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38 勘違いは証明出来ない

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「……それで? 貴女達の外出理由って何だったかしら?」

「「……はい」」

 寄宿舎には共用スペースがあり、基本的には食事の際に用いられる空間なのだが。
 今のあたしとルナはそこで正座を強いられていた。
 それを見下ろしているのは一年生にして生徒会副会長の千冬ちふゆさんである。

「“はい”では何も分からないわ、私は貴女達の外出理由を聞いているのよ?」

 そして、なぜ千冬さんはこの厳しい剣幕なのか。
 その理由はとっても単純で、あたしもルナも言い訳に困っているからである。

「“生活用品の買い出し”……だけど?」

 ルナはいい加減この状況にうんざりしてきたのか、脱力気味に言い放つ。
 しかし、千冬さんは千冬さんでその態度が気に入らないのか眉を引き攣らせる。

「じゃあ、どうして貴女達二人は手ぶらなのかしら?」

「「……」」
 
 おい、ルナそこで黙らないでちょうだいっ。
 二人で黙ったらもう認めちゃったようなものでしょっ。

「買い出しで外出したはずなのに、手ぶらで帰って来る人がどこにいるのか教えてくれる?」

 そうなのだ。
 あたし達はお出掛けに浮かれ過ぎて、その大義名分を忘れてしまっていた。
 とりあえずでもいいから買っておけば良かったのに、何もない状態で帰って来たタイミングで千冬さんに遭遇してしまい、お説教を受ける事になってしまった。

「……ソールドアウト」

「生活用品が売ってない事なんてないわよねっ」

 苦し紛れのルナの言い訳に、千冬さんが当然の反論。
 さすがに苦しすぎる。

「本当になかったんだから仕方ない……ね、ユズキ?」

 ルナがあたしに同調を求めてくる。
 二人で意見を合わせれば説得力が上がる……気は全然しないんだけど。

「そ、そうだね、なかったねっ」

 とは言え、遊んでましたと認めるわけにもいかない。
 暗黙の了解で学院が認めてくれると言っても、遊んでいたと公にしてしまえば許されるはずもなく。
 今後の影響を考えると、否定するしかない。
 ゆずりは柚稀ゆずきにはクリーンなイメージが必要なのだっ。

「そもそも貴女達の言う生活用品ってなに、具体的に何を買いに行ったのよっ」

「うわ……立場を使ってプライベートを聞いてくるの、こっちではパワハラって言うんじゃないの?」

 ルナが引いたような表情を浮かべ千冬さんの追及を回避しようとする。
 生活用品の具体的な商品名挙げたら絶対に売り切れてない事がバレるからね。

「誰がパワハラよっ」

「副会長の座を良い事に、ルナとユズキのプライベートを覗き見ようとしている」

「そんな趣味ないわよ、これはクラスメイトとしての質問よっ」

「クラスメイトが外出の事で口を出すべきじゃない、スズカゼちょっと面倒」

 “ぶちぃっ”と千冬さんの何かがはち切れる音が聞こえた。
 あ、怒ったなと直感する。
 あたしは顔を伏せてきたる天災に備える。
 身を守れー。

「どうせ二人で遊んでいただけなんでしょっ、白状しなさいっ!」

「スズカゼ……自分が一人だからって八つ当たりはやめて欲しい」

「一人、私が一人!? それは貴女の方でしょっ!?」

「……ふふ、ルナはもう一人じゃない」

 隣で正座していたあたしの肩を寄せて密着するルナ。
 ふんと鼻を鳴らすルナだが、あたしを味方につけた所で勝ち目はないんだぞ。

「人が注意しているのに、何で抱き着いているのよっ」

 更に怒りのボルテージを上げていく千冬さん。
 血管切れちゃうよ。

「二人一緒だからね。……あ、そうか、一人のスズカゼは出来ないもんね?」

「人を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ、ルナ・マリーローズ……!」

 もはや最初の問題提起はどこへ行ったのか。
 迷子の議論にあたしは沈黙を貫く。

ゆずりはも黙ってないで、貴女も白状するなり弁明するなり自分のスタンスをはっきりさせたらどうかしら!?」

 と思っていたが、それは千冬さんに見抜かれていたようで注意を受ける。
 急に放たれた矢にあたしはぶるりと身をすくめる。

「えっと……あたしは買い物したんです」

「だから、何も買っていないじゃないっ」

「いえ、洋服が後日届くので……だから、あたしは買い物したんです」

 そこで千冬さんの追撃が止まる。
 “なるほど、後日配送のパターンか”と言ったニュアンスだ。

「……まぁ、洋服も生活用品の一部になるのかしら」

 で、ですよねぇ……。
 お洋服着ないと生活出来ませんからねぇ。
 これはあたしだけの抜け道だし、正確にはルナママに買ってもらった物だからグレーすぎて言うには気が引けてたんだけど。
 あまりに劣勢だったので思わず言ってしまった。

 しかし、これではあたし一人抜け出すような形になった。
 ルナに対しては気まずさで直視出来ないのだが、横目でちらりと見たらルナがぽんと手を叩いていた。
 何か妙案でも思い付いたのだろうか。

「そうだ、ルナも買い物したの忘れてた」

「この期に及んで何よ……まぁ、公平性を保つために一応聞くけど」

「ランチにハンバーグを食べたの、生活には必要な事」

 ……ああ、そっちに行ったのか。
 でも、それは難しいんじゃないかなぁ。
 ほら、千冬さんの表情が見る見るうちに怒ってきてるもん。

「それはただ貴女が楪とお昼を食べただけの話じゃない、生活用品に食料は含まれないわよっ」

 当然すぎる反論だった。
 だというのに、ルナは涼しい顔をしたままだ。
 なにその余裕。

「わお、そうなの? 日本語って難しいですね」

 日本語を知らないうっかりさんを演じていた。
 そっちで行ったか……。

「学院首席の貴女がこの程度の日本語を勘違いするわけないでしょ……!」

「勉強の成績で一括りにされるの悲しい。ルナだって間違うことあるのに……」

「ちょっ、卑怯よそれっ。私が悪いみたいになるじゃない!」

 とは言え、ルナの間違いを証明をする事は誰にも出来ないので千冬さんはそれ以上追求する事は出来ずに泣き寝入りとなるのだった。
 何と言うか……さすがの立ち回りだね、ルナ。
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