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8.卒業後の日々
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私とラフィム殿下は無事学園を卒業した。
「あら、おはようございますグレン様。……ふふ、近衛騎士の制服、とてもよく似合っていますわ」
「これはステファニー王太子妃殿下。おはようございます。お褒めいただき光栄でございます」
「ふふ、なんだか変な感じがしますわ。あなたがそんな喋り方をするなんて」
「それは……もう学生ではないのですから。当然のことですよ。王太子妃殿下には慣れていただくしかございません」
「たしかに、そうですわね」
執務の合間の気分転換に王宮の庭園を散歩していると、同窓生のグレン・マクルーハン伯爵令息に出会った。マクルーハン伯爵家の三男で、何の事情があるのかいまだ独身を貫いているどころか婚約者さえいない。彼は卒業後近衛騎士となり、普段は王宮で勤めている。卒業してもこうして頻繁に顔を合わせることができる同窓生が近くにいて、なんだか嬉しい。
その後少しの間彼と雑談をして、私はその場を離れた。
卒業して王宮にいる時間が増えた私たちだが、ラフィム殿下は理由も分からぬまま姿を消している時間が多かった。私は何となく察していた。おそらく、タニヤ・アルドリッジ伯爵令嬢とは卒業後も関係が切れていないのだろう。どこか外に会いに行っているのか、それとも……この王宮の敷地内のどこかで逢瀬を楽しんでいるのか。定かではなかったけれど、ここまで長く続いておりしかも頻繁に会っているということは、もうよほど真剣に想い合っている関係なのだろう。そのことについて考えると気持ちが沈むので、私はあえて目を逸らし続けた。
(私は私のやるべきことをこなしていくだけ…)
どんよりと濁った心の沼に沈みそうになると、私は意識的に他のことを考え没頭するようにした。妃教育を終えたとは言え、学べることはまだまだある。自国や他国の書物を次々と読み漁り、ラフィム殿下の分までサポートしつつ公務を着実にこなし、休憩時間には侍女たちとお喋りをして気を紛らわせた。
そんな中で時折グレン・マクルーハン伯爵令息とバッタリ会うととても気分が高揚した。もちろん、そこに浮ついた想いなどは一切ない。一人の殿方として彼を意識しているからではなく、ただ学園での思い出話をしたり、同窓生の皆の近況を聞いたりすることが楽しかったのだ。
彼もまた昔から私を妙な目で見てくることもなければ、私が王太子妃になったからといって急に態度を変えるわけでもなく、ずっとフラットに私と接してくれるのでとても居心地がよかった。
こういうのを互いに馬が合うというのだろう。
(国王陛下や王妃陛下との関係も良好。公務は忙しいけれどきちんとこなせているし、臣下をはじめ周りの皆も優しくしてくれる。その上近くには会えば楽しく会話ができる人もいて、気分転換もできる。……私はとても恵まれているんだわ)
庭園の花々を眺めゆっくりと散歩しながら、私は心の中で自分に言い聞かせる。これが今の私の日常だった。
「…………。」
花々から顔を上げ遠くに目をやると、離れの建物が見える。
女の勘だろうか。私は何となく、思っていた。
あそこにだけは近付きたくない、と。
「あら、おはようございますグレン様。……ふふ、近衛騎士の制服、とてもよく似合っていますわ」
「これはステファニー王太子妃殿下。おはようございます。お褒めいただき光栄でございます」
「ふふ、なんだか変な感じがしますわ。あなたがそんな喋り方をするなんて」
「それは……もう学生ではないのですから。当然のことですよ。王太子妃殿下には慣れていただくしかございません」
「たしかに、そうですわね」
執務の合間の気分転換に王宮の庭園を散歩していると、同窓生のグレン・マクルーハン伯爵令息に出会った。マクルーハン伯爵家の三男で、何の事情があるのかいまだ独身を貫いているどころか婚約者さえいない。彼は卒業後近衛騎士となり、普段は王宮で勤めている。卒業してもこうして頻繁に顔を合わせることができる同窓生が近くにいて、なんだか嬉しい。
その後少しの間彼と雑談をして、私はその場を離れた。
卒業して王宮にいる時間が増えた私たちだが、ラフィム殿下は理由も分からぬまま姿を消している時間が多かった。私は何となく察していた。おそらく、タニヤ・アルドリッジ伯爵令嬢とは卒業後も関係が切れていないのだろう。どこか外に会いに行っているのか、それとも……この王宮の敷地内のどこかで逢瀬を楽しんでいるのか。定かではなかったけれど、ここまで長く続いておりしかも頻繁に会っているということは、もうよほど真剣に想い合っている関係なのだろう。そのことについて考えると気持ちが沈むので、私はあえて目を逸らし続けた。
(私は私のやるべきことをこなしていくだけ…)
どんよりと濁った心の沼に沈みそうになると、私は意識的に他のことを考え没頭するようにした。妃教育を終えたとは言え、学べることはまだまだある。自国や他国の書物を次々と読み漁り、ラフィム殿下の分までサポートしつつ公務を着実にこなし、休憩時間には侍女たちとお喋りをして気を紛らわせた。
そんな中で時折グレン・マクルーハン伯爵令息とバッタリ会うととても気分が高揚した。もちろん、そこに浮ついた想いなどは一切ない。一人の殿方として彼を意識しているからではなく、ただ学園での思い出話をしたり、同窓生の皆の近況を聞いたりすることが楽しかったのだ。
彼もまた昔から私を妙な目で見てくることもなければ、私が王太子妃になったからといって急に態度を変えるわけでもなく、ずっとフラットに私と接してくれるのでとても居心地がよかった。
こういうのを互いに馬が合うというのだろう。
(国王陛下や王妃陛下との関係も良好。公務は忙しいけれどきちんとこなせているし、臣下をはじめ周りの皆も優しくしてくれる。その上近くには会えば楽しく会話ができる人もいて、気分転換もできる。……私はとても恵まれているんだわ)
庭園の花々を眺めゆっくりと散歩しながら、私は心の中で自分に言い聞かせる。これが今の私の日常だった。
「…………。」
花々から顔を上げ遠くに目をやると、離れの建物が見える。
女の勘だろうか。私は何となく、思っていた。
あそこにだけは近付きたくない、と。
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