18 / 25
王立魔法学園編
18 運命は切り開くもの
しおりを挟む数日後も、原作のような物語の進行はなかった。
一度、捻じ曲がった物語は黙っていては元に戻らないのだろうか。
そこでわたしは考えを改める。
「……こうなったら強硬手段に出るしかないわね」
ずっと上手く行っていない現状を打破する必要がある。
そのためには、もうこれ以上待っていても仕方がない。
今までのわたしは【原作のロゼ】にこだわりすぎていた。
悪役令嬢ロゼを演じてさえいれば、物語は上手く運ぶと思っていた。
だが冷静に考え直したのだ。
乙女ゲームの『聖なる君と恋に落ちて』はマルチエンディングを採用している。
そう。
わたしがロゼを完璧に演じきったとしても、そもそも物語はバッドエンディングに向かう可能性は大いにあるのだ。
それに現実というのは乙女ゲームのように優しくはない。
むしろバッドエンディングに物語が動くのは自然な事なのかもしれない。
どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのだ。
そうとなれば……。
「承知致しました。いよいよお嬢様の声明を王国中に出すのですね?」
教室でシャルロットが胸に手を当て跪いている。
わたしと彼女が主と従者ということは周知の事実だが、変に目立つ行為はやめて欲しい。
「いや、そんなことしないからね」
「え、それでは何を?」
物語が上手く進まないのなら、わたし自ら描けばいいのだ。
運命とは自らの手で切り開くもの。
わたしは勘違いしていた。
原作知識はロゼを中心に活かすのでなく、リリーを中心に活かすものなのだ。
そのため視線の先には隅っこで肩身を狭そうに座っているリリーちゃんに向かう。
「え? お嬢様の視覚情報を平民が奪っている……? 人の感覚の8割は視覚と言われています。つまり今、お嬢様の感覚のほとんどは平民に犯されている……?」
おかしいおかしい。
突然、狂ったとしか思えない変なことを口走るこの従者。
振り返ってみると、この子で進行が妨げられている事も多い。(レオの時とか)
今回、彼女には退場願おう。
「シャルロット、わたし今日のおやつにアップルパイが食べたいわ」
「かしこまりました。……ですが、珍しいですね? いつも節制されているお嬢様がお菓子をご所望されるだなんて」
「……う、うん。食べたい気分なの」
本当は毎日食べたいのを、我慢しているのだ。
だってロゼは細身のキャラだから。
わたしが原因で太ってしまって、可憐なビジュアルを崩すわけにはいかない……。
いや、気にし過ぎなのかな?
むしろ太った方が憎たらしさアップでより悪役令嬢としては完成度高くなるかな?
……。
いや、でも女子としてはそこは死守したい。
「食後に召し上がるのですか?」
「いえ、寄宿舎に帰ったらすぐに食べたいの」
「そ、そうでしたかっ」
威勢の良い返事とは裏腹に、シャルロットはあわあわと慌てだす。
「用意できる?」
「しょ、少々お時間を頂くとは思いますが……出来るだけ早急に準備致します。申し訳ありませんが、今日の所は先に帰らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
ふふっ、そうでしょそうでしょ。
シャルロットはこんな無理難題でも出来る限り対応しようとしてくれる。
そうとなれば彼女に出来るのはタイムロスを減らすこと。
必然的に先に寄宿舎に戻ることになる。
「ええ、構わないわ」
「丹精込めてお作り致しますねっ」
「楽しみにしているわ」
はいっ! とシャルロットは元気に返事をすると小躍りするように教室を後にしていった。
ああやって素直な態度をしてくれる時は可愛い子なんだけどなぁ……。
すぐに暴走するから、忘れそうになるけど。
「よし、それじゃミッションスタートね」
わたしは隅っこに座るリリーちゃんの元へ足を運ぶ。
「リリーさん、少しお時間よろしいかしら?」
「は、はいっ」
跳ねるように驚くリリーちゃん。
声を掛けられただけにしては明らかな過剰反応だ。
普段この子どれだけ話しかけられてないんだろ……。
ごめんね、わたしの進行が下手なせいで。
でも、挽回してみせるからね。
◇◇◇
「えっとロゼさん……わたしと一緒に行きたい所って……?」
「貴女は黙って付いて来なさいな」
「あ……は、はい」
こくこくと頷いてわたしの後をついてくるリリーちゃん。
連れて来て何だけど、すごい素直に来てくれたよね。
「こうして一緒に歩いていると、お友達みたいで楽しいですね……えへへ」
「……」
グサッ、と胸に矢が刺さるような思いだった。
本当だったらヒルベルトなりレオが貴女の孤独を埋めてくれるはずなのにね。
よりにもよって悪役令嬢に好意を持つとか……リリーちゃん貴女はだいぶ限界なのね。
その素直な思いの可愛らしさと同時に募る罪悪感でわたしの胸はいっぱいよ。
「……私に友達はおりませんわ」
「あ、そ、そうでしたかっ」
ロゼに友達はいない。
彼女を理解してくれる子は周りにはいなかったから。
今のわたしにはシャルロットがいるけど、彼女も従者であって友達ではない。
ある意味、ロゼはリリーよりも孤独な存在なのかもしれない。
まあ、当然の帰結だとは思うけれど。
「ここですわ」
そうして、わたしは【魔法研究室】と書かれた扉の前に立つ。
本来であればヒルベルトやレオに迫られたリリーちゃんが、逃げるように駆け込んだ先の展開なのだけど……。
当然、そんな流れはないので今回はわたしが連れてきた。
「入りますわよ」
「え、あ、はい……?」
刻印が刻まれているパネルに手を当てると、生徒として認証されている魔力を探知しドアは開錠される。
普段、この教室は学科の時にしか使用されていないのだけれど。
ここに入り浸る生徒が一人いるのだ。
「暗い、ですね……?」
教室の窓のカーテンは閉め切り、電気もつけていないため部屋の中は真っ暗だった。
「はい、どうぞっ」
わたしはそんなおっかなびっくりのリリーちゃんの背中を押す。
「あ、わわっ」
押されたリリーちゃんは勢い余って教室に飛び込んでいく。
「え、誰……」
――ドンッ!
困惑する低音ボイスと同時に爆発音が鳴り響く。
黒煙が巻き起こり、暗かった視界はより闇に包まれていた。
「けほっ、こほっ……な、なんでしょうか……この煙……」
状況を理解できないリリーちゃんは咳き込みながらキョロキョロしている。
煙が少しずつ消え、闇に眼が慣れていくと、その奥にいるシルエットが浮かび上がってくる。
「何って……それボクのセリフなんだけど……。研究の邪魔しないでよ」
ただでさえ暗い部屋で、なぜかフードを被り、紫髪を目元まで伸ばしている少年。
抑揚の少ない声は感情の起伏を感じさせない。
「す、すみませんっ。わたし、そんなつもりじゃなかったのですがっ」
「つもりでも、そうじゃなくても、結果は同じだから意味ないと思うけど」
「は、はわわっ」
慌てるリリーちゃん見て、少年は何か気づき弾くように顔を上げる。
「君、誰……?」
「り、リリー・コレットと言いますっ」
「リリー……ああ、君が噂の……珍しい魔法を使う人か」
「あの貴方の名前を伺ってもよろしいでしょうか……?」
「ボクは……ノエル・モニエ」
そう、彼こそが攻略対象の最後の一人。
そして非常に原作通りの展開で進んでいることに、わたしは歓喜しているのだった。
228
お気に入りに追加
692
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームのヒロインに転生したので、推しの悪役令嬢をヒロインにしてみせます!
ちゃっぷ
恋愛
恋人なし・友達なし・一人暮らしの乙女ゲーム好きなアラサー/星川夏菜。
ある日、ふっと気がついたら大好きだった乙女ゲーム『星降る夜に』のヒロイン/ナジマに転生していた。
腐った国/レイラと、心に闇を抱えたイケメンたちをヒロインが救うという乙女ゲームだったが……彼女にはイケメンたちなんてどうでも良かった。
彼女の関心を集めていたのは美しく聡明で誇り高い、ヒロインのライバルキャラとなる悪役令嬢/アミーラ・ファハンロ。
しかし彼女はヒロインがどのイケメンとどんなエンディングを迎えようとも、断罪・悲劇・裏切りの結末を迎えるキャラだった。
「つまりヒロインに転生した自分がうまく立ち回れば、悪役令嬢の彼女を幸せにすることができるのでは……?」
そう思い至った夏菜は乙女ゲームの世界に転生してもイケメンそっちのけで、大好きな悪役令嬢をヒロインにするべく画策する。
百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。
白藍まこと
恋愛
百合ゲー【Fleur de lis】
舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。
まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。
少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。
ただの一人を除いて。
――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)
彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。
あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。
最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。
そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。
うん、学院追放だけはマジで無理。
これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。
※他サイトでも掲載中です。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
虐げられモブ令嬢ですが、義弟は死なせません!
重田いの
恋愛
侯爵令嬢リュシヴィエールはここが乙女ゲームの世界だと思い出した!
――と思ったら母が父ではない男性との間に産んだという赤ん坊を連れて帰ってきた。彼こそが攻略対象の一人、エクトルで、リュシヴィエールは義弟をいじめて最後には返り討ちにあうモブだった。
最悪の死を回避するため、リュシヴィエールはエクトルをかわいがることを誓うが…
ちょっと毛色の違う前世を思い出した系令嬢です。
※火傷描写があります
※完結しました!ご覧いただきありがとうございます!
婚約破棄からはじまる追放された令嬢たちが新しい世界を作り、人類を救う物語1 〜勇者の敗北篇〜
藍条森也
ファンタジー
※第一部完結。
※第一部最終話『勇者死す』全六章あらすじ。
他国からも、二人の仲間からも見捨てられ、単身、鬼部と戦う勇者ガヴァン。しかし、鬼部の集団戦術の前に力尽きる寸前。そんなガヴァンを助けに現れたのは、かつての婚約者ハリエット。
「どうか、我々のもとに来てください。驕りさえ捨てれば、あなたは真の勇者となれるのです」
そう語るハリエット。
しかし、ガヴァンはハリエットを殴りつける。
「おれは神託の勇者だ! 雑兵共と一緒に戦ったりできるか! おれはひとりで鬼部共を倒してみせる!」
傲慢さの行き着くところ、勇者は斃れる。
そして、ひとつの歴史が終わり、新たな歴史がはじまる。
※『婚約破棄からはじまる棘付きハッピーエンドの物語1 〜勇者の敗北篇〜』より改題。
※短編たちが転生融合したら本格長編だった!
※『婚約破棄からはじまる棘付きハッピーエンド』シリーズがひとつになり、本格長編へと転生、融合!
メインヒロインは女王となる令嬢。
サブヒロインに売女と蔑まれる公女と、戦う母となる女剣士。報いを受ける男たちと、色とりどりの悪役令嬢も標準装備。
※あらすじ
鬼部たちの侵略を受ける人間界。レオンハルト王国の国王兄弟の婚約者である令嬢たちは、心からの諫言を繰り返すが入れられることはなく、婚約破棄された挙げ句、身ひとつで追放される。しかし、令嬢たちはそれぞれの場所で新しい世界を作り上げる。
一方、レオンハルト王国は国王兄弟の傲慢によって鬼部との戦いに敗北。令嬢たちの作り上げた世界に取って代わられる。そして、世界の命運をかけ、新しい人類世界と鬼部たちとの戦いが始まる……。
※『カクヨム』、『ノベルアップ+』にても公開。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~
月輪林檎
ファンタジー
人々を恐怖に陥れる存在や魔族を束ねる王と呼ばれる魔王。そんな魔王に対抗できる力を持つ者を勇者と言う。
そんな勇者を支える存在の一人として、聖女と呼ばれる者がいた。聖女は、邪な存在を浄化するという特性を持ち、勇者と共に魔王を打ち破ったとさえ言われている。
だが、代が変わっていく毎に、段々と聖女の技が魔族に効きにくくなっていた……
今代の聖女となったクララは、勇者パーティーとして旅をしていたが、ある日、勇者にパーティーから出て行けと言われてしまう。
勇者達と別れて、街を歩いていると、突然話しかけられ眠らされてしまう。眼を覚ました時には、目の前に敵である魔族の姿が……
人々の敵である魔族。その魔族は本当に悪なのか。クララは、魔族と暮らしていく中でその事について考えていく。
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる