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第7章 明莉
65 ここはどこ、わたしは誰?
しおりを挟むこ、これは何……?
一体、何が起きているの?
「あんた達、三姉妹揃ってなんなの!? 変態なの、頭狂ってるんじゃないのっ!?」
そう声高に月森さんたちを非難するのは冴月さん。
どうして、冴月さんがあんなに怒っているのでしょう。
それは、冴月さんがわたしに告ぐふっ……ぐふぇっ。
「そうですねぇ、わたしたち三姉妹は明ちゃんという恋に狂っているのかもしれません」
「そういう意味じゃないからっ! 勝手にポジティブな意味に変換しないでっ!」
ぽっと頬を染めて、冴月さんの悪口を華麗に受け流す日和さん、さすがです。
「そ、そうだぞ冴月。あたしたちは明莉に真剣に恋してるんだから、おかしい事は何もないんだぞ」
「マジレスすんなっ、もうちょっと言葉の裏を読めよ月森華凛!」
ピュアな気持ちで返事して、冴月さんを困惑させる華凛さんも真っすぐです。
「そもそも、誰に想いを告白しようと本人の自由でしょ。貴女にとやかく言われる筋合いはないわ」
「だから、それが……」
唯一、冴月さんの意見に真正面から向き合って反論する千夜さん。
「それがおかしいって言ってんのよ。あんた達は花野のことフッたんでしょっ!? いまさら何なのよっ」
「そうだとしても、それを貴女が問う理由にはならないわ」
「いいやっ! わたしにはあるのよっ!」
「……どういうことかしら?」
冴月さんは一歩も引きません。
そもそも、冴月さんは月森三姉妹とは敵対しないように立ち回っていたはずなのに。
そんな方が、ここまでする理由とは――
「わたしも花野に告白したのよっ! ていうか、わたしが先なんだからあんた達は引っ込んでなさいよっ!」
――そう、それはわたしに告ぐふぇっ……ぶぼぼっ。
『……!?』
三姉妹の皆さんが同時に驚いていました。
無理もありません。
一番驚いているのはわたしですけど。
「あらあら、それじゃ冴月ちゃんも変態さんですねぇ?」
「わたしの言葉で返してこないでよっ」
日和さんの反撃に冴月さんが吠えます。
「好きな人相手にあんな態度とってたの……? 引くんだけど」
「うるさいわねっ、自然とああなったのよっ!」
今までのわたしに対する態度に疑問を呈す華凛さん。
その気持ちはわたしも分かります。
……と言いますか。
「あの……冴月さん? わたしを月森さんに一方的に告白させといて、その立ち回りは変じゃないですか?」
「あっ、今それは……!!」
冴月さんが、わたしに告白をさせたのに。
それをフッた月森さんがおかしいと、冴月さんが断罪する。
これって、おかしな構図だと思うのですが……。
「今のはどういうことかしら?」
ギロリ、と視線の鋭さが増す千夜さん。
その迫力に、冴月さんもごくりと喉を鳴らします。
「あ……いや、それは……」
「聞き捨てならないわね、おかしな話に聞こえたわよ」
「……えっと」
「貴女が黙っていても、その子に聞くだけよ」
「……うぅ」
どんどん小さくなっていく冴月さんは、事の経緯を話し始めるのでした。
……わたし変なことしてませんよね?
◇◇◇
「……そう、だったの」
進級したばかりの、告白の経緯を知った三姉妹の皆さんは神妙な面持ちになっていました。
「どうして明莉はすぐに誤解だって言わなかったの!?」
詰め寄る華凛さんに、わたしはどう説明しようかと悩み……。
「いえ、その、フラれた事実を誤魔化してると思われるだけなんじゃないかと思ってまして……」
わたしもすぐに弁明すれば良かったのだと反省します。
「ま、でも良かったんじゃないですか? わたしたちはこれで後ろめたい気持ちは一切なく明ちゃんと向き合えますよ?」
本当は存在しないはずの告白だったのだから。
今この瞬間が本当の意味での告白になる、と。
「……た、確かにねっ。これであたし達の気持ちを100%で明莉に届けられるっ」
握りこぶしを作って息巻く華凛さん。
「そうね。……ただし冴月理子、貴女は除外よ」
バッサリと千夜さんが言い切ります。
「なんでよっ」
「当たり前でしょう? 嘘の告白をさせ、その心を踏みにじった……そんな不誠実な人間をこの子が好むと思う?」
「それはっ……」
「恋心を弄ぶような人間が、自分の恋心だけは成就させたいだなんて。そんな我儘が通ると思っているの?」
「……ううっ」
言葉を失ってしまう冴月さん。
うなだれる冴月さんを素通りし、千夜さんがわたしに手を伸ばしてきます。
「ここにいる必要はないわ。ほら、家に帰るわよ」
わたしはその手を取ろうか迷って――
「……っ!?」
――バシッ
と、千夜さんの腕を冴月さんが掴んでいました。
「帰るって、なに?」
しかも、その眼は完全に血走っています。
「なんで花野とあんた達が家に帰ることになるのよ?」
「いや、それは……」
しまった、と千夜さんが珍しく表情を露にしていました。
けれど、何かを言い繕おうと論理を組み立てている最中のようでしたが……。
「前々からおかしいと思ってたのよ。月森と花野の家って逆方向だったわよね? でも、この前の一緒に登校してきた時、花野は月森の家の方角から来ていたのよ。わざわざ朝の忙しい時間に何でそんなことするのかと不思議だったんだけど――」
矢継ぎ早にまくし立てる冴月さん。
こ、怖い……。
なんで冴月さんがわたしの旧住所を知っているんですか……。
それに、方角とか見てたのが特に怖すぎます。
どこに目を光らせてるんですか……。
「――あんた達、どういう関係なの?」
「そ、それは……」
言葉を詰まらせる千夜さん。
お三方も同様、上手い言い回しが見つからない様子です。
「別に黙っててもいいけど。花野に聞くだけだから」
「……ぐっ」
まさかのブーメラン展開なのでした……。
◇◇◇
「義理の妹に告ってんの!?頭おかしいんじゃないのっ!?」
義妹関係を知った冴月さんは、月森さんたちを煽りまくるのでした。
「そう、義理の妹と禁断の恋に堕ちてしまうほど、わたしはおかしくなって――」
「分かったから、そのパターンはもういいからっ!」
日和さんはおかまいなしです、さすがです。
「ぎ、義理は義理だし……問題ないでしょっ」
「わたしはルールとかじゃなくて精神性の話してんのよっ。義理の妹に恋心を抱く変態に、わたしの不誠実さをどうこう言われたくないって話してんのっ!」
「うっ……」
華凛さんはどうやら反論は思いつかないようです。
「あんたも、真面目な面しといて結構おかしいじゃない。よくわたしのこと言えたわねっ、月森千夜っ!」
「……」
無言の千夜さん。
痛い所を突かれてしまったのでしょうか。
「公私混同はよくありませんよぉ? いいですか、真面目な人ほどプライベートは意外と狼で――」
「あんたには聞いていないのよっ!」
ただ、ひたすら日和さんだけはマイペースでした。
しかし、何はともあれ場は膠着状態です。
『……で?』
そして、その静止はわたしの方へと意識が動く合図になります。
皆さん、わたしをそんなに見つめてどうしたのでしょう。
「花野はどうしたいのよ?」
「明莉は誰と付き合うの?」
「明ちゃんはどうするおつもりですかぁ?」
「貴女の意見を聞かせてちょうだい」
……。
「黙秘権を行使します」
『却下』
ぐはぁっ。
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