99 / 111
99 嘘 side:日奈星凛莉
しおりを挟む「涼奈の誕生日、ちがうの?」
耳を疑うような会話だった。
「あ、えっと……」
涼奈は目線を反らす。
その癖は何かしら当たっている時で、否定すらしてこない。
「涼奈、あたしに嘘ついたの?」
嘘の誕生日を教える意味ってなに。
そもそも誕生日なんてどうでもいいと思ってるってこと?
なら、あたしの誕生日に涼奈はどうして贈り物をくれたの?
ネックレスが、首に巻き付いて締め上げてくる気がする。
「日奈星さん。涼奈がどうかした?」
涼奈の前に座る進藤が声を掛けてくる。
涼奈は黙ったまま言葉を発さないから、進藤から聞く方が早いかもしれない。
「涼奈の誕生日って、いつ」
「え、8月だけど……」
「そうなんだ。その誕生日に進藤はなにしようとしてたの?」
「ああ、涼奈はいつもぼっちだから誕生日は毎年祝ってやってたんだよ。俺が」
なんだそれ。
そんなこと聞いてない。
涼奈から教えてもらってない。
「ちょうど夏休みだし、今年も祝ってやろうと予定を確認していたところ……っていつも予定なんかないもんな、お前」
進藤の涼奈に対する距離感はあまりに気安い。
昔ならそれでも良かったかもしれない。
でも今の涼奈はあたしがいるのに、そんなことを許していいはずがない。
「ちょ、ちょっと進藤くん……わたし、やるなんて言ってない」
「は?いつもやってただろ」
「でも今年はちがくて……」
昨日、あたしが涼奈に夏休みの予定を聞いた時だ。
『ね。だから夏休みはあたしとずっと一緒ね』
『うん、多分大丈夫』
『……多分?』
『もしかしたら、用事入るかもしれないでしょ』
なんて中途半端に誤魔化していた。
あたしは全部キャンセルするって言ったのに。
これがその用事か。
毎年恒例のお祝い事。
それをあたしに邪魔されたくなかったってこと?
だから、あたしに嘘の誕生日を教えたってこと?
そんなの意味が分からないし、信じたくはない。
でも、他にどうすればこの出来事に説明がつく?
「涼奈、そんなに進藤に誕生日祝って欲しかったんだ?」
「いや、凛莉ちゃんちがうって……」
「じゃあ、なんであたしに嘘の誕生日を教えたの?6月なんて意味わかんないこと言って」
「それ、は……えっと、その……」
涼奈は口をパクパクするだけでちゃんとした説明を何もしようとはしない。
そんなの、認めているようなものだ。
「お前、日奈星さんにそんなことをしてたのかよ。引くわー。ていうかそんなに俺に祝って欲しかった感じ?」
涼奈に腹を立てているけど。
進藤にも腹が立つ。
あたしが涼奈と付き合っているのに、進藤はあたしよりも優先されている。
ただの幼馴染があたしの知らない涼奈を知り、求められている。
こんなに不愉快なことはない。
「涼奈の好きなぬいぐるみって、進藤わかる?」
進藤が涼奈の誕生日に何を贈ろうとしているのか、何が好きか分かっているのか。
そんな競争心があった。
「ぬいぐるみ……?涼奈にそんな趣味あったか?部屋に何も置いてなかったよな?」
「……」
あたしは言葉を失う。
家に行ったことがあるのもムカつくけど。
それよりもショックなのは、ぬいぐるみは趣味じゃないはずだと言っていること。
昔から涼奈のことを知る、進藤が。
「い、いやっ、最近好きになったって言うかっ……」
「あ、そうなの?急にメルヘン路線に走ったな」
言われて見れば、涼奈の部屋にはあたしが贈ってあげたペンギンのぬいぐるみしかない。
ぬいぐるみを好きな子が、プレゼントされるまで一つも持ってないなんておかしくないか?
一体、涼奈の言っていることはどこまで本当なんだろう。
「涼奈、それも嘘なの?」
「い、いや、嘘じゃないっ。本当だから」
じゃあ、進藤が嘘をついてるってこと?
いや、進藤がそんな嘘をつく必要はどこにもない。
それに思い返せば、涼奈は初めて出会った時から違和感を残していた。
『雨月さん、甘いものとか好き?』
『……嫌い』
涼奈は、甘いものが好きだった。
『放課後だし、ちょっとお腹空いてたりしない?』
『空いてない』
『あ、じゃあ喉は乾いてるでしょ?けっこー走ったし、雨月さん息切らしてたし』
『乾いてない』
そうやって当たり前のように嘘をついていた。
もしかして、ずっと嘘をついてたってこと?
ぬいぐるみも嘘で。
誕生日も嘘で。
あたしのことも嘘で――。
「……そっか、分かった」
ダメだ。
このままいたら、きっとあたしは感情に任せておかしなことをする。
ここにいてはいけない。
「凛莉ちゃんっ、待ってよ」
珍しく声を張る涼奈は、あたしの手首を掴んでいた。
でも、今のあたしにとってその手は触れて欲しいものじゃない。
「放して」
涼奈の手を振り払う。
「えっ……」
涼奈の悲しそうな声。
ズキン、と胸が痛んだけど。
だけど、それはあたしの方だ。
こんな裏切られ方なんてない。
あたしは涼奈に目を向けず、廊下へ飛び出した。
「り、凛莉ちゃんっ」
家に向かって外を歩いていると、あたしを呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、鞄も持たずに息を切らした涼奈がいる。
「……なに」
今、冷静に話せる自信はない。
「聞いて、さっきのは違うの」
「違うって……なにが?」
「進藤くんの言っていたことは、全然ちがくて」
きっと、涼奈は誤解だと言って色々なことを語り出すのだろう。
だけど、問題はそこじゃない。
涼奈はずっと進藤に関することを隠していて、打ち明けようとしてこなかった。
その違和感はずっとあったんだ。
そして、明かされた事実。
もしかしたら本当に誤解もあるのかもしれない。
でも、だけど。
「それってさ、あたしはどう信じたらいい?」
「だから、それを今から」
「涼奈は、今まであたしに嘘偽りなく本当のことを話してくれてたって言える?」
「……っ」
その一言で、涼奈はすぐに押し黙った。
ほら、それが答えだ。
進藤の言っていたことが本当に誤解なら。
あたしのこんな一言で黙ったりはしないはずだ。
全てが嘘じゃなかったとしても、どこかに本当の嘘があるから黙ってしまうんだ。
そんなの、今の涼奈を見ていれば分かる。
涼奈をずっと見ていたあたしだからこそ、その反応だけで理解してしまう。
「言ったよね、“あたしは涼奈の味方だから。何でも言ってね”“嘘、つかないでね”って……」
「それは……」
涼奈はそこから黙ったまま、うつむいた。
「人間だからね。ずっと本当のことばかり言うわけにもいかないのは分かるよ。でもさ……これはよく分かんないよ。そんな嘘つく意味わかんないよ」
「……」
本当はそれでも否定して欲しかった。
それこそ嘘でもいいから、全部否定して。
理由があるんだと言って欲しかった。
でもそうしないのは、後ろめたいことがあるからなんだろうね。
「あたし、しばらく涼奈と仲良くできないかも」
「……うん」
そうやって、すぐに諦める。
本当に好きなら、愛してくれてるなら、放さないんじゃないの?
繋ぎ止めようとしてくれるんじゃないの?
あたしが求めていたのは、ずっと一緒にいてくれる人だったのに。
0
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
【完結】【R18百合】会社のゆるふわ後輩女子に抱かれました
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
レズビアンの月岡美波が起きると、会社の後輩女子の桜庭ハルナと共にベッドで寝ていた。
一体何があったのか? 桜庭ハルナはどういうつもりなのか? 月岡美波はどんな選択をするのか?
おすすめシチュエーション
・後輩に振り回される先輩
・先輩が大好きな後輩
続きは「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」にて掲載しています。
だいぶ毛色が変わるのでシーズン2として別作品で登録することにしました。
読んでやってくれると幸いです。
「会社のシゴデキ先輩女子と付き合っています」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/759377035/615873195
※タイトル画像はAI生成です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
退魔の少女達
コロンド
ファンタジー
※R-18注意
退魔師としての力を持つサクラは、淫魔と呼ばれる女性を犯すことだけを目的に行動する化け物と戦う毎日を送っていた。
しかし退魔の力を以てしても、強力な淫魔の前では敵わない。
サクラは敗北するたびに、淫魔の手により時に激しく、時に優しくその体をされるがままに陵辱される。
それでもサクラは何度敗北しようとも、世の平和のために戦い続ける。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
所謂敗北ヒロインものです。
女性の淫魔にやられるシーン多めです。
ストーリーパートとエロパートの比率は1:3くらいでエロ多めです。
(もともとノクターンノベルズであげてたものをこちらでもあげることにしました)
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
Fantiaでは1話先の話を先行公開したり、限定エピソードの投稿などしてます。
よかったらどーぞ。
https://fantia.jp/fanclubs/30630
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる