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第6章 体育祭
51 今を繋いで
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「えっと、日和さん。……あの大変失礼なのは承知の上なんですけど、言ってることの意味分かってます?」
「ええ、分かってますよ?」
ニコニコと、いつもの柔和な笑顔を決して崩さない日和さん。
ですが、こればっかりは“はい、そうですか”とスルーできるものではありません。
「ですがそれだと冴月さんが言っていたみたいに、好きとして受け取っちゃってもいいって意味になるんですよ?」
さすがに日和さんと言えど、それは良しとは出来ないでしょう。
大きな心の持ち主でも、好きな人は一人に対して一人。
きっと、モラル的に。
誰でもウェルカムというわけにはいきません。
「ですから、明ちゃんがそれを望むなら構いませんよ?」
「……え」
なにを仰っているのでしょうか?
そもそも、わたしと日和さんの間には埋めがたい差があり。
義姉であり、義妹であり。
女の子同士であり。
それなのに好きと受け取ってもいいですって?
「日和さんは、何を考えているんですか?」
考えが読み難い人ではありましたが、ここまで心の底から読めないと感じたことはなかったでしょう。
どんな気持ちになれば、そんな言葉が飛び出してくるのでしょう。
「特別難しいことは考えていませんよ?わたしは明ちゃんに助けてもらいましたから、そのお返しをしたいと思っているだけです」
助けた、とはいつの何を指しているのでしょうか。
かつてスーパーで男の人に絡まれていた時のことでしょうか。
それとも、姉妹の間でバランスを取ることに苦慮していた日和さんに、もっと自由であって欲しいと願った時のことでしょうか。
それ以外の事は残念ながら思いつきませんし。
どれにしたって、お返しを貰うようなことなんてしていません。
わたしが勝手にしたくて、しただけのことです。
「それに、お返しにしては大きすぎると思います」
「あら、それくらいの気持ちってことですよ?」
ですから、そんな気持ちが大きすぎるのです。
日和さんの心を一方的に独占するような行為が許されるはずもありません。
そんなことを、望んではいないのです。
「日和さんが自由に思うことをしてくれたら、わたしはそれで満足です。わたしなんかに縛られるようなことがあってはいけません」
「……そうですか」
うふふ、と笑いながら日和さんは顔を上げて、中庭から覗ける青空を仰ぎ見ます。
少しだけ口元の笑みが消えかかったように見えたのは、太陽の陽ざしのせいでしょうか。
「……今は、それで良しとしましょうか」
うん、と静かに頷くと、顔を再びこちらに向けます。
いつもの日和さんでした。
「あら、明ちゃん。お弁当が全然減っていませんよ?」
「あっ、だってさっきまで冴月さんが絡んできたから……!」
「わたしはもうほとんど食べ終わりましたけど」
「いつの間にっ!?」
冴月さんと話している時やけに口数が少ないと思っていたら、お弁当を食べ続けてていたのでしょうか。
「それに、お昼休みも終わっちゃいますよぉ?」
「なんですってっ」
「うふふ。明ちゃん、せっかくこんなに頑張って作ったのに残すんですね?」
……あれ。
いつもの日和さんの笑顔なはずなのに。背筋に寒気が走ったのはなぜでしょう?
「ま、まさかっ!ちゃんと食べますよっ!」
そう、日和さんに作って頂いたお弁当を残すはずがありません。
ハートで埋め尽くされたお弁当で、わたしは急いでお腹を満たすのです。
「あらあらまあまあ」
そんな様子を日和さんは嬉しそうに見ていてくれたので、まあこれはこれで良かったのでしょう。
◇◇◇
「ご馳走様でした」
ちゃんと完食しました。
「お粗末さまでした」
お互いにお弁当を食べ終え、お昼休みも終わりを告げようとしています。
「それでは、そろそろグラウンドに戻りましょうか」
「はい、そうですね」
少しだけ先を歩いて行く日和さんの背中に付いて行きます。
……多分、ですけど。
好きと言えば、日和さんはそれに応えると言ってくれたのは、きっと告白してしまったことが原因なのでしょう。
わたしに対する最大限のお礼が、あの時の告白に応えることだと考えてくれたのだと思います。
明確にわたしを意識したのは、恐らくあの時でしょうし。
それが思いやりに満ちた日和さんの答えだったのです。
でも、それは違うのです。
あの時の告白に、想いに、本当はどこにもないのです。
ですから、応えて頂くべき気持ちもまたないのです。
でも、そこまで考えてくれた日和さんの気持ちが嬉しいのもまた事実で。
それを否定するのは、わたしと日和さんの関係も変えてしまいそうな気がして、怖さもあります。
……なら、わたしはあの時、どうすればよかったのでしょうか?
ぐるぐると頭を回してみても、その答えだけは一向に見えてきません。
「明ちゃん?」
「あ、はいっ」
「あんまり難しい顔をしていると皺が残っちゃいますよ?」
「わっ、そんな難しい顔してましたかね」
「ええ、とっても。そんなお顔は明ちゃんには似合いませんよ」
そう言って、わたしよりも明るく曇り一つない表情を日和さんは浮かべるのです。
「もう残りわずかですけど。今はわたしと明ちゃんとの時間なのですから、よそ見をする暇はありませんよ?」
「……は、はいっ!」
そうですね。
過去だけじゃなくて、今も見ましょう。
わたしと日和さんはこうして一緒に歩いているのですから。
「ええ、分かってますよ?」
ニコニコと、いつもの柔和な笑顔を決して崩さない日和さん。
ですが、こればっかりは“はい、そうですか”とスルーできるものではありません。
「ですがそれだと冴月さんが言っていたみたいに、好きとして受け取っちゃってもいいって意味になるんですよ?」
さすがに日和さんと言えど、それは良しとは出来ないでしょう。
大きな心の持ち主でも、好きな人は一人に対して一人。
きっと、モラル的に。
誰でもウェルカムというわけにはいきません。
「ですから、明ちゃんがそれを望むなら構いませんよ?」
「……え」
なにを仰っているのでしょうか?
そもそも、わたしと日和さんの間には埋めがたい差があり。
義姉であり、義妹であり。
女の子同士であり。
それなのに好きと受け取ってもいいですって?
「日和さんは、何を考えているんですか?」
考えが読み難い人ではありましたが、ここまで心の底から読めないと感じたことはなかったでしょう。
どんな気持ちになれば、そんな言葉が飛び出してくるのでしょう。
「特別難しいことは考えていませんよ?わたしは明ちゃんに助けてもらいましたから、そのお返しをしたいと思っているだけです」
助けた、とはいつの何を指しているのでしょうか。
かつてスーパーで男の人に絡まれていた時のことでしょうか。
それとも、姉妹の間でバランスを取ることに苦慮していた日和さんに、もっと自由であって欲しいと願った時のことでしょうか。
それ以外の事は残念ながら思いつきませんし。
どれにしたって、お返しを貰うようなことなんてしていません。
わたしが勝手にしたくて、しただけのことです。
「それに、お返しにしては大きすぎると思います」
「あら、それくらいの気持ちってことですよ?」
ですから、そんな気持ちが大きすぎるのです。
日和さんの心を一方的に独占するような行為が許されるはずもありません。
そんなことを、望んではいないのです。
「日和さんが自由に思うことをしてくれたら、わたしはそれで満足です。わたしなんかに縛られるようなことがあってはいけません」
「……そうですか」
うふふ、と笑いながら日和さんは顔を上げて、中庭から覗ける青空を仰ぎ見ます。
少しだけ口元の笑みが消えかかったように見えたのは、太陽の陽ざしのせいでしょうか。
「……今は、それで良しとしましょうか」
うん、と静かに頷くと、顔を再びこちらに向けます。
いつもの日和さんでした。
「あら、明ちゃん。お弁当が全然減っていませんよ?」
「あっ、だってさっきまで冴月さんが絡んできたから……!」
「わたしはもうほとんど食べ終わりましたけど」
「いつの間にっ!?」
冴月さんと話している時やけに口数が少ないと思っていたら、お弁当を食べ続けてていたのでしょうか。
「それに、お昼休みも終わっちゃいますよぉ?」
「なんですってっ」
「うふふ。明ちゃん、せっかくこんなに頑張って作ったのに残すんですね?」
……あれ。
いつもの日和さんの笑顔なはずなのに。背筋に寒気が走ったのはなぜでしょう?
「ま、まさかっ!ちゃんと食べますよっ!」
そう、日和さんに作って頂いたお弁当を残すはずがありません。
ハートで埋め尽くされたお弁当で、わたしは急いでお腹を満たすのです。
「あらあらまあまあ」
そんな様子を日和さんは嬉しそうに見ていてくれたので、まあこれはこれで良かったのでしょう。
◇◇◇
「ご馳走様でした」
ちゃんと完食しました。
「お粗末さまでした」
お互いにお弁当を食べ終え、お昼休みも終わりを告げようとしています。
「それでは、そろそろグラウンドに戻りましょうか」
「はい、そうですね」
少しだけ先を歩いて行く日和さんの背中に付いて行きます。
……多分、ですけど。
好きと言えば、日和さんはそれに応えると言ってくれたのは、きっと告白してしまったことが原因なのでしょう。
わたしに対する最大限のお礼が、あの時の告白に応えることだと考えてくれたのだと思います。
明確にわたしを意識したのは、恐らくあの時でしょうし。
それが思いやりに満ちた日和さんの答えだったのです。
でも、それは違うのです。
あの時の告白に、想いに、本当はどこにもないのです。
ですから、応えて頂くべき気持ちもまたないのです。
でも、そこまで考えてくれた日和さんの気持ちが嬉しいのもまた事実で。
それを否定するのは、わたしと日和さんの関係も変えてしまいそうな気がして、怖さもあります。
……なら、わたしはあの時、どうすればよかったのでしょうか?
ぐるぐると頭を回してみても、その答えだけは一向に見えてきません。
「明ちゃん?」
「あ、はいっ」
「あんまり難しい顔をしていると皺が残っちゃいますよ?」
「わっ、そんな難しい顔してましたかね」
「ええ、とっても。そんなお顔は明ちゃんには似合いませんよ」
そう言って、わたしよりも明るく曇り一つない表情を日和さんは浮かべるのです。
「もう残りわずかですけど。今はわたしと明ちゃんとの時間なのですから、よそ見をする暇はありませんよ?」
「……は、はいっ!」
そうですね。
過去だけじゃなくて、今も見ましょう。
わたしと日和さんはこうして一緒に歩いているのですから。
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