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9. (※sideラヴェルナ)
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そんな風にして三年間過ごしていると、あれだけ裕福だったフィールデン公爵家は、あたしの知らぬ間に手の施しようがないほどに困窮してしまっていた。デレク様はあたしに向かって喚き散らす。
「どういうことだよ!お前だって聖女のはずだろう?!その指輪を身に着けてさえいれば、この地に繁栄をもたらすはずじゃなかったのか!何故こんなに何度もひどい嵐に見舞われるんだ!何故領内の治安がどんどん悪くなってきている!お前の実家のベイリー伯爵領にも、俺に黙ってどれだけ援助したんだ!お前自身も贅沢ばかりしやがって……!お前、偽者だろう?!本当は聖女の力なんか持ってないんだな?!」
「そ、そんなこと言われても……、知らないわよ!あなただってあの頃言ってたじゃない!ミシュリーよりもお前の方がよほど聖女らしいって。ミシュリーなんかに聖女の力があるというのなら、お前にもあるんじゃないかって。そう焚きつけてきたのはあなたでしょう?!」
マズいと焦りながらも、あたしは堂々とデレク様に反論する。だって本当のことだもの。この人だって、あたしを聖女だと信じてミシュリーを追い出す算段を立てたんだから。あたしだけが悪いわけじゃないわ。
デレク様は悪態をつき乱暴に髪を掻きむしると、爪を噛みながら落ち着きなく部屋の中を行ったり来たりする。
「父が他界し、母はすっかり気落ちしてしまい、最近では精神まで病んでしまっている……。とても相談ができる状態じゃない。先日はついに領民の代表者たちがこの屋敷の前でデモまで始めやがった。このままじゃじきに暴動が起きるぞ。どうするつもりだラヴェルナ!」
「だから!あたしに言われても知らないったら!」
「クソ……ッ!……しょうがない。ミシュリーを探すぞ」
「は、はぁ?!今さら何を言い出すの?!あの子を追い出してからもう三年以上経ってるのよ?!生きてたとしても、見つかるわけがないでしょう!」
デレク様の突然の言葉に呆れ返り、あたしはそう主張する。何勝手にあたしを見限ってミシュリーに頼ろうとしてるのよ。腹立たしいわね!
睨みつけるあたしを同じように睨み返してくるデレク様は、狂ったように喚きはじめた。
「それでも探すしかないんだよ!!なんで分からないんだ?!もうこのフィールデン公爵領は取り返しのつかないところまで来てるんだ!!あれだけあった資金はどんどん目減りして、領民たちは不満ばかりを口にして、治安は悪化する一方。税収もどんどん減ってるんだぞ!」
デレク様は人を使って一心不乱にミシュリーの行方を探しはじめたけれど、フィールデン公爵領にもベイリー伯爵領にも、彼女はどこにもいなかった。
デレク様は捜索範囲を広げた。王都から南の地に手広く人をやり、各地でミシュリーらしき人物がいないかと探し回った。けれど、これといって際立った特徴があるわけでもないただの女一人を、一体どうやってこの広い王国内から見つけ出すというのだろう。
生きているとも限らないのに。
「……孤児院や修道院、その他にも行き場をなくした身寄りのない女を引き取ってくれそうな場所はひたすら当たっているが、手がかりさえない……。ああ、頼むミシュリー、戻ってきてくれ……。お前だったんだな、本物の聖女は……。やっぱりお前じゃなきゃ駄目だったんだ……!それなのに俺は……、なんて馬鹿なことを……!」
デレク様はまるであたしに当てつけるかのように、そんなことをブツブツ言いながら頭を抱え込むようになった。……ふん。何よ、今さら。どうしようもない男ね。そもそもこの人がもっとしっかりしていれば、こんなことにはなってないはずでしょう?だって元々このフィールデン公爵家には聖女なんていなかったんだもの。歴代の領主様たちがしっかりと築き上げてきたなんやかんやを、この人が一人で潰しちゃったんだわ。
あたしがそれを責めると、デレク様は顔を上げ、血走った目でギロリとあたしを睨みつけ叫んだ。
「俺一人じゃない!!お前も一緒に潰したんだ!!この疫病神が!!」
やがてこの屋敷の前には領民たちが押し寄せるようになり、外は怒号が飛び交いはじめた。
「領主を出せ!!領主は何をやっているんだ!!」
「俺たちがこんなに苦しんでいるのに見殺しか!何故何もしてくれないんだ!!出て来い領主!!」
「自分たちばっかり贅沢しやがって!!税率を下げろ!補助金をもっと出せー!!」
パリーーーンッ!!
「きゃあっ!!……な、何よ……!」
衛兵たちでは防ぎきれなくなり、時折窓から石が投げ込まれた。あたしは恐ろしくなり、自室に引きこもりガタガタと震えた。ど、どうしよう……。そのうちこの屋敷の中にまでいきり立った領民たちが押し寄せてきたら……。
そんなある日、王宮から書簡が届いた。
怒り狂った領民たちが、なんと王宮に嘆願書を出していたのだ。今のフィールデン公爵領の悲惨な状況と、領主であるデレク様がろくな対応をしてくれないことを告発し、そしてこのままでは皆餓死してしまうなどと切実に訴え、何とかしてほしいと泣きついたのだ。それを目にした国王陛下が直々にデレク様にお叱りの文書を送ってきたのだった。
デレク様は半泣きになりながら、資産を整理して金を作り、領民たちの生活の立て直しに充てた。
屋敷の中から名画や高価な家具、価値あるアンティーク品などがどんどん消えはじめた。
あたしのドレスもアクセサリーも、いい品物は皆持っていかれた。
けれど、そんな一時しのぎを続けていたって、じわじわと広がる領地全体の貧困化は止められず。
ついにデレク様は公爵としての責務を果たす能力なしと判断され、爵位を取り上げられてしまったのだった。
「ああ……、俺は、これからどこでどうやって生きていけばいい……?誰か、助けてくれ……!うぅぅっ……。……お前のせいだぞラヴェルナ!何もかも!お前なんかに誑かされていなければ、俺の妻は今でもミシュリーのままだったんだ!彼女さえ……彼女さえ俺のそばにいてくれれば、何も失わずに済んだのに!!」
「しつこいわね!!馬鹿じゃないの?!全部あんた自身のせいなのよ!せいぜい平民になって地道に日銭を稼ぎながらどこかで生き延びなさいよ!!」
互いを罵り合い憎み合ったあたしたちは離縁し、あたしはそのままベイリー伯爵家へと帰ったのだった。
けれど、当然ここも悲惨な状況であることに変わりはなかった。
「……完全に逆戻りだ。ミシュリーを引き取る前の状況に……。いや、もっとひどいことになってきておる……。ラヴィ、何故お前たちはミシュリーから聖石の指輪を取り上げ、あいつを陥れたのだ……!やはり聖女はミシュリーただ一人だったのだ。ああ……、これから我々はどうすれば……」
実家に帰ってきても、父はデレク様と同じような恨み言をブツブツと言っては呻き声を上げ、頭を抱えているだけ。フィールデン公爵家からあたしが送っていたお金はとっくに尽きていたから、ここの領地経営も追い詰められていた。
以前のような豪華な食事も出ない。新しいドレスが買えないどころか、少しでも売れそうなものがあれば逆にどんどん買い取ってもらって食いつないでいた。
「……どうしてこんなことになったのかしら……。きっと私たち、これから死ぬまでここで貧しい生活を送るしかないのね。もう何もできないわ。お茶会も、パーティーも。旅行も。……ああ、一度行ってみたかったわ。エリストン辺境伯領へ……」
陰鬱とした空気が漂う、ある夜の食事中。母が具の少ないスープを見つめながら生気のない声で言った。
「……エリストン辺境伯領?なんでまたわざわざあんな寒そうなところへ?」
母の脈絡のない言葉を聞き、ついに気が触れたのかもしれないと不気味に思ったあたしは、母を見つめてそう尋ねた。
母は光のない瞳でぼんやりと答える。
「……とても素敵なところなんですって。以前そこへ旅行に行ってきたというある子爵夫人から聞いたのよ。北国だけれど最先端の設備が整っているし、大きな街には流行のドレスやアクセサリー、何でも揃っているんですって。それに、娯楽もたくさん。観光客向けの楽しい場所や美味しい食事にお土産、何でもあるそうよ。今王国内で一番人気のスポットらしいの。……でも私たちには、もうそんなところへ遊びに行くお金さえないわ」
母の言葉を黙って聞いていた父は、持っていたパンを皿に置くと深いため息をついた。
「……あの北の領土は、うちとフィールデン公爵領を合わせたよりもまださらに面積があったはずだ。相当広い土地だぞ。なのに、順風満帆で。……羨ましいものだ。何故こうも違うのだか……。あちらだって以前は気候の安定しない、厳しい時期もあったはずなのに」
「……本当ね。……はぁ……」
母も陰気臭いため息をつくと、両手で顔を覆った。
覇気のない二人を眺め、あたしは悟った。
もうすぐこの地とこの家も、終わりを迎えるということを。
「どういうことだよ!お前だって聖女のはずだろう?!その指輪を身に着けてさえいれば、この地に繁栄をもたらすはずじゃなかったのか!何故こんなに何度もひどい嵐に見舞われるんだ!何故領内の治安がどんどん悪くなってきている!お前の実家のベイリー伯爵領にも、俺に黙ってどれだけ援助したんだ!お前自身も贅沢ばかりしやがって……!お前、偽者だろう?!本当は聖女の力なんか持ってないんだな?!」
「そ、そんなこと言われても……、知らないわよ!あなただってあの頃言ってたじゃない!ミシュリーよりもお前の方がよほど聖女らしいって。ミシュリーなんかに聖女の力があるというのなら、お前にもあるんじゃないかって。そう焚きつけてきたのはあなたでしょう?!」
マズいと焦りながらも、あたしは堂々とデレク様に反論する。だって本当のことだもの。この人だって、あたしを聖女だと信じてミシュリーを追い出す算段を立てたんだから。あたしだけが悪いわけじゃないわ。
デレク様は悪態をつき乱暴に髪を掻きむしると、爪を噛みながら落ち着きなく部屋の中を行ったり来たりする。
「父が他界し、母はすっかり気落ちしてしまい、最近では精神まで病んでしまっている……。とても相談ができる状態じゃない。先日はついに領民の代表者たちがこの屋敷の前でデモまで始めやがった。このままじゃじきに暴動が起きるぞ。どうするつもりだラヴェルナ!」
「だから!あたしに言われても知らないったら!」
「クソ……ッ!……しょうがない。ミシュリーを探すぞ」
「は、はぁ?!今さら何を言い出すの?!あの子を追い出してからもう三年以上経ってるのよ?!生きてたとしても、見つかるわけがないでしょう!」
デレク様の突然の言葉に呆れ返り、あたしはそう主張する。何勝手にあたしを見限ってミシュリーに頼ろうとしてるのよ。腹立たしいわね!
睨みつけるあたしを同じように睨み返してくるデレク様は、狂ったように喚きはじめた。
「それでも探すしかないんだよ!!なんで分からないんだ?!もうこのフィールデン公爵領は取り返しのつかないところまで来てるんだ!!あれだけあった資金はどんどん目減りして、領民たちは不満ばかりを口にして、治安は悪化する一方。税収もどんどん減ってるんだぞ!」
デレク様は人を使って一心不乱にミシュリーの行方を探しはじめたけれど、フィールデン公爵領にもベイリー伯爵領にも、彼女はどこにもいなかった。
デレク様は捜索範囲を広げた。王都から南の地に手広く人をやり、各地でミシュリーらしき人物がいないかと探し回った。けれど、これといって際立った特徴があるわけでもないただの女一人を、一体どうやってこの広い王国内から見つけ出すというのだろう。
生きているとも限らないのに。
「……孤児院や修道院、その他にも行き場をなくした身寄りのない女を引き取ってくれそうな場所はひたすら当たっているが、手がかりさえない……。ああ、頼むミシュリー、戻ってきてくれ……。お前だったんだな、本物の聖女は……。やっぱりお前じゃなきゃ駄目だったんだ……!それなのに俺は……、なんて馬鹿なことを……!」
デレク様はまるであたしに当てつけるかのように、そんなことをブツブツ言いながら頭を抱え込むようになった。……ふん。何よ、今さら。どうしようもない男ね。そもそもこの人がもっとしっかりしていれば、こんなことにはなってないはずでしょう?だって元々このフィールデン公爵家には聖女なんていなかったんだもの。歴代の領主様たちがしっかりと築き上げてきたなんやかんやを、この人が一人で潰しちゃったんだわ。
あたしがそれを責めると、デレク様は顔を上げ、血走った目でギロリとあたしを睨みつけ叫んだ。
「俺一人じゃない!!お前も一緒に潰したんだ!!この疫病神が!!」
やがてこの屋敷の前には領民たちが押し寄せるようになり、外は怒号が飛び交いはじめた。
「領主を出せ!!領主は何をやっているんだ!!」
「俺たちがこんなに苦しんでいるのに見殺しか!何故何もしてくれないんだ!!出て来い領主!!」
「自分たちばっかり贅沢しやがって!!税率を下げろ!補助金をもっと出せー!!」
パリーーーンッ!!
「きゃあっ!!……な、何よ……!」
衛兵たちでは防ぎきれなくなり、時折窓から石が投げ込まれた。あたしは恐ろしくなり、自室に引きこもりガタガタと震えた。ど、どうしよう……。そのうちこの屋敷の中にまでいきり立った領民たちが押し寄せてきたら……。
そんなある日、王宮から書簡が届いた。
怒り狂った領民たちが、なんと王宮に嘆願書を出していたのだ。今のフィールデン公爵領の悲惨な状況と、領主であるデレク様がろくな対応をしてくれないことを告発し、そしてこのままでは皆餓死してしまうなどと切実に訴え、何とかしてほしいと泣きついたのだ。それを目にした国王陛下が直々にデレク様にお叱りの文書を送ってきたのだった。
デレク様は半泣きになりながら、資産を整理して金を作り、領民たちの生活の立て直しに充てた。
屋敷の中から名画や高価な家具、価値あるアンティーク品などがどんどん消えはじめた。
あたしのドレスもアクセサリーも、いい品物は皆持っていかれた。
けれど、そんな一時しのぎを続けていたって、じわじわと広がる領地全体の貧困化は止められず。
ついにデレク様は公爵としての責務を果たす能力なしと判断され、爵位を取り上げられてしまったのだった。
「ああ……、俺は、これからどこでどうやって生きていけばいい……?誰か、助けてくれ……!うぅぅっ……。……お前のせいだぞラヴェルナ!何もかも!お前なんかに誑かされていなければ、俺の妻は今でもミシュリーのままだったんだ!彼女さえ……彼女さえ俺のそばにいてくれれば、何も失わずに済んだのに!!」
「しつこいわね!!馬鹿じゃないの?!全部あんた自身のせいなのよ!せいぜい平民になって地道に日銭を稼ぎながらどこかで生き延びなさいよ!!」
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以前のような豪華な食事も出ない。新しいドレスが買えないどころか、少しでも売れそうなものがあれば逆にどんどん買い取ってもらって食いつないでいた。
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陰鬱とした空気が漂う、ある夜の食事中。母が具の少ないスープを見つめながら生気のない声で言った。
「……エリストン辺境伯領?なんでまたわざわざあんな寒そうなところへ?」
母の脈絡のない言葉を聞き、ついに気が触れたのかもしれないと不気味に思ったあたしは、母を見つめてそう尋ねた。
母は光のない瞳でぼんやりと答える。
「……とても素敵なところなんですって。以前そこへ旅行に行ってきたというある子爵夫人から聞いたのよ。北国だけれど最先端の設備が整っているし、大きな街には流行のドレスやアクセサリー、何でも揃っているんですって。それに、娯楽もたくさん。観光客向けの楽しい場所や美味しい食事にお土産、何でもあるそうよ。今王国内で一番人気のスポットらしいの。……でも私たちには、もうそんなところへ遊びに行くお金さえないわ」
母の言葉を黙って聞いていた父は、持っていたパンを皿に置くと深いため息をついた。
「……あの北の領土は、うちとフィールデン公爵領を合わせたよりもまださらに面積があったはずだ。相当広い土地だぞ。なのに、順風満帆で。……羨ましいものだ。何故こうも違うのだか……。あちらだって以前は気候の安定しない、厳しい時期もあったはずなのに」
「……本当ね。……はぁ……」
母も陰気臭いため息をつくと、両手で顔を覆った。
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