34 / 111
34 足りないモノを求めて
しおりを挟む「ねえ、凛莉ちゃん」
朝、すっかり恒例になってしまった凛莉ちゃんとの登校。
そこでふと思い立った疑問を投げかけることにした。
「なに涼奈?」
「金織さんとは前からあんな感じなの?」
「……金織がどうしたって?」
その名前を出しただけで、凛莉ちゃんはいきなり表情を歪ませた。
「いや、前からあんなに仲悪いのかなって……」
「まあね。あたしはどーも目につくみたいよ。確かに校則は破ってるかもしれないけどさ、これくらいしてる生徒なんて他にもいるのにね」
そう言って凛莉ちゃんはひらひらとスカートを揺らす。
そのままめくれてしまいそうで心配になる。
「多分、他の人は金織さんの前では直したりとか目につかないように工夫してるんだと思うよ」
「かもね。楓もいつもそんな感じだし」
分かってるのに、自分ではやらない当たりがさすが大物……。
いや、プライドなのかもしれない。
「それで、どうしてそんなこと聞くわけ?」
ずいっと凛莉ちゃんが身を寄せてくる。
「いや、なんか二人とも仲悪そうだったから……」
そして、どうしたら金織さんが進藤湊を注意するだろうかと考えていた。
今現在、進藤くんの周りにハーレムの気配はゼロ。(わたしのせいだけど)
だからそっち路線で攻めるのは難しい。
凛莉ちゃんの話から考えると、やはり服装を乱して注意されるのが有効なのかもしれない。
「……本当にそれだけ?」
「それだけだけど……」
凛莉ちゃんとの距離は縮まらず、さらにジト目を向けられる。
「あたし、涼奈から他の女の話を聞かれたことってあんまりないような気がするんだけど……」
「だ、だから?」
「いや、ほら金織って見た目だけは綺麗じゃん?憧れとか持っちゃってたりしてない?」
「ないない、ないから」
確かに金織さんはお嬢様感があって美しい人だけど、あんなガチガチの生徒会長なんて大変そうだ。
凄いなとは思うけど、わたしには絶対むりだし窮屈そうだから憧れたりはしない。
「ふーん。あっそ、ならいいけど」
そこでやっと凛莉ちゃんの疑いの目から逃れる。
「……でもアレだね。凛莉ちゃんから見ても金織さんって綺麗なんだね」
犬猿の仲のように見えて、素直にそう言えるあたりは凛莉ちゃんの人の良さが伺える。
「はっ!ちっ、ちがうから。あたしはあんな奴のことなんかどうとも思ってないからっ」
「……え、あれ、そうなの?」
さっきまで認めていたのに、急な手の平返し。
少し慌ててもいるようだし、どういうことだろう。
「あんな奴なんかより涼奈の方がよっぽどかわいいからっ」
「い、いや……わたしの話してないし。それに金織さんとは比べ物にならないし……」
どうしてか急に金織さんからわたしの話に変わってしまった。
「そんなことないっ。涼奈の方があたしはいいと思うっ」
ぐっと真剣な眼差しでそんなことを言われる。
……朝から、そんな話をしないで欲しい。
反応に困る。
「わ、わかったから……」
凛莉ちゃんは困った人だ。
◇◇◇
「おっす、涼奈」
「……おはよ」
席につくと進藤くんが気だるげに挨拶をしてくる。
そのまま進藤くんの服装を見る。
ワイシャツのボタンは全て閉じられ、ネクタイもしっかり閉めている。
ブレザーやスラックスの着こなしにも特に問題はない。
……これでは金織さんに見られても注意されることはないだろう。
「? なんだよ、ジロジロ見て」
「あ、えっとね。服装のことなんだけど――」
そこでブルッと身震いがした。
徐々に慣れつつある冷たい視線を感じて、視線を泳がせる。
「(なに話してんの?)」
凛莉ちゃんが口パクでニコニコ笑顔を浮かべながらこちらを見ていた。
……だめだ。
日常会話ならともかく
『服装を着崩してみたら?』
なんて話しをしたら後で絶対に怒られる。
『進藤の服装を気にするってどういうこと?』
とか言われるに違いない。
「服装が、なんだよ」
「……いや、何でもない」
わたしは進藤くんとの会話を切り上げる。
しかし、こうなったら別の手段で進藤くんの恰好を変えなければならない。
それが可能な人物をわたしは一人しか知らなかった。
休み時間。
一階に下りて、一年生の教室付近を訪れる。
進藤ここなちゃんを探しに来たのだ。
しかし、下級生の空気感はキャッキャッとして二年生よりも若さを感じる。
アウェイ感が凄い。帰りたい。
……でも、頑張らないといけない。
「ここなちゃんて、何組だ……?」
痛恨のミス。
ここなちゃんのクラスをわたしは知らなかった。
かと言って各教室に入るような度胸はないし、下級生とは言え知らない人に尋ねる勇気もない。
……詰んだ。
知らない生徒が行き交う廊下で、わたしは心が折れてしまう。
「――雨月涼奈?」
すると、聞き覚えのある声が背後から届いた。
振り返ると、ツインテールを揺らしたここなちゃんが歩いていた。
「あっ、ここなちゃん。よかった、探してたんだっ」
「え……ここなを探してたの?」
「うん、でもどこにいるか分かんないから困ってたの」
捨てる神あれば拾う神あり、とはよく言ったものだ。
「な、なによ。あんたがここなに会いに来るなんて頭でも打ったの?」
すごい言われようだな……。
まあ、珍しい行動だとは思うけど。
「いや、ちょっとお願いごとがあってね」
「それも珍しいわね、何よ」
「進藤くんのことなんだけどさ」
「お兄ちゃんが?」
「制服をはだけさせて欲しいんだよね」
「……は?」
……ですよね。
おかしいこと言ってますよね。
「い、いや、違うの。進藤くんにはそれが必要なの」
「……やっぱり雨月涼奈は頭がおかしくなったようね」
「ち、ちがうって。ほら、進藤くんまだ彼女いないじゃない?妹としても心配にならない?」
「……まあ。お兄ちゃんに恋人が見つかる未来は見えないけど」
「そんな進藤くんに足りないモノは何だと思う?」
うーん、とここなちゃんが顎に指を当てる。
「……知性?」
辛辣だった。
まあ、分からなくはないけど。
「い、色気も必要だと思わない?」
「……まあ、お兄ちゃんにそんなもの感じないわね。ていうか妹のここなが感じても怖いけど」
本当だったらお兄ちゃん大好きっ子なはずなのに、こうまで変わってしまうのか。
恐ろしい。
「だからさ、ちょっとボタンを開けたりとか、ネクタイ緩めたりするのどうかなぁ?って」
「……まあ、そういう恰好してる男子もいるけど。お兄ちゃんにそれさせるの?背伸び感すごいと思うんだけど」
「大丈夫、それできっといい人が見つかるから」
そこを金織さんに見つけてもらい、注意を受けて運命をスタートさせるのだ。
「やっぱり意味わかんないし。どっちみちあんたの方からお兄ちゃんに言えばいいだけじゃない?」
ここなちゃんは面倒くさそうにして、協力的な感じではない。
わたしも自分でやれたらいいんだけど、それが出来れば苦労しないのです。
「わたしじゃダメなの。頼れるのはここなちゃんしかいなくて……おねがいっ」
わたしは両手を合わせてここなちゃんを拝む。
「……わ、わかったわよ。しょうがないわね」
あ、あれ。
ダメかと思えばすんなり受け入れてくれた。
「いいの……?」
「あんたの方から、ここなにお願い事なんてしたことなかったじゃない。それくらいなら別にいいわよ」
「ほんと?よかった、ありがとうっ」
「い、いいわよ。これくらいの事で、そんなお礼言わなくて」
「ううん。ここなちゃんの協力がなかったら、わたしも困ってただろうから。助かるよ」
本当に助かった。
わたしは安堵して胸を撫でおろす。
「あ、あんたの助けになるなら良かったわ……」
ボソッと何かをここなちゃんは呟いた。
「ん、なに?」
「な、なんでもないわよっ」
今度はここなちゃんが声を荒げて、わたしから視線を反らすのだった。
否定したと思ったらすぐに受け入れてくれたり、かと思えば拗ねたり。
こんなに難しい子だったっけ?
0
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
魔法適性ゼロと無能認定済みのわたしですが、『可視の魔眼』で最強の魔法少女を目指します!~妹と御三家令嬢がわたしを放そうとしない件について~
白藍まこと
ファンタジー
わたし、エメ・フラヴィニー15歳はとある理由をきっかけに魔法士を目指すことに。
最高峰と謳われるアルマン魔法学園に入学しましたが、成績は何とビリ。
しかも、魔法適性ゼロで無能呼ばわりされる始末です……。
競争意識の高いクラスでは馴染めず、早々にぼっちに。
それでも負けじと努力を続け、魔力を見通す『可視の魔眼』の力も相まって徐々に皆に認められていきます。
あれ、でも気付けば女の子がわたしの周りを囲むようになっているのは気のせいですか……?
※他サイトでも掲載中です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
その日、女の子になった私。
奈津輝としか
ファンタジー
その日、全ての人類の脳裏に神々の声が響いた。「求めれば能力を与えん!」と。主人公・青山瑞稀は、優しさだけが取り柄の冴えないサラリーマン、32歳独身、彼女いない歴32年のドーテーだった。
神々から与えられた能力を悪用した犯罪に巻き込まれて重傷を負う。気を失いかけながら、「チート能力」を望む。
目が覚めても、何の変化も無い自分にハズレスキルだったとガッカリするが、「女性変化」と言うよく分からないスキルが付与されている事に気付く。
思い切って「女性変化」のスキルを使うと、何と全世界でたったの3人しかいないSSSランクだった。
しかし、女性に変身している間しか、チート能力を使う事が出来ないのであった。
異世界転生ならぬ、「性別転生」となった主人公の活躍をお楽しみに!
ちょっぴりHなリアルファンタジーです。
あーそれから、TSジャンルでは無いので誤解なく。第1部はTSと見せ掛けているだけなので悪しからず。
第1部は序章編。→死んで転生するまで
第2部は魔界編。→転生後は魔界へ
第3部は神国編。→神に攫われて神国へ
第4部は西洋の神々編。→復讐の幕開け
第5部は旧世界の魔神編。→誕生の秘密へ
第6部はアイドル編。→突然、俺が女になってアイドルにスカウトされちゃった!?
第7部は虞美人編。→とある理由にて項羽と劉邦の歴史小説となります。ファンタジー色は低く、歴史小説タッチで書いておりますが、第8部に続く為の布石である為、辛抱して最後までお読み下さい。
第8部は龍戦争編。→現在連載中です!
第9部はまだ秘密です。
第10部は完結編。→長かった物語に終止符が打たれます。
最後までお楽しみ下さい。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる