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第7章 明莉

53 ピントは合っているか

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 そんなこんなで、色々あった体育祭もようやく終わりました。

 紆余曲折ありましたが、これで晴れてわたしは平穏な生活を、つまり推しを見守る日常を取り戻したのです。

 さて、今日も静かに皆さんの様子を観察させて頂きましょうかね。



「ねえ、明莉あかり。明日ヒマだったらあたしと一緒にどこか行かない?……え、部活?……まあ、それはどうにかするっていうか」

 なぜか部活一筋のはずの華凛かりんさんがわたしを遊びに誘ってきます。

 誘ってくれること自体は大変嬉しいですけど。

 ですが、サボりは良くありませんし、華凛さんは部活で結果を出しているのですから引き続き頑張って下さいとお願いするのでした。



あかちゃん?ご飯の時間ですよぉ、はい、あーん。……あら?どうしてそっぽを向くんですか?わたしのご飯が食べられませんか?」

 今度は日和ひよりさんが妙にわたしにご飯をあーんで食べさせようとしてきます。

 お弁当あたりから、日和さんのわたしに対する扱いが不思議です……。

 一人で食べられるので大丈夫です、と丁重にお断りするのでした。



「体育祭も終わったのだし、貴女はそろそろ勉強に本腰を入れてもいいんじゃないかしら。……必要なら私が手伝ってあげるけど」

 厳しいはずの千夜ちやさんはわたしの成績を気にしつつ、助けの手を差し伸べてくれます。

 ですが生徒会の活動で忙しい千夜さんの時間を奪う訳にはいきません。

 テストが近づいてきて、本当に困った時にお願いしますと頭を下げるのでした。



 ――バタン

 と、自分の部屋に戻り一息つきます。

「……うん、皆さんもっと自分の事に集中してもいいんじゃないでしょうか?」

 そんな独り言を思わず零します。

 なんでしょう。

 すごく嬉しいんですけど。

 なんか、随分私の事を気にかけて頂けるなぁ……と。

 いや、自意識過剰だったらごめんなさい。

 アホな女の戯言だと聞き逃して欲しいのですけど。

 なんだか、それは体育祭の頃から顕著になってきているように思えます。

 家族になるってこういうことなんでしょうか?

 ……ううむ。

 長年一人っ子だったわたしには馴染みのない感覚なのでしょうか。


        ◇◇◇


 というわけで学校なのですが。

 今日はいつもより早めに登校してみました。

 ご飯を急いで食べて、一人で登校してきたのです。

 理由は単純で、家にいると月森さんたちに一緒に行こうと誘われてしまうからです。

 体育祭でも散々注目を浴びてしまいましたが、あれは学校行事特有の空気感で誤魔化せました。

 しかし、日常生活でも続けてしまうと意味が変わってしまいます。

 わたしは隅から月森三姉妹を眺めるだけで十分で、自らがその場にいる必要はないのです。

「あ、来ましたね」

 窓から外を眺めていると、入り口の方から目を惹く三人が一緒に歩いて登校してきています。

 遠目から見るだけですぐ察知できるのは、わたしの特殊能力と言っても過言ではないでしょう。

 ふふ……やはり神々しいですね。

 こうして遠くから眺めているくらいでちょうどいいのです。

「……なに、ジロジロ見てんのよ」

「うげっ」

 何やら声を掛けられて振り返ってみると、そこには不審な目でわたしを見つめる冴月さつきさんの姿。

 一体なんのおつもりでしょう。

「うげって言うな」

「……すいません。驚きまして」

「どんな驚き方よ」

「では、これにて失礼」

 わたしは視線を窓に戻し、そこから映る三姉妹の皆さんを網膜に焼き付けます。

「……ああ、またあいつら見てんの。好きねあんたも」

 しかし、なぜかわたしの机の前に立ち、視線の先を追い始める冴月さん。

 そんなこと、直接言わないで下さいよ。

「あんた今日は月森たちと一緒に来なかったわけ?」

 何回も一緒に登校したわけでもないのに、しっかり覚えてる冴月さんも月森三姉妹に対する執念を感じますね。

「わたしなんかじゃ釣り合いませんから」

「でも誘われるんでしょ?」

「だから辞退してるんです」

 こうして朝早く一人で来てるんですよ。

「なんで月森たちがあんたを誘ってくるのか、考えたことあるわけ?」

「……ありますけど」

「前にも似たようなこと言ったけど、全然分かってない感じね」

「そんなことありませんけどっ」

 三姉妹の皆さんはわたしを義妹として、家族として受け入れてくれているだけの話です。
 
 それ以上の答えを探す必要はないのです。

「あんたの考えは間違ってる」

 しかし、こちらの考えなどお見通しと言わんばかりに否定してくる冴月さん。

 何も明言していないにも関わらず、です。

「……なんで冴月さんに分かるんですか」

 こっちは千夜さん公認で、三姉妹に対する理解度が最も高い人間ですよ。

「逆にあんたが一番分かってないのよ」

「ですから、どうして冴月さんがそこまで断言できるんですか?」

 その根拠をお聞かせ願いたいです。

「……アレを見て、そんな質問しか出て来ないのがもうダメなのよ」

 やれやれと肩をすくめる冴月さん。

 それはこちらがやりたい動きです。

「推し、なんでしょ。ならもっと推したち月森の気持ちを察した方がいいんじゃない?」

「……百歩譲ってそうだとして、どうしてそんなこと冴月さんがわざわざ言ってくるんですか?」

 仮にそうであったとしても、冴月さんがそうまでして言ってくる理由が見当りません。

「……不憫に思ったからよ」

「不憫?」

「月森たちがね」

「はい?」

 今日の冴月さんは、抽象的な表現が多すぎて全く核心が見えてきません。

「わたしもあいつらと似たような気持ちになってるから言ってんの」

 月森さんたちと冴月さんが似たような気持ち……?

 そんな共通項ありましたっけ……?

「えっと、クラスカースト上位って意味では似てるかもしれませんけど」

「……ま、いいけどさ。あんたがそれならそれで」

「え、どっちなんですか」

 コロコロと主張を変えてきますね。

「あんたが理解できないのは、わたしには好都合ってこと」

「……」

 月森さんたちを理解できなくて、冴月さんにとって好都合なこと……。

 それは何だか引っ掛かる言い回しです。

「ま、せいぜいそうやってあんたは自分から目を反らしてるといいわ」

「なんですか……」

「そうしてるうちに、わたしが掠め取ってあげるわよ」

 それだけ言って、冴月さんはわたしの席から離れて行くのでした。

 ……ううむ。

 冴月さんも冴月さんで、謎を呼び続けています。

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