学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと

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最終章 決断

76 華凛さんが慰めてくれます

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 文化祭当日。

 わたしは地獄の苦しみを味わっていました。

 クラスの出し物はメイド喫茶。

 そして、わたしはそのメイ……ぐふぉえっ。

 とにかく、そんなことをやらねばなりません。

 メイドは二班に分かれ、午前の部と午後の部を1回ずつ担当するようになっています。

 そして、わたしの担当になっている班のメイドさんたちと言えば……。



「お帰りなさいませぇ、ご主人様ぁ?」

 愛らしく撫でるような心地よい声音。

 そのふくよかなボディラインと物腰の柔らかさは理想のメイドそのもの。

 メイドさんが板につきすぎている日和ひよりさん……。

 お客様は皆、その接客にご満悦な様子でした。



「あ、えーと……お嬢様? おまじない掛けますね? なんだっけ……あ、そうそう、美味しくなーれ!」

 と、慣れない手つきでオムライスにおまじないを掛ける華凛かりんさん。

 ……可愛い。

 生来の愛嬌と、慣れないお給仕姿はちょうどいいギャップになっていて見ていて微笑ましいです。



「外は賑わっていますので道中にはお気を付け下さい、行ってらっしゃいませお嬢様」

 綺麗にお辞儀をして退店されるお客様を見送る千夜ちやさん。

 う、美しい……。

 その凛とした佇まいと、クールな面持ちは理想のメイドさんです(二度目)

 それだけ完成された御姿だったのです。


「ん、ケチャップでハート? あははっ、そーいうのムリなんだよね。あんたの名前書いてあげるからそのまま食べれば?」

 冴月さつきさんは、お友達が多いからでしょう。

 気心が知れた方とワイワイやっています。

 自分の顧客を呼び込む……ビジネスとして成立している陽キャムーブ。

 何もメイドとしての接客対応を極めることだけが答えではないと、その在り方を見せつけられます。



「あ、お嬢さま……。お席はこ、こちらになります……」

 そんな容姿端麗の方々が、それぞれの個性を発揮させている中ですよ。

 わたしと言えば、このオドオド態度っ。

 容姿も良くなければ、愛想もないしギャップもない、かと言って気心が知れた方もいないっ。

 明らかに浮きまくっている存在、それがわたし花野明莉はなのあかりっ。

 いやだぁ……逃げたしたいぃ……。


        ◇◇◇


 わたしの午前の部は一旦終了、午後まで空き時間となりました。

「よっし明莉あかり、約束通りあたしから一緒に見て回ろうね!」

 制服姿に戻って廊下に顔を出す華凛さん。

 自由時間は皆さんと時間を分けて過ごすことになりました。

 それは大変喜ばしいことなのですが。

「……はぁ」

「どしたの明莉、そんな窓の外なんか見つめて」

「……雲に、なれませんかね」

「なんで?」

「風に流されればいいだけですので、メイドをやる必要もありません」

 そう、あの青空に浮かぶようにぷかぷかと。

「な、なんか暗くない……?」

「ふふっ、わたしが暗いのなんていつもの事じゃないですか」

「おお、ネガティブ……」

 ちらり、と交代したクラスメイトさんたちのメイド姿に目を配ります。

 皆さんお上手です。

「華凛さん、今からでも遅くありません。午後の部はわたしと調理班の人をチェンジしてもらいましょう」

 誰がやっても、わたしよりは上手にやってくれるでしょう。

「まーまー、そう言わずにさ? あたし達とせっかく一緒になれたんだから頑張ろうよ、ね?」

 屈託のない笑顔を浮かべて、わたしをなだめようとしてくれますが……。

「……華凛さんたちが計画して、わたしを一緒にしたんじゃないですか?」

 ――ギクッ!

 と聞こえてきそうなほど、背筋を急に伸ばす華凛さん。

 図星ですね、いえ、分かってましたけど。

 それも嬉しいんですけど……ですが。

「きっと、至らないわたしの姿を見て誰か噂しているに違いありません。もう学校中に知れ渡っているのかも……」

 華のメイドに異物が混入しているぞ、と。

 もう学校に居場所はありません……。

 あ、元々でしたか。

「そんなこと言ってたら、今から文化祭見て回れないよ?」

「……雲になれば、お空から見て回れますかね」

 そう、わたしは天空から皆さんを見守る概念的存在へと……。

「もう明莉は急におかしくなるんだから、ほらっ」

「うええ」

 ぐいっと強く手首を掴まれます。

「いいから一緒に行くよ!」

 そのまま華凛さんに連れて行かれます。

 その手は中々に力強いのでした。






「あれ……?」

 華凛さんに連れて来てもらった場所は体育館裏でした。

「ほらほら、座って」

 据えられているベンチを指差されて、一緒に腰を下ろします。

「華凛さん、どうしたんですか?」

 てっきり文化祭を見て回るものと思っていたのですが……。

「休憩、休憩っ。明莉も疲れてそうだったし、ちょうどいいでしょ?」

「あ、はい……」

 確かに、どこも人がたくさんいたので。

 このような人気ひとけのない場所は落ち着きます。

「……あたしは、その、明莉のメイドさん、よかったと思うよ?」

 おもむろに、言葉の端々を震わせながらそんなことを言うのです。

「華凛さん、それ黒歴史なのでそっとしてもらっていいですか?」

「黒歴史になるの早すぎない!?」

「もう過去のことです」

「午後にもう一回やるよっ!?」

 認めたくない……認めたくありませんっ。

「それで言ったらあたしも千夜ねえとか日和ねえに比べたら全然だったし。お互いに苦手なこと頑張ったんだから、気にしなくていいんじゃない?」

「華凛さんのような天性の愛嬌を持つ人と一緒にしないで下さい……」

 ギャップは萌え要素ですが、陰が陰をやるのは迷惑要素なのです……。

「こーらっ」

 ――ぽこっ

「あいた」

 と、頭が少し揺れました。

 華凛さんに小突かれていたようです。

「あたしは本当に明莉のこと良かったと思ってるんだよ? だから、そんなこと言わないでよ」

「で、ですが……さすがに華凛さんと一緒というわけには……」

「色眼鏡だって言いたいの?」

 じとっ……と、湿り気を帯びたような視線を向けられます。

「あ、ええと……その可能性も否定はしきれませんよね」

 こう言うのも何ですが、華凛さんはわたしのことを好いてくれているので……。

 ある程度贔屓目ひいきめになってもおかしくないと思うのです。

「でもさ、それ含めて明莉の魅力なんじゃないの?」

「……えっと」

「あたしの視線を奪ってさ、その姿を可愛いと思わせてくれる。そうさせたのは明莉自身なんだよ?」

 そんなことを言われたらどんな反応をしたらいいのか……。

 こ、困ります……。

「明莉は自分のこと信じるのが苦手なんだろうけどさ。でもあたしの言葉なら、ちょっとくらいは信じられない?」

「華凛さんの言葉であれば説得力しかありませんけど……」

 そう答えると、華凛さんは腕を伸ばしてきました。

「明莉はね、自分が思ってるよりずっと魅力的で素敵なんだよ」

 その手の平は、わたしの頭の上に乗せられていました。

 ふわりと頭の上に心地よい感触が伝わります。

「あたしを惚れさせた人なんだから、もっと自分を信じてあげて……それがあたしの気持ちだよ」

 そうして華凛さんはわたしの心を静めるように、頭を撫でてくれたのです。

 その手の平から伝わるぬくもりが、胸の熱さに変わっていくような。

 そんな初めての感覚を教えてくれたのです。

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