18 / 52
18 あたしの知らない上坂さん
しおりを挟む飯田と休みが重なって八重子は久しぶりに喫茶店に入った。
職業病とでも言うのだろうか、床のワックスが所々剥げていることとか照明器具の上に埃があることなどに目がいくようになった。
飯田は八重子に痩せましたね、心労からですか?と言いにくそうに尋ねた。
八重子は笑いながら、仕事に出るようになったからですよ、と答えた。
八重子は飯田に現状を話しながらコーヒーに角砂糖を沈めた。角砂糖は茶色く染まって端からサラサラと崩れていく。
「もしかしたら菜摘が進学する頃には離婚するかもしれません。」
八重子は真っ直ぐな目をしてそう語った。
「菜摘ちゃんは大丈夫ですか?涼華の話だといつも朝早くから勉強して家でもしてるみたいって。」
「菜摘は佑みたいに自分を追い込んでまで勉強しませんよ。大丈夫です。」
飯田はおずおずと話しだした。
自分は涼華が小さい頃離婚して寂しい思いをさせたとか、別れた旦那が養育費を振り込んでくれなかったとか、苑田の事で力になれなかったなど、話すごとに萎縮していった。
「飯田さんが写真をくれたおかげでもう覚悟は決まったんです。どうもありがとうございます。」
八重子はここは私に出させてください。
そう言って2人分の会計を済ませて店を出た。
六郎は仕事を終えて苑田の家に来た。苑田の家は入居者8名ほどの小さな安アパートで旦那さんが亡くなってからここに住んでいる。
六郎は呼び鈴を鳴らし、苑田の名前を呼んだ。しかし人の気配はない。
隣の住人がひょっこり顔を出した。
「苑田さんなら引っ越しましたよ。」
「引っ越したってどこに?!」
六郎は声が大きくなる。
「鹿児島だったかなぁ、福島だったかなぁ?」
六郎は苛立ちを隠せない。
「もう身内もいないし好きに生きたいって言ってましたね。」
そう言って隣の住人は家に入った。
六郎はスマホを握りしめながら走った。苑田が居なくなった。それは六郎にとって致命的なことだった。六郎は公園まで走って苑田に電話をかけた。
「この電話番号は現在使われておりません。」
ガイダンスが流れる。
「めぐみぃぃぃ!!」
六郎は苛立ちながら、月を眺めた。
こんなときに何だが月が美しく、死んでも良いわを思い出した。
そして苑田は居なくなった。
職業病とでも言うのだろうか、床のワックスが所々剥げていることとか照明器具の上に埃があることなどに目がいくようになった。
飯田は八重子に痩せましたね、心労からですか?と言いにくそうに尋ねた。
八重子は笑いながら、仕事に出るようになったからですよ、と答えた。
八重子は飯田に現状を話しながらコーヒーに角砂糖を沈めた。角砂糖は茶色く染まって端からサラサラと崩れていく。
「もしかしたら菜摘が進学する頃には離婚するかもしれません。」
八重子は真っ直ぐな目をしてそう語った。
「菜摘ちゃんは大丈夫ですか?涼華の話だといつも朝早くから勉強して家でもしてるみたいって。」
「菜摘は佑みたいに自分を追い込んでまで勉強しませんよ。大丈夫です。」
飯田はおずおずと話しだした。
自分は涼華が小さい頃離婚して寂しい思いをさせたとか、別れた旦那が養育費を振り込んでくれなかったとか、苑田の事で力になれなかったなど、話すごとに萎縮していった。
「飯田さんが写真をくれたおかげでもう覚悟は決まったんです。どうもありがとうございます。」
八重子はここは私に出させてください。
そう言って2人分の会計を済ませて店を出た。
六郎は仕事を終えて苑田の家に来た。苑田の家は入居者8名ほどの小さな安アパートで旦那さんが亡くなってからここに住んでいる。
六郎は呼び鈴を鳴らし、苑田の名前を呼んだ。しかし人の気配はない。
隣の住人がひょっこり顔を出した。
「苑田さんなら引っ越しましたよ。」
「引っ越したってどこに?!」
六郎は声が大きくなる。
「鹿児島だったかなぁ、福島だったかなぁ?」
六郎は苛立ちを隠せない。
「もう身内もいないし好きに生きたいって言ってましたね。」
そう言って隣の住人は家に入った。
六郎はスマホを握りしめながら走った。苑田が居なくなった。それは六郎にとって致命的なことだった。六郎は公園まで走って苑田に電話をかけた。
「この電話番号は現在使われておりません。」
ガイダンスが流れる。
「めぐみぃぃぃ!!」
六郎は苛立ちながら、月を眺めた。
こんなときに何だが月が美しく、死んでも良いわを思い出した。
そして苑田は居なくなった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。


学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。

身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。
白藍まこと
恋愛
百合ゲー【Fleur de lis】
舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。
まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。
少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。
ただの一人を除いて。
――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)
彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。
あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。
最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。
そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。
うん、学院追放だけはマジで無理。
これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。
※他サイトでも掲載中です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる