39 / 50
本編
39 思いの先に
しおりを挟む結崎と別れて、帰路につく。
どうしようかと、混乱だけが心を満たす。
私はハルの事をどう思っているのだろう。
この感情は恋愛からくるものなのか、その答えを見つけ出さなくてはならない。
けれど未知の領域に触れる時、弱い自分が顔を出す。
どうするべきか、私は決断出来ないでいた。
「おー、遅かったじゃん。何してたんだよ」
家に帰ると、ハルはいつものようにソファに横たわっていた。
顔だけ上げて少し非難めいた声を上げる。
「ちょっと結崎と話す事があったのよ」
「……ふぅん」
どう思っているのか、何とも言えない曖昧な返事。
私はどこかソワソワとした気持ちで落ち着きをなくして、何だか居たたまれずにキッチンの方へ避難する。
その先へ向かったところで、特にやる事もないのだけれど。
「ちょーちょちょっ、無視すんなし」
「え、んなっ……!?」
すると、私を追いかけてきたハルが後ろから抱き着いてきた。
こ、これは……②距離が近くなる、スキンシップが増える!?
いや、そんな事よりも急なハグに私はどうしたらいいか分からず硬直する。
「おいおい、なんだよ。女同士でそんな固まんなよ」
「え、えと……」
そう、ただの女同士であればそこまで騒ぐ事ではない。
私もいつもならもっと普通な対応が出来たかもしれない。
でも、このハグに別の意味があったとすれば話は変わる。
どう受け取っていいか分からない私は自然と体を固めてしまった。
「さては、なんかやましい事でもあるんだな……?」
「え、あの、そのっ」
やましい気持ちは果たしてどちらにあるのか。
私がハルの恋愛感情を探っている事が伝わってしまったのか。
心の準備は出来ないまま、声が震えそうになる。
「二日連続で結崎と会うなんて何してたんだよ、怪しいなぁ」
「……」
確かに結崎とプライベートの時間を過ごす事なんてなかった。
それが二日連続ともなれば疑われてしまっても仕方がない。
「何話してたんだよ、聞かせろよ」
と、とは言え、どう説明したものか……。
ハルに隠し事をしたくないが、これはさすがに明言は出来ない。
ここはお互いの関係性のためにもふんわりと曖昧にしておくのが正解なはずだ。
「最近、青崎先輩の様子がおかしいって結崎が言ってたの。先輩の体調が悪いと生徒会活動そのものに支障をきたすから、その相談……」
嘘は言っていない。
事の始まりはそこからで、ハルの恋愛について付随して出てきたのだから。
「……へえ、それならいいけど。あんま結崎とばっかり絡んでんなよな」
ぎゅうっと、ハルの腕が強く絡みつく。
こ、これって、その“嫉妬”とかじゃないわよね……?
結崎もそんな事を言ってたから、もしかして……。
「嫉妬、しているの?」
聞いた、思わず聞いてしまった……!
これで全然見当違いなら私は赤っ恥だ。
「だったらどうする?」
肯定ではないが、否定でもない。
ハルの性格なら違う事はすぐに違うと否定してきそうなのに。
いや、でも私をからかう時もあるし……。
どちらなのだろう。
「なーんちゃって、ヒマだからダル絡みしてみただけぇ」
するりとハルの腕が解ける。
振り返ると、そこには悪戯っぽく笑うハルの姿。
その瞬間を捉えていない私には、その表情がずっとそこにあったのかは分からない。
ハルの答えはまだ闇の中。
「結崎に私とは友達ではないと言われたから、もうこんな機会もないでしょうね」
「あいつ澪のこと拒否ってんの? 生意気じゃん」
「生意気かどうかは分からないけれど……」
――じゃあ、私とハルは友達? それとも姉妹? あるいは……。
聞こうとして、喉から出掛かって、止まる。
その先の答えがいかなるものであっても、今の私にはその返事を出来る自信がない。
きっと、もうハルがどう思っているのかは関係ない領域に達しているんだ。
「あ、そうだ。今度からあたしも澪と一緒に学校行こうと思うんだけど、いい?」
言葉を飲み込んでいる内に、ハルはソファに戻りながら話題を変える。
「い、いいけど……私、朝早い事も多いわよ」
「生徒会の仕事がある時だろ? 言ってくれたら合わせるよ」
「あ、うん。それでいいなら、いいけれど……」
また、ハルの方から距離を縮めてくれる。
この距離の縮まった先にあるのは余白のないお互いの存在。
その終着地点が正しいのか分からなくて、私は立ち止まっているような気がする。
「何だよ歯切れ悪いな、あたしだって朝くらいその気になったら起きれるからな」
「……私が起こさなくても大丈夫なのね?」
「もう二度とすっぴんなんて見られたくないからな」
「ハルの素肌は綺麗だったのに、あと幼く見えて可愛らしかったわね」
そんな日があった事も思い出す。
この思い出が積み重なった先に、そこに成す形はどんなものになるだろう。
それすらも私の意志で変えていけるのだろうか。
「うっせえよ、そう言われても嫌なもんは嫌なの」
照れくさそうにそっぽを向くハル。
そんな表情を見た私は微笑ましくなって、胸の奥があたたかいものに包まれる。
この感情を言葉にする事が出来れば、それが答えになるのかもしれない。
「ハルって意外に照れ屋よね」
「澪がそういう所ばっかに触れすぎなんだよ」
今はただ手探りで、私の心の形を探している。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説


とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件
楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。
※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。

身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる