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本編

46 前日

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「さあ、食べてごらんなさい?」

「ありがとう」

 白雪姫は毒林檎を口にしてしまいました。
 老婆に扮した魔女はほくそ笑み、白雪姫は息を引き取ってしまいます。
 小人達は悲しみに暮れ、白雪姫はひつぎの中で眠り続けています。

 そこに隣の国の王子様が現れたのです。

「こんなに美しい人は初めて見た」

 王子は眠る白雪姫に一目で惚れ、その頬にキスをしました。



        ◆◆◆



「はい! オッケーです! 完璧ですね!」

 今日は文化祭の前日、つまり最後の練習日。
 総練習という事で実際に体育館のステージで、衣装やセットを着用しての演技となった。
 結果、通しでも無事に終える事が出来た。
 周りからは拍手と喝采が送られる。

「いやぁ、ほんとに良かったです。王子が白雪姫にキスするシーンは何度見てもドキドキしますね」

 鼻息荒く賛辞を送ってくれるのは学級委員長の吉田よしださんだ。

「まあ、見せかけだけれどね」

 棺でちょうど隠せる角度で、キスをしているように見せているだけだ。
 顔同士はいつも近くなるのでその度に緊張はするのだけれど。

「それでも良いシーンですよ、興奮します」

「そ、そう……」

 確かに白雪姫の見せ場ではあるだろうが、そこまでの事だろうか。
 誰もが知っている童話でもあるのだし、意外性も何もないと思うのだけれど……。

「よっし、やりきった」

 ハルが大きく伸びをして私の元へやって来る。

「お疲れ様ね、ハル」

みおもな」 

「全部ミスなく出来るようになったわね」

「澪が練習に付き合ってくれたおかげだよ」

 私は台本の読み合わせに付き合ったくらいで、ハルの努力の賜物だ。

白花しらはなさん、とっても良かったですっ。貴女こそ真の白雪姫ですっ」

「おー、そうだろそうだろ」

 吉田さんがさっきの勢いのままハルを褒める。
 吉田さんは総指揮を採っているから全体の監督を務めてきた。それが形となって喜んでいる部分もあるのだろう。
 彼女も努力が実ったのだ。

「最初の方はどうなるかと思いましたけど、今はそんな心配は微塵もありません」

「その事は言うんじゃない、過去の事は忘れろ」

「いえ、逆に衝撃で忘れられそうにありません」

「おい、遠回しであたしをイジッてんな?」

 ハルはこの通りで、クラスメイトとの距離もここまで近づけていた。
 思った事を素直に言葉にするハルに、クラスメイトも呼応するようにコミュニケーションをとるようになったのだ。
 それは喜ばしい事だ。
 それでも胸の奥がチリチリとするのもまた変わっていないのだけれど。

「それより澪どうよ、あたしの白雪姫はよ」

 ハルは頭に赤いリボンに、白と青を基調としたドレスを着用していた。
 裾に向かって広がっていくスカートがふわりと舞い、ハルの可憐さに柔らかさが増す。

「綺麗よ」

「……え、ええ、そ、そうかっ」

 他の人にも褒められただろうに、私の賛辞にも照れくさそうに笑うハルは本当に素直なんだなと思う。
 
「澪も似合ってるぜ」

 私は私で王子様衣装。
 赤マントや肩にはエポーレット、白手袋をして、髪は一つ結びにしていた。

「正直、黒歴史になりそうだから早く脱ぎたいのだけれど……」

 演技している時はまだ我慢出来たが、いざ終わるともう耐えられない。
 こんな物を着るのは人生長しと言えど、今だけだろう。
 というか今だけにしないとダメだ。

「それを言うならあたしの方だろっ!? 姫なんて振り返ったらとんでもないって」

 私とハルの容姿の格差を考慮に入れて欲しい。

「ハルは似合っているからいいのよ」

「澪も似合ってるって」

 完全に水掛け論。

「……あのお二人とも、まだ白雪姫を続けられてます?」

 吉田さんが間に入る事で、論争は終わった。






「今日もこの後は、生徒会なのか?」

 練習を終え、制服に着替えるとハルが声を掛けてくる。

「いいえ、前日はちゃんと休もうというのが青崎あおざき先輩の方針なの」

「ほお、それは健全だ。ってことは、今日は一緒に帰れるな?」

「そうね」

 その言葉にはハルの感情が乗っていた。
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