義妹のギャルに初恋を奪われた話

白藍まこと

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 朝の生徒会室は静寂に包まれている。
 とは言っても、早朝は生徒自体が少ないので静かなのは当たり前なのだけれど。
 窓から差し込む朝日と木々の葉が揺れる光景には心地よさを感じる。

「……やりますか」

 私が普段使っているデスクのスペースには、平積みされた書類が束になっている。
 そろそろ見ているだけでげんなりする量にはなってきているので、ここら辺で一気に片付けよう。
 集中して取り組む。






 ――ガラ

「……ん?」

 しばらくそうして時間を過ごしていると、扉が開く音が聞こえてきた。
 ぱたぱたと足音も付いて来る。

「あれ、澪じゃないか。珍しいね」

「お、おはようございます……青崎あおざき先輩」

 そこに現れたのは柔らかな笑みを見せる青崎先輩だった。
 ちなみにこの時間に現れるので珍しいのは私ではなく、貴女の方なのだけれど。

「どうしたんですか? 先輩の方こそ朝に来ることないですよね?」

「この前うっかり忘れ物をしてしまってね」

 忘れ物と聞いて先輩のデスクを見てみると、筆記用具と用紙が何枚か置かれていた。
 “この前”……というのは先週の土曜日の呼び出された時を指しているのだろう。
 青崎先輩は先に来ていたから、私を待っている間に作業をしていたのかもしれない。

「先輩が忘れ物って、珍しい気がしますね」

「そうだね、こう見えてしっかり者だから」

「本当のしっかり者は忘れ物しませんよ」

「また一つ短所が見つかってしまったみたいだ」

 そう言って先輩は肩をすくめる。
 後輩を相手に、自分の失敗をユーモアを交え短所と認めるなんて。
 本当に柔和な人だなと思う。

「気を付けてくださいね」

「うん、そうするよ」

 だが、どうして先輩は普段はしない忘れ物をしてしまったのだろう。
 土曜日の事はあまり振り返りたくない。
 私は自分の意志で嘘を吐き、自分の我を通した。
 その姿に先輩は少なからず驚いていたように見えた。

 ……もしかしたら、私が原因なのだろうか。

 いやいや、そんなはずない。
 私の行動に驚きこそあれど、先輩の行動にまで影響を及ぼす訳がない。
 それは自惚れが過ぎる。

「そうだ、さっき白花しらはなハルを見かけたんだけどね?」

「あ、はい……」

 タイムリーというか何というか。
 先輩からその名を聞くと、何だか心臓に悪い。
 またハルは何かやらかしたのだろうか……。

「制服をちゃんと規則通りに着ていたよ、素晴らしいね」

「え、あ、そうですか……」

 まさかの褒め言葉だった。
 真逆の回答に安堵感に支配される。

「これもきっと、澪のおかげなんだろう?」

 そう、なるだろうか……。
 きっと朝にハルの服装を注意した事を守ってくれたのだから、そう言ってもいいのかもしれない。
 それよりも私の目が行き届かない所でも守ってくれている彼女に嬉しさのような感情が込み上げる。

「一応、注意はしましたので」

「すごいじゃないか。やっぱり澪は優秀だね」

 優秀、か……。
 これが打算で出来たことなら、素直に頷けるだろうけれど。
 たまたまハルとの距離が縮まったから出来たこと。
 そこには偶然の要素しかない。

「そんな事ありません」

「うんうん、殊勝な姿勢は大和撫子そのものだね」

 そして先輩は変な事を言いながら頷いている。
 何とはともあれトラブルがないのなら、それで良かった。 

「おっといけない。そろそろ、ホームルームの時間だよ」

「あ、そうですね」

 先輩に催促されて時計を見ると、ホームルームの時間まであと5分。
 思っていたよりも作業に集中し過ぎてしまったみたいだ。

「行こうか」

「あ、えっと……」

 立ち上がり、先輩の後を付いて行こうとして足を止める。
 もし仮にも、この後を一緒に青崎先輩と歩いている所をハルに見られたらどうなる。
 私はハルに“青崎先輩は生徒会に来ない”と言ってしまった。
 今回はイレギュラーではあるし、一緒に作業もしてないけれど。
 それを信じもらえるかは怪しい。
 どっちにしても疑念は残るし、悪感情を持たれる事は明白だ。
 あの重たい空気を繰り返したくはない。

「その、もう少しだけやりたいので先に行ってもらっていいですか?」

「え、もうかなりギリギリだよ?」

「あと1分で終わるので、済ませたいんです」

「……そうかい? まあ、澪がそう言うなら」

 青崎先輩は不思議そうに首を傾げならも、生徒会を後にする。
 危ない危ない……。
 何とかリスクヘッジをする事が出来た。
 その後は本当に1分だけ待って、早足で教室へと向かった。






 教室でのハルとの距離は計りかねている部分がある。
 もっと普段から話しかけたい気持ちもありつつ、今までそうした事がないから控えていたりもする、もどかしい状態だった。
 だが次は移動教室という事もあり、思い切って声を掛けてみる事にした。

「ハル、一緒に行かない?」

「お、いいのか? 副会長さんがあたしと一緒にいたらイメージダウンじゃね?」

 ハルはからかうように私を試す。

「今の貴女なら問題ないわよ」

 正しく着こなしている制服を指す。

「まあね、澪の言う事聞かないと晩御飯がとんでもない事になりそうだから」

「賢明ね」

 ハルは立ち上がり、大きく伸びをする。
 常に座っている状態が彼女にとってはやはり窮屈なようだ。

「学校にわざわざ歩いて来て、ぎゅうぎゅう詰めの部屋で、狭い椅子に座らされて、よく分からない移動もあってさ。絶対無駄だよな?」

 そして学校というシステムそのものの全否定を始める。

「それを言ったら全ての教育の場が崩壊するわ」

「いやいや、オンラインでいいんじゃね?って話。学校なんて全部それでいいんだよ」

 まあ、確かに。
 そうしている時代もあったし、そういう場も増えてきているけれど。
 だが、オンラインには大きな問題点があるように思う。

「ハルがオンラインなんてサボるでしょ?」 

 そう、これはコストと環境の問題だ。
 わざわざ学校に足を運んで、不自由な場所だからこそ、学業に身が入る。
 そうでもしないと、わざわざ勉強をしようという気になれないのが人間だと私は思う。

「はは、分かってないなぁ澪は」

「そうなの?」

 むしろ自由な環境の方が勉強に身が入るのだろうか?
 制約があるからこそ頑張れるというのは私の思い込みだったのか。
 確かにハルなら、そういう側面もあるのかもしれない。

「あたしはどっちでもサボるんだから、家の方が楽だって言ってんの」

「……真面目に考えた私が馬鹿だったわ」

「そうだな、もっと賢くならないと」

「今のは皮肉よ」

 そんな軽口を言い合える仲の人が学校にいる事に、私は喜びを感じている。
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