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王立魔法学園編

24 解放

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 魔力の循環を意識して、そこから一点に収束させていくイメージ。

 溢れ出ていきそうな奔流を抑え、蓄える。

「――!?」

 魔獣が慄く。

 わたしの魔術を前に何か異変を感じているのか、その挙動に精細さを欠いていく。

「ガアアアッ!!」

 元より魔獣の狙いはただ一つ、聖魔法の使い手。

 その目標を打破すべく、彼女の前に出来た壁の破壊を試みる。

 岩の壁は亀裂が走り、その限界を迎えようとしていた。

「お嬢様、申し訳ありません……! 私の岩壁ストーンウォールはもうもちそうにありません……!」

 シャルロットの防御魔術は突破されようとしていた。

 だがむしろ、上級魔獣を相手によく二撃も耐えたと思う。

 他のどのクラスメイトにもそんなことは出来なかっただろう。

「あっ……あう……」

 リリーちゃんはどうすることも出来ずに、膝をついてしまっている。

 目の前に押し迫る上級魔獣を相手では、恐怖に押しつぶされてしまう事もあるだろう。

 そうさせてしまったのは、わたしの落ち度だ。

 だから、この場の責任はわたしがとる。

 遂に臨界点を迎えた魔力を、わたしは解き放つ。

「――地獄の業火インフェルノ

 渦巻く炎の連鎖。

 それがうねりとなって上級魔獣に向かっていく。

「ガッ!!」

 魔獣はそれに対抗しようと魔術を放つが、意味を成さない。

 業火の前では、それはそよ風にも成り得ない。

 炎は魔獣を捉え、その身を焦がしていく。

「グガアアアアアアアアッ!!!」

 断末魔の咆哮。

 その炎に焼かれ、成す術も無くその身は肉塊に成り果てる。

 事は一瞬、この場にいたイレギュラーは討伐された。

「ふぅ……」

 あー、久しぶりの魔術ということでちゃんと出るか心配だったけど、まあまあだったかな。

「お、お嬢様……? 今のは……?」

 首を傾げて、何事かと確認しようとしてくるシャルロット。

 そうだよねぇ、そうなるよねぇ。

 どうしましょうねぇ。

「なんか、頑張ってみたら出た、的な……?」

「さ、さようでございますか……」

 唖然とするシャルロット。

 さすがの彼女も上級魔獣をわたしが一撃で討伐するまでとは想像していなかったのだろうか。

 まあ、わたしもそこまでとは思ってなかったけど……もう何回か打つ準備してたし。

「見たかい……あれ?」

「うん、上級魔術……しかも詠唱破棄であの練度……」

「マジかよ……」

 身動きがとれなくなっていた攻略対象の子達すらも唖然としている。

 うーん。

 やっぱりこうなってしまったかぁ。

 この後のロゼはどう立ち回ればいいのか、それだけが心配になっていく。

「あ、ありがとうございます!ロゼさん!」

 すると今度はリリーちゃんが駆け寄ってくる。

 胸の前で両手を組んで、何度もペコペコしていた。

「あ、や、アレはなんかたまたま上手くいったと言いますか……」

「仮にそうだとしても、助けて頂いた事には変わりません。貴女は命の恩人です」

 う、うーむ。

 そうだよね、わたしが助けたことにはなるよねえ。

 本当は違うはずだったんだけど。

「き、気にしないで下さいな……。こんなの私にとってはどうと言うこともありませんのよ」

「凄いです……皆さんが敵わなかったのに、あんなに一瞬で……」

 いや、本当はこれをリリーちゃんがやるはずだったんだよ?

 わたしはあくまでリリーちゃんの代わりを果たしただけと言うか……。
 
 しかし、そんな事情など誰にも伝わるはずもない。

 わたしはひたすら崇められた。

 困る。

「ありがとう、本当に助かったよ」

「君の魔術はやはり別格だね」

「自堕落令嬢なんて言って悪かったな」

 その後、わたしは攻略対象たちに感謝と謝罪を受けた。

 それにもどう反応していいか分からず、わたしは苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

「お嬢様、やはり私の目に狂いはありませんでした。貴女こそ真の女神様です」

「本当ですね、ロゼさんはいつか世界を救う聖女になる方なのかもしれません」

 そんなことをシャルロットとリリーちゃんに言われて、わたしはますます反応に困った。

 ていうか聖女様に聖女いわれるって、どんな状況……?

 リリーちゃんの存在は未だ不透明。

 むしろ好感度はわたしの方が上がっているような気さえする。

「お……おほほほっ! ですわっ!」

 わたしのヤケクソな高笑いはしばらく洞窟内に空しく反響した。

 これからどうするべきなのか、わたしの苦悩はまだ終わりそうにない……。

 そこに嫌われ者のロゼはどこにもいなかったのだから。

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