学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと

文字の大きさ
上 下
70 / 80
最終章 決断

70 どこでもアウェイ

しおりを挟む
 ケイヤロ国第二王女とよばれた年月よりも、テリル国王太子妃、テリル国王妃とよばれる年月の方が長くなった。

 王室の光とよばれる王太子グロリア。

 王室の華とよばれる第二王女リリアン。

 母として二人の成長を見守ってきた。

 王女しか生めない不出来な妃と陰口をたたかれたが、王女しか生まなかったことで二人の娘を手元におくことができた。

 グロリアに王太子という重い責務をおわせたことに申し訳なさは感じるが、王太子であることから他国へ嫁ぐのではなく王配をむかえられた。

 そしてリリアンもグロリアを支えるために国内の貴族へ嫁がせることができた。

 娘たちを自分のそばにとどめておけた幸運をひそかによろこんでいる。

 グロリアが第二王子を出産した。第一王子のヒューバートが生まれた時と同じく王国がわいた。これでテリル国は安泰だと。

 第二王子の洗礼式に親戚と親しい友人が参加した。洗礼式のあとの昼食会をおえ、男性達は王宮でビリヤード室を新しくしたのでゲームを楽しもうと移動した。

 女性陣はお茶とおしゃべりを楽しんだ。すべてが終わったあと名残惜しさがつのり親子三人でグロリアの家に移動した。

「お姉さま、私が国教の教えを破るようなことをしたら、私のことをきらいになってしまうかしら?」

 リリアンの思いがけない問いかけにおどろいていると、グロリアが表情をかえずリリアンを見つめ、

「私があなたをきらいになることはないわ。たとえあなたが私の目の前で人を殺したとしても」と答えた。

 まさかと思うやりとりに二人を見ると、二人は見つめ合っていた。まるで目だけで会話をするように。

「ありがとうお姉さま。お姉さまがいるから強くいられる。お姉さまがいるから生きていける」

 リリアンの笑顔に胸をえぐられるような痛みを感じた。

 リリアンにとって支えになるのは母である自分ではなく、グロリアなのだと見せつけられた。

「あなたの幸せを一番に願っている。その幸せを手に入れるために何が起ころうと」

 リリアンが何を考えているのかを分かっているかのように答えるグロリアに痛みが強くなった。

 姉妹の仲が良いことや、大人として親を必要としないほど自立していることをよろこぶべきなのかもしれない。

 しかし自分が二人から疎外されているようでおもしろくなかった。

「二人とも何だか物騒な話をしているけれども王女としての品格を忘れないように」

「分かっています、お母さま。王侯貴族らしい生き方をするのです。愛は配偶者以外から求めようと思います。

 ご心配なく。王室の華として誇り高く生きます」

 リリアンの言葉に何といってよいのか分からなかった。

 リリアンが体調不良で入院した日のことを思い出す。

 入院したと聞きあわててかけつけると、

「お母さま、子を授かりました」といわれ安心とよろこびを感じたすぐあとに、

「サミュエルがパートナーと不貞関係にあるのですこし距離をおくことにしました」といわれ呆然とした。

 リリアンはサミュエルの裏切りを知った翌日に入院という形で夫と距離をとり、その後は静養のためと自宅ではなく離宮へ移動した。

 第二子の出産をひかえたグロリアの代わりに多くの公務をこなしていたリリアンの負担の大きさと、妊娠による体調不良を考えればリリアンの静養は当然と思われ一か月の二人の別居は周りからあやしまれなかった。

 リリアンの体調が安定し、王都の自宅にもどったことから王国民に懐妊が発表された。

 その時にリリアンは静養が必要だったため公務をはたせなかったことを詫び、自身の懐妊報告にからめ「夫には私のことを心配せずダンスに集中してもらいたい。生まれてくる子に勝利を捧げてほしい」というコメントをだした。

 夫をけなげに支える王室の華と名をあげた。

 洗礼式で二人はこれまで通りの仲の良さを見せていた。リリアンの大きくなったお腹を愛おしそうに見つめ、妻をかいがいしく気づかうサミュエルの姿は妻を愛する夫そのものだった。

 しかし二人の間でどのような話し合いがされたのかは分からないが、リリアンは夫へ見切りをつけたようだ。

「サミュエルのことをちゃんと見ていたつもりでしたが、やはり恋は盲目だったようです。

 それと国内の相手と早く結婚してしまおうという焦りもあったのでしょうね。

 サミュエルが私のことを愛してくれるなら幸せになれるのではと夢をもってしまったようです」

 淡々と話すリリアンにますます何もいえなかった。

「私のせいね。私があなたに国内にとどまってほしいと願ったから」

「それは違います、お姉さま。私がお姉さまのそばにいたかったのです。お姉さまが願うよりもずっと前から私の気持ちは決まっていました」

 二人の娘を愛している。しかし母娘の絆よりも姉妹の絆の方が強いだろう。二人は生まれてからずっと一緒にいる。

 自分自身も両親よりも兄弟との絆が深いのでそのことが理解できた。四人兄弟で二人の兄と姉が一人いる。子供の頃は四人で王宮を走り回っていた。

 国際間の電話は王族といえども自由に使えるわけではないが、何かと理由をつけて電話をしてくるのは両親ではなく兄弟だった。

「それにしても人って本当に分からない。

 サミュエルはリリアン一筋で誰から見てもリリアンを深く愛しているようにしか見えなかったのに。

 カルロとサミュエル、どちらが浮気しそうかと聞けば、百人中百人の人がカルロというわ。それぐらい意外だった」

 まじめな話をしているのにグロリアの例え方が絶妙で笑いそうになった。

 グロリアの夫であるカルロは人たらしといわれ、誰にでもやさしいため女性に誤解されやすく何度か不名誉な噂をたてられた。

 しかし実際のところは王子として身につけているやさしさでしかなく、女性ではなく狩猟とポロへなみなみならぬ情熱をそそいでいる。

 逆にサミュエルはリリアンへの一途な愛で知られているが、恋をすると感情のままに動く男だった。

 サミュエルとリリアンの結婚は王妃が画策したといわれているが、実際のところは偶然のなりゆきでしかなかった。

 二人がはじめて踊るまで、自分でも不思議に思うほどあの二人を一緒に踊らせようと考えたことがなかった。二人が同じ場にいることが何度もあったにもかかわらず。

 一緒に踊っている姿をみて「完璧」と思わずつぶやいたほど二人の踊っている姿は美しかった。

 ただ踊っている二人の姿が見たかっただけで結婚まで考えていなかったが、お互い好き合っているならと動いた。

 その二人の結婚が思いもしなかった状況をむかえ、自分のせいで娘を不幸にしたのではと罪悪感がつのる。

 リリアンがサミュエルに見切りをつけ、王女として国教の教えを破ることの罪深さを分かった上で配偶者以外に愛を求める覚悟をしたのなら、それを受け入れるだけだ。

 正しさだけで生きてはいけない。不貞という罪をおかし地獄におちてでも愛をつかみたいというなら、それを止めるつもりはない。

 王女として気高く育った二人の美しい娘達の幸せを祈る。

 いつまでも二人がほほえみあえるように。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

出会った番(つがい)は同性でした

恋愛
竜人族のカミラはある日番(つがい)に出会う。相手は旅行に来ていた人族の女の子。 美形が多い竜人族の中でも飛び抜けた容姿の持ち主で、興味のない相手には無表情が基本な竜人族の女性が人違いかと思われるくらい、人族の女の子(番)をでろっでろに甘やかすお話。 *視点の切り替えがあります。 *鬱展開はありません。 *小説家になろうからの転載です

わけあって美少女達の恋を手伝うことになった隠キャボッチの僕、知らぬ間にヒロイン全員オトしてた件

果 一
恋愛
僕こと、境楓は陰の者だ。  クラスの誰もがお付き合いを夢見る美少女達を遠巻きに眺め、しかし決して僕のような者とは交わらないことを知っている。  それが証拠に、クラスカーストトップの美少女、朝比奈梨子には思い人がいる。サッカー部でイケメンでとにかくイケメンな飯島海人だ。  しかし、ひょんなことから僕は朝比奈と関わりを持つようになり、その場でとんでもないお願いをされる。 「私と、海人くんの恋のキューピッドになってください!」  彼女いない歴=年齢の恋愛マスター(大爆笑)は、美少女の恋を応援するようになって――ってちょっと待て。恋愛の矢印が向く方向おかしい。なんか僕とフラグ立ってない?  ――これは、学校の美少女達の恋を応援していたら、なぜか僕がモテていたお話。 ※本作はカクヨムでも公開しています。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと
恋愛
 百合ゲー【Fleur de lis】  舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。  まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。  少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。  ただの一人を除いて。  ――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)  彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。  あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。  最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。  そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。  うん、学院追放だけはマジで無理。  これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。  ※他サイトでも掲載中です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...