義妹のギャルに初恋を奪われた話

白藍まこと

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 帰り道、住宅街を一人歩く。
 静けさが際立っている気がするのは結崎ゆいざきがいなくなったからだろうか。

『もう水野澪みずのみお白花しらはなハルも知ったこっちゃないわっ、好きにしなさいよ!』

 と叫んで私の前から去っていった。
 それはともかく結崎に言われた事は無視できるものではない。

「ハルが私の事を好き……?」

 仲は良い、良いとは思っている。
 それは恋愛感情からくるものなのだろうか。
 そこまで確かめた事はない。
 確かめた先は……どうなるのだろう。

「まず私がどう思っているかが重要なのよね」

 仮に、仮にだ。
 ハルが私の事を本当に好きだとすれば、私がどう思っているかでその先の展開は変わる。
 両想いなら付き合うだろうし、片思いなら……疎遠な関係に?

「それは困るわね……」

 とは言え、だからと言って嘘を吐くわけにもいかない。
 誠心誠意、気持ちに応える必要があるはずだ。
 だとすれば私のハルに対する気持ちは何なのか。
 親愛か友愛か恋愛か。
 その差はとても大きい。

「……どれも合っている気がする」

 そもそもハルに対するこの気持ちは、ハルを通して初めて芽生えたものだ。
 それが何かであると断定するのは難しい。
 だって経験がないのだから。

「と言うか、ハルは本当に私の事を好きなの……?」

 結崎が一人で勝手に話し始めた事をこんなに全面的に信用していいのだろうか。
 本当は全然ただの見当違いで、恋愛感情なんて一切なかったのだとしたら?
 赤っ恥だ。
 私は生まれて最大の羞恥心を覚える事になるだろう。
 つまり大前提、私はハルの気持ちを確かめなければならない。

「それとなく探ってみましょうか」

 私のハルに対する探求が始まった。



        ◇◇◇



 【好きな人にとる態度】

 このキーワードでネットで検索してみる。
 ヒットしたものを順にハルに当てはまるのか検討していけば、自ずと答えは見えてくるはずだ。

 ①目で追う

 なるほど。
 好きな相手はついつい見てしまうという事か。
 検証してみよう。

「ただいま」

「おーう、結崎との無駄な時間はどうだった?」

 居間に入るなり、ハルは私の事を見る。
 まあ、これは当然だ。
 同居人が帰ってきたら目で追ってしまうのは自然な行為だ。

「勉強になったわ」

「あいつから学ぶ事なんかあるのよ」

 ……近づいてしまうと目につくのは当然なんだから、離れてみようかしら。
 特に用はないがキッチン側へと歩き距離を取ってみる。

「あの子ならではの視点もあるのよ」

「ふーん、やけに褒めるじゃん」

 あれ、ハルの目線は私から途切れない。
 意味もなくキッチンに来たため、特にやる事はない。

「何してんの? 水飲みたいならこっちにあるけど?」

 ハルの前にあるローテーブルにピッチャーが置いてある。
 そんなつもりはなかったが、断るのも変なので流れに身を任せる。

「そうだったのね」

 グラスを持って行き、水を注ぐ。
 喉は乾いてないが飲んだ。
 ……まあ、ここまで見られるとどうなのだろう。
 当てはまっているような気もするが、そもそも同居人という特殊な環境では判定しづらい。
 ならば、次の条件。

 ②距離が近くなる、スキンシップが増える

 なるほど、分かりやすい。
 身体接触は親しい仲でしかやらないものだ。

「なんでずっと立ってんだよ、座れよほら」

 ハルがソファの隣をポンポンと叩く。

「なんですって……!?」

「え、なに、そんな変な事言った?」

 まさかハルの方から私を近づけようとするなんて……。
 やっぱり私に対して恋愛感情を……?
 いやいや、慌てるな水野澪みずのみお
 答えを出すには時期尚早、これくらいの事は起こり得る。
 まだ偶然の範囲よ。

「何でもないわ」

 平静を装って私はソファに座る。

「なんだよ、ビックリしたな……。つーか遠くね?」

「そう?」

「なんでそんな端に寄るんだよ、あたしそんな場所とるほど太ってねえよ」

「ハルが細いのはよく知っているわ」

「うへへ、分かってんじゃん」

 トン、とハルが私の肩を小突く。
 ……小突く!?

「触った!?」

「え、なにっ、ごめん!?」

 しかもさらっと距離を縮めつつ触れて来たわよね……?
 こ、これはまさか……!?
 いや、落ち着きなさい水野澪。
 友達同士でもスキンシップくらいなら有り得るわ。

「な、なんでもないわ……ちょっと触られて驚いただけ」

「なんだよ……いまさらだな」

 今更……?
 はっ、そうか。
 私はハルの胸を揉んだ事があり、ハルに私の足を触られた事もある。
 つまり、距離もスキンシップもとっくに条件はクリアされていたのだっ。
 ど、どういう事かしら……。
 いえ、まだ条件はあるはず。

 ③笑顔が増える

 ハルは笑わない。
 学校ではその仏頂面と派手さのギャップで怖いと感じている人もいる程だ。

「そうよね、今更そんな事で驚くなんて変よね」

「まあ、澪が変なのはいつもの事だけどな」

 ハルがニヒルな笑みを浮かべる。
 ……笑み!?

「いま貴女、笑った!?」

「ダメなの!?」

 いや、待て。
 ニヒルな笑みはさすがにノーカウントではないか……?
 恋愛感情であればもっと素直な笑みを浮かべるはずだ。
 そうだ、だからこれは違うはず。

「ごめんなさい、ハルが笑うのって珍しいから……」

「自覚はあるけど、驚くほどの事ではないと思うんだが……」

 ハルも困ったように私を見る。
 確かに、さっきから私は挙動不審になっている気がする。
 検証するにも、もっとスマートにならなければ。
 ……スマートにやりきれないのは、どうしてだろうか?
 他人を観察するのは苦手ではないと思っていたのだが。

「そうね、今の私はどうかしているわ。もっと落ち着くわね」

「まあ、それはそれで面白いからいいけどな?」

「そう?」

「うん、ウケる」

 にへら、とハルは屈託なく笑った。
 ……笑った?

「ちゃんと笑った!?」

「だからダメなの!?」

 これって、もしかして、もしかするのか……?
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