学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと

文字の大きさ
上 下
72 / 80
最終章 決断

72 独白に気を付けましょう

しおりを挟む

 残りの汚れは自分で拭く事にしました。

 そのままお願いしていると、冴月さんが狼さんになりそうだったので、防衛本能がそうしろと叫んでいたのです。

「ハンカチありがとうございます、これは洗ってお返ししますね」

 お借りした物をそのまま返すのは失礼ですよね。

「別に、そこまでしなくていいって」

「いえいえ、申し訳ないですから」

「それくらいいっての」

「あっ」

 有無を言わさず、冴月さんに取り上げられてしまいます。

「逆に面倒でしょ、わたしが保管しとくからいいのよ」

「……ん? 保管?」

 なんか日本語おかしくないですか?

 わたしが洗っとくわよ、とかじゃないんですか。

「あ、間違えた。うん、洗っとくから」

「……そ、そうですか」

 そんな間違いあるのかなぁ、と思ったりもしますが。

 他に使用目的もないですもんね。

 ここは冴月さんの言葉を信じましょう。

「それでさ、あんたは月森たちとどうなりたいのよ」

 少しだけ声のトーンを落とす冴月さん。

 もしかしたら今日、それが聞きたかったのかもしれません。

「……正直、まだ現実味が湧かなくて。どうしようか困ってるっていうのが本音です」

「それはあんたで言う“推し”だからってこと?」

「そう、なんでしょうね」

 遥か遠くにいる人たちだったのに、急に距離が縮まりすぎてどう整理していいのか分からないんだと思います。

「じゃあ、わたしはどうなのよ」

「冴月さんは……」

「すぐ恋愛感情を抱いてくれるとは思ってないけどさ、でも月森たちよりはずっと近い距離でいれたでしょ? あんたにとってはわたしは苦手なタイプかもしれないけど、それでも月森たちよりは親近感あるでしょ?」

 確かに、そうかもしれません。

 月森さんたちは学園のアイドルで、崇拝に近い感情。

 冴月さんは陽キャの中心で、羨望に近い感情を抱いていたように思います。

 どちらも遠い存在ではありましたが、冴月さんの方が親近感を抱いていたようには思います。

「だからさ、今すぐ選べなんて急かさないけど。でもよく考えて欲しいのね、月森みたいな他人から憧れるような存在と肩を並べるって息苦しいと思わない?」

「そう……でしょうね」

「あんたは何だかんだわたしには遠慮ないこと言ったりするし。上手くやれてんのはわたし達の方だと思うの」

 そうして自分のことをアピールする冴月さんの原動力はわたしに対する想い、なのでしょう。

 そのむず痒いような感覚も、ここまで真正面にぶつけられるとわたしも知らないふりは出来なくなってしまいます。

「どうして、冴月さんはそんなにわたしのことを想ってくれるんですか……?」

 こんな何の取柄もない陰キャを、どうして冴月さんは気に入ってくれたのでしょう。

「あんたは不器用だけど、真っすぐでブレない所があるから……そういうところよっ」

 と、そんなことを冴月さんの方こそ真っすぐに言うものですから。

「あ、あわわ……」

「反応に困るなら聞かないでよねっ!」

「は、恥ずかしくて……顔が熱いです」

「わたしのセリフなんだけど、それっ!!」

 わたしたちは終始、ふわふわした空気で時間を過ごすのでした。





「あ、もうこんな時間……」

 気付けば時刻は20時を過ぎようとしてしまいました。

「あ、もう帰る感じ?」

「そうですね」

「けっこー早いのね」

「え、そうですか?」

 いつも終業時間が帰宅時間なので、その辺りの感覚はないんですけど。

「……そうして、あんたは月森たちの所に帰るわけね」

 唇を尖らせて吐いたその言葉は、どこか棘があるように聞こえました。

「あ、えっと……すみません」

「何で花野が謝んのよ」

「そ、そうですよね……変ですよね」

 ただ、冴月さんにとっては面白くない状況だなと思ってしまって。

 それでもわたしは帰らなければいけないですけど、この後冴月さんは一人になるんだなと思うと、ちょっとだけ胸がチクリと痛むのでした。

「ま、いいけどさ」

 とは言いつつ、冴月さんからはどこか口惜しそうな雰囲気を感じます。

「また来ますから……」

 だから、今日は許してください。

 という意味を込めて自然と言葉がこぼれました。

「え、今なんて?」

「わ、わわっ、すいませんっ。呼ばれてもないのにわたしから来ますとか偉そうでしたよねっ」

「いや、そうじゃなくて。あんたの方からまた来るって言ってくれたのよね?」

「え、あ、はい……」

「ってことは、わたしとの時間は嫌じゃなかったってことねっ?」

「も、もちろんですよ」

 ここまで至れり尽くせりしてもらって、嫌なわけないじゃないですか。

 わたしなんかと遊んでくれて、ありがとうの気持ちしかないですよ。

「よかった」

 そうして、顔をほころばせる冴月さん。

 その表情は安心感によるあどけなさも相まって、とても穏やかな笑顔でした。

 こういう顔もするんだと、思わず見惚れてしまったのです。


        ◇◇◇


 そうして、冴月さんとはいつかの約束をしてお別れします。

 マンションを出ると、外は既に真っ暗で街灯の光が夜道を照らしています。

「今日は楽しい思い出ができました」

 月森さん達とは違う、時間の過ごし方。

 今まで一人だったわたしには、特別なものに感じられました。

 人と時間を重ねるというのは、こういうことなのかもしれません。

「でも……」

 この時間もわたしが冴月さんを選ばなければ失われてしまうのでしょうか?

 ……そうに決まっていますよね。

 冴月さんは答えを出さないわたしを優しさで待ってくれているだけで、その根底には恋心が潜んでいるのです。

 その想いが叶わないのなら、もうわたしとの時間を過ごしてくれるはずがありません。

 その事実に、胸がズキズキと痛みを訴えかけていました。

「それは月森さん達も同じ、なんですよね……」

 三姉妹の皆さんもきっと、わたしにそういう想いを抱いてくれているのです。

 その気持ちを傷付けてしまうのではないかという怖さの方が、わたしには大きかったのです。

「わたしのせいで皆さんの笑顔を奪いたくありません……」
 
 皆さんの幸せを願っているのですから。






「ただいまです」

 玄関に入り、電気を点けます。

 ローファーを脱いで、廊下に上がった所で違和感に気付きます。

「返事がありませんね……?」

 いつもはリビングにいる誰かしらが、声を返してくれるのですが……。

 それに、家が真っ暗なのです。
 
 リビングの扉にも光が投射されず、そのガラスには暗闇しか映っていません。

「誰もいない……?」

 いえ、この時間に誰もいないということはないと思うのですが……。

 不思議な違和感を抱きつつ、わたしはリビングに入ります。

 真っ暗な部屋の中、手探りで電気のスイッチを押します。

 パッと明かりが灯り、部屋全体が照らされます。



「これは、どういうことかしら?」



 ひい!?

 突然の凍え上がるような冷たい声音っ。

 リビングのテーブルには三姉妹の皆さんが座っていました……!

 真っ暗の中、何をしていたのですか!?
 
「答えなさい、こんな時間までどこで何をしていたのかしら?」

 テーブルの上座、そこには足を組んで、黒髪をくるくると指で巻きながら、その鋭い眼光を惜しみなくわたしに向ける千夜ちやさんの姿がっ。

「千夜ねえ、だから言ったじゃん。今後は登下校一緒にさせないとダメだって」

 頭を抱えながら、さらっとわたしの自由を奪おうとしている華凛かりんさんっ。

「しくしく……あかちゃんが不良になってしまいました……しくしく……」

 ハンカチで目元を拭いながら(涙は出てないように見えるのですが……)、悲嘆に暮れる日和ひよりさん。

 ……な、なんでしょうか、この画は。

「さあ、聞かせてもらいましょうか。返答次第では私達もそれ相応の対応をとらせてもらうから」

 ……と、とりあえず。

 “皆さんの笑顔を奪いたくありません”とか偉そうにモノローグしていた数分前の自分を殴りたいです。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと
恋愛
 百合ゲー【Fleur de lis】  舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。  まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。  少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。  ただの一人を除いて。  ――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)  彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。  あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。  最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。  そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。  うん、学院追放だけはマジで無理。  これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。  ※他サイトでも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さくらと遥香(ショートストーリー)

youmery
恋愛
「さくらと遥香」46時間TV編で両想いになり、周りには内緒で付き合い始めたさくちゃんとかっきー。 その後のメインストーリーとはあまり関係してこない、単発で読めるショートストーリー集です。 ※さくちゃん目線です。 ※さくちゃんとかっきーは周りに内緒で付き合っています。メンバーにも事務所にも秘密にしています。 ※メインストーリーの長編「さくらと遥香」を未読でも楽しめますが、46時間TV編だけでも読んでからお読みいただくことをおすすめします。 ※ショートストーリーはpixivでもほぼ同内容で公開中です。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

貞操観念が逆転した世界に転生した俺が全部活の共有マネージャーになるようです

.
恋愛
少子化により男女比が変わって貞操概念が逆転した世界で俺「佐川幸太郎」は通っている高校、東昴女子高等学校で部活共有のマネージャーをする話

処理中です...