クールすぎて孤高の美少女となったクラスメイトが、あたしをモデルに恋愛小説を書く理由

白藍まこと

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22 関係性を明確に

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 あたしは頬杖をつきながら、教室全体を見渡す。

 よそよそしかった春の空気も、皆が打ち解け合い、和やかな雰囲気を帯び始めている。

 その中に二人、異質な存在がいる。

 あたしと氷乃ひのである。

「……ん~」

 困ったな。

 あたしと氷乃が浮いていることに関してではない。

 クラスメイトは、あたしと氷乃に対して無意識的に遠ざけているだけで悪意はないのだから。

 それはそれでどうかとも思うが、集団とは時にそういう状態になることがある。

 それは昔からのことで、もはや慣れきっている。

「テストか……」

 そう、問題なのは中間試験だ。

 人間関係もそうだが、勉強も進んでいく。

 迫りくるテストのカウントダウンに、あたしは溜め息を抑えずにはいられなかった。

「鬱陶しいわね」

 すると隣から刺々しい批判的な声を頂く。

 クラスに馴染まない片割れ、氷乃朱音ひのあかねだ。

 しかし、あたしにとっては唯一声を掛けてくれるクラスメイトなので、正直最近はハッピーを感じる相手になってきている。

「もうすぐ中間試験じゃん? 勉強憂鬱だなって」

「……私は、貴女の怠惰を聞かせてなんて言ってないのだけれど」

 氷乃がなんか言っているが気にしない。

 ツンケンしているが、彼女は基本的に言えば返してくれる。

 クラスメイトは今の一言でたじろぐだろうが、あたしはそんなのお構いなしで話を続ける。

「勉強得意な氷乃はいいよなぁ。中間試験も余裕でしょ?」

「余裕と言うほどではないけれど、授業は受けているのだから復習すれば誰だって結果は出せるわよ」

 才女は当たり前のように口にする。

 いやいや、それが出来ない人がどれだけ多いことか。

 少なくともあたしは勉強が苦手だから、どうしたものかと考える。

 さすがに高校生活の初めから赤点連発みたいなのは避けたい。

 だが、このままではその可能性が非常に高いという事も理解している。

 そこでひらめいた。
 
「あたし、勉強苦手なんだよねぇ」

「そう。なら努力を惜しまないことね」

「誰か教えてくれないかなぁ~」

 チラチラ、と。

 あたしは氷乃に何度も視線を送る。

 届け、この想い。

「先生ならもう職員室に戻っていったわよ」

「ちがう、ちがうっ!」

 この鈍感っ子。

 どうして君は分からないのか。

 “はあ?”と氷乃から見下みくだされるが気にしない。

「先生じゃなくて、クラスメイトに教えてもらった方が気兼ねなく質問できてやりやすいなぁ。みたいな?」

 さすがにここまで言えば分かるでしょ。

「ぼっちの貴女には難しかったわね。人間関係を円滑に築けないと、こういう場面でもつまづくのね。教訓になったわ」

 ディスりすぎだろっ。

 ぼっちの不利益を言語化するなっ。

 同じ境遇のはずなのに、見下ろされ続けてさすがに不快っ。

「氷乃が教えてよっ」

 遠まわりが通じないので、直接言うしかなかった。

 すると氷乃は途端に表情を歪める、とても面倒くさそうだ。

「どうして私が貴女の怠惰を埋め合わせしなきゃならないの?」

「友達ってそういうものじゃんっ」

「友達じゃないわよ」

 なんでだよっ。

 そろそろ認めてくれてもいいだろっ。

「いいじゃん、教えてよ~。氷乃しか頼れる人いないんだよぉ~」

 駄々をこねる。

 力技で押し通す。

「自分のことくらい自分でどうにかしなさい」

 くそ。

 氷乃は、あたし個人のことになると本当に冷たいな。

 あたしとしてはもっと氷乃と仲良くなりたいのに。

 小説じゃなくて、人としてなっ。

 仕方ない、奥の手を使うか。

「氷乃、これは展開のチャンスだから」

「……どういうことかしら」

 ピクリと眉間に皺を寄せる氷乃。

「ヒロインが苦手な勉強を、手取り足取り教えてあげる主人公。この関係性は距離感をぐっと近づけるチャンスでしょ?」

「一理あるわね」

 食いつき良すぎ。

「だからね、氷乃も恋愛を知っておくならこれはやっておくべき」

「分かったわ、話に乗ってあげる」

 相変わらずの急展開。

 あたし個人なら門前払いなのに、恋愛小説のためなら即決。

 価値観がバグっている。

 嬉しいのにどこか腑に落ちない。

「それで、勉強はどこでするのかしら?」

「あー……」

 勉強ともなると、それなりに時間を要するし話す事も増えるからな。

 そうなるとあんまり目立つ学校には居るべきではないし、近隣のカフェも同様。

 かと言ってあたしがお願いしている立場なのに氷乃の家を指定するのも図々しいし……。

「あたしの家とか?」

「……それも珍しいわね」

 確かに。

 思いつきで言ってみたが、確かに初めてだ。

 それに、これはとても親しい仲だからこそ出来る行為だと思うし。

 うんうん、アリだな。

 若干身構えている氷乃だが、彼女を納得させる言葉は思いついている。

「お互いの家に行くのは恋愛関係なら当然でしょ?」

「それもそうね」

 最近思うんだが、もしかして氷乃って実はチョロいのではなかろうか?


        ◇◇◇


「ここ」

 放課後、家の前に到着。

 築年数そこそこの一軒家を、見上げる氷乃。

「家族はいらっしゃるの?」

「あー、そうだね。ママはいると思うよ」

 パパは働いているので夜まで不在だ。

「そう」

 それだけ聞いて満足したのか、氷乃はあたしを催促する。

「早くしてちょうだい。家の前で立っていても何も出来ないわ」

「りょーかい」

 鍵を開けて、あたしは扉を押す。

 ――ダンッ!

 開かなかった。

「……なにをしているの?」

「あ、間違えた」

 開き扉だった。

 全力で押していた。うっかりさんだ。

「そんなことある?」

 首を傾げる氷乃。

「あはは、やっちゃった」

 失敗失敗、とあたしは冷静に玄関に入る。

「ただいまー」

 家にいるであろうママに対して声を掛けて、玄関に上がる。

「……貴女、土足よ?」

「うわっと!?」

 靴を脱ぐのを忘れていたっ!

 慌てて靴を脱ぐ。

「日本仕様でいいのよね?」

「うん、土足厳禁っ」

 危ない危ない。

 あたしとしたことが、何をしているんだ。

「さっきから様子がおかしいように見えるのだけれど、何かあった?」

「ん? ううん、特に何も」

 ですよね、おかしいですよね。

 薄々それはあたし自身も感じていた。

 だって友達を家に招くなんて記憶にない行為だ。

 これで緊張しない方がおかしい。

 そうでもないのか?

 普通が分からない。

「お帰りなさーい……って、あら?」

 リビングから顔を出したママが、あたしの後ろにいる氷乃を見て目を丸くする。

 当然だ。

 初めてあたしが連れてくるクラスメイトなのだから。

「まあ、詩苑しおんのお友達?」

 落ち着け、あたし。

 これ以上、無様な姿は見せられない。

 スマートに彼女を紹介し、部屋に招く。

 大丈夫、あたしのミッションは簡単だ。

「初めまして、クラスメイトの氷乃朱音ひのあかねと申します」

 氷乃は丁寧にお辞儀をする。

 彼女の所作に問題はない。

 後はあたしが引き継ぐだけだ。

「そう、彼女とはただの恋人同士だから。今日は一緒にテスト勉強するの」

『――!?』

 あれ、なんだ。

 ママと氷乃の空気が硬直している。

「恋人、同士?」

 ママがあたしの言葉を反芻する。

 うん?

 何か変なような……。

「はっ!?」

 まちがえたっ!

 設定を口走ってしまった!

「……朝日あさひさん?」

 後ろから冷たい声が突き刺さる。

 なぜだ。

 初めて氷乃があたしの名前を呼んでくれたのに、振り向けない。

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