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7.タニヤへの執着(※sideラフィム)
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(タニヤが欲しい。どうしても)
ここ最近、そのことばかりを考えている。どうすれば彼女を得ることができる。俺にはすでに妻がいる。あの時も、どうしても欲しくて欲しくて、無理な手段を使ってまでも手に入れたのだ。
ステファニー・カニンガム公爵令嬢を。
学園の入学式の日。通常、王族が入学する場合には、新入生総代の挨拶をその者が務めるのが慣例だった。だが俺は面倒な役回りが嫌で拒否した。その代わりに式の最中壇上に上がり挨拶をしたのがステファニーだった。
幼い頃から何度も顔を合わせてはいたが、これほどまでに美しく成長していたのかと、俺は一瞬で心を奪われた。凜とした佇まいで堂々と話すステファニーのプラチナブロンドの髪が艶やかに輝き、彼女を唯一無二の神々しい存在のように感じた。ステファニーが欲しいと思った瞬間だった。
(……ステファニーは確かに美しい。高潔なまでに品のある整った容姿は、俺の隣に並ぶ唯一の女として最高に相応しい。その上賢く勤勉だ。気立てもよく、周りからの信頼も厚い。期待を裏切らぬ素晴らしい王太子妃となった)
イレーヌ・ロドニー侯爵令嬢との婚約を無理矢理破棄する時、俺は両親の前で力説した。
『確かにイレーヌは賢い女性です。ですが貴族学園に通い多くの人間を公平な目で見て、俺はステファニー・カニンガム公爵令嬢こそが先の王妃として相応しいと判断しました。彼女は全てにおいてイレーヌをはるかに上回っている。人望も教養もあり、皆から広く慕われています。それに……これまで父上には黙っておりましたが、イレーヌにはよからぬ噂も数々あるのです。下位貴族の令嬢たちを陰で虐めているとか……。確たる証拠はありませんが、たしかに周りの様子を見ていても明らかにステファニー嬢の方が好かれ、慕われているのです。俺の直感が、この女性を選べと告げています』
もちろん嘘だった。ステファニーが賢く人望もあるのは本当だが、イレーヌが虐めをしているなど聞いたこともない。だが俺は何がなんでもステファニーを手に入れたかったのだ。
完全に納得したわけではない父は渋い顔をしていたが、ステファニーの評判がすこぶる良いのは本当のことだ。マルセル・ランチェスター公爵令息とステファニーの婚約が決まりそうだという話を耳にして強硬手段に出た俺を、父は結局見逃した。
しかし。
一度手に入れたものは、どんなに美しく輝いていてもやがては色褪せて見えるもの。ステファニーに飽きが来はじめていた俺の前に、天啓のように現れたのがタニヤ・アルドリッジ伯爵令嬢だったのだ。彼女を一目見た瞬間、落雷に打たれたような衝撃を受けた。ステファニーとはまた違う、蠱惑的で可愛い小悪魔のような魅力。甘く高い声は俺の耳に扇情的に響き、白い肌には思わず触れたくなる。それに……あの瞳。俺を誘惑する、あの不思議な光を湛えた金色の瞳。タニヤの何もかもが俺を魅了した。
どうすればタニヤを俺のものにすることができるだろうか。我がワースディール王国は一夫一妻制で側妃を持つことなど有り得ない。大抵の我が儘は通る俺だが、さすがに勝手に側妃など持てば父の怒りを買い、民には背を向けられるだろう。
ステファニーと離婚することも考えられない。あれだけ無理を押し通して結婚した相手だ。ロドニー侯爵家に多額の慰謝料を支払い、関係を悪化させ、それでも強引に手に入れた相手。しかも当の本人であるステファニーには何の落ち度もない。あいつは完璧な王太子妃となった。図らずも、俺の主張は正しかったわけだ。今さら「やっぱりステファニーには王太子妃としての器がありません」は絶対に通らない。
(……どうするか……。何かいい手はないのか……)
タニヤを諦めるという選択肢は俺の中にはなかった。欲しいものはどんな手段を使ってでも絶対に手に入れる。そうしなければ気が済まない性格なのは昔からだ。そしてこれまで、思惑通りに全てを手に入れてきた。タニヤを一番そばに置きたい。しかし……、今回ばかりはかなり難しい。
(いっそステファニーに不貞の事実でも捏造するか……?しかし、あいつの誠実な性格は全ての人間を味方につけている。相手の男とステファニーが否定すれば、誰もが彼女の言い分を信じるだろう)
「……はぁ……。クソッ……」
良い案が思い浮かばず、俺は頭を掻きむしって毒づいた。タニヤに触れたい。呼び出せば飛んでくるし、思わせぶりな色っぽい瞳で俺のことを見つめるくせに、いつも最後の最後で肌を許してはくれない。
『なぜだタニヤ……!俺はもう、君に触れたくてたまらないのに』
『ダメですわ、殿下……。それだけはどうか、お許しくださいませ……。私だって、あなた様と触れ合いたい。身も心もあなた様のものになりたいのが本音でございます……』
『な、ならば……!』
『ですが、不貞行為は絶対にできませんわ。私にはそんなことはできません。あなた様からいただくこの尊い愛までが穢れてしまいますわ……』
『……タニヤ……』
タニヤはそう言ってピタリと寄り添うと俺の太腿にそっと手を置き、上目遣いで俺を見つめながら囁くのだ。
『いつか……もしもいつか、私があなた様の妻となれる日が来たら……、その時は何もかもを殿下に捧げますわ……。……なんて、そんな日が来るはずがございませんわよね……』
「~~~~っ!!あぁぁぁ!!思いつかん!!」
タニヤのことを思い出し、俺は胸を掻きむしりたくなるほどの焦燥感に苛まれる。本当にどうにもならないのか。諦めきれない。いっそステファニーが死んででもくれれば……。
「…………っ!」
そんな考えがふと頭をよぎり、俺はハッとする。
……そうだ……。もしも今、ステファニーが死んだとしたら……?
何らかの事故にでもあって、ステファニーが死ぬ。次の王太子妃を選抜しなければならない。イレーヌは国を出て他国の貴族家の令息と結婚したし、他の高位貴族の娘たちの中から選ぶこととなるだろう。
その時に、俺が言うのだ。
『タニヤ・アルドリッジ伯爵令嬢を所望します。彼女は学園の中でも抜きん出て人望があり、頭の回転も早い。勤勉ですので妃教育もステファニーのように早々に修得するでしょう。寛容で公平な性格はきっと民から愛されます』
「…………ふ、……馬鹿らしい。さすがに無理な話だ」
非現実的な思いつきに、思わず自嘲する。
そう。無理な話だ。ステファニーが都合よく死ぬはずがないだろう。
そんなに、都合よく…………
ここ最近、そのことばかりを考えている。どうすれば彼女を得ることができる。俺にはすでに妻がいる。あの時も、どうしても欲しくて欲しくて、無理な手段を使ってまでも手に入れたのだ。
ステファニー・カニンガム公爵令嬢を。
学園の入学式の日。通常、王族が入学する場合には、新入生総代の挨拶をその者が務めるのが慣例だった。だが俺は面倒な役回りが嫌で拒否した。その代わりに式の最中壇上に上がり挨拶をしたのがステファニーだった。
幼い頃から何度も顔を合わせてはいたが、これほどまでに美しく成長していたのかと、俺は一瞬で心を奪われた。凜とした佇まいで堂々と話すステファニーのプラチナブロンドの髪が艶やかに輝き、彼女を唯一無二の神々しい存在のように感じた。ステファニーが欲しいと思った瞬間だった。
(……ステファニーは確かに美しい。高潔なまでに品のある整った容姿は、俺の隣に並ぶ唯一の女として最高に相応しい。その上賢く勤勉だ。気立てもよく、周りからの信頼も厚い。期待を裏切らぬ素晴らしい王太子妃となった)
イレーヌ・ロドニー侯爵令嬢との婚約を無理矢理破棄する時、俺は両親の前で力説した。
『確かにイレーヌは賢い女性です。ですが貴族学園に通い多くの人間を公平な目で見て、俺はステファニー・カニンガム公爵令嬢こそが先の王妃として相応しいと判断しました。彼女は全てにおいてイレーヌをはるかに上回っている。人望も教養もあり、皆から広く慕われています。それに……これまで父上には黙っておりましたが、イレーヌにはよからぬ噂も数々あるのです。下位貴族の令嬢たちを陰で虐めているとか……。確たる証拠はありませんが、たしかに周りの様子を見ていても明らかにステファニー嬢の方が好かれ、慕われているのです。俺の直感が、この女性を選べと告げています』
もちろん嘘だった。ステファニーが賢く人望もあるのは本当だが、イレーヌが虐めをしているなど聞いたこともない。だが俺は何がなんでもステファニーを手に入れたかったのだ。
完全に納得したわけではない父は渋い顔をしていたが、ステファニーの評判がすこぶる良いのは本当のことだ。マルセル・ランチェスター公爵令息とステファニーの婚約が決まりそうだという話を耳にして強硬手段に出た俺を、父は結局見逃した。
しかし。
一度手に入れたものは、どんなに美しく輝いていてもやがては色褪せて見えるもの。ステファニーに飽きが来はじめていた俺の前に、天啓のように現れたのがタニヤ・アルドリッジ伯爵令嬢だったのだ。彼女を一目見た瞬間、落雷に打たれたような衝撃を受けた。ステファニーとはまた違う、蠱惑的で可愛い小悪魔のような魅力。甘く高い声は俺の耳に扇情的に響き、白い肌には思わず触れたくなる。それに……あの瞳。俺を誘惑する、あの不思議な光を湛えた金色の瞳。タニヤの何もかもが俺を魅了した。
どうすればタニヤを俺のものにすることができるだろうか。我がワースディール王国は一夫一妻制で側妃を持つことなど有り得ない。大抵の我が儘は通る俺だが、さすがに勝手に側妃など持てば父の怒りを買い、民には背を向けられるだろう。
ステファニーと離婚することも考えられない。あれだけ無理を押し通して結婚した相手だ。ロドニー侯爵家に多額の慰謝料を支払い、関係を悪化させ、それでも強引に手に入れた相手。しかも当の本人であるステファニーには何の落ち度もない。あいつは完璧な王太子妃となった。図らずも、俺の主張は正しかったわけだ。今さら「やっぱりステファニーには王太子妃としての器がありません」は絶対に通らない。
(……どうするか……。何かいい手はないのか……)
タニヤを諦めるという選択肢は俺の中にはなかった。欲しいものはどんな手段を使ってでも絶対に手に入れる。そうしなければ気が済まない性格なのは昔からだ。そしてこれまで、思惑通りに全てを手に入れてきた。タニヤを一番そばに置きたい。しかし……、今回ばかりはかなり難しい。
(いっそステファニーに不貞の事実でも捏造するか……?しかし、あいつの誠実な性格は全ての人間を味方につけている。相手の男とステファニーが否定すれば、誰もが彼女の言い分を信じるだろう)
「……はぁ……。クソッ……」
良い案が思い浮かばず、俺は頭を掻きむしって毒づいた。タニヤに触れたい。呼び出せば飛んでくるし、思わせぶりな色っぽい瞳で俺のことを見つめるくせに、いつも最後の最後で肌を許してはくれない。
『なぜだタニヤ……!俺はもう、君に触れたくてたまらないのに』
『ダメですわ、殿下……。それだけはどうか、お許しくださいませ……。私だって、あなた様と触れ合いたい。身も心もあなた様のものになりたいのが本音でございます……』
『な、ならば……!』
『ですが、不貞行為は絶対にできませんわ。私にはそんなことはできません。あなた様からいただくこの尊い愛までが穢れてしまいますわ……』
『……タニヤ……』
タニヤはそう言ってピタリと寄り添うと俺の太腿にそっと手を置き、上目遣いで俺を見つめながら囁くのだ。
『いつか……もしもいつか、私があなた様の妻となれる日が来たら……、その時は何もかもを殿下に捧げますわ……。……なんて、そんな日が来るはずがございませんわよね……』
「~~~~っ!!あぁぁぁ!!思いつかん!!」
タニヤのことを思い出し、俺は胸を掻きむしりたくなるほどの焦燥感に苛まれる。本当にどうにもならないのか。諦めきれない。いっそステファニーが死んででもくれれば……。
「…………っ!」
そんな考えがふと頭をよぎり、俺はハッとする。
……そうだ……。もしも今、ステファニーが死んだとしたら……?
何らかの事故にでもあって、ステファニーが死ぬ。次の王太子妃を選抜しなければならない。イレーヌは国を出て他国の貴族家の令息と結婚したし、他の高位貴族の娘たちの中から選ぶこととなるだろう。
その時に、俺が言うのだ。
『タニヤ・アルドリッジ伯爵令嬢を所望します。彼女は学園の中でも抜きん出て人望があり、頭の回転も早い。勤勉ですので妃教育もステファニーのように早々に修得するでしょう。寛容で公平な性格はきっと民から愛されます』
「…………ふ、……馬鹿らしい。さすがに無理な話だ」
非現実的な思いつきに、思わず自嘲する。
そう。無理な話だ。ステファニーが都合よく死ぬはずがないだろう。
そんなに、都合よく…………
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