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2.俺のものだ
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だけど、事はそう上手くはいかなかった。
ラフィム殿下の私への熱烈なアプローチは徐々に強引なものへと変わっていったのだ。
「ステファニー嬢、殿下がお呼びだ。中庭へ行ってくれるか」
「……は……はい……」
殿下はいつもそばに侍っている高位貴族の令息たちを寄こしては、度々私を呼び出すようになった。そして昼食の時間や休み時間を共に過ごすことが増え、殿下の私を口説くような言葉も日に日に熱を帯びていった。
「……美しいな、ステファニー……。君の瞳、唇、指先……、そして何よりも、このしなやかに輝く髪……、全てがまるで芸術作品のようだ。そばに置いて観賞せずにはいられない」
「……ありがとう、ございます……」
「今、俺が何を考えているか分かるか?」
「い、いえ……」
「空想しているんだよ。俺の想いを受け止めた女神が、恋人としてそばに寄り添ってくれることを。俺だけに微笑み、俺だけを見つめてくれるのを。……プラチナブロンドの、この世で最も美しい女神だ」
「…………。」
「ふ。そうやって困っている君も、とても可愛い」
ラフィム殿下は楽しげにそう言うと、私の手を握る。
「っ!こ……困ります……殿下……」
「ああ、そうだよ。困らせているんだ。もっと困って、君も俺のことばかりを考えておくれ」
「……っ!」
そう言うと、殿下はギラギラと熱のこもった瞳で私を見つめながら、私の指先に唇を押し当てた。
私は目まいがした。もちろん喜びで、などではない。このままではいけない。どうにかして、殿下と距離を置かなくては……。殿下の興味が早く私から逸れるように……。
そう思っていた矢先の出来事だった。
「ステファニー!やっと見つけた。話したいことがある。来てくれるか」
「……っ、は、……で、ですが殿下……」
「外してくれ、イレーヌ」
「……承知いたしました、殿下」
今日の講義が全て終わり、私は急いで帰り支度をしていた。こうして殿下に捕まる前に帰ろうと思っていたのだ。だけど、運悪く見つかってしまった。
離れるように命じられたイレーヌ嬢は、一礼するとこちらを見ずに静かに立ち去っていった。気まずさと申し訳なさで胃がムカムカする。だけど殿下はイレーヌ嬢のことを気にかけるそぶりもなく、私の手首を掴むと強引に歩き出した。
「でっ……殿下……っ?どこへ……」
ラフィム殿下は黙って早足で歩き出すと、私を講義室の一室に引き込んだ。そしてそのままドアを閉めてしまう。
誰もいない部屋の中に、殿下と二人きりになってしまった。
「で……殿下……っ」
さすがにこれはまずい。私は慌ててドアに手をかけようとした。とにかく人目のあるところにいなくては……。
しかし、
「……っ!」
「ステファニー……」
ドアを背に、私は殿下の腕の中に閉じ込められる形になってしまった。殿下の両手はそれぞれドアにしっかりと押し当てられ、私はその間に挟まれて身動きがとれない。すぐそばに迫った殿下の整ったお顔に恐怖さえ覚えた。
「……で……でんか……」
「ステファニー、ランチェスター公爵令息と婚約するという話は本当なのか?何故……?俺の気持ちには、とうに気付いているはずだ」
「……っ、」
息がかかるほど顔を近づけて、殿下は切なげな表情でそう言った。もはや自分の気持ちを隠し立てするつもりは一切ないらしい。
「君が他の男のものになるなど、俺には耐えられない。俺は毎日、朝も昼も夜も、君のことばかりを想っているというのに……!」
(…………っ!)
「……困りますわ、殿下……。殿下には、イレーヌ嬢がおられます。わ、私も、……カニンガム公爵家の娘として、しかるべきお相手と……」
「ダメだ、ステファニー」
私の言葉を遮ると、ラフィム殿下は右手を私の頬にそっと添える。触れられたことで驚き、私の肩がビクンと跳ねた。
「婚約なんてしないでくれ。他の男が君に触れるなど、考えただけで気が狂いそうだ。……君は、俺のものだ」
殿下の右手がするりと頬を伝い、その指が私の唇に触れる。そのまま自分の唇を近づけてくる殿下の胸板を、私はついにめいっぱいの力で押し返してしまった。
「……っ、……ステファニー……」
「お……お許しを……殿下……」
私はなりふり構わず殿下の腕の下をくぐり抜けるとドアを開け、外に飛び出した。そのまま一目散に走り出す。
「ステファニー!!待つんだ!!」
ラフィム殿下の声が背後から聞こえてきたけれど、私は止まることも振り返ることもしなかった。
(……どうなってしまうのだろう……)
大抵のことは命令一つでどうにでもしてしまえる人を、怒らせてしまったかもしれない。だけどあのまま殿下にされるがままにこの身を委ねることなどできるはずもなかった。
どうしよう。我がカニンガム公爵家は大丈夫だろうか。まさかこんなことで、腹を立てた殿下がうちに何かするなんて、とても思えないけれど……ご機嫌を損ねてしまったことは間違いないだろう。
私は怯えながら毎日を過ごした。何もありませんように。どうかこのまま……殿下が諦めてくださいますように。
しかし、それから数日後。
衝撃的な出来事が起こった。
ラフィム殿下の私への熱烈なアプローチは徐々に強引なものへと変わっていったのだ。
「ステファニー嬢、殿下がお呼びだ。中庭へ行ってくれるか」
「……は……はい……」
殿下はいつもそばに侍っている高位貴族の令息たちを寄こしては、度々私を呼び出すようになった。そして昼食の時間や休み時間を共に過ごすことが増え、殿下の私を口説くような言葉も日に日に熱を帯びていった。
「……美しいな、ステファニー……。君の瞳、唇、指先……、そして何よりも、このしなやかに輝く髪……、全てがまるで芸術作品のようだ。そばに置いて観賞せずにはいられない」
「……ありがとう、ございます……」
「今、俺が何を考えているか分かるか?」
「い、いえ……」
「空想しているんだよ。俺の想いを受け止めた女神が、恋人としてそばに寄り添ってくれることを。俺だけに微笑み、俺だけを見つめてくれるのを。……プラチナブロンドの、この世で最も美しい女神だ」
「…………。」
「ふ。そうやって困っている君も、とても可愛い」
ラフィム殿下は楽しげにそう言うと、私の手を握る。
「っ!こ……困ります……殿下……」
「ああ、そうだよ。困らせているんだ。もっと困って、君も俺のことばかりを考えておくれ」
「……っ!」
そう言うと、殿下はギラギラと熱のこもった瞳で私を見つめながら、私の指先に唇を押し当てた。
私は目まいがした。もちろん喜びで、などではない。このままではいけない。どうにかして、殿下と距離を置かなくては……。殿下の興味が早く私から逸れるように……。
そう思っていた矢先の出来事だった。
「ステファニー!やっと見つけた。話したいことがある。来てくれるか」
「……っ、は、……で、ですが殿下……」
「外してくれ、イレーヌ」
「……承知いたしました、殿下」
今日の講義が全て終わり、私は急いで帰り支度をしていた。こうして殿下に捕まる前に帰ろうと思っていたのだ。だけど、運悪く見つかってしまった。
離れるように命じられたイレーヌ嬢は、一礼するとこちらを見ずに静かに立ち去っていった。気まずさと申し訳なさで胃がムカムカする。だけど殿下はイレーヌ嬢のことを気にかけるそぶりもなく、私の手首を掴むと強引に歩き出した。
「でっ……殿下……っ?どこへ……」
ラフィム殿下は黙って早足で歩き出すと、私を講義室の一室に引き込んだ。そしてそのままドアを閉めてしまう。
誰もいない部屋の中に、殿下と二人きりになってしまった。
「で……殿下……っ」
さすがにこれはまずい。私は慌ててドアに手をかけようとした。とにかく人目のあるところにいなくては……。
しかし、
「……っ!」
「ステファニー……」
ドアを背に、私は殿下の腕の中に閉じ込められる形になってしまった。殿下の両手はそれぞれドアにしっかりと押し当てられ、私はその間に挟まれて身動きがとれない。すぐそばに迫った殿下の整ったお顔に恐怖さえ覚えた。
「……で……でんか……」
「ステファニー、ランチェスター公爵令息と婚約するという話は本当なのか?何故……?俺の気持ちには、とうに気付いているはずだ」
「……っ、」
息がかかるほど顔を近づけて、殿下は切なげな表情でそう言った。もはや自分の気持ちを隠し立てするつもりは一切ないらしい。
「君が他の男のものになるなど、俺には耐えられない。俺は毎日、朝も昼も夜も、君のことばかりを想っているというのに……!」
(…………っ!)
「……困りますわ、殿下……。殿下には、イレーヌ嬢がおられます。わ、私も、……カニンガム公爵家の娘として、しかるべきお相手と……」
「ダメだ、ステファニー」
私の言葉を遮ると、ラフィム殿下は右手を私の頬にそっと添える。触れられたことで驚き、私の肩がビクンと跳ねた。
「婚約なんてしないでくれ。他の男が君に触れるなど、考えただけで気が狂いそうだ。……君は、俺のものだ」
殿下の右手がするりと頬を伝い、その指が私の唇に触れる。そのまま自分の唇を近づけてくる殿下の胸板を、私はついにめいっぱいの力で押し返してしまった。
「……っ、……ステファニー……」
「お……お許しを……殿下……」
私はなりふり構わず殿下の腕の下をくぐり抜けるとドアを開け、外に飛び出した。そのまま一目散に走り出す。
「ステファニー!!待つんだ!!」
ラフィム殿下の声が背後から聞こえてきたけれど、私は止まることも振り返ることもしなかった。
(……どうなってしまうのだろう……)
大抵のことは命令一つでどうにでもしてしまえる人を、怒らせてしまったかもしれない。だけどあのまま殿下にされるがままにこの身を委ねることなどできるはずもなかった。
どうしよう。我がカニンガム公爵家は大丈夫だろうか。まさかこんなことで、腹を立てた殿下がうちに何かするなんて、とても思えないけれど……ご機嫌を損ねてしまったことは間違いないだろう。
私は怯えながら毎日を過ごした。何もありませんように。どうかこのまま……殿下が諦めてくださいますように。
しかし、それから数日後。
衝撃的な出来事が起こった。
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