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王立魔法学園編

08 王立魔法学園に入学します

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 学園は荘厳な作りをしており、その一角で入学式が執り行われる。

 そこで各挨拶が終わると、“魔力鑑定”のイベントが発生する。

 この数値により、A~Fとクラス分けが決められていくのだ。

「来たわね……」

 もちろんこれは主要人物のためのイベントで、ロゼが悪役令嬢っぷりを発揮する場面でもある。


        ◆◆◆


 原作でのロゼは水晶に手を当て、魔力を開放する。

「な、なんですの、これは……!?」

 表示された数値は“3”

 この学園の生徒平均が50程度で、主要キャラは概ね100を超えている。

 上限は999ということを考えると、3という数字はどう考えても低すぎた。

 もちろんこれは魔術の鍛錬を怠ったロゼが、そもそも魔力の扱い方を全くコントロールできなかったせいである。

「陰謀ですわ、このわたくしがこんな数値なわけがありませんものっ」

 一人でヒステリックを起こすロゼ。

 その他者を寄せつけぬ物言いに周囲も困惑。

 公爵令嬢という立場と、彼女の悪評も知られていたので誰もあまり口出ししたくなかったのだ。

「こんなガラクタは今すぐ消えるべきですのっ」

 ロゼの暴挙は続く。

 鑑定結果そのものがおかしいのだと主張したロゼは、水晶玉を両手で持つと思い切り床に叩きつける。

 ばっくりと半分に割れてしまった水晶はその輝きを失ってしまう。

 これにはさすがの教師陣も慌てふためく。

 水晶玉に替えがないからだ。

 今後の運営そのものが変わりかねない事態に、皆が震撼している中……。

「あ、えっと……直すヒール

 そこに一人の少女が手をかざし魔法を放つと、割れた水晶玉は再び一つになり輝きを取り戻す。

「こ、これで良かったでしょうか……?」

 その治癒を司る“聖魔法”の使い手こそ、今作の主人公ヒロインである“リリー・コレット”だった。


        ◆◆◆


 という流れだ。

 基本的にこの世界で治癒魔法はなく、アイテムによる肉体回復を基本としている。

 極めて希少な魔法という理由で平民でありながら入学を許されたリリーは、これを機に生徒の関心を集めるイベントになるわけだ。

 さすが悪役令嬢、ヒロイン様への完全なアシストだ。

 そしてわたしはそれを再現すればいいだけ、簡単すぎる仕事だ。

 あくびが出るぜ。

「ロゼ・ヴァンリエッタ、前へ」

 教師に名前を呼ばれる。

 ロゼの順番は原作通り一番最後だった。

 遂に来たか……。

「お嬢様、お嬢様っ。呼ばれましたよっ、出番ですよっ」

「分かってるからっ」

 後ろのシャルロットがめっちゃ催促してくる。

 ちなみに彼女も従者として一緒に入学している、貴族であり魔術にも心得はあるらしい。

 緊張感が台無しになったが、まあいい。

 やることは簡単なのだから。

 わたしは壇上に上がり、水晶玉に手をかざす。

 後は魔力を込めるだけ。

 ……。

 あれ、ちょっと待ってよ?

 そもそも“3”って、どうやったら出せるんだ?

 わたしは魔術の鍛錬を行っているため、本気を出すと絶対3は超える。

 魔力鑑定なんてしたことないけど、少なくとも1桁ということはないはずだ。

 ……まあ、大丈夫か。

 魔力を絞って出力すればいいだけだ。

 わたしは水滴を一滴だけ垂らすようなイメージで魔力を放つ。

 ――ピシッ

「……ん?」

 なんか聞き慣れない音が聞こえた。

 水晶玉はその光の点滅を繰り返してばかりで、数値を表示しない。

「え? 鑑定不可? 魔力が上限超えしている?」

 教師が頭を傾げておかしな事を言い出す。

 いやいや、そんなわけないから。

 わたしが魔力を出し惜しみしすぎて水晶が困惑しているのだろう。

 ゼロに近しい値を出してしまったのかもしれない。

 もしかしたらこの原作イベントには強制力が働いて、ちゃんと魔力を出力すれば3になるよう設定されているのかもしれない。

 そうだ、そうに決まっている。

 というわけでわたしはいつも通りに魔力を開放した。

「えい」

 ――バアンッ!!

 はじけ飛んだ。

 水晶が粉々になって粉末状になってしまった。

「……」

「……」

 教師もわたしも沈黙。

 え、なにこの状況。

「お嬢様ー! 水晶でも計り知れないその魔力! 流石でございます!」

 その一言に学園全体に動揺が走る。

 ちなみにそんな事を言うのはシャルロットを置いて他にいない。

 わたしは初めて彼女にキレそうになった。

 水晶を破壊する魔力とかはっきり言って異次元だ。

 宮廷魔術師だって出来っこない。
 
 だから、これは何かの間違いに決まっている。

「え、そんなこと可能なのか……?」

「でもヴァンリエッタって、自堕落な令嬢という噂だったはずだが……」

 わたしのおかしなパフォーマンスと、釣り合わない前評判にひそひそ声が止まない。

 や、やめろい。

 わたしは立場を振りかざす口だけ達者な悪役令嬢。

 そのキャラクターを破壊するわけにはいかないんだよっ。

 待ちなさい、落ち着くのよロゼ。

 “水晶玉が壊れた”という意味では原作イベントと同じ!

 そうだ、まだなんとなかる!

 周囲を見渡す。

 ヒロインのリリー・コレットを発見するが、口をあんぐりとしているばかりで出てくる気配がない。

 なにしてんのかなぁっ。

「リリーさん! そこにいる平民のリリー・コレットさぁん! 前へ!」

 もう仕方ないのでわたしが名前を呼ぶ。

 大丈夫、彼女がこの水晶を直せば原作通り。

 リリーは困惑した表情で壇上に上がってくる。

「あの……えっと……」

 リリーの赤茶色の髪はクセで少しうねり、目鼻立ちは整っているがまだ垢ぬけない。

 そんな彼女も恋愛対象と恋をしていくことで磨かれていくわけだが、まあそれは追々キミ達で勝手にやってくれ。

「このガラクタを直して下さいな、貴女にはその力があるのでしょう?」

「……どうして、私の魔法を知っているのですか?」

 困惑気味のリリーちゃん。

 確かに初対面なのでそのことをロゼが知っているのはおかしい。

 しかし、そんなことを説明できるわけもない。

「私への質問は許可しておりませんわっ、貴女は指示通りに動けばいいのよっ」

「あ、は、はいっ」

 こういう時は悪役令嬢ムーブで誤魔化す。

 便利だな、高飛車な貴族キャラ。

 リリーちゃんは慌てながら粉末に手をかざす、かなりシュールな画だった。

直すヒール

 リリーは白く輝き始める、聖魔法特有の発光現象だ。

 その魔力が粉末に注がれていく。

 後はこの水晶がガラクタで陰謀だと言って原作通りにすればいいだろう。

 危なかった。

 間一髪だった。

「えっと……ごめんなさい、直せません」

「は?」

 しかし、粉末は粉末のままだった。

 なにしてくれてんの?

「この水晶はその役割を果たし終えたのだと思います。私は命を失った人は治せません、物も同じで機能を停止してしまうと直せないんです」

「えっと……つまり……?」

 わたしの冷や汗が止まらない。

 どう言い繕うか、脳は高速回転し続けている。

「我が主は、伝統である魔力鑑定を根底から覆してしまう底なしの才能の持ち主! 神童! いえ、女神様ですねっ!」

 そして最悪の合いの手を入れる従者。

 ……あれ。

 ロゼの無能っぷりを発揮できてないし、リリーちゃんも全然目立ってない。

 このイベントが聖魔法のお披露目となり、恋愛対象キャラがリリーちゃんに興味をもつきっかけになるはずなんだけど……。

「きょ……今日の魔力鑑定はこれで終了とする!」

 どうしようもなくなった教師陣はひとまず入学式を終えようとしていた。

 そして、わたしの脳は急停止した。

 もうどうしたらいいのか分かりません。

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