上 下
20 / 25
王立魔法学園編

20 交友関係

しおりを挟む

「あー……上手くいかない」

 わたしは頬杖をつき窓の外を見ながら気付けば、ぼやいていた。

 思わず吐露してしまうくらい、悩んでいるのかもしれない。

「お嬢様の計画のことでしょうか?」

 隣にいるシャルロットが問いかけてくる。

「ええ、そうよ」

 魔力鑑定の水晶は割れて、ロゼの実力は半信半疑のままだし。

 ヒルベルトもレオもノエルも、聖魔法に興味をもたないし。

 (まあ、ノエルは若干あったけど……原作と比べると明らかに反応ちがうのよね)

 結果、リリーちゃんは一人ぼっちで自己肯定感が低いままだし。

「改めて伺いたいのですが、お嬢様がこれ以上学園の方々に嫌われる必要性はあるのでしょうか?」

「うーん……」

 原作のロゼは、リリーちゃんを蔑む嫌われ役。

 それを攻略対象の子たちがリリーちゃんを守ることで、距離が急接近。

 お互いに少しずつ意識していく……それが王立魔法学園編の大まかな流れだ。

 だが、最近むしろロゼの方がリリーちゃんのフォローに回っているくらいだ。

 完全に本筋とズレている。

 もちろんシャルロットにここまで説明はしていないが、こうしてわたしの溜め息ばかり見ていては彼女も疑問に思うのは無理はないだろう。

「いえ、初志貫徹。わたしは決めたことはやり通すのよ」

 そうは言っても諦めるわけにはいかない。

 なんせ彼女たちは魔王討伐を果たす勇者と聖女のパーティーだ。

 その進行が上手くいかないと、リリーちゃんが闇落ちして人類滅亡ルートに入ってしまう。

「お嬢様……その目的にはやはり【人類の救済】があるのですね?」

 シャルロットには8年前からこの悪役令嬢ムーブの目的は、人類存続のためと説明している。

 嘘は言っていないが、それを一切疑わないシャルロットも相変わらず恐ろしい忠誠心だ。

 だが、詳細を言わずともこの説明で協力してくれるので助かってはいる。

「ええ、その通りよ」

「ああ……女神様……」

 うん、この話するとシャルロットは絶対どこかに意識が飛んでいくのであんまりしたくないんだけど。

 とは言え、最初は原作知識を生かして、悪役令嬢ロゼを演じるだけの簡単なお仕事だと思っていたのに。

 正直、全然上手くいっていない事には頭を悩ませている。

 人類の運命はわたしの手に委ねられていると考えると、事が上手く運んでいないことには緊張感を覚えざるを得ない。

 ……気分、悪くなってきたな。

「シャルロット、わたしちょっと外の空気吸ってくる……」

「あ、お供を――」

「いえ、一人になりたいの。ちょっとだけでいいから」

「かしこまりました……」

 わたしの陰鬱な空気を察してくれたのか、シャルロットは押し黙って従ってくれるのだった。


        ◇◇◇


「はあ……」

 裏玄関から学園の外に出る。

 王立魔法学園は王都の中でも、かなり外れの方になる。

 大勢の生徒が実技訓練に魔術を使用するための広大な土地と、周囲への影響を考慮するとどうしても離れた位置になるのだそうだ。

 生徒の中には中央都市に住んでいる者も多く、この立地に文句を言いつつ実家から馬車を走らせ通っている生徒も多いと聞く。

 とはいえ、それだけに景観は自然に富み、裏口は特にその傾向が強かった。

 気分転換にはちょうど良い。

「わっ、ロゼさん……?」

「え、リリー……?」

 一人と思っていたのに、先客がいた。

 リリーちゃんだ。

 お互いにぽかんと口を開けている。

「ど、どうしたんですか? こんなところで」

「それはわたくしの台詞ですわ。貴女の方こそ、こんな所で何をしていますの? 私を待ち伏せていたのかしら?」

 危ない危ない。

 驚きで一瞬、素になってしまいそうだったがロゼを何とか取り繕う。

「あ、そうじゃなくて……ちょっと教室だと居場所がないので……」

 うむ……。

 なかなか言いづらいことを正直に打ち明ける子だねぇ。

 いや、この子は自分に自信がないだけで、基本的にいい子なんだよね。

 ある意味こうさせてしまっているのは、わたしのせいでもあるので罪悪感がある。

「そう、でも逃げてばかりでもいられないでしょうに」

「それは、そうなんですけどね……」

「この学園にいる限り、自分の力を証明しなければ貴女の居場所を作れませんのよ?」

「でも、ロゼさんは力を使ってませんよね? その……実技練習でも一切魔術を使っているのを見たことがありません」

 ええ、全部わたしはボイコットしていますからね。

『こんな簡単なカリキュラムでは、わたくしの実力は正しく測れませんの』

 とか言ってずっと教師を困らせている。

 ヴァンリエッタ家の看板が大きすぎて、教員の方々もあまり口を出せないのだ。

 ごめんねみんな。

 でもこれは原作のロゼ通りだから許してほしいの。

 話を戻そう。

「貴女は私の真似など出来ないのですから、自分の力を証明することに注力するべきです」

「そうなのかもしれませんけど……本当にわたしの魔法が必要とされているとは思えませんし……」

 あれ、思ったよりリリーちゃん病んでないか?

 やっぱり聖魔法に対して疑いを持ってしまっている。

 これは非常によろしくない。

「信じなさい」

「……え?」

「私には分かりますわ、貴女の力は必ず必要とされる日が来ます」

 主に攻略対象の子たちにね。

「そう、なんでしょうか……」

「ええ、その日は近々訪れるはずですわ。それまで貴女は自分を少しでも信じて、その力を高めなさいな」

「そうすべきだと、ロゼさんは思うんですか……?」

 揺れる瞳でリリーちゃんはわたしに聞き返す。

 うんうん、自信がないから確認したいんだね。

 心配性な気持ちはわたしも分かる。

「ええ、そう思いますわ」

「……そう、ですか」

 リリーちゃんはこくっと頷くと、その唇を強く引き結んだ。

「分かりましたっ、ロゼさんがそう言ってくれるなら少しだけですけど、自分を信じられるかもしれません」

 おお、よかったよかった。

 まだ闇落ちルートは回避できそうだ。

 リリーちゃんの悩みでここまで来たが、ちょっとだけ良い方向に向かってわたしも嬉しい。

 お互いにストレスが少し緩和された。

「ええ、期待していますわ」

「はいっ、ロゼさんのためにもわたし頑張りますっ」

 そうしてリリーちゃんは両手を強く握って、その場を後にして行った。

「うん、そんなに“ロゼのため”を強調しなくてもいいからね?」

 そもそもの敵対関係は、未だ作れないでいる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。 お友達、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・ ガチだったっ!? いろんな意味で、ガチだったっ!? 「マジやべぇじゃんっ!?!?」 と、様々な衝撃におののいているところです。 「お嬢様、口が悪いですよ」 「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」 という感じの、庇護欲そそる可愛らしい外見をした悪女の調査報告&観察日記っぽいもの。

他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林
ファンタジー
地面に頭をぶつけた拍子に、私は前世の記憶を取り戻した。 それは、他力本願をモットーに生きていた、アラサー女の記憶だ。 現状を確認してみると、今世の私が生きているのはファンタジーな世界で、自分の身体は六歳の幼女だと判明。 しかも、社会的地位が不安定な孤児だった。 更に悪いことは重なり、今世の私には『他者への攻撃不可』という、厄介な呪いがかけられている。 人を襲う魔物、凶悪な犯罪者、国家間の戦争──様々な暴力が渦巻く異世界で、か弱い私は生きていけるのか……!? 幸いにも、魔物使いの才能があったから、そこに活路を見出したけど……私って、生まれ変わっても他力本願がモットーみたい。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

【完結】『それ』って愛なのかしら?

月白ヤトヒコ
恋愛
「質問なのですが、お二人の言う『それ』って愛なのかしら?」  わたくしは、目の前で肩を寄せ合って寄り添う二人へと質問をする。 「な、なにを……そ、そんなことあなたに言われる筋合いは無い!」 「きっと彼女は、あなたに愛されなかった理由を聞きたいんですよ。最後ですから、答えてあげましょうよ」 「そ、そうなのか?」 「もちろんです! わたし達は愛し合っているから、こうなったんです!」  と、わたくしの目の前で宣うお花畑バカップル。  わたくしと彼との『婚約の約束』は、一応は政略でした。  わたくしより一つ年下の彼とは政略ではあれども……互いに恋情は持てなくても、穏やかな家庭を築いて行ければいい。そんな風に思っていたことも……あったがなっ!? 「申し訳ないが、あなたとの婚約を破棄したい」 「頼むっ、俺は彼女のことを愛してしまったんだ!」 「これが政略だというのは判っている! けど、俺は彼女という存在を知って、彼女に愛され、あなたとの愛情の無い結婚生活を送ることなんてもう考えられないんだ!」 「それに、彼女のお腹には俺の子がいる。だから、婚約を破棄してほしいんだ。頼む!」 「ご、ごめんなさい! わたしが彼を愛してしまったから!」  なんて茶番を繰り広げる憐れなバカップルに、わたくしは少しばかり現実を見せてあげることにした。 ※バカップル共に、冷や水どころかブリザードな現実を突き付けて、正論でぶん殴るスタイル。 ※一部、若年女性の妊娠出産についてのセンシティブな内容が含まれます。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

処理中です...