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王立魔法学園編

11 原作ルートに戻しましょう

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「ちょっといいかしら?」

 わたしはぼっちで座っているリリーちゃんの前に立つ。

 隣に座ろうかとも思ったが、親近感が出ても困るのでやめておいた。

 あくまでわたしは高飛車な悪役令嬢ロゼなのだから。

「え、あ、はい……なんでしょう」

 オドオドした雰囲気、呂律はちゃんと回らず、視線はキョロキョロ。

 それもそのはずで、主人公ヒロインであるリリーは、ここまで不遇な人生を送っている。

 両親からは聖魔法を気味が悪いと非難され、不当な扱いを受けてきた。

 魔法は破壊する術として発展してきた為、平民のコレット家にとっては謎の力でしかなかったのだ。

 そのためリリーは自信が持てず、常に周囲の反応を伺っている。

「え? この方、お嬢様に声を掛けて頂いたのにどうして生返事なんですか? 平民ですよね? 身に余る光栄なのですから、平伏くらいされたらどうですか?」

 真後ろでわたしにだけ聞こえる小声で頭のおかしいことを言っている人がいる。

 振り返る。

「ねえ、なんでついて来てるの?」

「常に主の側に控えているのが従者というものです」

 シャルロットだった。

 分かってたけど。

「や、今はいいから。席に戻ってちょうだい」

「いえ、私はいないものと思って、どうぞご歓談ください」

 あんな頭のおかしい発言聞いた後には無理に決まってるでしょ。

 しかし、シャルロットは断固として戻ろうとしない。

 なんだその固い意志。

 こりゃ言うだけ無駄だなと諦め、リリーちゃんに向き直す。

「貴女、一人でこんな所に座っていらして何をしていますの?」

「あ、その、授業を受けるため、ですけど……」

 それはいいんだけど、一人じゃ困るんだよねえ。

 恋愛対象と仲を深めてもらわないと。

わたくしはここでお勉強をしたいんですの」

「え、じゃあ隣に……?」

「いいえ、それも結構ですの」

 教室は自由席なので各個人で好きに座ることが出来る。

 なので、王子がリリーちゃんの所に来ないのなら、リリーちゃんが王子の所へ行けばいいだけだ。

「当然ですっ、お嬢様が平民の方と隣同士で座る必要なんてありませんっ。私がひざまづいて椅子となりますので、どうか私の背中にお座り下さい」

「シャルロット、お願いだから会話の邪魔しないでくれる?」

 けっこう大事なイベントなので、ロゼはそのキャラを維持しなければならない。

 愉快な主とおかしな従者をやっている場合ではないのだ。

「も、申し訳ありませんっ。そんなつもりでは……!」

 ちょっとガチめのトーンだったので、これはまずいとシャルロットが深刻そうに頭を下げる。

 いや、シャルロットはいつでも真剣ではあるのだけど。

 話を戻そう。

「ここはわたくしが使わせて頂きますので、貴女はあちらに行って下さらない?」

 わたしはヒルベルトが座っている席を目配せする。

 それを察したリリーちゃんだったが、すぐに首を大きく左右に振り始めた。

「王子の席なんてダメですよっ! 恐れ多すぎますっ!」

「今、貴女が会話している御方も恐れ多すぎるんですけどね」

「シャルロット?」

「はい、本当に申し訳ございません」

 今度からリリーちゃんとの会話でシャルロットと一緒にいるのはやめておこう。

 会話が全然進まない。

「貴女の力を殿下に見せればきっと興味を持って頂けますわ、自己紹介も兼ねて披露したらいいんですの」

 リリーちゃんの聖魔法は未だ皆さんにはお披露目できていない。

 順番はおかしくなってしまったけど、その力さえ見せておけば彼が興味を持つことは間違いない。

 そういう運命なのだから。

「あ、いえ、その……わたしなんかの力を見せても、誰も興味ありませんから」

 リリーちゃんはペコペコと頭を下げて、そんな大袈裟な力ではないと主張する。

 彼女はとにかく引っ込み思案で自分に自信がない。

 それを運命の男の子たちが手を差し伸べ、輝いていくのだけど……。

 とにかく、リリーちゃんの聖魔法はとっても有用なのでその価値をないがしろにしてはいけません。

「貴女の力は万物を癒す力があるのでしょう?」

 それが彼女の“聖魔法”の力。

 その選ばれた力は魔王を打倒し、世界を救済へと導くのだ。

「あ、でも、この前の水晶はわたし直せなかったので……やっぱり、役立たずな力ですよ」

「……」

 おい。

 わたしのせいでリリーちゃんが更に自信を失っているじゃないか。

「当たり前じゃないですか。貴女ごときの力でお嬢様の魔術を凌駕できるわけないじゃないですか。身の程を弁えてください」

「あ、あはは……そうですよね、勿論わかっています」

 あ、シャルロットがとうとう一線超えやがった。

 なんでリリーちゃんと直接話してるんだ。しかも煽ってるし。

 わたしはシャルロットの首根っこを掴む。

「シャルロット?」

「……申し訳ございません。どうしても気持ちが先走ってしまい、自分を抑えきれません」

「抑えてくれない? これ主からの命令ね?」

「かしこまりました。罰ならば如何様にでもお受け致します」

 いや、わたしはシャルロットとの付き合いが長いので知っている。

 この子は罰が罰にならないのだ。

 どうしてかは分からないが、わたしが罰を与えてもいつも嬉しそうにニコニコしているのだ。

 それゆえ、本当の意味で彼女は反省することが出来ない。

「廊下に立ってて」

「御意」

 シャルロットはそのまま廊下に向かっていった。

 最初からこうすればよかった。

「仲がいいんですね?」

「……アレを見て、どうしてそう思うの?」

「慕われていると思ったのですが」

「……変わってる子なのよ」

 この国の世界観ではシャルロットの態度は慕っていることになるのか。

 わたしはどうしてもそうは思えないのだけど。

 この国の生まれではないせいだろうか。

「いいこと? 貴女は、この学園の入学を許可されたのでしょう?」

「あの……はい、そうですけど……」

 ええい、こうなったら仕方ない。

 本当はヒルベルトから彼女の魔法についての認識を改めさせていくのだが、リリーちゃんが全然動こうとしないのだから仕方がない。

 ここはわたしが彼女の聖魔法についての重要性を説いてあげよう。

「それは貴女の力がこの国に認められている証拠に他なりません。ここは“王立魔法学園”、選ばれし者のみが通える学び舎なのです」

「そ、そうかもしれませんが……」

「そうに決まっています。ましてや貴女は唯一の平民、その力以外に何があってここにいると仰いますの?」

「は、はい……」

 ぶんぶんと壊れたオモチャのようにリリーちゃんは首を縦に振る。

 ちょっとわたしの圧が強すぎただろうか。

 悪役令嬢歴も長くなってきたので、オーラが漏れてしまうのかもしれない。

「つまり、その力は国王が認めたもの。それを殿下に見せることを躊躇う理由などどこにもありません。今すぐに見せるべきです」

「そうでしょうか……」

 これだけですぐに自信がつくものではないが、どこか納得しかけている様子もある。

 わたしは背中を押し続ける。

「お行きなさい、その魔法が世界を救うのだと宣言なさい」

「お、大袈裟すぎますよ……」

 リリーちゃんは渋々といった様子で席を立つ。

 わたしにこれだけ煽られたので、黙っていることも出来なくなったようだ。

 不安そうに胸の前に手を組み、背中を丸めながらヒルベルトの元まで歩く。

「あ、あの……ヒルベルト殿下、今よろしいでしょうか?」

「ん? ああ、君が例の……リリー・コレット君だったかい?」

「そ、そうですっ」

 向こうが知ってくれているとは思わなかったのだろう。

 リリーちゃんは慌てながら口をパクパクさせている。

「どうしたんだい、何か用かな?」

「え、えっと……その、ろ、ロゼさんから魔法を殿下に見せるよう言われて……」

 ええええっ。

 なんでわたしの名前出しちゃうかなぁ。

「あははっ、彼女の差し金か。理由は分からないけどユニークなことをするね」

「そ、そうですよね」

「ありがとう。君の魔法については父上から聞いているよ、何でも癒しの力を宿しているんだろう? その力はいずれこの国を救う礎になる、共に励んでいこう」

「あ、は、はい。ありがとうございました」

 そうしてリリーちゃんはお辞儀をして、早足でこちらに戻ってきた。

「あの……ヒルベルト殿下、もうわたしの魔法を知ってました」

「……」

 くそっ。

 予備知識だけはあったのか。

 しかも何か王子の常套句みたいなので軽く流されているっ。

「こうなったらヒルベルトを直接傷つけるしか……」

 そしてリリーちゃんに治してもらえば、その凄さが分かるかな?

「ロゼさん!?」

 おっと、変な事を口走ってしまった。
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