国外追放されたい乙女ゲームの悪役令嬢、聖女を超えた魔力のせいでヒロインより溺愛されて困まっています。

白藍まこと

文字の大きさ
上 下
5 / 25
プロローグ

05 妹が天真爛漫で困ってます

しおりを挟む

「さてお嬢様、今日は何を致しましょう?」

「……」

 朝になるとシャルロットは当たり前のようにわたしに尋ねてくる。

 今日のわたしの悪役令嬢ムーブをどうするか聞いているのだ。

「靴を舐めさせる……というのは如何いかがでしょう?」

 これだけ澄んだ瞳で汚れ仕事を請け負おうとする人物はシャルロットしかいないんじゃないだろうか。

 最近慣れつつあるわたし自身も怖くなってきた。

 すぐに首を振る。

「毎日そんなことばっかりしてたら使用人達も刺激が多すぎて疲れてしまうでしょ。一週間に一回程度にしようって話したばかりじゃない」

 普段は生意気な小言を定期的に言っておいて、週一でシャルロットにパワハラ(演技)をするのだ。

 それくらいの頻度で十分でしょ。

 使用人達はすっかりわたしに怯えているし、王立魔法学園に入学するのにも8年は要するのだから慌てる必要はない。

「で、ですが……」

 なのに、どうして拒もうとするんだいシャルロット?

 こんなこと毎日するあなたが一番大変なのよ。

 頻度が減ったんだから、もっと喜ぶべきだと思うんだけど?

「はいはい、わたしはお散歩に行くから。シャルロットは仕事しててねぇ」

 一緒にいるとシャルロットはすぐに変なことを言い出すので話を切り上げる。

「最近よく一人で外出されていますが……何をされているのでしょうか?」

 うん?

 魔術の自主練なんだけど。

 ロゼは怠惰設定なので、そんなことは言えない。

「わたしの次に美しいお花を愛でているの」

 咄嗟に思い付いた言い訳は、いかにも頭がアイタタな発言だった。

 悪役令嬢が板についてきたかもしれない。

「お嬢様からの愛を授かる花々は、さぞかし可憐に咲き誇るのでしょうね……」

 頬に手を当て、うっとりとした表情でつぶやくシャルロット。

 やっぱりこの子おかしいわ。


        ◇◇◇


 今日も通常運転で暴走している(日本語おかしい)シャルロットから逃れ、わたしは渡り廊下を歩く。

 屋敷は無駄に広く、外に出ようとするだけでも結構距離がある。

 すれ違う使用人たちは次々に深々と頭を下げていた。

 視線は一切合わない。

 うん、やはり相当怖がられているようだ。

 非常に心苦しいが、これはわたしが望んだことなので仕方がない。

「お姉さまー!」

「うげ……」

 すると、陽気な声でわたしに声を掛けてくる人物が一人いた。

 振り返ると、そこには銀髪を揺らした少女が駆け寄って来ていた。

「シルヴィ……」

 ロゼと似た顔立ちで、一回り小柄な少女の名はシルヴィ・ヴァンリエッタ。

 そうです、一つ違いの妹です。

「はい! お姉さま!」

 いや、あなたが駆け寄ってきたから名前を呼んだんだよ。

 なんでそっちが受け身になって挙手してるのかな。

「いや……何か用?」

「はい! お姉さまがいらっしゃったので思わず声を掛けてしまいましたの!」

「……それだけ?」

「それだけです、今日もお美しいお姉さまを見たら居ても立ってもいられませんでしたの!」

 なんだよこの天真爛漫さ……。

 わたしはもう精神年齢で言うとそこそこ……こほん。

少し大人寄りなのでこのテンションが若干ツラい。

 可愛いは可愛いんだけど、相手するのはちょっとね……。

「あ、ありがとね……じゃあ、わたしはこれで……」

「どちらに行かれるのですか?」

「えっと……外に……」

「ご一緒しますわ!」

 瞳を爛々らんらんに輝かせるシルヴィ。

 これだよ、これがあるからわたしはこの子に会いたくないのだ。

「外は危ないから……だめ」

 これがシルヴィの同行を断る常套句。

 基本的に箱入り娘なので、これが有効なのだ。

「聞いて下さいお姉さま、先日お父様にお尋ねしましたら“お姉さまとご一緒なら良い”と許可をいただきましたの!」

 両手を合わせて、ぴょんぴょん飛び跳ねるシルヴィ。

 どうやら喜びを体で表現してるらしい。

 いや、可愛いよ? 可愛いけどさ……。

 お父様も困るんだよね、勝手に許可出されるの。

 シルヴィの決定権はわたしにも話を通すように今度伝えておかねば。

「外に出ても何も面白くないよ?」

「お姉さまとご一緒なら何をしても素敵な思い出になりますわ!」

 そっか、なら、いっか。

 ……。

 はっ!?

 ちがう、ちがう。 

 ダメだ、ダメだ。

 シルヴィのお口なんて紙切れよりも軽いのだから、魔術の練習なんて見せたらすぐに吹聴してしまうに決まっている。

 そして、それを聞きつけたシャルロットがスピーカーになって屋敷内に広めてしまうに決まっている。

 あぶねえ、とんだトラップだ。

 純粋無垢の破壊力は恐ろしい。

「いや、でもちょっと一人になりたい気分なんだけど」

「え……そうなんですの……」

 さっきまでの明るさが嘘のように消え去る。

 うつむき加減になって明らかに残念そうに唇をとがらせていた。

 え、あれ……しかも、ちょっと涙目に見えるの気のせい?

「わたくし、お姉さまとご一緒できるとずっと楽しみにしていましたのに……」

「がはっ」

 や、やめろ……。

 なんで一緒に外を歩くだけでこんなに一喜一憂できるんだよ。

 幼い見た目も相まって罪悪感が押し寄せまくるんですけどぉ……。

 だめだ、意思を強く持てわたしっ。

「ま、また今度ね?」

「……わかりました。お姉さまの邪魔はしたくないですの」

 そ、そうか。

 納得してくれたか……。

「じゃ、じゃあ……」

 わたしは踵を返そうとして、ドレスに抵抗感を感じて動きを止める。

 よく見ると、シルヴィがわたしのドレスの裾を掴んでいた。

 なんか体を揺らして、いじいじしている。

「シルヴィ? その手は……?」

「……なんでもないですの」

 しかし、その手がドレスを離すことはない。
 
 や、やめてよぉ……。

 そんなことされたらこっちも困るじゃああん。

「……シルヴィ」

 そもそもシルヴィに対しての関りをわたしは非常に困っていた。

 というのも、シルヴィは立ち絵こそあったものの登場シーンはほとんどない。

 しかし、ロゼに似た高飛車で傲慢という位置づけで、いかにヴァンリエッタ家が歪んでいるのかを象徴するキャラクターだった。

 違いがあるとするなら、基本的にシルヴィは姉のロゼを尊敬しているため、その行動様式は全てロゼからの影響を受けている。

 つまり姉を尊敬するがあまりに高飛車になっているだけなので、ロゼほど性根は曲がっていないのだ。

 言わばミニ悪役令嬢がシルヴィである。

 なので現時点のシルヴィは、それはもうめちゃくちゃいい子だった。

「ちょ、ちょっとだけだよ……?」

「……! よろしいのですか!?」

 ぱぁっと花のような笑顔を咲かせるシルヴィ。

 ま、まぶしぃ……!!

 こ、こんな子を邪険に扱えねえぇええ……。

 果たしてわたしはこの子をミニ悪役令嬢にできるのか……自信は全くない。

「さあ、それでは参りましょう! お姉さま!」

「あ、うわ、ちょっと……」

 わたしの手を掴んで走り出すシルヴィ。

 揺れる銀髪が光り輝いていた。

 にこにこ笑顔を振りまくその姿を見ていると……。

「まあ、いっか」

 そう思ってしまうのだった。

 魔術の鍛錬は少しだけ後回しにしよう。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと
恋愛
 百合ゲー【Fleur de lis】  舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。  まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。  少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。  ただの一人を除いて。  ――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)  彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。  あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。  最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。  そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。  うん、学院追放だけはマジで無理。  これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。  ※他サイトでも掲載中です。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

処理中です...