋ねてみても、誰も知らないと言う。

 結局殿下は戻ってこず、私は一人で朝食を食べ、その日予定されていた修道院への挨拶と孤児院への慰問を行った。

 そして夕方になってようやく王宮へ戻ってくると、そこでは大変な騒ぎが起こっていたのだ。

「ステファニー妃殿下!!」

 私が馬車を降りるやいなや、大臣の一人が血相を変えて駆け寄ってくる。そのただならぬ様子に嫌な予感がしてドクリと心臓が大きく跳ねた。

「……何事ですか?」
「順を追ってお話しいたします。……まずは、どうぞこちらへ」
「……?」

 いつもよりも随分とぞんざいな大臣の物言いと、私を取り囲むようにしてついてくる数人の騎士たちの存在が気になったが、私はひとまず促されるままに大臣についていった。





「……っ?!どっ……どういうことですか?!なぜ…………何故私をこんなところへ?!」

 言われるがままについていった先は、なんと王宮地下にある牢屋だったのだ。

「どうぞ大人しく中にお入りになり、沙汰をお待ちください」

 大臣は苦しげにそう言うと、私を牢の一つに押し込んだ。

「待って……!説明して!順を追って話すと言っていたじゃないの!一体、何がどうなっているの……?!」

 ガシャンッ!と無機質な音を立てて施錠された牢の鉄格子を掴み、私は必死で大臣に訴えた。

「……あなた様にはラフィム王太子殿下暗殺未遂の容疑がかかっております。本日昼頃、ラフィム殿下が紅茶を所望され、出された紅茶を飲んだ毒味役の侍女が一人、死にました」
「…………っ!!な……っ?!」

 その言葉に愕然とする私に、大臣はさらに追い打ちをかけるように言った。

「目の前で侍女が死に動転しておられたラフィム殿下ですが、我々がこの件について駆けずり回っている間に、ふと心当たりのあった近衛騎士のグレン・マクルーハンを尋問したそうです。すると彼は白状しました──────恋仲にあったあなた様と共謀し、王太子殿下殺害の計画を立てたのだと、全てを話したとのことでした」
「──────っ!!」


 な…………


 ……何を、言っているの…………?


 頭を棍棒で殴られたような衝撃だった。


「ま…………まって、……ください……。そんなはず、ないでしょう……。グ、グレン様は、いま、どこに……」
「グレン・マクルーハンはすでに処刑されました。事情を聴取したラフィム殿下とお付きの者たちによって、その場で」
「──────っ!!」

 視界がグラリと揺れ、私はその場に崩れ落ちた。まさか、なぜ……!そんなはずがない……!なぜ私とグレン様が共謀して、ラフィム殿下の殺害を企てたなどという話になるの……?!そもそも、あの方が私と恋仲だったなどと言うはずがない……!!

 これは……一体、何……?






 寒くて冷たい地下牢の床に崩れ落ちたまま、私は動転する頭で何時間も考え続けた。

 一体、私の身に何が起こっているのか。

「…………。」

 礼儀正しく、明るく溌剌としたグレン様。昔から公平で正義感の強い真面目な人だった。でも時に軽口を叩き、皆を笑わせてくれていた……。

 あの人が、私と不埒な仲であったなどと言うはずがない。そんな根も葉もないことは絶対に言わない。

 毒味役の侍女が死に……、皆が混乱し奔走する中、いつの間にかラフィム殿下がお付きの者たちを連れグレン様を尋問し、事実を聞き出し、処刑までしてしまった……。
 そして今、私はこうして事実無根の疑惑によりこんな場所に閉じ込められている。

「……こんな、……こんな馬鹿な話がある……?……まさか……」

 落ち着いて考えれば、何もかも辻褄が合う。あまりにも荒っぽく、そして単純なことだった。その事実に気が付いた途端一気に血の気が引き、私は吐き気を覚え両手で口元を強く押さえた。その手がぶるぶると大きく震える。

 殿下は犠牲にしたのだ。

 理由はおそらく……、本気で愛したのであろうタニヤ嬢を妻にしたくて、邪魔になった私をこうして排除しようとしているのだ。そのために無関係の侍女とグレン様の命を奪った。

 そして…………、



 次は私の番なのだ。





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